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閑話 竜の呟き
しおりを挟む痛い
どうして
ここは、何処?
母と逸れ、道に迷い、少し疲れてしまい
人目につかない山で眠っていた。
足にひんやりとした物が当たるので目を開けると、大勢の人間が居た。
「素晴らしい。僕はなんて幸運なんだ。皆の者、宜しく頼むぞ。私は先に帰っているよ」
ギラギラした奴が何かを大きな声で叫んでいる。
耳障りな声だな。
嫌な予感がして飛び立とうとしたら、やはり足に違和感が有った。
視線をやるとガシャガシャとした物が取り付けられていた。
背筋がゾッとして、頭が真っ白になる。
母から『人間には近付くな』と言われていた。
捕まったのだ
と、自分にも直ぐに理解が出来た。
振りほどこうと暴れてみたが、痛くなる一方で中々外れない。
人間達は制御しようと鎖を持っていたが、俺の力には適わず散らばって倒れていた。
怒声と恐怖に滲む声が聞こえる。
怖いのは俺の方なのに、何故?
帰る方向も分からず、こんな弱いもの達に捕まった自分に怒り狂う。
悲しくて、悲しくて、やりきれない。
すると、背中にドスンと何かが乗った気がした。
「鉄鱗竜、聞いて!貴方の故郷の者よ!足枷を外すわ、どうか落ち着いて!」
何かをひたすらに話しているが、知ったことか
お前達がやった事なのに
怒りが更に増して、振り落としてやろうとスピードを早めて身体を揺すった。
上に、下に、緩急を付けわざとらしく木にぶつかったりもした。
しかし、一向に落ちる気配が無い。
器用にバランスを取り、俺の身体の窪みに自分の身体を上手く嵌め込み、痛くない程度に抱き締められている。
声色や、匂いで人間のメスだと分かったが
人間のメスとは人間のオスよりも弱い生き物なのでは無かったか?
「話しを聞いて欲しいの。此方へ進んでは住んでる場所へは帰れ無いわ。私は貴方を助けに来たの」
所々聞こえてくる声は心地良く、学びたくも無かった人間の言葉がスっと入ってくる。
竜は大人になると人間の主を選ぶ事が出来る。
先祖に人間好きが居たらしく出来た風習なのだが、人間に出会う機会が少ない竜は滅多に主を選ばない。
だが、何故か竜が主を選ぶと土地が肥え、実りが増える。神に愛される地となる。
それは俺達にとっても良い事だ。
なので、嫌々でも竜達は人間の言葉を覚えるのだ。
「怖がらせて本当にごめんなさい。貴方の枷は直ぐに外すわ、落ち着いて下に降りて」
攻撃はされないが、罠かもしれない。
そんな気持ちも多少は有ったが、必死な声色の彼女にそんな事が出来無い事など感情に敏感な竜なのだ、分かってしまう。
いつの間にか身体は彼女の言う事を聞いていて、疲れ果てた身体はゆっくりと降下していた。
いい子、いい子と撫でられた手は温かくて優しかった。
彼女の身体は無数の浅い傷が有った。
自分が付けたと思うと、少し申し訳無くなってしまった。
そんな彼女を呼ぶ男が居た。父の様だ。
彼女の名前は『シルヴィア』というらしい。
美しい名だ。
彼女は人間の中に居ても一際輝いて見えた。
さっきの奴らにはまだ嫌悪感が有る。
近付いて来たので喉を怒りで鳴らすと、ビクビクとしている。弱い奴らだ。
彼女はこんなにも強いのに。
すると、一人の人間の男が近付いて来た奴から何かを受け取ると俺の足枷を外していく。
彼女が指差す方向は進んで来た道と本当に逆だった。
取り敢えずの礼を言って飛び立とうとすると、母が迎えに来た。俺の声に気付いたらしい。
母は状況を判断するや否や、奴らに攻撃を始めた。
何時もなら安心と嬉しさが勝つだろう。
だけど、俺は『ダメだ!』と母に向かって叫んだ。
彼女を殺してはいけない
ドクンと血が沸いた気がした。
母は俺を見て察したのか、それ以上は何もせず俺を連れて根城へと帰った。
それから何日か経ち、あの時の感覚が忘れられず悩んでいた。
母は何も言って来ない。
根城へ着くと大人になる為の脱皮が始まり、考え事をしながらジッとしているのには好都合だった。
この脱皮が終わると大人の仲間入りだ。
美しく綺麗な髪だったな
優しい声だったな
真っ直ぐ見つめる瞳にゾクゾクした
そうだ
俺はきっと彼女の傍に居たいんだ
彼女を背に乗せ飛ぶ空は、気持ち良いだろうな
それに、彼女に撫でられるのは悪くない
先祖もこんな気持ちだったのかな
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