近接魔導騎士の異世界無双～幼馴染の賢者と聖女を護る為、勇者を陰から支えます!!～

第４章 学園生活

第１４話 一般市民と貴族

「エミリアはしつこい人間が苦手ですよ？」

　ルーズハルトの言葉にピクリと反応したのは、意外にもリリアナだった。

「本当ですの!?ご、ごめんなさいお姉様……。私そんなつもりじゃ……」

　まさに顔面蒼白といった状況のリリアナ。
　今にも倒れてしまうのではないこと思うほど激しく気が動転している様子であった。
　そんな表情を見られたくないとばかりに、リリアナは手で顔を覆ってしまった。

「リリーのことは嫌いじゃないから安心して。ね？」

　リリアナの慌てようにエミリアまで一緒になって気が動転してしまった。

「本当……ですの？」

　顔を覆っていた手を少しだけずらし、上目遣いでエミリアを見つめるリリアナ。

「ほんとほんと!!本当だよ!!」

　リリアナの仕草に少し安心したのか、エミリアは首振り人形のごとく何度も首を縦に振ってみせた。

「じゃあ、お姉様とお呼びしてもよろしくて？」
「もちろんだよ!!」

　リリアナはエミリアの許可を得たことで満面の笑みを浮かべて顔を上げた。
　そこには先程までの悲壮感はすでになく、嬉々とした様子であった。

「リリアナさん、少し悪ふざけがすぎるようだね？」

　そんなやり取りを若干不機嫌そうに見つめていたのは、先程までエミリアを口説こうとしていたルンデルハイムだった。
　むしろ完全に自分のことは棚に上げている状態だ。

「貴族の腹芸をここに持ち込むのはナンセンスだ。エミリアさんに謝りなさい。」

　本当にこの二人は９歳の子供なのだろうかと疑いたくなってしまったルーズハルト。
　それほどまでに言質を取ろうとしたリリアナもそうだが、それを嗜めるルンデルハイムの圧はとても９歳の子供には思えなかった。

「何を言っているんですの？」

　ルンデルハイムの物も言わせぬ圧に、徐々に押しつぶされそうになるリリアナ。
　それ以上の言葉を言わず、沈黙の圧をかけるルンデルハイム。

「ちょとふたりとも……、助けてルー君……」

　本来の当事者であるエミリアは何がなんだか分からずオロオロとしていた。
　助けを求める瞳は、今にも涙が溢れそうになっていた。
　それを一瞬可愛いと思ってしまったルーズハルトだが、流石にこのままとは行かず、仕方無しにこの場を収めることにした。

「ふたりともそこまで。リリアナさん、俺たち田舎育ちの子供です。あなた方のような高等教育は受けていません。もし本当にエミーを好いてくれるなら、そんな小細工などしなくてもエミーはちゃんと受け止めますよ。」

　まずはリリアナに諭すよう伝えるルーズハルト。
　正直心のなかでは面倒くさいと言いたいが、そう言っていられなかった。
　リリアナから少しの反応を感じたルーズハルトは、次にとルンデルハイムに向き直る。

「次にルンデルハウス。流石にやり過ぎ。周りにも人がいるんだ、今圧をかけるとき魔力を乗せただろ？慣れてない奴らが怯えてる。せめてピンポイントでできるようになるまでは控えた方がいい。」

　ルーズハルトの話に、耳をぺたりと倒したウサギのようにしょげた様子のリリアナ。
　だが、その表情はどことなく嬉しそうであった。
　それとは反対にルーズハルトに興味津々なルンデルハイム。
　なんとなくやらかしたかと思はなくもなかったルーズハルトであった。

「ごめんなさいエ・ミ・リ・ア・さ・ん・……」
「気にしないでいいよリリーちゃん。私のことはエミーって呼んでくれると嬉しいな。」

　しょげたリリアナをフォローするように、エミリアはリリアナの手を取り、満面の笑みを浮かべた。

「エミー……ちゃん……？」
「何、リリーちゃん？」

　つぶやくように発したリリアナは、エミリアの反応に喜びを爆発させ、思わずエミリアに抱きついてしまった。
　淑女としては、はしたない行動であった。
　しかしここは学園の寮。
　身分・家柄など存在せず、ここにいるのは一人のリリアナと、一人のエミリアなのである。
　その行動を嗜める者はどこにもいなかった。

「それにしても君には驚かされた。まさか魔力の流れを読まれるなんてね。」
「母に仕込まれたからね。魔力操作の訓練の一環としてね。」

　なるほどと呟くとルンデルハイム。
　その様子を先程から黙って見ていたバイトは、自分の席を立つとルンテルハイムに声をかけ席を離れた。



　食堂の端まで来た二人。
　バイトはこちらの話を聞かれないようにと、指に嵌めていた指輪に魔力を流す。
　すると薄っすらとしたドーム状の膜が形成された。

「これは驚いた。」
「簡易的な遮音結界だ。少しの認識阻害効果もある。」

　少し呆れた様子のバイトは、ルンデルハイムを睨みつける。

「どういうつもりだ？ルーズハルトを試しただろ？」
「はははっ。流石だね。試したというよりは確認したってところかな？」

　戯けたように笑うルンデルハイムを訝しむバイト。
　流石にまずいと思ったルンデルハイムは、理由付けとしてバイトに説明を続けた。

「あれだけの意味の分からない魔力量は、人族ヒトの器に収まるようなものじゃない。本来であればその魔力の内圧に肉体が弾け飛んだっておかしくはない。」

　常々ルーズハルトの魔力操作に疑問があったバイトは、ルンデルハイムも言葉で喉に支えていた棘が取れる思いがした。
　その逆にルーズハルトの異常性を再認識することとなった。