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今日も今日とてアリーナは肩で息をしている。
「ゼェ、ゼェ………っ、な、なんで見つからないのーーーー!!!」
あの後、アリーナはサイラスと三食一緒に食べる事に成功している。少食だが、好き嫌いとかは特に無いようだった。
だが、昼食後に予定している軽い運動はこうして失敗に失敗を重ねているのだ。
最初は無理にさせるのは駄目だと気を使って何となく散歩に誘う所から始めたのだが、徐々に回数の増えるそれに勘の良いサイラスは昼食後、身を潜める様になってしまった。
サイラスは少食なので食べるのが早く、アリーナより随分前に終わってしまうのだ。その間に身を潜めているらしい。
お陰で昼食中は少しピリピリとしている。
毎日、毎日サイラスを探すのだが、部屋を全部把握している使用人達でもその居場所は分からないんだとか。
「仲良くなれてると思ってたんだけどなぁ…。」
可愛くなった爪をサイラスに見せると、サイラスは冷静にだが、それはそれは喜んでくれた。
マジマジと爪を眺めてはやり方について聞いて、バリバリとメモを取っていた。
『これは革命だな。』とアリーナを褒め称えた。
一緒に食事をする事で会話も増えてサイラスの性格も段々と分かって来ていたのだが、結果は惨敗である。
「アリーナ様、少しお休みしませんか?」
長い間探し回っていたので、専属侍女のアイがティーセットを持って声を掛けた。
アリーナは渋々頷くと、庭にあるガゼボへと誘われる。
ガゼボには既にユメがティータイムの準備をしていた。
「アリーナ様、こっちです~!」
アイは落ち着いていて真顔な事が多いが優しさが溢れていて、ユメはお茶目で天真爛漫、そこに居るだけで場が明るくなる。そんな魅力的な二人がアリーナは大好きだ。
更に二人とも戦闘に長けているらしく、たまの休みにフラッと出掛けてはブルースライムを狩り、サンドワームの繭を採取し、コルボアを集めてくれるものだから素材が潤って潤ってしょうがない。コルボアの液以外は再利用可能なのにも関わらず在庫は潤沢だ。
アリーナ自身魔法は使えるものの、実戦での経験は無い。興味が有るので採取のお供をしたい気もするが、足手まといになるのが目に見えているのでまだ言い出せないでいる。
アリーナを椅子に座らせ、二人は甲斐甲斐しくティータイムの準備をする。椅子は三脚。
ティータイム位は皆と一緒にしたい、といったアリーナの我儘を受け入れて貰っているのだ。
一口紅茶を口に含むと、ふんわりと温かくなる。
「今日もサイラス捕まえられなかったなぁ。」
「ご主人様は運動がとてもお嫌いでいらっしゃいますもの。」
「そうそう、私達でさえ見付けられないのは本当に不思議で!」
「ね~。逃げ足だけは速いんだよね~…。」
美味しい紅茶を頂きながら、反省会をする。これもここ最近の日課である。
アーモンドの付いた軽めのクッキーをポンッと口の中に入れ考えるが、解決策は中々出てこない。
「やりたい事いっぱい有るし、そろそろ外出ちゃおっかな。」
青い空に流れる雲を眺めながらサイラスの事を一度頭の隅に置いておいて、アリーナはネイルが出来る様になったのでそろそろネイルを広める作業に入りたいなと考えていた。
サイラスにアリーナ自分の気持ちを押し付け過ぎるのも良くない。ここに居ると、する事がネイル研究とサイラスを健康にする事に固執してしまう。
勿論健康になって欲しいとは思っているが、ゆっくり彼のペースに合わせてあげるべきだ。
それに、そろそろ自分以外の人の爪も可愛くしたい。
ふと、アリーナは目の前の可愛い二人を見た。
「いるじゃん!!!!あーーーー盲点だった!自分に必死過ぎたっ!!」
いきなり大声を出して立ち上がるアリーナに、アイとユメは二人して目をぱちくりして驚いた。
「ど、どうかされましたか?アリーナ様。」
「ねぇねぇ、二人にお願いが有るの!私のネイルの練習台になって~~~~~~!!お願いっっ!」
パチンと手を合わせて頭を下げるアリーナに、アイとユメは二人で目を合わせるとクスクスと笑い出した。
「お顔を上げて下さいませ、アリーナ様。」
「とっても嬉しいです!アリーナ様のお爪ずっと可愛いな、羨ましいなって二人で話してたんですよ?」
「えっ!?ほんと?」
優しく肩に手を添えてくれた二人の顔を見ようとアリーナが顔を上げると、そこには少し照れ臭そうな二人が居た。
「自分達では言い辛いというのも有りましたが、長い爪で働くのもどうかと思ったというのもあって。自分に似合うか分かりませんし、ユメと羨ましいけど諦めようねって話していたのです。」
「そうそう!お仕事が大事だから…。良いんですか、アリーナ様?私達はとても嬉しいですが…。」
二人は本当に申し訳無さそうにアリーナを見詰めた。
確かに侍女の仕事は多岐に渡る。主人に触れる事の多い仕事でもあり、自分に傷付ける気が無くても引っ掻いてしまうかもしれない。破損した欠片が食事に混入してしまうかもしれない。
それに長い爪は決して清潔とは言えないだろう、衛生面に関わる。
だから、二人は自分達は出来ないんだと思っていたのだ。
アリーナは二人の手を取るとニカッと笑った。
「大丈夫、任せてっ!」
そう言って、アリーナは全速力で走り出した。
アイとユメはポカンとしてしまい、二人がハッと気付いた時にはアリーナは全速力で戻って来ていた。
「ゼェ、ゼェ、よ、よしっ!じゃあどっちからやる?」
アリーナは息を切らしていたが、清々しい笑顔で特注で作っていた前世のコスメボックスの様な鞄を机の上に置いた。
これも六年間埃を被り、やっと日の目を浴びた代物だ。
いつもの積極的な彼女とは違い、おずおずとユメが手を挙げた。
机を挟みユメの前に椅子を持っていき座ると、アリーナはテキパキとコスメボックスから中身を取り出していく。
「ゼェ、ゼェ………っ、な、なんで見つからないのーーーー!!!」
あの後、アリーナはサイラスと三食一緒に食べる事に成功している。少食だが、好き嫌いとかは特に無いようだった。
だが、昼食後に予定している軽い運動はこうして失敗に失敗を重ねているのだ。
最初は無理にさせるのは駄目だと気を使って何となく散歩に誘う所から始めたのだが、徐々に回数の増えるそれに勘の良いサイラスは昼食後、身を潜める様になってしまった。
サイラスは少食なので食べるのが早く、アリーナより随分前に終わってしまうのだ。その間に身を潜めているらしい。
お陰で昼食中は少しピリピリとしている。
毎日、毎日サイラスを探すのだが、部屋を全部把握している使用人達でもその居場所は分からないんだとか。
「仲良くなれてると思ってたんだけどなぁ…。」
可愛くなった爪をサイラスに見せると、サイラスは冷静にだが、それはそれは喜んでくれた。
マジマジと爪を眺めてはやり方について聞いて、バリバリとメモを取っていた。
『これは革命だな。』とアリーナを褒め称えた。
一緒に食事をする事で会話も増えてサイラスの性格も段々と分かって来ていたのだが、結果は惨敗である。
「アリーナ様、少しお休みしませんか?」
長い間探し回っていたので、専属侍女のアイがティーセットを持って声を掛けた。
アリーナは渋々頷くと、庭にあるガゼボへと誘われる。
ガゼボには既にユメがティータイムの準備をしていた。
「アリーナ様、こっちです~!」
アイは落ち着いていて真顔な事が多いが優しさが溢れていて、ユメはお茶目で天真爛漫、そこに居るだけで場が明るくなる。そんな魅力的な二人がアリーナは大好きだ。
更に二人とも戦闘に長けているらしく、たまの休みにフラッと出掛けてはブルースライムを狩り、サンドワームの繭を採取し、コルボアを集めてくれるものだから素材が潤って潤ってしょうがない。コルボアの液以外は再利用可能なのにも関わらず在庫は潤沢だ。
アリーナ自身魔法は使えるものの、実戦での経験は無い。興味が有るので採取のお供をしたい気もするが、足手まといになるのが目に見えているのでまだ言い出せないでいる。
アリーナを椅子に座らせ、二人は甲斐甲斐しくティータイムの準備をする。椅子は三脚。
ティータイム位は皆と一緒にしたい、といったアリーナの我儘を受け入れて貰っているのだ。
一口紅茶を口に含むと、ふんわりと温かくなる。
「今日もサイラス捕まえられなかったなぁ。」
「ご主人様は運動がとてもお嫌いでいらっしゃいますもの。」
「そうそう、私達でさえ見付けられないのは本当に不思議で!」
「ね~。逃げ足だけは速いんだよね~…。」
美味しい紅茶を頂きながら、反省会をする。これもここ最近の日課である。
アーモンドの付いた軽めのクッキーをポンッと口の中に入れ考えるが、解決策は中々出てこない。
「やりたい事いっぱい有るし、そろそろ外出ちゃおっかな。」
青い空に流れる雲を眺めながらサイラスの事を一度頭の隅に置いておいて、アリーナはネイルが出来る様になったのでそろそろネイルを広める作業に入りたいなと考えていた。
サイラスにアリーナ自分の気持ちを押し付け過ぎるのも良くない。ここに居ると、する事がネイル研究とサイラスを健康にする事に固執してしまう。
勿論健康になって欲しいとは思っているが、ゆっくり彼のペースに合わせてあげるべきだ。
それに、そろそろ自分以外の人の爪も可愛くしたい。
ふと、アリーナは目の前の可愛い二人を見た。
「いるじゃん!!!!あーーーー盲点だった!自分に必死過ぎたっ!!」
いきなり大声を出して立ち上がるアリーナに、アイとユメは二人して目をぱちくりして驚いた。
「ど、どうかされましたか?アリーナ様。」
「ねぇねぇ、二人にお願いが有るの!私のネイルの練習台になって~~~~~~!!お願いっっ!」
パチンと手を合わせて頭を下げるアリーナに、アイとユメは二人で目を合わせるとクスクスと笑い出した。
「お顔を上げて下さいませ、アリーナ様。」
「とっても嬉しいです!アリーナ様のお爪ずっと可愛いな、羨ましいなって二人で話してたんですよ?」
「えっ!?ほんと?」
優しく肩に手を添えてくれた二人の顔を見ようとアリーナが顔を上げると、そこには少し照れ臭そうな二人が居た。
「自分達では言い辛いというのも有りましたが、長い爪で働くのもどうかと思ったというのもあって。自分に似合うか分かりませんし、ユメと羨ましいけど諦めようねって話していたのです。」
「そうそう!お仕事が大事だから…。良いんですか、アリーナ様?私達はとても嬉しいですが…。」
二人は本当に申し訳無さそうにアリーナを見詰めた。
確かに侍女の仕事は多岐に渡る。主人に触れる事の多い仕事でもあり、自分に傷付ける気が無くても引っ掻いてしまうかもしれない。破損した欠片が食事に混入してしまうかもしれない。
それに長い爪は決して清潔とは言えないだろう、衛生面に関わる。
だから、二人は自分達は出来ないんだと思っていたのだ。
アリーナは二人の手を取るとニカッと笑った。
「大丈夫、任せてっ!」
そう言って、アリーナは全速力で走り出した。
アイとユメはポカンとしてしまい、二人がハッと気付いた時にはアリーナは全速力で戻って来ていた。
「ゼェ、ゼェ、よ、よしっ!じゃあどっちからやる?」
アリーナは息を切らしていたが、清々しい笑顔で特注で作っていた前世のコスメボックスの様な鞄を机の上に置いた。
これも六年間埃を被り、やっと日の目を浴びた代物だ。
いつもの積極的な彼女とは違い、おずおずとユメが手を挙げた。
机を挟みユメの前に椅子を持っていき座ると、アリーナはテキパキとコスメボックスから中身を取り出していく。
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