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第2章 転生したらしい
第3話 望郷の願い
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「(なんてことがあったよぁ~)」
と、ルーズハルトが感慨深げに考え込んでいると、エミリアは洗顔を終えて台から降りていた。
「次はルー君ね。今度は大丈夫かな?」
「へいきだよ!!」
オーフェリアが心配そうにしているのも無理はなかった。
ルーズハルトはこの魔道具をうまく扱えなかったからだ。
起動することは起動する。
しかし安定した出力にすることが困難だったのだ。
初めて使用したときはあまりにも魔力を込め過ぎてしまい、オーフェリアが慌てて緊急停止させたほどだった。
次の日に挑戦するも、今度はチョロチョロと垂れてくるだけで、必要分が一向にたまる気配はなかった。
そういうことが何度も続くとさすがのオーフェリアも心配になってしまう。
それもそのはず、今ルーズフェルトとエミリアが使用しているのは、通称〝生活魔法〟に分類される、初期も初期の魔法なのだ。
この世界では誰しもが当たり前に使える魔法で、魔道具を用いることによって少ない魔力で魔法を発動させ、生活を豊かにしてきた。
つまり、生活魔法をうまく使えないということは日常生活が極めて困難になることを示していた。
「ママ、みててよ!!」
そう言うとルーズハルトは勢いよく台に上ると、青の宝石に手をかける。
「ちょっと待ってルー君!!その魔力量だと!!」
「みずよきたりてわがまえに。」
ルーズハルトはオーフェリアの静止を待たずに魔法を発動させた。
結果は一目瞭然。
溢れんばかりに大量の水が魔導具から吹き出てきたのだ。
あたり一面水浸しとなり、ルーズハルトはもちろんのこと、後ろにいたエミリアもまたずぶぬれになってしまった。
春めく陽気になってきていた為、少し薄着となっていたのが災いし、素肌にぴったりとくっついた衣服は、エミリアの羞恥心をかき乱すのに十分であった。
「るーくんのエッチ!!」
パチンと乾いた音が響き渡る。
そのあとに聞こえるどたどたと走り去る音。
洗面所には左頬に真っ赤な手の跡をつけたルーズハルトと、慌てて緊急停止させていたオーフェリアの姿が残っているだけだった。
「あとできちんとごめんなさいをすること、いいわね?」
「はい……」
ルーズハルトは桶に溜まった水で顔を洗い、洗面所の片づけの邪魔になるからと、部屋へと戻るように言われた。
本当は手伝おうと考えていたルーズハルトだったが、何分身体は4歳児。
出来ることなどほとんどなかったのだ。
「あの子の魔力量は普通じゃないわね。早めに対策しないと大変なことになりそうだわ……」
ルーズハルトが去った洗面所で一人後片付けをしていたオーフェリア。
今後のルーズハルトについて心配が募っていた。
「それにしても……コントロールの下手さ加減はあの人に似たみたいね。昔のルーハスを思い出すわ。」
ルーズハルトを昔のルーハスに重ねたオーフェリア。
なぜか笑みがこぼれてしまった。
「やっぱり神父様に相談かしらね……」
百面相とでも言いたげに、オーフェリアの表情はころころと変わっていったのだった。
コンコンコン
「エミー、はいるね?」
「どうぞ……」
ルーズハルトがエミリアの部屋を訪れると、とても不機嫌ですとアピールするような棘のある返答が返ってきた。
中に入ると、すでに着替え終わったエミリアの姿があった。
だがいまだその長く美しい髪の毛は乾いておらず、幼いながらに一生懸命タオルで水分を取り除いていた。
「ねぇ、るーくん。みてないでてつだってよ。うまくふけないの。」
子供らしく、うんしょうんしょと髪の毛を乾かしていたエミリアだったが、いかんせん身体が小さく届かない場所が存在していた。
そこでちょうど来たルーズハルトに手伝いを頼んだのだ。
ルーズハルトとしても断ることなどできるはずもなく、受け取ったタオルでエミリアの髪の毛を拭いていく。
「ねぇ、これ、なんとなくなつかしいね……」
エミリアの表情はルーズハルトには見えていなかった。
だがもし見えていたとしたら、おそらく舞い上がっていたかもしれない。
頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに照れているエミリアの表情は、破壊力抜群であった。
「そうだね。ちいさいころよくかわかしてたっけ。」
ルーズハルトが答えのは真一の記憶の中の話だ。
幼馴染である綾の家に何度も泊まりに行った時の記憶だ。
その手にしたタオルを一生懸命動かし、エミリアの髪を乾かしていく。
その行為が昔の記憶を鮮明によみがえらせていったのだった。
「パパやママ……どうしてるかな……」
ふいに漏れる綾としての記憶から来る、望郷の念。
それは敵わぬことと知りつつも、願わずにはいられない思い。
「エミー……」
ルーズハルトはついエミリアをそう呼んでしまった。
特に他意はなく、つい漏れ出た言葉だった。
「ルーくん、桜木 綾はもういないんだよね……」
「そうだな。葛本 真一ももういないんだ。俺たちはこの世界で生きていくほかないんだから。」
言葉にして実感する転生したという事実。
いくら時間が経とうとも、いくらこの世界の父母を本当の親だと知りつつも、心のどこかで思わずにはいられなかったのだ。
〝帰りたい〟と……
と、ルーズハルトが感慨深げに考え込んでいると、エミリアは洗顔を終えて台から降りていた。
「次はルー君ね。今度は大丈夫かな?」
「へいきだよ!!」
オーフェリアが心配そうにしているのも無理はなかった。
ルーズハルトはこの魔道具をうまく扱えなかったからだ。
起動することは起動する。
しかし安定した出力にすることが困難だったのだ。
初めて使用したときはあまりにも魔力を込め過ぎてしまい、オーフェリアが慌てて緊急停止させたほどだった。
次の日に挑戦するも、今度はチョロチョロと垂れてくるだけで、必要分が一向にたまる気配はなかった。
そういうことが何度も続くとさすがのオーフェリアも心配になってしまう。
それもそのはず、今ルーズフェルトとエミリアが使用しているのは、通称〝生活魔法〟に分類される、初期も初期の魔法なのだ。
この世界では誰しもが当たり前に使える魔法で、魔道具を用いることによって少ない魔力で魔法を発動させ、生活を豊かにしてきた。
つまり、生活魔法をうまく使えないということは日常生活が極めて困難になることを示していた。
「ママ、みててよ!!」
そう言うとルーズハルトは勢いよく台に上ると、青の宝石に手をかける。
「ちょっと待ってルー君!!その魔力量だと!!」
「みずよきたりてわがまえに。」
ルーズハルトはオーフェリアの静止を待たずに魔法を発動させた。
結果は一目瞭然。
溢れんばかりに大量の水が魔導具から吹き出てきたのだ。
あたり一面水浸しとなり、ルーズハルトはもちろんのこと、後ろにいたエミリアもまたずぶぬれになってしまった。
春めく陽気になってきていた為、少し薄着となっていたのが災いし、素肌にぴったりとくっついた衣服は、エミリアの羞恥心をかき乱すのに十分であった。
「るーくんのエッチ!!」
パチンと乾いた音が響き渡る。
そのあとに聞こえるどたどたと走り去る音。
洗面所には左頬に真っ赤な手の跡をつけたルーズハルトと、慌てて緊急停止させていたオーフェリアの姿が残っているだけだった。
「あとできちんとごめんなさいをすること、いいわね?」
「はい……」
ルーズハルトは桶に溜まった水で顔を洗い、洗面所の片づけの邪魔になるからと、部屋へと戻るように言われた。
本当は手伝おうと考えていたルーズハルトだったが、何分身体は4歳児。
出来ることなどほとんどなかったのだ。
「あの子の魔力量は普通じゃないわね。早めに対策しないと大変なことになりそうだわ……」
ルーズハルトが去った洗面所で一人後片付けをしていたオーフェリア。
今後のルーズハルトについて心配が募っていた。
「それにしても……コントロールの下手さ加減はあの人に似たみたいね。昔のルーハスを思い出すわ。」
ルーズハルトを昔のルーハスに重ねたオーフェリア。
なぜか笑みがこぼれてしまった。
「やっぱり神父様に相談かしらね……」
百面相とでも言いたげに、オーフェリアの表情はころころと変わっていったのだった。
コンコンコン
「エミー、はいるね?」
「どうぞ……」
ルーズハルトがエミリアの部屋を訪れると、とても不機嫌ですとアピールするような棘のある返答が返ってきた。
中に入ると、すでに着替え終わったエミリアの姿があった。
だがいまだその長く美しい髪の毛は乾いておらず、幼いながらに一生懸命タオルで水分を取り除いていた。
「ねぇ、るーくん。みてないでてつだってよ。うまくふけないの。」
子供らしく、うんしょうんしょと髪の毛を乾かしていたエミリアだったが、いかんせん身体が小さく届かない場所が存在していた。
そこでちょうど来たルーズハルトに手伝いを頼んだのだ。
ルーズハルトとしても断ることなどできるはずもなく、受け取ったタオルでエミリアの髪の毛を拭いていく。
「ねぇ、これ、なんとなくなつかしいね……」
エミリアの表情はルーズハルトには見えていなかった。
だがもし見えていたとしたら、おそらく舞い上がっていたかもしれない。
頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに照れているエミリアの表情は、破壊力抜群であった。
「そうだね。ちいさいころよくかわかしてたっけ。」
ルーズハルトが答えのは真一の記憶の中の話だ。
幼馴染である綾の家に何度も泊まりに行った時の記憶だ。
その手にしたタオルを一生懸命動かし、エミリアの髪を乾かしていく。
その行為が昔の記憶を鮮明によみがえらせていったのだった。
「パパやママ……どうしてるかな……」
ふいに漏れる綾としての記憶から来る、望郷の念。
それは敵わぬことと知りつつも、願わずにはいられない思い。
「エミー……」
ルーズハルトはついエミリアをそう呼んでしまった。
特に他意はなく、つい漏れ出た言葉だった。
「ルーくん、桜木 綾はもういないんだよね……」
「そうだな。葛本 真一ももういないんだ。俺たちはこの世界で生きていくほかないんだから。」
言葉にして実感する転生したという事実。
いくら時間が経とうとも、いくらこの世界の父母を本当の親だと知りつつも、心のどこかで思わずにはいられなかったのだ。
〝帰りたい〟と……
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