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第2章 転生したらしい
第14話 イザベル・フェイルノルド
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ルーズハルトは緊張した面持ちで壇上へ上がっていく。
先の二人の結果が凄すぎて自分への期待感と、その逆の失望感、どちらが来るのかと心配になってしまった。
「ルーズハルト君、私は君が一番興味深かったのだよ……」
ルーズハルトに向けて伝えられたクルセウスの言葉。
廻りには聞こえておらず、視線をやると固唾を呑んで見守っているようだった。
特にエミリアとバイトの期待感の強い眼差しが、ルーズハルトにはとても重いものであった。
「それはどういういみですか?」
「今にわかることだよ。さあ、君も祈りを捧げなさい……我らが主神【ティセアルス】様に。」
ルーズハルトは言われるがままに跪き祈りを捧げた。
クルセウスの祝詞が進むに連れて変化が起こる。
それは皆が予想したものとは違っていた。
徐々に形成されていった魔法陣が、一瞬にして弾け飛んだのだ。
これにはクルセウスも動揺を隠せなかった。
見守っていた者たちも同様だ。
だが一人だけ蔭に潜み、ひっそりと笑みを浮かべているものがいた。
その存在に気が付いたものはおらず、ただただ動揺だけが礼拝堂を支配していった。
「違う意味で驚かされたといったところかな……」
「クルセウス司祭様……うちの子は……」
心配そうに見守っていたオーフェリアは、たまらずクルセウスに詰め寄ってしまった。
親としてなにか問題があると思うのは当然のことであった。
「心配せずとも良い。間違いなく魔法の素養は持ち合わせている。現に魔法陣自体は反応を示していた……が、こればかりは長年司祭として儀式を執り行っているが初めてのこと。一度本部に確認してみよう。」
「よろしくお願いします。」
オーフェリアはルーハスにどう説明すべきか困ってしまった。
賢者といい聖女といい儀式失敗といい、一気に自体が動きすぎていた。
「これにて洗礼の儀を終了とする。3人共よく励みなさい。」
「「「はい」」」
ルーズハルトは若干納得行かなかったが、魔法の素質そのものはあると言われたことで少しだけ安堵していた。
もし素質が有るが弱かった場合、二人と離れての進学となってしまうところだったからだ。
「バイト、エミリア。これからもよろしくね。」
「うん!!」
「こちらこそルー。」
こうして一行は儀式を終え帰路についたのであった。
「ただいまあなた。」
「「ただいまぁ~」」
無事帰宅したルーズハルトたちは、リビングでくつろいでいたルーハスに帰宅の挨拶を済ませる。
そのまま洗面台に向かい手洗いなどを済ませていた。
「で、どうだった。」
ルーハスは期待しているかのように、オーフェリアに結果を確認する。
そのオーフェリアはなんと言って良いのか迷っているようだった。
ルーハスはその態度にどこか訝しがり、ニコニコ顔のエミリアに声をかけた。
「エミリアはどうだったんだい?」
「わたしは〝せいじょのたまご〟っていわれたよ?」
その言葉でオーフェリアがなぜ言い淀んだのか理解したルーハスは、オーフェリアに視線を向けた。
オーフェリアは静かに首肯し、困ったように笑みを浮かべていた。
「そうかそうか。エミリアは聖女様になるのか……。うん、めでたい!!オーフェリア、やっぱり君の子だね。」
「そうね、これからの為にもいろいろ教えていかないとね。」
ルーハスの屈託のない笑顔の称賛に、オーフェリアもまた救われた気持ちがしていた。
「で、ルーズハルトは?」
「……」
オーフェリアは先ほどよりも増して困り顔を浮かべていた。
なんとも感情の動きが激しく、ルーハスもどうしていいものか困ってしまった。
「あのねぱぱ。ぼくが〝せんれいのぎ〟をしたら、うまくいかなかったんだ……」
「そうか……。うん、だけどルーが魔法を使えないわけじゃない。だったらいっぱい練習してうまくなればいいだけだ。いっぱいパパと練習しような?」
「うん!!」
ルーズハルトは気づいていた。
ルーハスの言葉が気休めであると。
ルーズハルトは夜な夜な気づかれないように魔力制御の練習を行っていた。
だが、いくらエミリアから聞いた感覚をつかもうとしてもつかめなかったのだ。
むしろ、それが足枷となり使いにくさが増していったことは笑い話にもならなかった。
そこでこの〝洗礼の儀〟の失敗。
だが、ルーズハルトの心は折れることはなかった。
理由は簡単だ。
基本的性質はバイトと一緒だからだ。
〝魔法の使える世界で生きたい〟……ただそれだけで、ルーズハルトのモチベーションは最高潮に維持され続けていたのだ。
こうしてルーズハルトは、この世界で改めて生きていくことを胸に誓った。
そしていつか誰にも負けないくらい魔法をうまく使えるようになってやると、誓った日でもあったのだった。
「まさかここで会うなんて……。これも主様のお導きかしら?」
イザベルは儀式の片付けを終えると、自室に戻っていた。
そしてルーズハルトが憎き相手であることを、確信していた。
なぜならば〝洗礼の儀〟とはこの世界の本来の主神【セレスティア】に対して行う、誓いの儀式だからだ。
ルーズハルトは転生の際に地球の女神【フェイルノルド】の神力を吸収し、自身の肉体の構成に使ってしまっていた。
いわば【フェイルノルド】の分身と言っても差し支えない存在だった。
だからこそその神力同士が反発してしまい、儀式失敗という結果が生じてしまったのだ。
「いい気味だったは……。あの情けない顔ったら私の心を満たしてくれるわ……」
部屋にある小さな窓を開けると、外はすでに陽の光は落ちていた。
しかし暗い町並みを魔導具の明かりが照らし出し、なんとも言えない、幻想的な町並みが、姿を表していた。
その窓からもたらされるそよ風が、背中まで伸ばされた赤毛をゆらゆらと揺らしていた。
その恍惚とした表情は少女の年齢を嘘だと思わせるほど、妖艶で見るものを虜にしてしまう……そんな魔性を秘めていた。
「さて、これから先……あの子はどうするのかしらね……。ねぇ、真一君?」
先の二人の結果が凄すぎて自分への期待感と、その逆の失望感、どちらが来るのかと心配になってしまった。
「ルーズハルト君、私は君が一番興味深かったのだよ……」
ルーズハルトに向けて伝えられたクルセウスの言葉。
廻りには聞こえておらず、視線をやると固唾を呑んで見守っているようだった。
特にエミリアとバイトの期待感の強い眼差しが、ルーズハルトにはとても重いものであった。
「それはどういういみですか?」
「今にわかることだよ。さあ、君も祈りを捧げなさい……我らが主神【ティセアルス】様に。」
ルーズハルトは言われるがままに跪き祈りを捧げた。
クルセウスの祝詞が進むに連れて変化が起こる。
それは皆が予想したものとは違っていた。
徐々に形成されていった魔法陣が、一瞬にして弾け飛んだのだ。
これにはクルセウスも動揺を隠せなかった。
見守っていた者たちも同様だ。
だが一人だけ蔭に潜み、ひっそりと笑みを浮かべているものがいた。
その存在に気が付いたものはおらず、ただただ動揺だけが礼拝堂を支配していった。
「違う意味で驚かされたといったところかな……」
「クルセウス司祭様……うちの子は……」
心配そうに見守っていたオーフェリアは、たまらずクルセウスに詰め寄ってしまった。
親としてなにか問題があると思うのは当然のことであった。
「心配せずとも良い。間違いなく魔法の素養は持ち合わせている。現に魔法陣自体は反応を示していた……が、こればかりは長年司祭として儀式を執り行っているが初めてのこと。一度本部に確認してみよう。」
「よろしくお願いします。」
オーフェリアはルーハスにどう説明すべきか困ってしまった。
賢者といい聖女といい儀式失敗といい、一気に自体が動きすぎていた。
「これにて洗礼の儀を終了とする。3人共よく励みなさい。」
「「「はい」」」
ルーズハルトは若干納得行かなかったが、魔法の素質そのものはあると言われたことで少しだけ安堵していた。
もし素質が有るが弱かった場合、二人と離れての進学となってしまうところだったからだ。
「バイト、エミリア。これからもよろしくね。」
「うん!!」
「こちらこそルー。」
こうして一行は儀式を終え帰路についたのであった。
「ただいまあなた。」
「「ただいまぁ~」」
無事帰宅したルーズハルトたちは、リビングでくつろいでいたルーハスに帰宅の挨拶を済ませる。
そのまま洗面台に向かい手洗いなどを済ませていた。
「で、どうだった。」
ルーハスは期待しているかのように、オーフェリアに結果を確認する。
そのオーフェリアはなんと言って良いのか迷っているようだった。
ルーハスはその態度にどこか訝しがり、ニコニコ顔のエミリアに声をかけた。
「エミリアはどうだったんだい?」
「わたしは〝せいじょのたまご〟っていわれたよ?」
その言葉でオーフェリアがなぜ言い淀んだのか理解したルーハスは、オーフェリアに視線を向けた。
オーフェリアは静かに首肯し、困ったように笑みを浮かべていた。
「そうかそうか。エミリアは聖女様になるのか……。うん、めでたい!!オーフェリア、やっぱり君の子だね。」
「そうね、これからの為にもいろいろ教えていかないとね。」
ルーハスの屈託のない笑顔の称賛に、オーフェリアもまた救われた気持ちがしていた。
「で、ルーズハルトは?」
「……」
オーフェリアは先ほどよりも増して困り顔を浮かべていた。
なんとも感情の動きが激しく、ルーハスもどうしていいものか困ってしまった。
「あのねぱぱ。ぼくが〝せんれいのぎ〟をしたら、うまくいかなかったんだ……」
「そうか……。うん、だけどルーが魔法を使えないわけじゃない。だったらいっぱい練習してうまくなればいいだけだ。いっぱいパパと練習しような?」
「うん!!」
ルーズハルトは気づいていた。
ルーハスの言葉が気休めであると。
ルーズハルトは夜な夜な気づかれないように魔力制御の練習を行っていた。
だが、いくらエミリアから聞いた感覚をつかもうとしてもつかめなかったのだ。
むしろ、それが足枷となり使いにくさが増していったことは笑い話にもならなかった。
そこでこの〝洗礼の儀〟の失敗。
だが、ルーズハルトの心は折れることはなかった。
理由は簡単だ。
基本的性質はバイトと一緒だからだ。
〝魔法の使える世界で生きたい〟……ただそれだけで、ルーズハルトのモチベーションは最高潮に維持され続けていたのだ。
こうしてルーズハルトは、この世界で改めて生きていくことを胸に誓った。
そしていつか誰にも負けないくらい魔法をうまく使えるようになってやると、誓った日でもあったのだった。
「まさかここで会うなんて……。これも主様のお導きかしら?」
イザベルは儀式の片付けを終えると、自室に戻っていた。
そしてルーズハルトが憎き相手であることを、確信していた。
なぜならば〝洗礼の儀〟とはこの世界の本来の主神【セレスティア】に対して行う、誓いの儀式だからだ。
ルーズハルトは転生の際に地球の女神【フェイルノルド】の神力を吸収し、自身の肉体の構成に使ってしまっていた。
いわば【フェイルノルド】の分身と言っても差し支えない存在だった。
だからこそその神力同士が反発してしまい、儀式失敗という結果が生じてしまったのだ。
「いい気味だったは……。あの情けない顔ったら私の心を満たしてくれるわ……」
部屋にある小さな窓を開けると、外はすでに陽の光は落ちていた。
しかし暗い町並みを魔導具の明かりが照らし出し、なんとも言えない、幻想的な町並みが、姿を表していた。
その窓からもたらされるそよ風が、背中まで伸ばされた赤毛をゆらゆらと揺らしていた。
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