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第5章 第0騎士団

第5話 スライム退治は作業です

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「〝纏い〟は……いらないか。それじゃあ皆離れてね。巻き添え食っても責任取らないから。」

 ライガーはこの時初めて自分の見る目の無さを痛感した。
 上司であるイザベルの規格外さについて、ライガーはよく知っていた。
 そしてそれに匹敵する規格外の人間が目の前にいたのだ。
 それはリズやアルベルトも同様であった。

 突如として巻き起こる魔力の嵐。
 それは圧力となってライガーたちに襲い掛かる。
 目も明けていられぬほどの光を放ち、ルーズハルトは佇んでいた。

「それじゃあ、作業開始っと。」

 めんどくさそうにそう言うと、ルーズハルトは地下水路を駆け出した。
 両手にはショートソードを持ち、スライムに近づくたびに無造作に振るわれた。
 しかしそれは的確にスライムの核となっている物を破壊していく。

「な、なんであんなに早く動けんだよ……」

 呆れと唖然と恐れや嫉妬……いろんな感情が入り混じり、ライガーはルーズハルトの動きを目で追っていた。
 とはいうものの、それはぎりぎり見えている程度にしか過ぎなかった。
 気が付けば何かが砕かれる音が聞こえる。
 目で追う限界を超えており、魔力を探ってやっとルーズハルトの攻撃だと気が付く程度だ。
 
「あれは【魔力循環】をしただけです。魔法などは全く使用していません。」

 淡々と答えたのはいつの間にか下がっていたイザベルだった。

「【魔力循環】って……強化魔法すら使ってないってこと?」
「そう言うことでしょうね……」

 リズやアルベルトをはじめとした中隊メンバーもその動きに圧倒されていた。
 自分たちにも同じことが出来るだろうか……
 その答えは否であった。
 ライガーたちの隊の特性は隠密と情報。
 いわば裏方である。
 だからと言って戦闘が全くできないわけではなかった。
 むしろ、その特性から速度と正確性にはどの隊よりも自信があった。
 だが目の前で起こっている現状に、その自信を失わずにはいられなかった。

「ライガー、彼は第0騎士団のナンバーを拝命しています。実力は視るまでもないはずです。それに、見た目で判断するのはあなたの悪い癖です。その為に補佐としてアルベルトがいるはずですが?」

 そう言うとイザベルはチラリと横目でライガーに視線をやった。
 ライガーもその視線に気が付いていたが、あえて反応することは無かった。
 それよりも今の戦闘を観察する方を優先しているようであった。

 
 気が付けば瞬く間に狩られていくスライム。
 まさに作業……
 ルーズハルトの言葉通りとなっていたのだった。
 


「これで最後っと……イザベル、確認作業よろしく。」

 息一つ乱すことなく涼しい顔をしたまま、ルーズハルトがイザベルに話しかけた。
 イザベルも特段気にした様子もなく、周囲の気配を念入りに探っていく。

「撃ち漏らしはないようですね。これで任務完了です。」
「疲れた~。にしてもこのにおい……取れるの?」

 スンスンと自分に付い臭いを嗅ぎ、嫌そうな表情を浮かべたルーズハルト。
 イザベルもさすがにその臭いには顔を顰めていた。

「あ、ごめん……皆の分残すの忘れてたや。戦闘訓練にならなかったね。」

 ルーズハルトが今気が付いたとバツの悪そうな様子だったが、ライガーたちはそれに何も言うことが出来なかった。
 つまりはルーズハルトにとってはその程度の依頼だったということに他ならなかった。

「いえ、私たちは状況確認と、素材の回収を行ってきます。リザベル隊長はいかがしますか?」
「そうですね、彼に報告を任せると碌なことにならなそうですので、私は一度帰還します。ライガーこの場所は任せます。」

 ライガーは改まった様子で、イザベルに確認を取っていた。
 ライガーに簡単な指示を出したイザベルは、特段何も言うこともなく下水道を後にした。
 ルーズハルトもその後に続くように歩き出す。
 そこにはあどけなさが残る少年の後ろ姿が感じられた。
 先ほどまでの暴力的な魔力は影も形もない。
 それほどまで普段から高レベルの【魔力制御】を行っている事がうかがえた。

「人は見かけによらない……というわけかよ……たまったもんじゃねぇな。」

 ルーズハルトの後姿を眺め一人ごちるライガーだった。


 
「よし、それじゃ下水道の討伐範囲内の確認作業を開始する!!残敵がいた場合は速やかに排除する事!!」
「「「はい!!」」」

 気を取り直したライガーは中隊メンバーに号令をかける。
 その人数は4人小隊が10隊、計40名それとライガーと補佐のアルベルトを加えた総勢42人が下水道に散らばっていったのだった。

 それからしばらくして下水道の入り口付近に集合したライガーたちであったが、ものの見事に狩られつくした現状を目の当たりにし、ルーズハルトの規格外さを改めて実感したのであった。

「イザベル隊長の言った通りだったってわけか……」
「ほんと、何なのよ……本当に一匹もうち漏らしてないし。」

 ライガーたちが手にしていたのは大きな麻袋いっぱいの細かなクズ魔石だった。
 スライムだからなのか、その大きさは小指の爪ほどでほとんど使い道というモノがない代物だ。
 せいぜい着火用の魔導具、しかも使い捨てでしか使えないものだ。
 それが麻袋いっぱいにあるということはその処分もまた面倒だということになる。

「とりあえず帰るとするか。」

 とこかやるせないというか力ないというか、覇気のないライガーの声に中隊メンバーは従ったのだった。
 
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