上 下
42 / 47

39

しおりを挟む

侯爵家のソファも相当良い物だが、ここはやはり違う。
しっかりと品物を膝に抱き、張り裂けそうな心臓を落ち着かせようと小さく深呼吸する。

「待たせたな」

そう言って仲睦まじく手を取り合い中に入ってくるお二人を最敬礼でお待ちする。

「ロレッタ嬢本日はよく来てくれた。エルフィングも。楽にするといい」

言われるがまま顔をあげる。
本日は王太子殿下、王太子妃殿下に『閃光玉』をお渡しする日だ。

例の彼女だが、実はまだ邸に居る。私が許したからだ。彼女の生家、公爵家に連絡を取ったがそんな娘は居ないの一点張り。それは当たり前かもしれないが、ボロボロの彼女に元の場所に帰れとは言い辛い。
今の所余り会わなくて済んでいるが、たまに見かけると物凄い形相でこちらを見ているのが分かった。
お義母様は完全な無視を決め込んでいるらしい。お義母様曰く『エルが言ったから泊めてやってるだけ』と言っていて全くの同感である。
エル様も彼女に会わない様にしているので、最近は仕事で遅くなる事が多くなり、あれから二人になる事が無かった。
今日は久々にエル様と二人だが、事が事なので緊張していてお話したはずなのに記憶に無い。

顔を上げて見るお二人はとても麗しくそれはもう輝いていた。
王太子妃殿下は母から聞いていたが、淡い色から毛先にかけて濃くなる青の髪と切れ長の藍の瞳がとても印象的で美しい方だった。身長も高くスラリとしているので女性のファンが居らっしゃるとか。

「君がロレッタ嬢か!会いたかったぞ」

妃殿下はつかつかと近付いて来たかと思えば、ぎゅうぎゅうと私を抱き締めた。
状況が理解出来ず、母や乳母以外の女性から抱き締められた事が無いので顔を真っ赤にして硬直してしまった。

「ルルーシュア、それだと彼女が潰れてしまうよ」

「おっと、失礼した。ルルーシュアだ、ついついあまりの可愛さに抱き締めたい衝動にかられてしまった。許せ」

クスクスと王太子殿下が笑い、諌めると妃殿下はするりと拘束を解いてくれた。
とてもいい匂いがした。

「くくく、エルフィングもそのような顔をするな」

「元々です。彼女は余り人付き合いに慣れておりません、お戯れは程々にお願い致します」

グイッと私の肩を抱き寄せ、エル様が自分の胸に収めるものだから私は恥ずかしくて目を回してしまう。
王太子殿下はまだ笑いながらも座るように言ってくれたので、なんとか座ると本題に入ろうと背筋を正した。

「ほ、本日はお招き頂きありがとうございます。こちらがお持ちした物です」

何とか言葉にして持っていた木箱を開ける。中には十個程の閃光玉が収められている。
何だか皆の視線が生暖かい気がする。

「ほぅ、これが噂の閃光玉か。私はそこそこ強いので要らぬと言ったのだがレイからとても良い物だと聞いてな、ならば攻撃魔法の使えない者達への護身用として私が広めていければ良いなと考えておる」

「いや、君にも是非持っていて欲しいんだけどね」

「有難いお言葉です、こちらは簡単な構造なのですが大量に注文が来るとなると私一人でお作りするには難しいかと思います。もし宜しければ設計図を王家にて管理頂けたらと思うのですがどうでしょう?」

これは考えていた事だ。実際お爺様も王家に設計図を管理して貰っていたからだ。尤も、お爺様は落ち人だったので国管轄であった事は否めないが。

「なるほど、設計図の流出は防がねばな。こちらで管理し、抱えの工房に声を掛けよう。しかし、それではこちらの利益が大きい。それでも良いのかい?」

「はい。お金を稼ごう、という目的で発明家を目指しているのでは御座いませんので。私は皆が豊かな暮らしが出来る未来を担いたいのです」

お爺様の受け売りだが、私も気持ちは同じだ。最近はさらにこの気持ちが強くなっている。

「そうか。では、エルフィングと細かい金銭の話をしよう。ロレッタ嬢はきっと謙遜するだろうから、是非うちの庭園を見てくるといい」

「まぁ…、お気遣いありがとうございます。では、庭園にてお待ちしております」

私が金銭を受け取らないと思ったのだろう、王太子殿下は私に気を使い庭園に行くよう勧めてくれた。
実際金銭の話はピンと来ないので、エルフィング様にお任せしようとしていた。
緊張でどうにかなりそうだったし、私が居ても何も出来ないのでお言葉に甘える事にした。
妃殿下付きの侍女の方に案内して貰い庭園を案内して貰う。

ここからは少し一人で、と我儘を言って離れて待っていて貰う事にした。
何だか一人になりたい気分だったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...