上 下
90 / 97
第5章 第0騎士団

第6話 モンスタースタンビードの予兆

しおりを挟む
「失礼します!!」
「開いてるよ~」

 ライガーが訪れたのは第0騎士団兵舎内に設けられたルーズハルトの執務室。
 普段であればイザベルがつなぎ役となるのだが、今回はイザベルが別任務で動いているため、こうしてライガーが訪れたのだ。
 下水道の討伐依頼からすでに4年経過し、ライガーはルーズハルトの実力そのものは認めていた。
 しかしそのやる気の無さについては思うところがあった。
 そしてこの返事……
 怒りではないが、呆れを通り越して何やらおかしな感情が芽生えそうであったが、引き攣りかけた表情をマッサージし、入室したのだった。

 ライガーが入室してすぐに目に付いたのは、執務机でだらけているルーズハルトの姿だった。
 執務机に並べられた書類を気怠そうにチラ見しては、深くため息をつく。
 そして何やらさらさらとかいては、書類箱へ。
 それを繰り返している態度は、まさにめんどくさいの一言であった。

 入ってきた人物がやっと目に入ったのか、ルーズハルトは身体は突っ伏したまま、頭をもたげたのだ。

「今日はライガーさんなんだね。イザベルは……って、表の任務か。大変だね君たちも。」
「いえ、本来の任務ですので問題ありません。」

 部屋に入るなり、ビシッと気を付けの姿勢を取るライガー。
 その姿にルーズハルトは苦笑いを浮かべていた。
 ルーズハルトとしてはそれなりの時間、同じ任務をこなしてきているので信頼関係は結ばれているとは思っていた。
 だがいまだライガーの態度は固く、少しだけ寂しさを感じていた。

「で、今日の用事は何?」
「はっ!!団長がお呼びです!!」

 大隊長が呼んでると聞きルーズハルトはものすごく嫌そうな顔をしていた。
 それもそのはずで、〝大隊長の呼び出し=めんどくさい任務〟が確定しているからであった。
 執務机に突っ伏したままで動かないルーズハルトに苛立ちを感じるライガー。
 根っからの軍人であるライガーからすれば、ルーズハルトの態度は許容しがたい物があるのだ。

 微妙な空気が漂う中、時計の針の音だけが部屋から聞こえてくる。

「わかったよぉ~行きますって……」

 ライガーから向けられる視線と沈黙に耐えられなくなったルーズハルトが遂に音を上げた。
 ライガーの表情が一瞬ニヤリと綻ぶも、ルーズハルトには見えてはいなかった。



「で、用事ってなんですか団長殿?」
「そう不貞腐れるなルーズハルト。」

 ルーズハルトと向かい合うように応接室のソファーに腰掛けている男性。
 初老と言うにはまだその若さが際立っていた。
 飄々とした態度とは裏腹に滲み出るような威圧感とも緊張感とも取れる空気が部屋に充満していく。
 ルーズハルトはいきなりの招集命令に憮然とした態度を崩すことは無かった。
 ただこれはあくまでもスタンスであり、そこまで嫌がっているつもりはなかった。

「ナンバー0……流石に此処でそれはないんじゃないですか?これから無理難題ふっかけるんです、少しは労ってあげたらどうです?」
「いや、お前のそれもどうかと思うぞ、バラック。」

 気が付くとそこに居た……
 正にその言葉がピッタリの男性がいつの間にかルーズハルトの背後に姿を現していた。
 一切ルーズハルトに悟られることなく。
 ルーズハルトは、背中にヒヤリとしたものを感じていた。

「しまえバラック。」
「すみません……つい……」

 バラックと呼ばれた男性は何食わぬ顔で謝辞を述べ、手にしたナイフを懐に仕舞い直した。
 そしてバラックは何食わぬ顔でガルガットの隣に腰かける。
 それに対してルーズハルトは警戒心を露わにしていた。

「すまんな。悪い奴じゃないんだが……気が早いのが欠点でな。」
「あなたが危機感がなさすぎるからです。」

 バラックはそう言うと白い眼をガルガットに向けていた。
 わずかな時間執務室になんとも言えない空気が漂っていた。
 その視線と空気感に少しだけバツの悪い表情を浮かべたガルガットだったが、軽い咳払いのあとすぐに真剣は表情に戻っていた。
 
「呼んだのはほかでもない。ルーズハルトに頼みたい依頼があるんだが……」

 そう言うと言い淀んだガルガット。
 それを見たルーズハルトはさらに気を引き締めていた。
 ルーズハルトはこれ以上自分にめんどくさい案件を振られるのは勘弁願いたいと考えていた。
 だが現実問題ナンバーズとしての依頼の大半は面倒な案件しかなかった。
 
「これを見てくれ。」

 ガルガットから1枚の紙を見せられたルーズハルト。
 その表情は一気に険しい物になっていた。
 テーブルに置かれた1枚の依頼書。
 それはすでに半月が経過していた。
 それよりも問題なのが、これが冒険者ギルドにあてられたものだったからだ。
 それがなぜここにあるのか……
 ルーズハルトのほほに汗が流れていく。

「つまり、これのこなして来いと……」
「そうなるな。」

 なぜガルガットが言い淀んなのか……
 それはその内容が大問題だったのだ。

 モンスタースタンピードの発生調査と対応について。

 それが半月も放置されている状況だったのだ。
 依頼自体その発生場所と思われる場所の近くに住む村人からのものだった。
 だが、狩場からほど近くにモンスターの群れを確認し、その報告を冒険者ギルドに行っていた。
 ギルドとしては早急に調査すべきところだったが、何かの手違いで半月も放置されてしまったようだった。
 もし仮にこれが本当にスタンピードの兆候だった場合、すでに初動が遅れているに他ならなかった。

「なるほどね、それでイザベルが調査に向かっていたってわけか。」
「そう言う事です。」

 入り口付近から聞こえたのは、モンスタースタンピードの調査に向かっていたイザベルの声だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

クラス全員が転生して俺と彼女だけが残された件

兵藤晴佳
ファンタジー
 冬休みを目前にした田舎の高校に転校してきた美少女・綾見(あやみ)沙羅(さら)は、実は異世界から転生したお姫様だった!  異世界転生アプリでクラス全員をスマホの向こうに送り込もうとするが、ただひとり、抵抗した者がいた。  平凡に、平穏に暮らしたいだけの優等生、八十島(やそしま)栄(さかえ)。  そんな栄に惚れ込んだ沙羅は、クラス全員の魂を賭けた勝負を挑んでくる。  モブを操って転生メンバーを帰還に向けて誘導してみせろというのだ。  失敗すれば、品行方正な魂の抜け殻だけが現実世界に残される。  勝負を受ける栄だったが、沙羅は他クラスの男子の注目と、女子の嫉妬の的になる。    気になる沙羅を男子の誘惑と女子の攻撃から守り抜き、クラスの仲間を連れ戻せるか、栄!

出来損ない皇子に転生~前世と今世の大切な人達のために最強を目指す~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、従姉妹の結衣と買い物に出かけた俺は、暴走した車から結衣を庇い、死んでしまう。 そして気がつくと、赤ん坊になっていた。 どうやら、異世界転生というやつをしたらしい。 特に説明もなく、戸惑いはしたが平穏に生きようと思う。 ところが、色々なことが発覚する。 え?俺は皇子なの?しかも、出来損ない扱い?そのせいで、母上が不当な扱いを受けている? 聖痕?女神?邪神?異世界召喚? ……よくわからないが、一つだけ言えることがある。 俺は決めた……大切な人達のために、最強を目指すと! これは出来損ないと言われた皇子が、大切な人達の為に努力をして強くなり、信頼できる仲間を作り、いずれ世界の真実に立ち向かう物語である。 主人公は、いずれ自分が転生した意味を知る……。 ただ今、ファンタジー大賞に参加しております。 応援して頂けると嬉しいです。

モブ令嬢、奮起する ~婚約破棄されたライバル令嬢は私のパトロンです~

芽生 (メイ)
ファンタジー
これは婚約破棄から始まる異世界青春ストーリー。 ライリー・テイラーが前世の記憶を取り戻したのは8歳のときである。 そのときここが乙女ゲームの中だと知ったのだ。 だが、同時にわかったのは自分がモブであるということ。 そこで手に職をつけて、家を出ようと画策し始める。 16歳になったライリーの前で繰り広げられる断罪シーン。 王太子ルパートにヒロインであるエイミー、 婚約破棄を告げられつつも凛々しく美しいクリスティーナ嬢。 内心ではクリスティーナが間違っていないのを知りつつも モブであるとただ見つめるライリーであったが それからまもなく、学園の中庭で クリスティーナが責められる姿を見て 黙ってはいられず…… モブである貴族令嬢ライリーと 高貴な心を持つ公爵令嬢クリスティーナ 断罪されたそのあとのお話 自分の道を模索する2人の 異世界友情青春ストーリーです。 カクヨムさまにも投稿しています。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

異世界に飛ばされたけど『ハコニワ』スキルで無双しながら帰還を目指す

かるぼな
ファンタジー
ある日、創造主と言われる存在に、理不尽にも異世界に飛ばされる。 魔獣に囲まれるも何とか生き延びて得たスキルは『ハコニワ』という、小人達の生活が見れる鑑賞用。 不遇スキルと嘆いていたそれは俺の能力を上げ、願いを叶えてくれるものだった。 俺は『ハコニワ』スキルで元の世界への帰還を目指す。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー
死因がわからないまま神様に異世界に転生させられた久我蒼谷。 転生した世界はファンタジー好きの者なら心が躍る剣や魔法、冒険者ギルドにドラゴンが存在する世界。 そんな世界を転生した主人公が存分に楽しんでいく物語です。 祝書籍化!! 今月の下旬にアルファポリス文庫さんから冒険がしたい創造スキル持ちの転生者が単行本になって発売されました! 本日家に実物が届きましたが・・・本当に嬉しくて涙が出そうになりました。 ゼルートやゲイル達をみことあけみ様が書いてくれました!! 是非彼らの活躍を読んで頂けると幸いです。

処理中です...