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第4章 学園生活

第40話 実践での腕試し

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「この辺りで現れるのは……」
「ウルフ種……です。数は30前後……強さは……わかりません。やっぱり経験不足ですね。強さの判断基準が無いので……。強いて言えばリリック師匠に束になって突っ込んでも、全く相手にされないくらいの気配ですね。」

 ルーズハルトは気配を探るように目を閉じていた。
 意識を外に向け薄く広く広がるように。
 今まではこのようなことはできなかったルーズハルトであったが、訓練所の一件以降意識が拡張されていくのを感じていた。
 〝手に取るようにわかる〟までは行かないものの、大雑把な状況は感覚的に理解することができるようになっていた。
 これが〝神力〟のせいなのかはルーズハルトも分からなかったが、直感的にできると感じたのだ。
 
 それからすぐに戦闘が開始されるも、慌てた様子もなく幌馬車の荷台でくつろぐルーズハルトとウェルズ。
 それほどまでの戦力差であろうと考えてのことであった。

「そういえば、ルーズハルトは魔物との戦闘経験があまりないのか?」
「そうですね。町にはあまり魔物は寄り付きませんでしたから。今思えば父が討伐していたんでしょうね。」

 確かになと納得できたウェルズ。
 しばし考えると、ルーズハルトに一つの提案を行った。

「では今がそのチャンスかもしれんな。」
「チャンス?」

 そうウェルズは言うと、ぐいっとレーズハルトの腕を引き寄せ、一緒に幌馬車から降りたのだ。

「陛下!?」

 それに慌てたのはカイエルであった。
 それもそのはずで、護衛対象が戦闘領域にいること自体合ってはならないことだ。
 それが自ら入ってきたのだから、慌てるなという方が酷であった。

「心配はいらんだろ?この程度に負けるとでも思っているのか?」
「いえ、そのようなことは。ですが一応は護衛対象だという自覚をですね……」

 お小言モードに入りそうなカイエルをよそに、戦闘を観察するウェルズ。
 うむと頷くとルーズハルトをグイっと前に押し出したのだ。

「というわけでだカイエル、数匹わざとこっちに流せ。ルーズハルトに相手をさせる。なに、俺がいれば問題はない。行けるな二人とも?」
「……わかりました。」
「はっ!!」

 ウェルズの提案に頷くと、カイエルはすぐに指揮を取った。
 ルーズハルトも戦闘準備と魔力循環を開始した。

 ウェルズは初めて見るルーズハルトの戦闘準備に舌を巻いていた。
 ルーズハルトが魔法制御を苦手としていた情報はすでに知っていた。
 しかし目の前で行われていることは、その情報とは真逆であった。
 9歳とは思えないほどスムーズな流れに驚きを隠せなかった。

 循環が進むに連れウェルズは違和感を覚えていた。
 そしてそのその正体はすぐに理解することになる。

「これがリリック殿が言っていた……なるほど、あながち〝人外〟という表現は間違っていないようだ。」

 魔力循環が進むに連れ〝魔力〟の色、〝心力〟の色が混ざり合っているように感じた。
 そこにさらにもう一色。
 ルーズハルトが話していた〝神力〟の色が混ざり始めていた。
 その色が混ざった途端、ゾワリと全身が粟立つようなプレッシャーがウェルズに襲いかかってきた。

「本当に同じ人間か?」

 今までに経験したことのない畏怖・恐怖・焦りなど色々な感情が入り混じり、混乱していくウェルズ。
 ただ一つ思えたことは〝こいつを敵に回してはいけない〟ということだけであった。

「陛下!!3匹抜けます!!」
「……行きます……」

 抜け出てきたのは3匹の狼。
 毛色はくらい灰色で、日が落ち、気配を殺していればその存在を見つけることは難しいと思えるほどであった。
 大きさとしては体高が2m程有りそうであり、その機敏な動きに翻弄される冒険者も後をたたないと言われるほどであった。

 ルーズハルトの視界に3匹の狼が入ってくる。

「開放……〝纏い・神威〟。」

 ムーズハルトがそう呟くと、ウェルズの視界にはルーズハルトの姿がなかったのであった。
 気が付けば自分に暴風のような風圧が襲かかり、まさかと思い慌てて魔物に目を向けると、ルーズハルトが肉薄していたのだ。

「速すぎる!!」

 そうウェルズが言葉にした時には、ルーズハルトは攻撃態勢に入っていた。

「集えサラマンドラ……炎剣!!」

 即座に魔力を自身の手に集めるルーズハルト。
 それに従うように周囲の精霊たちが活性化していく。
 燃え上がる炎は形状を変え、ルーズハルトが拳を振るうたびに轟々と音を立てて火の粉を散らしていく。
 との一振り一振りが狼たちを切り刻み、傷口を燃やしていく。

 さほど時間もかからず、ルーズハルトの周りで動くものはなくなったのであった。

「これ程とは……」
「陛下……」

 ウェルズを始めとした騎士たちは、その惨状に言葉を失った。
 まさに消し炭。
 狼たちはその原型を留めておらず、風が吹く度に、そうだったものが空へと舞っていったのだった。
 幻想的といえばきれいだろうが、幻想はそんなに生易しいものではなかった。
 立ち籠める臭いは血肉が焼け焦げる臭いで、決して気分のいいものではなかった。

 その中で魔力循環を解除したルーズハルトは、振り返るとあどけない表情を浮かべていた。
 初めての魔物討伐で、とても満足げであった。

 現状とその表情のギャップは見るものに畏怖の念を抱かせるには十分であった。
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