上 下
13 / 97
第2章 転生したらしい

第2話 ルーズハルト4歳

しおりを挟む
「おはようルー、エミー。今日もとってもいい朝よ。」

 いつものように母の手によりカーテンが開けられ、少しだけ緩く建付けの悪い木製の窓がカタカタと音を立てながら開け放たれる。
 外から差し込む暖かな日差しと、少しだけ肌寒いが春の到来を思わせるような清々しい風が、部屋全体に行き渡る。

 ルーとエリーはまだ覚めやらぬ眼を擦り、ゆっくりと意識を覚醒させていく。

「おはようママ。」

 先に意識を覚醒させたのはエミーだった。
 真一がルーズハルトとしてこの世界【イグニスタ】に生を受けてから早くも4年の日々が過ぎようとしていた。
 彼女の名は【エミリア】。
 ルーズハルトとともにこの世界に生を受けた双子の妹だ。
 エミリアは幼いながらに成長を遂げ、美幼女と言っても過言ではない!!と父【ルーハス】は、拳に力を込め力説していた。
 そんな父を諫めるようにする母【オーフェリア】

それがルーズハルトの日常であった。

「おはようママ。」

 ルーズハルトも意識を覚醒し、満面の笑みを浮かべるオーフェリアと挨拶を交わした。

「それじゃあ二人とも一緒に顔を洗いに行きましょうね。」

 二人はオーフェリアに手を引かれ、キシキシと足元で軋む木の床をトテトテと歩いていく。
 ルーズハルトとしてはやっと慣れてきた感覚であった。
 身体が小さくなったためか、当初は真一としての感覚とのギャップにかなり違和感を覚えていた
 ただ、4年もの月日が経つに従ってその違和感は和らいできていた。

 流石にまだ扉の取っ手を回すことは叶わず、母によって開けられたが、その際エミリアの手を離すことになり、エミリアはどこか寂しそうにしていた。

 ルーズハルトの家は平屋作りでお世辞にも広いとは言い難かった。
 2つの寝室とダイニングルーム。
 簡単なキッチンと浴室とトイレと洗面所。
 真新しいとは言えず、どれも使い込まれたものであった。
 ただ大事にしているのが伝わる程に手入れが行き届いており、きれいに輝いて見えた。

 オーフェリアに連れられ二人は洗面所へとやってきた。
 そこには二人の背丈より高い位置に洗面台が据付られており、大人の二人が使うには丁度よいが、ルーズハルトたちにはやはり高すぎていた。

「じゃあ二人とも台を準備して。」
「「はーい!!」」

 二人は元気よく挨拶すると、近くに立てかけてあった木製の踏み台を取りに行く。
 流石に一人で持ち上げるには大きいが、二人で力を合わせればなんとかなる大きさだった。
 これも二人の日課で、息を合わせて持ち上げる。

「いくよるーくん。」
「うん、えみー。せ~の!!」

 うんしょうんしょと運ぶ二人の様子に目を細めるオーフェリア。
 それもそのはずで、この踏み台は二人で持てるギリギリの重さに調整されていた。

「ふたりとも凄いわね!!」

 そんなこととはつゆ知らず、オーフェリアから褒められた二人は誇らしげに照れ笑いを浮かべていた。

「それじゃあ順番に顔を洗いましょう。先ずはエミーからね。」

 エミリアは少し高めの台に頑張って登ってみせた。
 そうすると先程までみあげる位置にあったの洗面台が自分の使いやすい高さに変わって見えた。
 エミリアの正面には青い宝石の付いた筒状の物が下に向かって折れ曲がっている。
 エミリアは戸惑うことなくその宝石に触れると目を閉じ言葉を紡ぐ。

「みずよきたりてわがまえに。」

 するとどうだろうか、折れ曲がった筒から透明な液体が流れ出してきた。
 洗面台には既にオーフェリアによって桶がセットされていた。
 液体はその桶を満タンにする頃には徐々に勢いを失い、やがて止まったのだった。

「(どっからどう見ても水道の蛇口だよな?)」

 これがルーズハルトの感想であった。

「(あの時もそうだった……)」

 この魔道具を初めて見た時の驚きようといったらなかったのが記憶に新しいルーズハルト。
 あまりの驚きに思わず「あ、蛇口か……」と言葉にしてしまい、オーフェリアが不思議に思い首を傾げていた。
 慌てて誤魔化すようにルーズハルトは逃げ出してしまったのだ。
 だがその言葉を聞き逃さなかった人物がいた。
 エミリアだ。

 自室に戻って心を落ち着けついたルーズハルトに、エミリアが話しかけてきた。

「ねぇ、さっきの【じゃぐち】ってなぁ~に?」

 エミリアの質問に更に慌てふためくルーズハルト。
 どうやってこの場を乗り切ろうかと思考を巡らせていたときであった。

「せんをひねっておみずがでるもの……だよね?」

 ドキリと心臓が飛び跳ねるかの思いをしたルーズハルトは、エミリアの方をうまく振り向けなかった。

「ねぇ、あなたはいったいだれなの?」

 幼女とは思えない言葉遣いに、ルーズハルトは驚きを隠せなかった。
 何よりもエミリアが使っていたのは【日本語】だったからだ。

「エミーどうしてその言葉を?」

 ルーズハルトもそれに合わせて言葉をかわす。

 何年も聞いていなかった懐かしい言葉。
 そして唐突に答えに行き着いたのだった。
 とある駄女神の言葉を思い出して。

「もしかして……綾?」
「うん、そうだよ。君は……シンちゃん?伊織くん?」

 コテンと首を傾げるあざとい仕草をみて、確信したルーズハルト。
 間違いなく眼の前にいたのは綾本人だと。

「真一だよ……」

 絞り出した答えにエミリアは、満面の笑みを浮かべてルーズハルトに飛びついたのだった。

「シンちゃん!!よかったぉ~~」
  
 そこには妹のエミリアではなく、幼馴染の綾の姿があった。

「(あ、これ……俺の初恋が終わったってことか……)」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自害したら転生して、異世界生活??~起きたら貴族になっていた~

棚から牡丹
ファンタジー
東軍と西軍と戦があった。その時東軍は完敗し、その責任をとって自害した武士は転生した。 転生するときに神(じじい)は魔法が使える異世界と呼ばれるところに行かしてくれるらしい。 魔法は全属性にしてくれた。 異世界とはなんだ?魔法とはなんだ?全く意味不明のまま、飛ばされた。 目を覚ますと赤ちゃんからやり直し、しかも貴族でも上のほうらしい。 そんなドタバタ、行き当たりばったりな異世界生活を始めた。 小説家になろうにも投稿しています。 完結に設定するのを忘れていました。 (平成30/09/29) 完結した後もお気に入り登録して頂きありがとうございます!! (平成31/04/09)

クラス全員が転生して俺と彼女だけが残された件

兵藤晴佳
ファンタジー
 冬休みを目前にした田舎の高校に転校してきた美少女・綾見(あやみ)沙羅(さら)は、実は異世界から転生したお姫様だった!  異世界転生アプリでクラス全員をスマホの向こうに送り込もうとするが、ただひとり、抵抗した者がいた。  平凡に、平穏に暮らしたいだけの優等生、八十島(やそしま)栄(さかえ)。  そんな栄に惚れ込んだ沙羅は、クラス全員の魂を賭けた勝負を挑んでくる。  モブを操って転生メンバーを帰還に向けて誘導してみせろというのだ。  失敗すれば、品行方正な魂の抜け殻だけが現実世界に残される。  勝負を受ける栄だったが、沙羅は他クラスの男子の注目と、女子の嫉妬の的になる。    気になる沙羅を男子の誘惑と女子の攻撃から守り抜き、クラスの仲間を連れ戻せるか、栄!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

全裸追放から始まる成り上がり生活!〜育ててくれた貴族パーティーから追放されたので、前世の記憶を使ってイージーモードの生活を送ります〜

仁徳
ファンタジー
テオ・ローゼは、捨て子だった。しかし、イルムガルト率いる貴族パーティーが彼を拾い、大事に育ててくれた。 テオが十七歳になったその日、彼は鑑定士からユニークスキルが【前世の記憶】と言われ、それがどんな効果を齎すのかが分からなかったイルムガルトは、テオをパーティーから追放すると宣言する。 イルムガルトが捨て子のテオをここまで育てた理由、それは占い師の予言でテオは優秀な人間となるからと言われたからだ。 イルムガルトはテオのユニークスキルを無能だと烙印を押した。しかし、これまでの彼のユニークスキルは、助言と言う形で常に発動していたのだ。 それに気付かないイルムガルトは、テオの身包みを剥いで素っ裸で外に放り出す。 何も身に付けていないテオは町にいられないと思い、町を出て暗闇の中を彷徨う。そんな時、モンスターに襲われてテオは見知らぬ女性に助けられた。 捨てる神あれば拾う神あり。テオは助けてくれた女性、ルナとパーティーを組み、新たな人生を歩む。 一方、貴族パーティーはこれまであったテオの助言を失ったことで、効率良く動くことができずに失敗を繰り返し、没落の道を辿って行く。 これは、ユニークスキルが無能だと判断されたテオが新たな人生を歩み、前世の記憶を生かして幸せになって行く物語。

アイテムボックスで異世界蹂躙~ただし、それ以外のチートはない~

PENGUIN
ファンタジー
 気付いたら異世界だった。そして俺はアイテムボックスが使えることに気付き、アイテムボックスが何ができて何ができないのかを研究していたら腹が減ってしまった。  何故アイテムボックスが使えるのかわからない。何故異世界に来て最初にした俺の行動がアイテムボックスの研究だったのかわからない。 第1章  『ただ、腹が減ってしまったため、食い物を探すために戦争をアイテムボックスで蹂躙する。』 え?話が飛んだって?本編を10話まで読めばわかります。 第2章  15話から開始  この章からギャグ・コメディーよりに 処女作です。よろしくね。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...