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40 ※オルカside
しおりを挟む「はぁ~…」
僕とした事が今日も今日とて盛大な溜息をついている。
それもこれも
「エルフィング=アンバートのせいだ」
あの可憐な女性との出会いから、僕は彼女の事を調べた。
彼女は伯爵家の娘、少し家格的には劣るが貴族の娘というだけで万々歳だ。
だが、彼女はあのエルフィング=アンバートの婚約者だという。
なんという事だ。しかも仲間内によれば、大恋愛中だというのだ。アレがか?
全く想像がつかないが、最近やけに僕に対して冷たさが増した意味が分かった。前は何を言ってもさらりと流されていたが、わざわざ父上に相談までしやがってお陰で今は何も出来ないで居る。
仕方なく仕事を淡々とやる日々なのだが、あの女性の事が忘れられない。
僕は人の者を取る趣味は無いので歯噛みするしか無いのがやるせない。
こんなにも心をときめかせた女性は彼女が初めてだった。
なんの汚れも知らない澄んだ目をしていて、それを向ける相手が奴だと思うと胸が締め付けられる。
まだ婚約者だとはいえ、王が認めた婚姻だ。諦めるしか無い。
分かっている、分かっているのにこんなに苦しい。
奴より早く出会っていれば…、とまた大きな溜息をつく。
真面目に仕事をしているせいか、とてつもなく早く仕事が終わってしまった。気分転換に庭園にでも行くか、と何となく庭園を歩いていると憂いを帯びた目をした天使がそこに居た。
「キルフェット嬢…?」
余りに思い過ぎたからか幻覚を見たのではないかと口に出してしまったのだが、彼女はくるりとこちらを向いた。
「ババガント様?ご機嫌麗しゅう」
少しびくりと肩を震わせたが僕を知ってる人だと思って安心したのか、彼女は丁寧なカーテシーをした。
少し距離を取られた気がする。その行動にズキリと胸が傷んだ。
「こんな所でどうしたんだい?また道に迷ってしまったかい?」
「いえ、エルフィング様をお待ちしております」
にこりと笑い、奴の名前を出す彼女は婚約者を持つ者として正しい。
だが、何だか元気が無いようにも見受けられる。
「ほほう?では時間が有るのだな、僕はこの庭園を幼少期から気に入っている。案内しよう!」
そう少し大きな声で言うと、彼女はキョトンとしてからおろおろとどうしようか迷っているようだった。
道化を演じてみたが、どうやら効果が無かったようだ。
「…君に少し元気が無いように感じる。なぁに、奴の婚約者だという事は知っているさ。何もしない。たまには違う人間と話した方が発散もするというものだぞ」
僕の言葉に彼女は大きな目を更に見開くと、少し恥ずかしそうに笑った。
「ふふ、そんなに顔に出てしまっていたのですね。お恥ずかしいです。では、エルフィング様が来るまで一緒にお話して下さいますか?」
大きく頷いた僕を見ると、彼女は遠くの侍女を呼び事情を説明し奴が来たら教えてくれるように頼んでいた。
僕は、年甲斐も無くはしゃいでいた。手に入る事は無くとも、こうして話す機会が有るとは幸運だった。
これで最後にしよう。この思い出を心にこれからを生きていこう。そう誓って。
彼女に庭園の花々を一つ一つ教えて回る。何となく覚えた知識も役に立つものだな。
何度かちらりと横を見たが、彼女は頑張って笑顔を作っている。余程しんどい事があったと見える。
そうだ!と思い付き彼女に少し目を瞑って貰う。
「三つ数えたら目を開けてくれ。1、2、3、ほら目を開けて」
「まぁ…!凄いです、綺麗なお魚!」
僕は池の水を少し拝借すると、手の中で魚の形を作り動かして見せた。
彼女はキラキラした目で手の中の魚を見つめた。
それをポンっと池に投げると魚は元の水に戻ってしまう。
「凄い、凄いです!ババガント様は水魔法を使えるのですね!」
「その通り!僕は水魔法使いさ!まぁ、大きな魔法は使えないが……少し元気になれたようで良かった。君にはそういう笑顔が似合う」
僕がそう言うと、彼女は恥ずかしそうにまた笑ってくれた。
彼女がこんな顔をしている理由は何だか聞きたくなかった。それがお互いの為だ。
だからこそ、この時間がずっと続けばいいのに。そう、思った。
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