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黒鷲、初めての魔物狩り
しおりを挟む浮遊海月は本当に空に浮かぶ海月だった。
沼地に近付くにつれて全貌が見える。
物凄い数の海月は何とも気持ちが悪い。
「領主!街に下りちまった奴は何とかこっちまでやったんだが、全然減らねぇ!」
「確認した。皆、今日で終わらせるぞ!」
「「「押忍!」」」
隊員達は確かに数に手こずっている様に見えた。
飛行部隊とはなんだろう、と思っていたのだが本当に人間が空を飛んでいる。
正確には飛び跳ねている、に近いが滞空時間が長い。
どうやら靴が魔道具の様だ。後でちゃんと聞こう。
「奴らは自ら余り移動が出来ない。飛行部隊は狙えるものは打ち払い、他は風を遣い一角に集め弓矢部隊はその核を狙え。
戦っていて分かると思うが触手が長い、気を付けろ」
散り散りになり、個人で戦っている者が多かったがカミュが一声出すと
飛行部隊は次から次へとノエルから大きな扇を受け取り纏まり出す。
何処に入っていたんだ、そんな大きい物。
弓矢部隊は、私の元に二列に並んで敵が集まるのを待つ。
カミュは彼らにテキパキと指示を出す。のほほんとした彼ばかり見ているので、討伐隊での彼は別人の様に感じてしまう。
飛行部隊はカミュの的確な指示で触手を避け、時には打ち払いながら扇で次々と追い込む。
「放て!」
三十位集まると、合図と共に矢を放つ。
身体が透明な為に核は丸見えだ。
核に命中すると倒す事が出来る。核の中に魔石が有り、魔物を倒す際はこの核が何処に有るかが重要なのだ。
後から合流した討伐隊員は飛行部隊に入る者と、弓矢部隊を守る者の二つに分かれて配置された。
それ迄は、ノエルとカミュが扇を使い守ってくれていたのだ。
隊員同士は交代しながら休憩を取っていく。
カミュは指示に集中して、ノエルはカミュを守る。
攻撃的な相手では無い為に淡々と進められたが
明らかに数が減ってきた、と感じる頃には日が暮れていた。
「この位で良いだろう。皆、ご苦労だった」
残りを数えられる程になった時に終わりを告げられ、皆ホッとする。
その時だった。
「退避!!」
ゾワッという寒気とともに空が暗闇に覆われ、上を見上げるよりも早く必死で避けた。
ドシンッ!!と地鳴りがして隊員達はカミュの声で全員退避は出来たが、もう少しで押し潰されてしまう所だった。
「毒岩蛙だ!!皆、奴の深く吐く息は絶対に吸い込むな!奴は雑食だ、人間も喰うぞ!」
カミュが叫ぶ様に指示を飛ばす。
それは、身体がゴツゴツとした岩で覆われている巨大な蛙。
巨体ながら軽やかに飛び跳ね此方を向いた。ギョロリと執拗に動く目は、何処を見ていても目が合っている気がする。
沼地から毒岩蛙と共に降り注いだ泥がボトボトと後から落ちて悪臭が漂い鼻がひん曲がりそうだ。余りに酷いので、鼻から口にかけて布で覆った。
「身体の岩と岩の間に柔らかい皮膚が有る。弓矢部隊は剣に持ち替えて脚を狙い動きを止めろ。
飛行部隊は眉間に有る核か目を狙え」
指示により皆が一斉に動き出す。
正面からの対峙は避けて背に回った。
岩になっている所は硬く剣を弾き、上手く岩と岩の間に入っても深く刺さねばダメージを与えられない。
だが、人数は此方の方が多い。
深く息を吐きそうなタイミングはカミュが教えてくれるので着実に仕留めにいく。
一人の隊員が目を突く事に成功し、毒岩蛙は苦しそうに鳴き暴れ回る。
私が何とか動きを読み、脚の岩の隙間に剣を突き立て縫い止める。
何人かが毒岩蛙の背を駆け上がり核を目指す。
すると、私の足に何かが貼り付いた。
「シルヴィ!!」
カミュの声が聞こえたが、私は片足を取られ空中へ投げ出される。
弓矢は持ち替えてしまい、自分の剣は地面に突き刺さっているので素手で取るしかないと貼り付いた何かを見る。
その先には、大口を開けたもう一匹がいた。
喰われる
そう、思った。
バシュッ!!
何時まで経っても痛みが無いので反射的に瞑った目を開くと、私を捉えていたもう一匹の毒岩蛙の長い舌は途中で真っ二つに別れていた。
「待たせたな!!黒鷲殿!」
私はいつの間にか、助けてくれた御仁の片腕の中に居る。
「爺様!?」
「カミュ!此方は大丈夫だぞーー!!」
ブンブンと手を振るこの御仁は義祖父様の様だ。
近く迄来ていたカミュが驚愕の顔をしながらも大きく頷く。
彼処も、そろそろ片が付きそうだ。
女の中では大きい私を片腕に収められる程に大きな身体。威風堂々たる立ち振る舞いは、疲れて落ちていた皆の士気を甦らせる。
義祖父様は私を地面に下ろしにっこり笑うと、先程の毒岩蛙に向かって走り出す。
大きく跳躍したかと思うと、大剣を毒岩蛙の眉間に迷い無く振り下ろした。
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