上 下
45 / 52

黒鷲、迷路の出口

しおりを挟む

「あんな奴の為に泣く日々は終わったんだ。姉様は何時でも帰って来て良い」

「勘違いが行き過ぎていて何処から直せば良いのやら…。前にも言ったが、私はカミュと夫婦だという揺るがぬ事実が有る。戻る事は出来ない」

「だから、俺がそこから救い出してやるって言ってるんだ。
そんな服も着なくて良い、前の様に好きな剣を振り回して俺の横で笑って居れば幸せに成れる」

「…必要無い。服は私の趣味だ、彼は関係無い」

「必要無い?愛してもいない奴の元で、ボロ雑巾の様になってもか!?」


ブチッ


「愛している!」


「……………は???」

「だから、私はカミュを愛していると言っているんだ!あの人はお前が思う様な人間では無い!
誠実で優しい……、私の旦那様だ」


「なっ………!!……え?」


怒りに任せて何とも恥ずかしい事を叫んだ気がする。
だが、時間が無い。不必要な押し問答は不要だ。

サムディは呆気に取られ一呼吸置くと、今度は何かをブツブツと言いながら狼狽している。


「そ、そんな……この間までそんな様子では無かったのに…………シルヴィアは彼奴を?……そんな馬鹿な……」

「う、嘘では無いぞ。私は彼の事が好きだ」

「聞きたくない!…………あ、いや…すまない。
だが、もうやめてくれ。分かった」


「あぁ。サムディ、カミュは何処だ」

「…何の事だ」

「あの兵士はお前だろう?私は全てお見通しだ」

「なんだよ……、それ。……赤牡丹の間だよ」

「ありがとう!それと、すまないな!サムディの気持ちには応えられない!」


私はその場から翻し、サムディが教えてくれた赤牡丹の間へ急ぐ。



「………んだよ……。両思いだなんて聞いてねぇぞ、女の顔しやがって………」

ボソッと呟き、壁を壁にズルズルと倒れ込む彼を見た者は居ない。




「(こんな時にドレスだなんて…!何て大変なの!)」

着慣れていないせいか、何度も足が引っ掛かる。
気だけが急いてしまいながら、元の場所に戻る。

あぁ言った手前、父と母には伝え辛いので
お義父様とお義母様にだけ状況を手早く伝え、誰にもバレぬ様に出来るだけ優雅にホールを駆け抜ける。

間に合って欲しい。



「(赤牡丹の間…、赤牡丹の間…………有った!)」

警備は何人か居たが、知り合いも多くカミュを迎えに来たと言えば通してくれたのが幸いだった。

格上だろうが、やって良い事と悪い事が有る。
父と母に迷惑が掛かるかもしれないが、貴族から廃されてもこの際仕方無い。


踏み込め


バキッ、ガチャ


「キャッ!!」


鍵が掛かっていたが、腕力でどうにかなった。
壊してしまったが、蹴破らなかっただけマシだ。これくらい許して欲しい。

目の前には、ベッドの上で私の旦那を縛り付けている可憐な少女。

旦那様は上半身を脱がされ、両手を拘束され
ベルトにまで手が及ぶか否かの既の所だった。


「なっ!貴女、誰!?ノックも無しに無礼よ!!」

「失礼致しました。我が夫、カミーユ=アルディアンが此方に居ると伺いまして。お迎えにあがりました」

「あ、貴女、シルヴィア=メルフィンなの?」

「左様で御座います。今はメルフィンでは無く、アルディアンですが」

「わ、私は!!この方に襲われそうになって!!し、仕方無くなのよ!!誰か!誰か、兵を呼んで!!!」


どう見ても彼女が上に乗って居るのだが、この後に及んで叫び散らしている。

私は私で何の計画も無く入ってしまったので、兵達にどう説明しよう。


コンコン

すると、私の後ろで扉を叩く音がした。


「兵は来ませんよ」

「ひっ!!」


後ろには黒の生地に金、銀の刺繍がされた民族衣装を着た大きいがスラリとした青年が居た。
肌は褐色で目の横にはホクロが有り、それが色気となって溢れている感じだ。
まるで、黒い獅子。

青年は私を見てニコリと笑うと、彼女の方にツカツカと歩いて行く。
彼女の顔は青ざめ、カタカタと震えている。


「おイタが過ぎるよ、マイハニー?」


彼はそう告げると、ひょいと彼女を担ぎ上げた。

「な!!何をするの!!下ろして!」


「はは、君に拒否権は無い。静かにしないと、色々と問題になってしまうよ。私が見てしまったからね。
ヴィタメートルの黒鷲殿、この事は内密に。使いを送るから、そこの彼と一緒に後日話し合おう」

「は、はい!その様に」

「では、私達はこれで。今日の主役だからね、後程会おう。彼が起きるまで傍に居てやると良い」

「有難う御座います」

彼女は彼の一言で大人しくなる。
ポカンとその光景を眺めてしまっていたが、最敬礼をして見送る。

足音が遠ざかるのを確認して、カミュの元に駆け寄る。
拘束具を手で引き千切り、布団を掛けてやる。

まだ、心臓が煩い。
頭の整理は出来ていないが、これだけは分かる。


カミュを守る事が出来た。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

退役騎士の居候生活

夏菜しの
恋愛
 戦の功績で騎士爵を賜ったオレーシャは辺境を警備する職に就いていた。  東方で三年、南方で二年。新たに赴任した南方で不覚を取り、怪我をしたオレーシャは騎士団を退役することに決めた。  彼女は騎士団を退役し暮らしていた兵舎を出ることになる。  新たな家を探してみるが幼い頃から兵士として暮らしてきた彼女にはそう言った常識が無く、家を見つけることなく退去期間を向かえてしまう。  事情を知った団長フェリックスは彼女を仮の宿として自らの家に招いた。  何も知らないオレーシャはそこで過ごすうちに、色々な事を知っていく。  ※オレーシャとフェリックスのお話です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...