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第5章 第0騎士団
第4話 塩漬け案件
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「とりあえず差し当たっての任務は……っと。」
ルーズハルトは王城内の近衛騎士団宿舎の一室にいた。
簡易とはいえ執務室のような役割もあり、イザベルは秘書の立場になっていた。
「こちらをどうぞ。」
ドサリと置かれた資料は山積みとなり、どっから出したのかと不思議そうな顔をしているルーズハルトをよそに、イザベルは至って平常運転であった。
「にしても……数多くないか?」
「そうですね、あなたの能力を見込んでの任務でしょうね。」
なるほどと納得しつつも、その数に辟易した様子のルーズハルトは、紙の束の一番上に有る資料を手に取った。
「えっと……あぁ~、うん。なぁイザベル、資料には目を通したんだよな?」
「えぇ。」
短い返事と関心のうすそうな態度にルーズハルトはため息しか出てこなかった。
「じゃあなんでスライム討伐なんだ?」
「安心してください。下水道のスライム討伐です。今のあなたに見合った内容かと。」
それから順番に資料を確認していくと、たしかに厄介な任務ばかりであった。
スライム討伐にしても、本来は冒険者の仕事である。
しかし、ルーズハルトに持ち込まれた依頼は、大量発生したスライムの殲滅であった。
確かに一匹二匹ならその辺の駆け出し冒険者の領分だ。
しかし報告書に記載されていた数は推定300。
とてもではないが新人冒険者が対応できる事案ではなかった。
かと言って対応できる冒険者は高ランクとなり、もっと割の良い依頼を受けている。
つまるところ、塩漬けの案件というわけであった。
「俺にお似合い……ね?じゃあお前も一緒だぞ?」
ルーズハルトの言葉に一瞬ビクリとしたイザベルだったが、表情を変えることはなかった。
それをみたルーズハルトはその変化を見逃すことはなく、ニヤリと笑ってみせた。
この二人のやり取りを見た者が居たならばこう感じただろう……
大丈夫なのか?と。
「というわけでやってまいりました下水道。」
「ふざけないでください。」
じめっとした空気と悪臭が漂う下水道。
それとは別に厭な気配も漂って来ていた。
「居る居る、なんでこうなる前に処理しなかったんだ?」
「人手不足と不人気です。」
だよなと軽くため息を付いたルーズハルトは、顔を顰めつつも奥へと歩みを進めた。
イザベルは表情を変えることなくルーズハルトのあとについて歩き出す。
そんな二人の後を追う者たちがいた。
「たいちょ~、本当についていくんですか?」
「仕方ないだろ?これも任務だ。それにアルベルト、何度も言うようだが今の俺は隊長じゃない、副隊長だ。しかも中隊のな。」
ルーズハルトの後を追う9人の男女。
冒険者風といえばそう見えるが、どう見てもその表現は似つかわしくなかった。
それもそのはずで個々に調整しているためか若干の違いがあるものの、統一されている装備を身に着けていた。
「それにしてもライガーが中隊副隊長を拝命ねぇ~」
「なんか文句あるかリズ。」
リズと呼ばれた女性は、黒髪ショートヘアーで、くりっとした瞳が印象的な〝可愛らしい〟という印象だ。
そのいたずらごころ満載の瞳でライガーを見つめるリズ。
ライガーがと呼ばれた男性は筋骨隆々……とは言い難いものの、引き締まった体躯の持ち主である。
リズの言葉に若干顔をしかめるも、いつものことのようにライガーはあまり気にした様子はなかった。
その態度につまらなそうにしたリズは、列の後方へと移動していった。
「相変わらずリズは……。ライガー副隊長をなんだと思っているんですか。」
「そう言うなアルベルト。リズも納得がいっていないんだろう。まぁ、お手並み拝見と言ったところだ。」
アルベルトと呼ばれた男性は、リズの態度に不快感をあらわにしていた。
アルベルトはもともと孤児の生まれで、騎士爵家7男のライガーとは影ながら友人関係を築いていた。
アルベルト自体孤児とはいえ高い魔法特性を秘めており、それに気が付いたライガーの父が使用人としてアルベルトを引き取ったのだ。
その為か、ライガーとしては友人として接してほしいと何度も言っているにもかかわらず、アルベルトは頑として使用人の立場を崩すことはなかった。
〝恩〟と言えば聞こえがいいが、むしろライガー的には有難迷惑に他ならなかった。
「ですがやはり私も納得はいきません。表向きイザベル様が隊長ですが、実質彼の部下という扱いです。いきなり現れた人間をどうして信用できましょうか。」
「仕方ないだろ?俺たちは軍人だ。上からの命令は絶対だってことはアルベルトだってわかってるはずだろ?だからこそのお手並み拝見ってことだ。」
不承不承といった様子で引き下がったアルベルトであったが、いまだ納得はしていないという様子がありありとうかがえた。
小さくため息をついたライガーであったが、少しだけその意見に同意していた。
イザベルとは配属時に同じ小隊であり、その実力も理解していた。
だが、ルーズハルトに関しては風の噂程度で、その実力を測りかねていた。
もしこれで自分たちの上官としてふさわしくないと感じた場合、イザベルには申し訳ないと思うが、大隊長に直訴しようと心に誓ったライガーであった。
「それじゃあ、サクッと終わらせようかな……面倒だしね。」
なんとも間の抜けたやる気のないルーズハルトの声に、ライガーは本気で不安になってしまったのであった。
ルーズハルトは王城内の近衛騎士団宿舎の一室にいた。
簡易とはいえ執務室のような役割もあり、イザベルは秘書の立場になっていた。
「こちらをどうぞ。」
ドサリと置かれた資料は山積みとなり、どっから出したのかと不思議そうな顔をしているルーズハルトをよそに、イザベルは至って平常運転であった。
「にしても……数多くないか?」
「そうですね、あなたの能力を見込んでの任務でしょうね。」
なるほどと納得しつつも、その数に辟易した様子のルーズハルトは、紙の束の一番上に有る資料を手に取った。
「えっと……あぁ~、うん。なぁイザベル、資料には目を通したんだよな?」
「えぇ。」
短い返事と関心のうすそうな態度にルーズハルトはため息しか出てこなかった。
「じゃあなんでスライム討伐なんだ?」
「安心してください。下水道のスライム討伐です。今のあなたに見合った内容かと。」
それから順番に資料を確認していくと、たしかに厄介な任務ばかりであった。
スライム討伐にしても、本来は冒険者の仕事である。
しかし、ルーズハルトに持ち込まれた依頼は、大量発生したスライムの殲滅であった。
確かに一匹二匹ならその辺の駆け出し冒険者の領分だ。
しかし報告書に記載されていた数は推定300。
とてもではないが新人冒険者が対応できる事案ではなかった。
かと言って対応できる冒険者は高ランクとなり、もっと割の良い依頼を受けている。
つまるところ、塩漬けの案件というわけであった。
「俺にお似合い……ね?じゃあお前も一緒だぞ?」
ルーズハルトの言葉に一瞬ビクリとしたイザベルだったが、表情を変えることはなかった。
それをみたルーズハルトはその変化を見逃すことはなく、ニヤリと笑ってみせた。
この二人のやり取りを見た者が居たならばこう感じただろう……
大丈夫なのか?と。
「というわけでやってまいりました下水道。」
「ふざけないでください。」
じめっとした空気と悪臭が漂う下水道。
それとは別に厭な気配も漂って来ていた。
「居る居る、なんでこうなる前に処理しなかったんだ?」
「人手不足と不人気です。」
だよなと軽くため息を付いたルーズハルトは、顔を顰めつつも奥へと歩みを進めた。
イザベルは表情を変えることなくルーズハルトのあとについて歩き出す。
そんな二人の後を追う者たちがいた。
「たいちょ~、本当についていくんですか?」
「仕方ないだろ?これも任務だ。それにアルベルト、何度も言うようだが今の俺は隊長じゃない、副隊長だ。しかも中隊のな。」
ルーズハルトの後を追う9人の男女。
冒険者風といえばそう見えるが、どう見てもその表現は似つかわしくなかった。
それもそのはずで個々に調整しているためか若干の違いがあるものの、統一されている装備を身に着けていた。
「それにしてもライガーが中隊副隊長を拝命ねぇ~」
「なんか文句あるかリズ。」
リズと呼ばれた女性は、黒髪ショートヘアーで、くりっとした瞳が印象的な〝可愛らしい〟という印象だ。
そのいたずらごころ満載の瞳でライガーを見つめるリズ。
ライガーがと呼ばれた男性は筋骨隆々……とは言い難いものの、引き締まった体躯の持ち主である。
リズの言葉に若干顔をしかめるも、いつものことのようにライガーはあまり気にした様子はなかった。
その態度につまらなそうにしたリズは、列の後方へと移動していった。
「相変わらずリズは……。ライガー副隊長をなんだと思っているんですか。」
「そう言うなアルベルト。リズも納得がいっていないんだろう。まぁ、お手並み拝見と言ったところだ。」
アルベルトと呼ばれた男性は、リズの態度に不快感をあらわにしていた。
アルベルトはもともと孤児の生まれで、騎士爵家7男のライガーとは影ながら友人関係を築いていた。
アルベルト自体孤児とはいえ高い魔法特性を秘めており、それに気が付いたライガーの父が使用人としてアルベルトを引き取ったのだ。
その為か、ライガーとしては友人として接してほしいと何度も言っているにもかかわらず、アルベルトは頑として使用人の立場を崩すことはなかった。
〝恩〟と言えば聞こえがいいが、むしろライガー的には有難迷惑に他ならなかった。
「ですがやはり私も納得はいきません。表向きイザベル様が隊長ですが、実質彼の部下という扱いです。いきなり現れた人間をどうして信用できましょうか。」
「仕方ないだろ?俺たちは軍人だ。上からの命令は絶対だってことはアルベルトだってわかってるはずだろ?だからこそのお手並み拝見ってことだ。」
不承不承といった様子で引き下がったアルベルトであったが、いまだ納得はしていないという様子がありありとうかがえた。
小さくため息をついたライガーであったが、少しだけその意見に同意していた。
イザベルとは配属時に同じ小隊であり、その実力も理解していた。
だが、ルーズハルトに関しては風の噂程度で、その実力を測りかねていた。
もしこれで自分たちの上官としてふさわしくないと感じた場合、イザベルには申し訳ないと思うが、大隊長に直訴しようと心に誓ったライガーであった。
「それじゃあ、サクッと終わらせようかな……面倒だしね。」
なんとも間の抜けたやる気のないルーズハルトの声に、ライガーは本気で不安になってしまったのであった。
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