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しおりを挟む「ぐす、ぐすっ、ズビッ。そ、それで、その子はどうなったんだ?」
私の好きだった小説の話をしたら止まらなくなってしまい、二人してオイオイと泣く。いつの間にこんなに仲良くなってしまったんだろう。
明くる日、家具は入れていたのだが肝心のマットレスが無く、骨組みの上で寝たので身体が痛かった。
特に何をするでも無く、諸々の買い物と掃除等の引越し作業で一日が終わってしまう。マットレスも直ぐに買った。親に感謝だ。
疲れは有ったのだが、夕食を食べ終わり鏡の前で祈るポーズをして頭の中でエルダーンを呼んだ。
すると、鏡がパッと光りエルダーンが「呼んだか?」と出てくる。
初めはお互い、お見合いか?くらいによそよそしく喋っていたのだが、段々と話していくにつれ慣れてきたからか今まで話せなかった小説の話をし出すとヒートアップしてしまい、遂には二人で泣き出してしまったのだ。
「その子は悲恋のまま終わっちゃうの…。ハッピーエンドが好きなんだけど、この作品だけは話が綺麗で素敵だったから読んじゃったんだよねぇ。」
「あぁ、君がそういうのも分かる気がする。ラノベ小説も読まないといけないな。」
「ふふ、変なの。神様がラノベ小説なんて。」
泣きながらクスクスと笑ってしまう。まさか神様がこんなに聞き上手だったとは。
会話も崩して良いと言われたので、崩して話した。
しかも、相手は乙女ゲームヲタクだ。なんだか、初めて異性の友達が出来たかの様で楽しかった。
「ただ、世界を統べる力を持っただけで差程君たちと変わらんよ。」
「あはは、凄い事なんだけどそう聞こえないや。神様の印象変わるなぁ~。」
「まぁ、君の前の世界でいう会社だな。僕が代表取締役ってところだ。色んな会社があって、その会社によって持っている世界も社風も違う。地球とこの世界はうちの持ち物だな。」
「え、そうなの?」
「あぁ。それ以上は色々制限が有るからね、秘密だ。」
一時間というのは、長い様であっという間だ。
”秘密”という言葉にウズウズしてしまったが、それは聞いてはいけない神の領域なのである。
色々と知らない話を聞くのは面白かった。それは今後聞く事が絶対に無い事だ。死んだ後にだって分かる話では無いだろう。
「では、また明日だな。」
「うん、また明日ね。」
「サラ」
「はい?」
「エルディだ。」
「…うん、おやすみ。エルディ。」
「おやすみ。」
プツリと光が消えて、エルダーンは見えなくなる。
神様とは恐ろしい。さらりと女性を呼び捨てに出来る。
私も平然を装って言われた通りの名前を呼んだが、あれはきっと愛称だ。元婚約者の事も様付けで呼んでいた。小さい頃はどうだったか分からないが、旦那様になる人だからと自分で線を引いていたのかもしれない。
顔が火照っているのが分かる。
それに、彼の満足そうな顔を見てしまった。
私に名前を呼ばれただけだというのに、エルダーンはとても嬉しそうだった。
調子が狂ってしまう。彼とは期間限定のお友達だ
。出来るだけ情を持ちたくないのだが、手遅れかもしれない。
あんなに神が人間臭いだなんて思わないじゃないか。
「楽しかったな…。」
興奮してしまっているが貴族であった身体は正直で、今日バタバタと動いていたツケが回ってくる。
倒れる様にベッドに横たわってしまったのが悪かった。瞼は重く、シャワーだけでも浴びなければと思いつつもベッドから起き上がる元気が無い。
ふと、自分の中の悪魔が囁く。誰に怒られる事も無い。
明日で良いか、と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「エルダーン様~、こちらで最後ですぅ。」
「あぁ。ご苦労、帰っていいぞ。」
「おやや?嬉しい事でも有りました?なんだか、ご機嫌ですねぇ。」
「…ミルル、仕事を増やされたいか?」
「ピェッ!!め、滅相も御座いません!!し、失礼しましたー!」
いつも嵐の様な奴だが、今日もピューっと帰って行った。
「あっ!!!言い忘れました!!!」
そして、ピューっと戻って来た。羽の無駄遣いだな。
「エルダーン様、彼女にアレ!!ちゃんと言わなきゃいけませんよ??こちらのルールですからね!」
「…分かっているよ。」
戻って来て何を言い出すかと思えば、ミルルは釘を刺しに来たらしい。
おっちょこちょいな奴だと思っていたが、最近はしっかりしてきて、働いている奴の中でもすっかり信用出来る存在になっていた。
分かっているさ。
彼女の件については色々と厄介な事になっていた。
複雑な因果が絡み合い、それを外していく作業だけでも慎重に行わなければ世の理に反する。
そして、徐々に記憶を消すというのは僕の独断で決めた事だ。
何故そうしたいのか分からなかった。一瞬で消してしまえばこんなに悩まなかったかもしれない。
だけど、ちゃんと真っ直ぐに伝えに来た彼女には真っ直ぐ対応しなければと思ったのだ。
ミルルにも言っていない事が一つ有る。それは、ここのルール。忘れ去られた理。
後、三ヶ月。お友達ごっこを続けなければいけない。
それは、僕にとってもタイムリミットだ。
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