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第3章 いざ王都へ!!

第15話 ファイアバレッド

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「まずは名前を教えてもらえるかな?」

 ルドルフは少年に声をかけると、少年は重い腰を上げるようにゆっくりと立ち上がった。

「ルーズハルトです。」
「ルーズハルト君か。では、何が起こったのか教えてもらえるかな?」

 ルドルフはルーズハルトを刺激しないようにと、落ち着いた口調で話しかけた。
 まさに腫れ物を触るように。

「魔法の試射をするように言われたので【ファイアバレッド】を使いました。そしたらこうなりました。」

 ルーズハルトは端的に答えた。
 たしかにその答は間違ってはいなかった。
 しかし事情を知らないルドルフは要領を得なかった。
 ルドルフがドミトリスに支線を向けると、一瞬ビクリとしたものの、ドミトリスは言葉を紡げずにいた。

「ルーズハルトが【ファイアバレッド】を使ったのは間違いありません。」
「君はさっきの……」

 ルドルフが声の方に顔を向けると、先程結界を張っていた少年がルドルフたちの元へと向かっていきた。

「ハウエル商会の4男、バイト・ハウエルです。」

 バイトはあえて家名を名乗ることにした。
 それだけでも、自分の言葉に説得力が出ると判断したからだ。

「バイト君ですか、君は家名を名乗る意味を理解していますか?」

 ルドルフの鋭い視線がバイトにナイフのように突き刺さる。
 しかしバイトはそれに臆することなく話を進めていく。

「先ほども言った通り、ルーズハルトが使用したのは【ファイアバレッド】で間違いありません。それにルーズハルトはコントロールが上手く出来ないと事前申告しています。それを無視する形で試験を続けさせたのが今回の原因の一つです。」
「成程……、ではこちら側に原因があったということですね。」

 ルドルフは真意を確かめるためか、バイトの目をじっと見つめていた。
 それに対してバイトもルドルフの視線に対抗して見せた。

「本当に君は9歳の子供ですか?何やら20歳過ぎの青年を相手取っているようです。」

 観念したようにため息を吐くと、ルドルフはデミトリスに向き直った。

「というわけですが、ミス・デミトリス。何か反論はありますか?」

 顔面蒼白になり、目がきょろきょろとう泳ぎ回るデミトリス。
 この期に及んでも頭の中を駆け巡るのは保身の事ばかりであった。

「ル、ルドルフ事務長、そんな子供の言うことを真に受けるのですか?」
「ほう、それはどういうことです?」
 
 ルドルフはデミトリスの言葉に訝しがりながらも、その話を聞くことを選んだ。
 デミトリスは自分に興味が向いたことにしめたと感じた。
 一気に思考が加速し、保身のための言い訳が無数に浮かんでくる。
 その中から一番いい選択を取っていけると、本気で信じ込んでいた。

「第一、このような事態になるなど予想もできるはずもありません。確かに彼は【ファイアバレッド】を使ったと言っているようですが、この規模からするに実際にはさらに上位の【ファイアボム】を使ったに違いありません。それにみてください、あの試射台を。初級魔法にあれほどの出力を出せるものが無いことはルドルフ事務長もご存じのはずです。」

 自分に流れが回ってきていると確信したデミトリスは、ルーズハルトのウソの申告が原因であると結論付けようとしていた。
 デミトリス自身、このような初級魔法など見たことはなかった。
 特にバレット系の初級魔法は貫通に特化していて、これほどの爆発など起ころうはずもなかった。

「確かに……君の言う通り、初級魔法としてはあり得ない状況ではあるようだね。」
「そうです!!その為私の対応も遅れ、子供たちにも被害が出てしまったのです!!」

 自信をもってそう答えたデミトリスに、ルドルフは頭を振ってため息をついた。
 ルドルフの反応にデミトリスは嫌な予感を覚える。

「ミス・デミトリス……私は残念でなりません。君の口から本当の事が聞きたかった。バイト君がなぜ家名を名乗ったのか理解できていないようですね。」
「そ、それは自分の言葉に箔をつける為ですよね?」

 ルドルフの冷めた態度に、何が悪かったのか分からず慌てふためくデミトリス。
 ルドルフは再度ため息をついていた。
 
 「いいですか、ミス・デミトリス。彼は自分の合否すらかけて証言したのですよ?この学園内で家名を名乗るとはそういうことなのですから。分からないわけではありませんよね?」

 やっと事の意味に気が付いたデミトリスは、二三歩後退りしたのち膝を折ってしまった。
 
「ですが、彼が起こした事態が問題ではないとは言い切れませんね。」

 いまだ不貞腐れ気味のルーズハルトに再度視線を戻すルドルフ。
 この事態をどう収拾つけるのか考えていた。

「なかなかすごい現状だの。」
「サイファ学園長、おいででしたか。」

 現状を確認しつつ現れたサイファ。
 その惨状になんとも言えないという表情を浮かべていた。
 そして二人の少年が何事もなく残っていることに訝しがる。

「してその二人の子供は?」
「は。一人は当事者。一人はハウエル商会の御曹司です。」

 ルドルフはサイファに簡単に伝えると、サイファもふむと頷くだけであった。
 そして何かを考えると、この場を収める提案をルドフルに出した。

「ではこの件は儂が預かろう。そこの少年二人は儂と一緒に来てくれるかな?」

 突然の申し出にルーズハルトとバイトは戸惑いながら承諾し、サイファもまたその答えに満足していた。

「儂は部屋に戻るとする。後の対応を任せてもいいかな?」
「かしこまりました。」

 ルドルフは深く頭を下げると、すぐに行動に移る。
 バタバタとあわただしくも適切に動く様子を見たバイトは、彼が出来る人間だということを理解していた。

「では行こうかの。」

 こうしてルーズハルトたちの試験は、予期せぬ形で終了したのだった。 
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