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第2章 転生したらしい

第12話 賢者の卵

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「はじめまして、クレセウスさん。エルモンド・ハウエルが4なん、バイト・ハウエルです。」

 最初に名乗りを上げたのは、バイトだった。
 普段からの教育の賜物か、礼儀に則った形式張った挨拶だった。
 ハウエル商会は王国でも新参の商会であるが、その影響力は馬鹿にできず、ハウエル自身この国、魔導王国【エルファラント】の国民議会である人民会議の議員を務めるほどであった。
 そのためか稀に貴族との面会などもあり、自ずとバイトにも礼儀作法が要求されていた。

「これはこれは丁寧に。あの捻くれ者からよくもまあ素直な子が産まれたものだ。やはり君の存在は大きかったようだね、ケイト君。」

 バイトの頭をひと撫ですると、視線をケイトに向けたクルセウス。
 ケイトはその視線に気が付き、目礼で返していた。
 あくまでも今日の主役は自分の息子だと主張するように、ケイトは敢えて言葉での返事を行わなかった。

「わたしはエミリアです。はじめまして。」
「ぼくはルーズハルトです。はじめまして。」

 ふたりは息を合わせたようにクルセウスにお辞儀をする。
 二人が行った挨拶は至って子供らしく、何ら不自然さは見られなかった。
 しかしそれがかえってクルセウスの興味を引いてしまったようだった。

「オーフェリアとルーハスの子か……。なんとも興味深い。これから先が楽しみですね。」

 この時オーフェリアは、クルセウスが言外に含ませた意味を汲み取っていた。
 だからこそ苦笑いを浮かべていたのだ。

「ではここで立ち話をしていても仕方がないでしょう。早々に儀式を始めるとしましょう。」

 クルセウスはおもむろに立ち上がると、数回分手を打った。
 パンパンパンとは鳴ったあと、白と黒の神官服に見を包んだ少女がガラガラとワゴンを押して現れた。

「この子はシスター見習いのイザベルだ。君たちよりも少し年が上だが、仲良くしてやってくれ。」

 ワゴンをクルセウスの側に止めると、後ろに控えていたイザベル。
 クルセウスからの紹介で一歩前に出て深く頭を垂れた。

「初めまして、イザベル・と申します。」

 その名を聞いた三人はぎょっとしてしまった。
 まさかこの場でその名前を聞くとは思っても見なかったからだ。

 イザベルは3人を見回し、ルーズハルトに気が付くと一瞬にしてその視線が鋭くなった。
 ルーズハルトに視線を固定し、凝視しているようにも見えた。

「どうかしたかしたかなイザベル。」
「いえ、なんでもありません。」

 そう言うと鋭い視線は鳴りを潜め、クルセウスの後ろへとまた控えるように移動した。

「ではこれより洗礼の義を執り行う。まずはバイト君前へ。」

 厳かに儀式は開始された。
 クルセウスの呼びかけで、バイトは祭壇の前の一段高くなっている台に登った。
 すると高さ的にクルセウスより少し低い位置に立つ形となった。

「では片膝を付き、主神【ティセアルス】に祈りを捧げよ。」

 バイトはその指示に習い祈りを捧げる。
 クルセウスバイトの頭に手をかざすと、神への祈りを捧げる。

「我が主神【ティセアルス】の御名において、汝【バイト・ハウエル】に祝福を与えん。汝【バイト・ハウエル】よ、主神【ティセアルス】の御名において、生を全うすることをここに誓わん。我【クルセウス・アシュリ】が証人となり、此処に誓いは成立せん。」

 クルセウスが祝詞を読み進めるうちに、バイトの周囲には光の魔法陣が形成されていく。
 その光は徐々に強くなり、ルーズハルトは顔を顰めていった。

「われ【ばいと・はうえる】は、しゅしん【てぃせあるす】のみなにおいて、せいをまっとうせんと、ここにちかう。」

 最後にバイトが宣誓を述べたとき、光の魔法陣は砕け散り、キラキラと美しく舞っていったのだった。

「すごいきれい……」

 エミリアはその光景に魅了されていた。
 背景にあるステンドグラスもバイトを祝福するように形を変えていき、今は黒のローブを纏い色鮮やかな杖を掲げている姿が映し出されていた。
 その姿は神々しくもあり、優しさも同時に秘めているようにエミリアは感じていた。

 ルーズハルトもまた同様にその光景に心動かされ、ワクワクともドキドキとも取れない不思議な感情になっていた。

 そんな二人をよそに大人たちは同様を隠せずにいた。

「なんてことなの……」

 振り絞るように声を上げたのはケイトであった。
 震える手で口元を抑え、次のセリフを懸命に絞り出そうとしていた。

「まさか〝賢者の卵〟の誕生を目の当たりにするとは……。長生きはするものだ。」

 クルセウスはちらりとオーフェリアを視界で捉えた。
 オーフェリアはなぜか微妙な表情を見せ居ていた。
 大人は三者三様の反応をしており、ルーズハルトは首をかしげてしまった。
 
「ママ……?」
「あ、ごめんなさいね。何でもないわ。ね、クルセウス司祭様。」

 オーフェリアの無言の圧力にクルセウスも少しひるんでしまった。
 「そうですね」と言ったものの、その顔は若干引きつっていたが、クルセウスもまた司祭としての面目もあり、なんとかその場を取り繕っていた。
 
「それで司祭様、この子の資質はどうだったんでしょうか。」
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