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黒鷲、迷路の出口
しおりを挟む「あんな奴の為に泣く日々は終わったんだ。姉様は何時でも帰って来て良い」
「勘違いが行き過ぎていて何処から直せば良いのやら…。前にも言ったが、私はカミュと夫婦だという揺るがぬ事実が有る。戻る事は出来ない」
「だから、俺がそこから救い出してやるって言ってるんだ。
そんな服も着なくて良い、前の様に好きな剣を振り回して俺の横で笑って居れば幸せに成れる」
「…必要無い。服は私の趣味だ、彼は関係無い」
「必要無い?愛してもいない奴の元で、ボロ雑巾の様になってもか!?」
ブチッ
「愛している!」
「……………は???」
「だから、私はカミュを愛していると言っているんだ!あの人はお前が思う様な人間では無い!
誠実で優しい……、私の旦那様だ」
「なっ………!!……え?」
怒りに任せて何とも恥ずかしい事を叫んだ気がする。
だが、時間が無い。不必要な押し問答は不要だ。
サムディは呆気に取られ一呼吸置くと、今度は何かをブツブツと言いながら狼狽している。
「そ、そんな……この間までそんな様子では無かったのに…………シルヴィアは彼奴を?……そんな馬鹿な……」
「う、嘘では無いぞ。私は彼の事が好きだ」
「聞きたくない!…………あ、いや…すまない。
だが、もうやめてくれ。分かった」
「あぁ。サムディ、カミュは何処だ」
「…何の事だ」
「あの兵士はお前だろう?私は全てお見通しだ」
「なんだよ……、それ。……赤牡丹の間だよ」
「ありがとう!それと、すまないな!サムディの気持ちには応えられない!」
私はその場から翻し、サムディが教えてくれた赤牡丹の間へ急ぐ。
「………んだよ……。両思いだなんて聞いてねぇぞ、女の顔しやがって………」
ボソッと呟き、壁を壁にズルズルと倒れ込む彼を見た者は居ない。
「(こんな時にドレスだなんて…!何て大変なの!)」
着慣れていないせいか、何度も足が引っ掛かる。
気だけが急いてしまいながら、元の場所に戻る。
あぁ言った手前、父と母には伝え辛いので
お義父様とお義母様にだけ状況を手早く伝え、誰にもバレぬ様に出来るだけ優雅にホールを駆け抜ける。
間に合って欲しい。
「(赤牡丹の間…、赤牡丹の間…………有った!)」
警備は何人か居たが、知り合いも多くカミュを迎えに来たと言えば通してくれたのが幸いだった。
格上だろうが、やって良い事と悪い事が有る。
父と母に迷惑が掛かるかもしれないが、貴族から廃されてもこの際仕方無い。
踏み込め
バキッ、ガチャ
「キャッ!!」
鍵が掛かっていたが、腕力でどうにかなった。
壊してしまったが、蹴破らなかっただけマシだ。これくらい許して欲しい。
目の前には、ベッドの上で私の旦那を縛り付けている可憐な少女。
旦那様は上半身を脱がされ、両手を拘束され
ベルトにまで手が及ぶか否かの既の所だった。
「なっ!貴女、誰!?ノックも無しに無礼よ!!」
「失礼致しました。我が夫、カミーユ=アルディアンが此方に居ると伺いまして。お迎えにあがりました」
「あ、貴女、シルヴィア=メルフィンなの?」
「左様で御座います。今はメルフィンでは無く、アルディアンですが」
「わ、私は!!この方に襲われそうになって!!し、仕方無くなのよ!!誰か!誰か、兵を呼んで!!!」
どう見ても彼女が上に乗って居るのだが、この後に及んで叫び散らしている。
私は私で何の計画も無く入ってしまったので、兵達にどう説明しよう。
コンコン
すると、私の後ろで扉を叩く音がした。
「兵は来ませんよ」
「ひっ!!」
後ろには黒の生地に金、銀の刺繍がされた民族衣装を着た大きいがスラリとした青年が居た。
肌は褐色で目の横にはホクロが有り、それが色気となって溢れている感じだ。
まるで、黒い獅子。
青年は私を見てニコリと笑うと、彼女の方にツカツカと歩いて行く。
彼女の顔は青ざめ、カタカタと震えている。
「おイタが過ぎるよ、マイハニー?」
彼はそう告げると、ひょいと彼女を担ぎ上げた。
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ヴィタメートルの黒鷲殿、この事は内密に。使いを送るから、そこの彼と一緒に後日話し合おう」
「は、はい!その様に」
「では、私達はこれで。今日の主役だからね、後程会おう。彼が起きるまで傍に居てやると良い」
「有難う御座います」
彼女は彼の一言で大人しくなる。
ポカンとその光景を眺めてしまっていたが、最敬礼をして見送る。
足音が遠ざかるのを確認して、カミュの元に駆け寄る。
拘束具を手で引き千切り、布団を掛けてやる。
まだ、心臓が煩い。
頭の整理は出来ていないが、これだけは分かる。
カミュを守る事が出来た。
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