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第5章 第0騎士団
第13話 これから
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「う、うるさい!!平民風情が貴族を……騎士道を語るな!!」
ラインバッハの一喝に動揺を隠せないフランツをはじめとした貴族騎士たち。
動揺と同時に、震える声を張り上げる騎士たちにをラインバッハは睨みつける。
ただその行為だけで、雑音はすぐになりを潜める。
「騎士道……とな……。フランツよ……儂はお主にこのようなくだらないことを教えたつもりはない……。現役を退いた儂は後進育成のためにとあのフリードリッヒを鍛えようと思っていた。だが蓋を開けてみればこれだ。お主が変わらぬ限り、この後も何一つ変わることはない……それを努々忘れる出ない。」
呆れた表情でフランツを諭すラインバッハ。
すでに言葉を失ったフランツは二の語を発せられずにいた。
そしてルーズハルトの不思議そうな顔を見たラインバッハは、野営していた時のように好々爺然とした表情へと戻っていった。
「これはすまなんだな、ルーズハルト殿。こやつは儂が大隊長だったころの部下なんだ。こうして現役を退いてもなお仕事があることはありがたいことだが、儂の教育がなっておらなんだな……第3騎士団をもう一度立て直せねば、ただの屑の集まりになってしまうな。」
「あなたがそこまで気負う必要はありませんから。それに陛下も動きます。自分がこれを目の当たりにした以上、報告せざるを得ません。」
そう言ってルーズハルトはラインバッハを慰めると同時に、フランツを鋭く睨みつける。
二回り近く年の離れた青年魔導師に睨まれただけで委縮してしまうフランツ。
それだけで底が知れるというものだった。
それを見たラインバッハはため息を漏らす。
此処まで落ちたのかと。
ルーズハルトの雰囲気が一気に引き締まり、天幕内の空気が変わる。
びしりと背を正し、フランツへ向き直る。
「ではフランツ・フォン・ハイネ第3騎士団第3大隊大隊長殿、今回の件については自分から陛下へ報告を上げるものとする。また、今回の作戦指揮は只今をもって第13大隊へ移譲する。第3大隊は現時点をもって作戦を中断し、撤退するように。以上!!」
ルーズハルトの宣言に、最初何を言っているか分からなかったフランツだったが、その意味を理解して顔を赤らめていく。
怒気を全身で表すかのように振るわせ、ルーズハルトにつかみかかる。
だがそんなことはルーズハルトが許すはずもなく、難なく組み伏せ、フランツは地面へと押しやられた。
「これはどういうことですか?」
「うるさい!!平民風情が帰属に盾突くな!!おい、こいつを黙らせるんだ!!早くしろ!!」
組み伏せられた状態で騒ぎ立てるフランツをよそに、周囲にいた貴族騎士たちは動けずにいた。
動けば自分まで咎が及ぶと考えての事か、それとも何か打算があるのか分からないが。
「やめるんだハイネ……お前は一番下からまたやり直せ……儂が最後まで面倒を見てやる。いいですかなルーズハルト殿。」
「ラインバッハ殿がそう言うのであればここは矛を収めます。」
そう言うとルーズハルトは組み伏せたフランツを解放すると、周囲を見渡す。
此処でフランツを助ける気概のあるものがいればそれはそれで見直していたが、ここまで来ても自分の保身しか考えていない貴族騎士に辟易していた。
「イザベル、陛下に事の顛末の報告を頼む。それと第13騎士団に連絡を。直ちに総攻撃を行い、モンスタースタンビードを殲滅する。」
ルーズハルトが天幕の奥……丁度フランツが座っていた無駄に豪華な椅子の後ろに視線を送る。
するとそこに空間の揺らめきが起ころ、イザベルが姿を現した。
突然の出来事に天幕内にどよめきが起こる。
当然の事ながら、誰一人としてイザベルがそこに居ることを理解していなかった。
とうのフランツに至っても同様で、それがいかに恐ろしいことがここにきて理解できたようだった。
「分かりました。と言っても既に陛下への第一報は送ってあります。第13騎士団は配置済みで……「ドン!!ドン!!ドン!!」今合図が上がりましたね。総攻撃が開始されます。」
そう言うとイザベルは空を指さした。
3回の号砲がなると、遠くから何かが駆ける音と、勇ましい声が響き渡る。
「手回しの良いことで。素晴らしい補佐官を持つと楽でいいね。」
「あなたがやらなから、私が代わりにやっているだけです。」
さっきまでとうって変わって緩い空気となる二人に、騎士たちは動揺を隠せない。
どちらが本当のルーズハルトの姿なのかつかみかねている感じであった。
「ではラインバッハ殿、俺はここでの任務は終了の様です。またどこかの戦場でお会いしましょう。」
「ルーズハルト殿、今回は本当に助かった。改めて礼を言わせてほしい。」
ルーズハルトとラインバッハは互いに固い握手を交わす。
それをフランツは意味不明とばかりに、きょとんとした顔で見つめている事しかできずにいた。
これから自分に下される裁きについて、考えることもなく。
ある意味で幸せな時間なのかもしれない。
本陣の天幕を後にしたルーズハルトとイザベルは、自分たちの天幕に向かって歩いていた。
「これで任務終了っと。俺たちはこのまま戻るってことで良いのか?」
「そうですね、ここの撤収作業については第13大隊から人員が派遣されるでしょうから、そちらに任せた方がスムーズでしょう。」
いちいち棘のある返答にルーズハルトは眉をしかめるも、いつもの事とため息を漏らす。
イザベルはと言うと、特に何も思っていないようで、淡々とした表情のままであった。
「さてと、次はどんな任務を与えられるのやら……」
「まじめにこなしてさえ下されば私としては問題ありません。」
そんなやり取りをしながらも、いまだ片鱗すらつかめない〝魔王〟について頭の片隅で思いをはせるルーズハルトだった。
——————第1部完——————
ラインバッハの一喝に動揺を隠せないフランツをはじめとした貴族騎士たち。
動揺と同時に、震える声を張り上げる騎士たちにをラインバッハは睨みつける。
ただその行為だけで、雑音はすぐになりを潜める。
「騎士道……とな……。フランツよ……儂はお主にこのようなくだらないことを教えたつもりはない……。現役を退いた儂は後進育成のためにとあのフリードリッヒを鍛えようと思っていた。だが蓋を開けてみればこれだ。お主が変わらぬ限り、この後も何一つ変わることはない……それを努々忘れる出ない。」
呆れた表情でフランツを諭すラインバッハ。
すでに言葉を失ったフランツは二の語を発せられずにいた。
そしてルーズハルトの不思議そうな顔を見たラインバッハは、野営していた時のように好々爺然とした表情へと戻っていった。
「これはすまなんだな、ルーズハルト殿。こやつは儂が大隊長だったころの部下なんだ。こうして現役を退いてもなお仕事があることはありがたいことだが、儂の教育がなっておらなんだな……第3騎士団をもう一度立て直せねば、ただの屑の集まりになってしまうな。」
「あなたがそこまで気負う必要はありませんから。それに陛下も動きます。自分がこれを目の当たりにした以上、報告せざるを得ません。」
そう言ってルーズハルトはラインバッハを慰めると同時に、フランツを鋭く睨みつける。
二回り近く年の離れた青年魔導師に睨まれただけで委縮してしまうフランツ。
それだけで底が知れるというものだった。
それを見たラインバッハはため息を漏らす。
此処まで落ちたのかと。
ルーズハルトの雰囲気が一気に引き締まり、天幕内の空気が変わる。
びしりと背を正し、フランツへ向き直る。
「ではフランツ・フォン・ハイネ第3騎士団第3大隊大隊長殿、今回の件については自分から陛下へ報告を上げるものとする。また、今回の作戦指揮は只今をもって第13大隊へ移譲する。第3大隊は現時点をもって作戦を中断し、撤退するように。以上!!」
ルーズハルトの宣言に、最初何を言っているか分からなかったフランツだったが、その意味を理解して顔を赤らめていく。
怒気を全身で表すかのように振るわせ、ルーズハルトにつかみかかる。
だがそんなことはルーズハルトが許すはずもなく、難なく組み伏せ、フランツは地面へと押しやられた。
「これはどういうことですか?」
「うるさい!!平民風情が帰属に盾突くな!!おい、こいつを黙らせるんだ!!早くしろ!!」
組み伏せられた状態で騒ぎ立てるフランツをよそに、周囲にいた貴族騎士たちは動けずにいた。
動けば自分まで咎が及ぶと考えての事か、それとも何か打算があるのか分からないが。
「やめるんだハイネ……お前は一番下からまたやり直せ……儂が最後まで面倒を見てやる。いいですかなルーズハルト殿。」
「ラインバッハ殿がそう言うのであればここは矛を収めます。」
そう言うとルーズハルトは組み伏せたフランツを解放すると、周囲を見渡す。
此処でフランツを助ける気概のあるものがいればそれはそれで見直していたが、ここまで来ても自分の保身しか考えていない貴族騎士に辟易していた。
「イザベル、陛下に事の顛末の報告を頼む。それと第13騎士団に連絡を。直ちに総攻撃を行い、モンスタースタンビードを殲滅する。」
ルーズハルトが天幕の奥……丁度フランツが座っていた無駄に豪華な椅子の後ろに視線を送る。
するとそこに空間の揺らめきが起ころ、イザベルが姿を現した。
突然の出来事に天幕内にどよめきが起こる。
当然の事ながら、誰一人としてイザベルがそこに居ることを理解していなかった。
とうのフランツに至っても同様で、それがいかに恐ろしいことがここにきて理解できたようだった。
「分かりました。と言っても既に陛下への第一報は送ってあります。第13騎士団は配置済みで……「ドン!!ドン!!ドン!!」今合図が上がりましたね。総攻撃が開始されます。」
そう言うとイザベルは空を指さした。
3回の号砲がなると、遠くから何かが駆ける音と、勇ましい声が響き渡る。
「手回しの良いことで。素晴らしい補佐官を持つと楽でいいね。」
「あなたがやらなから、私が代わりにやっているだけです。」
さっきまでとうって変わって緩い空気となる二人に、騎士たちは動揺を隠せない。
どちらが本当のルーズハルトの姿なのかつかみかねている感じであった。
「ではラインバッハ殿、俺はここでの任務は終了の様です。またどこかの戦場でお会いしましょう。」
「ルーズハルト殿、今回は本当に助かった。改めて礼を言わせてほしい。」
ルーズハルトとラインバッハは互いに固い握手を交わす。
それをフランツは意味不明とばかりに、きょとんとした顔で見つめている事しかできずにいた。
これから自分に下される裁きについて、考えることもなく。
ある意味で幸せな時間なのかもしれない。
本陣の天幕を後にしたルーズハルトとイザベルは、自分たちの天幕に向かって歩いていた。
「これで任務終了っと。俺たちはこのまま戻るってことで良いのか?」
「そうですね、ここの撤収作業については第13大隊から人員が派遣されるでしょうから、そちらに任せた方がスムーズでしょう。」
いちいち棘のある返答にルーズハルトは眉をしかめるも、いつもの事とため息を漏らす。
イザベルはと言うと、特に何も思っていないようで、淡々とした表情のままであった。
「さてと、次はどんな任務を与えられるのやら……」
「まじめにこなしてさえ下されば私としては問題ありません。」
そんなやり取りをしながらも、いまだ片鱗すらつかめない〝魔王〟について頭の片隅で思いをはせるルーズハルトだった。
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