上 下
83 / 97
第4章 学園生活

第41話 〝纏い・神威〟

しおりを挟む
「如何でしたでしょうか?」
「如何も何も……もう少しやりようはあっただろう。」

 呆れと畏怖の念が入り混じり、なんとも言えない表情となっていたウェルズ。
 自分でも久方ぶりに感じた〝恐れ〟に驚きを覚えていた。

「初めて実戦で試したので、正直加減がわかりませんでした。結果的には……やり過ぎですね。」

 そう言うと苦笑いを浮かべるルーズハルトだった。
 
 〝纏い・神威〟
 そう名付けた技は、ルーズハルト自身の想像を超える力を秘めていた。
 まさかこれほどの火力になるとは夢にも思わなかったのだ。

「我々の騎士団でもこれほどの威力を出せるのは……おそらく数字持ちナンバーズくらいでしょうね。」
「第0大隊クラスか……」

 ウェルズの言う〝第0大隊〟。
 正式名称〝王家直轄第0騎士団第0大隊〟。
 その存在は噂されるものの、その正体全てにおいて極秘とされる部隊である。
 その活動は多岐にわたり、高ランクの魔物討伐を始め、諜報活動に戦時強襲要因、国外工作要因等。
 その活動によって大隊が編成されている。
 そして〝第0大隊〟は、特に戦闘に特化した戦いのエキスパートたちの集まりであった。

「ルーズハルトよ。まずは戦闘お疲れ様。戦ってみた感想はどうだ?」
「そうですね……意外ともろい……でしょうか。威力が強すぎました。今度はもっと抑えないと、周りへの被害が大きすぎます。」

 ルーズハルトはウェルズの問いにそう答えると、再度魔力循環を開始した。
 先ほどよりも急速に行われた魔力循環に、ウェルズやカイエルが舌を巻いまいた。
 そんな二人をよそに、ルーズハルトはさらに魔力を加速させていく。
 
「集え、サラマンドラ……〝炎剣〟!!」

 使用したのは同じ〝炎剣〟。
 だが、この後起った現象は、決して同じものとは思えないものであった。
 威力が抑えられた〝炎剣〟は、近くにある木を切り倒して見せた。
 しかし、その切り口は焦げ跡一つつくことはなかった。
 ただ、ゆっくりとずれていき、最後は大きな衝撃音を残して地面に倒れることなく突き刺さったのだった。
 最初からその木がそうであったかのように。

「すさまじい切れ味だな。それでいて焦げ跡もない……普通はありえんだろうこんなこと。」
「そうですね。火属性魔法で似たことをすれば必ず燃えるか焦げるかが発生します。つまり既存の魔法とは違った物。そう考えるのが妥当でしょうか。」

 ルーズハルトが起こした現象に頭を悩ませるウェルズ。
 だが、これ以上考えても仕方がないのではないかと思えてきた。
 何せルーズハルトは〝神の使徒〟なのだからと。
 そう考えればこの異常な状況も納得のいくものであった。

 実際には〝神の使徒〟だからと言うわけではなく、この世界の理とは違う理の中にルーズハルトがいる為に起こりえた〝バグ〟なのだが、それはこの世界の人間には知りえないことでもあった。
 
「では陛下。魔物の片付けもあらかた終わりましたので、再度出発いたします。」
「分かった。ではルーズハルトよ、馬車に戻るとするか。」

 そう言ってウェルズは元居た馬車に乗り込んでいった。
 ルーズハルトも支持されるがまま乗り込んだが、チラリと周りを見ると魔物との戦闘の痕跡を見ることが出来た。
 そこには血だまりがいくつもできており、それが魔物の血なのか騎士の血なのかは分からなかった。
 ただ自分の戦闘跡とは全く違っていることに、違和感を覚えたのであった。

 そのあとは魔物も現れることはなく、順調に旅の工程をこなすことが出来た。
 そして馬車の車列は王都へと帰還したのであった。





「ではルーズハルトよ、また会えるのを楽しみにしているぞ?」
「はい、その時はよろしくお願いします。」

 ルーズハルトは魔法学園のそばの大通りで馬車から降り、ウェルズたちに別れを告げた。
 その際に手渡された学園長への手紙。
 どちらにせよ挨拶にはいかなければならないので、特に気にすることもなく学園長室へ向かったのだった。



コンコンコン

「学園長、ルーズハルト君が来ました。」
「うむ、入りなさい。」

 学園長に会うために声をかけた秘書官に連れられ、学園長室にやってきたルーズハルト。
 すでに来ることが伝わっていたのか、問答する間もなく入室の許可が下りた。

「失礼します。」
「待って居ったぞ。で、どうであった?」

 学園長のサイファはそう言うと、ルーズハルトに手でソファーに座るよう促す。
 そしてサイファも対面のソファーに腰を下ろした。
 ルーズハルトはその前にとウェルズから託された手紙をサイファに手渡した。
 その手紙の封蝋を見るなり、一瞬動揺を見せたサイファだったがその動揺がどういった意味だったのかまではルーズハルトは読み取ることが出来なかった。

 サイファは嫌な予感がしていた。
 学園始まって以来、最速での騎士団への入団。
 それは学園にとって誇らしいことであった。
 その為、ルーズハルトの両親から入団の許可が下りることを心待ちにしていたのだ。
 だがしかし、ここにきてウェルズからの手紙。
 何か良からぬことが書かれているのではないかと訝しんでいたのだ。

 人間は時として直感が最善の結果をもたらすことがある。
 しかし、この時ばかりはサイファの意に反した結果となってしまったのであった。

———
 
 王立魔導学園【アグニス】学園長、サイファ・グルーラント殿。
 此度は貴殿の推薦した少年について感謝する。
 我が国始まって以来の逸材になるやもしれぬ事を喜ばしく思う。
 しかしながら少年の行く末を鑑み、少年・ルーズハルトの素性を隠匿するものとした。
 したがって下記にあるように取り計らってほしい。
 
 ①学園を退とする。
 ②自主退学後実家に戻り地方の冒険者として登録したこととする。
 
 以上、よろしく頼む。

———
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

なんで誰も使わないの!? 史上最強のアイテム『神の結石』を使って落ちこぼれ冒険者から脱却します!!

るっち
ファンタジー
 土砂降りの雨のなか、万年Fランクの落ちこぼれ冒険者である俺は、冒険者達にコキ使われた挙句、魔物への囮にされて危うく死に掛けた……しかも、そのことを冒険者ギルドの職員に報告しても鼻で笑われただけだった。終いには恋人であるはずの幼馴染にまで捨てられる始末……悔しくて、悔しくて、悲しくて……そんな時、空から宝石のような何かが脳天を直撃! なんの石かは分からないけど綺麗だから御守りに。そしたら何故かなんでもできる気がしてきた! あとはその石のチカラを使い、今まで俺を見下し蔑んできた奴らをギャフンッと言わせて、落ちこぼれ冒険者から脱却してみせる!!

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...