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「お父様、お呼びですか?」
『入りたまえ』
「失礼します」
「そこに座りなさい」
「はい、お父様」
私は言われるがままに席に座る。
お父様の隣にはお母様も居た。
この日が遂に来てしまった。何故呼ばれたのか、私は知っている。
お父様は威厳の有るお顔で眉間に皺をたっぷりと寄せて、一枚の紙を机に置いた。
「…アンバート侯爵がロレッタを嫁に欲しいと言って来ている。何故こんな大物から…、うちの娘に…」
「ロレッタ、良かったわね~!!あのアンバート侯爵様よ?お母様とっても嬉しいわ~♡皆様に自慢しなきゃ♡」
「ち、ちょっと母さんは黙っててくれないか」
「あら。では、ロレッタの旦那様にアンバート様以上の方が居るの?」
「何を言っている!うちの娘は、嫁になんぞやらん!!」
「はぁ……、それこそ何言ってるのかしら。
娘とは嫁に行くものよ。年齢も有るし、それに今までの相手だったら断る事が出来たけれど、相手は格上。今回ばかりは諦めなさいな」
「ぅぐっ」
今まではお父様やお母様がお断りして来たのを知っている。
私はこんな感じだ。変な発明ばかりしている、親としても心配なのだろう。
お父様が私を溺愛している為に許されて来てしまい、適齢期ギリギリの18歳になってしまっているのだ。
「それよりも、ロレッタ。貴女はどうなの?
もし嫌で有れば、お父様もお母様も頑張るわ」
「お母様…」
お母様は私を真摯に見詰めている。そんな愛情が、何だかとても嬉しい。
「私、アンバート侯爵様の元へお嫁に行きます」
「ロレッタ!」
「お父様、今まで本当に有難う御座います。私を守り、育てて頂きました。
そろそろ恩返ししたいと思っていたのです。アンバート侯爵様は素敵な方とお聞きしております、どうぞお受けして下さい」
「良い決断ですね、ロレッタ。あなた、ロレッタの意見を尊重してあげましょう」
お母様は優しくお父様の肩を抱いた。
暫くの沈黙の後、お父様は深く溜息をついた。
「……もし嫌な事をされたら、直ぐに帰ってくるのだぞ」
「有難う御座います、お父様」
******
数日後ーーー
「キルフェット伯爵、伯爵夫人。この度は、婚姻をお受け頂き有難う御座います」
「いやはや、何処でうちの娘を知ったかは存じませんが愛娘でしてね。まさか、人気者の貴方様にこの様な形でお渡しする事になるとは思っていませんでしたよ」
「…あなた。申し訳御座いません、アンバート侯爵様。この人ったら、この歳で娘を取られて拗ねて居るのです。お気になさらず」
「こ、こら!」
「いえ、大切なお嬢様です。私はどの様な事を言われても良いと思っています」
「あら」
「精一杯、皆様の分も大切にする事を誓いましょう」
「……宜しく頼みます」
両親の後ろでヒヤヒヤと話を聞いていた私は、ホッと胸を撫で下ろした。
まさか、あの出会いでこんな事になるなんて思ってもいなかった。
「(にしても、『大切にする事を誓いましょう』ですって………。)」
私は全身真っ赤になりながら羞恥に耐えている。
今日は侯爵様が私を迎えに来て下さったのだ。
胸が詰まった様にドキドキして弾けてしまいそう。
私は、すっかりあの時から侯爵様に恋をしている。
あの時侯爵様は、私に実は…と色々話してくれた。
まず、独身で侯爵という地位故に日々ご令嬢方から追いかけ回されていて仕事に支障をきたしている事。
内務の仕事もそれなりに忙しく、癒しが足りない事。
そして、私の発明品と私がそれを語る姿を見て侯爵様はとても癒されたと言うのだ。
「君は、知っていたのに私に媚びる様な素振りも無い。私の元で自由に発明をしてくれたら良い。
少しだけ煩い家族だが、珍しい物が皆好きでね。きっと君の事も受け入れてくれる。
不自由はさせない。是非、妻になって頂きたい」
侯爵様は真っ直ぐ私を見る。
誰もが望む甘やかな物では無い、合理的で正直過ぎる物だった。
けれど、私は嬉しかった。
私を必要としてくれた事が。
いつか大発明をしようとはしているが、それ迄は誰かの重荷にしかなれないような私を、だ。
素敵な方だと思った。
聞き上手で、私の発明を馬鹿にしない人。
ドキドキと胸が高鳴り、頬が紅くなる。
私はきっとこの方を好きになる。
いや、もう好きだ。
出会ってまだ一時間も経っていないが、こんなに素敵な方からのプロポーズを受けない人なんて居るのかしら。答えは否。
「はい、不束者ですが宜しくお願い致します」
「良かった。では、後日君の家に書簡を届ける。待っていて欲しい」
この人の奥さんになれるだなんて、まるで夢なのではないか。
そう、書簡が来たとて今日まで夢だと思っていました。
ですが、これは現実の様です。
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