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第4章 学園生活

第16話 彼らはまだ9歳児……

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「ところでバイト君。ルンデルハイム……君と何の話をしてたの?」

 食事を終えかけた頃、そう切り出したのはエミリアだった。
 当然皆が気になっていたところではあった。
 昨日の今日で仲良く二人で秘密の会話。
 気にならないほうが不思議であった。

「特に深い話じゃないよ。エミリア、男の子にだって女の子に聞かれたくない話の1つや2つ有るんだぞ?なぁ、バイト。」
「俺に振るなよ……」

 呆れ顔のルーズハルトをよそに、バイトは肩をすくめてていた。

「さて、そろそろ時間だね。お姉様方を待たせては叱られてしまう。」

 ルンデルハイムはそういうと厨房をそっと指さしていた。
 そこには返却された食器などの後片付けのため、カウンターで待っている職員の姿があった。
 ルーズハルトたちのテーブルがラストだったようで、〝早くしろ〟という無言の圧力を送っていた。
 ルーズハルトたちはその視線が居た堪れなくなり、そそくさと後片付けを始めたのであった。



 朝食を終え校舎へと移動すると周囲にざわつきが発生した。
 それは当然のごとくルーズハルトとバッカスに向けられたものである。
 Aクラスの生徒とともに歩くEクラスの生徒。
 しかもルンデルハイムとともに登校しているのだから、驚きが起こっても仕方のないことであった。

「ルンデルハイム様!!」
「やあ、フリードリッヒ君。どうしたんだい?そんなに血相を変えて。」

 大きな声をあげて、ルンデルハイムとルーズハルトの間にいきなり割り込んできたのは、フリードリッヒ・フォン・フェンガーであった。
 その目は憎き相手を睨みつけるかのように、ルーズハルトへと向けられていた。

「どうして貴様がルンデルハイム様と一緒にいるんだ!!この卑しい農民風情が!!」

 怒りのあまり侮蔑を含ませながら罵るフェンガー。
 ルーズハルトはまたコイツかと思い、ため息を付きそうになった。
 たが最初に不快感を表したのはルンデルハイムであった。

「おや?これはおかしなことを言うね?僕が誰と何をするか……それを君が決めるのかい?」

 ルンデルハイムは、さもくだらないものを見るかのような冷めた視線をフェンガーに向けた。
 フェンガーはその視線に気が付き、血が上っていた頭が一気に冷めていくのを感じていた。
 だが、それとこれとは別とばかりにフェンガーはルンデルハイムに食い下がった。
 
「ルンデルハイム様、なぜのこのような者たちと一種にいるんです!!奴らは平民!!私たち〝ノーブルブラッド〟とは違うのです!!」
「どう違うんだい?素養?産まれ?生き方?性格?資質?どれもこれも僕が付き合わない理由にはなりえないだろ?むしろ自分の血筋ですべてを決めてしまい、すべてを閉ざしてしまうのはナンセンスだ。僕は僕の目を、耳を、心を信じる。だから彼らは僕と付き合うにふさわしい人間だ。特にエミリアさんはね。」

 ルンデルハイムはそう茶化すようにエミリアにさりげなくアピールする。
 しかしエミリアは無理無理と顔を横に振り、リリアナはガルルとばかりに目を吊り上げていた。
 話の中心なのに話に入っていけないルーズハルトとバッカスは、事の成り行きを見守るほかなかった。

「ちょっといいかな?ここでは家柄や産まれその他もろもろは加味されなかったんじゃないのか?」

 もう面倒だからと割って入ったバイト。
 話を終わらせたいという気持ちがありありと浮かんでいた。

「うるさい平民!!貴様たちがルンデルハイム様もお心を乱さなければこうはならない!!さっさと退学届けを書いてここから出ていけ!!」

 さらに強気をみせるフェンガー。
 もう打つ手なしと白旗を上げそうになるバイト。
 その間もルンデルハイムの取り巻きとフェンガーの取り巻きが集まりだし、さらに混迷を極めていった。
 
「俺……完全に巻き込まれてるだけだよな?誰か変わってよ……」

 今にも泣きそうなほどか細い声でそう漏らしたバッカスの言葉は、この喧騒に酔ってかき消されていく。
 ルンデルハイムの取り巻きたちもフェンガーに同調しており、同じクラスのバイトとエミリアにまで牙を剥き始めていた。

「もともとAクラスには平民なんて必要ない!!」
「これだから卑しい平民は嫌なんだ!!」
「平民は黙って膝まづいていればいい!!」

 徐々にあふれ出す貴族家としてのおごりとでもいう思い。
 親から子へ教えられた帝王学がそうさせるのか、それとも子供としての無知がそうさせるのか。
 そればかりは誰にもわかりはしないのであった。
 そんな喧騒に冷水を浴びせたのは、話の中心のルンデルハイム本人であった。

「そろそろ黙ろうか?」

 その心の奥から震えあがるような声に、一斉に静まり返る生徒たち。

「君たち……。君たちが今自慢していることは、自分の力なのか?それとも親の力か?」

 その言葉に答えを出せる生徒は一人もいなかった。
 誰も声を上げられず、ただ互いの顔を伺うだけであった。

「僕に意見していいものは、己の力で立ち上がったものだけだ。いいね?さて、行こうかみんな。」

 最終勧告。
 ルンデルハイムは心底呆れたように言い放ち、ルーズハルトたちに声をかけるとともに自分たちの教室へ向かって歩き出した。
 あとに残された取り巻きたちはどうしていいか分からなくなり、ついには重い足取りで教室へと向かったのだった。
 ただ一人、その後姿を睨みつけるフェンガー。
 その目には何かほの暗いものが見え隠れしていた。




 ただ忘れてはいけない……
 彼らはまだ9歳児……
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