近接魔導騎士の異世界無双～幼馴染の賢者と聖女を護る為、勇者を陰から支えます!!～

第２章 転生したらしい

第１話 転生？

　暗い闇の中、真一の意識が徐々に覚醒していく。
　左右を見回そうとしても全く身体の自由は効かず、暗闇に閉ざされたままであった。

「（身体が動かない？一体ここはどこだ？あの駄女神の転生の儀のあと、意識を失ったみたいだな……）」

　状況確認が出来ない以上、真一は静観する事しかできないと半ばあきらめの境地へと至っていた。
　
　それからどの位経ったのだろうか。
　しばらくすると、何やら何かの足音が近づいてきていた。
　相変わらず暗闇に閉ざされております、その何かが分からず不安と恐怖心が高まっていく。

ガチャリ

　真一も聞き覚えのある、何かドアノブを回したときのような音が聞こえた。

「よ……て…………わ。」
「ほん……の……だね。」

　どうやら男女の話し声のようだった。
　だがその言葉はほとんど聞き取れないながらも断片的に日・本・語・のように感じられた。

「（ここは日本なのか？もしかして帰ってこれた？ということはここは病院で、医者と看護師か？身体の自由が効かないのは、植物人間!?……とそうだ、じゃあ、綾は!?伊織は!?）」

　真一の思いとは裏腹に、やはり声も出せなければ、身体も動かない。
　ただただ焦りだけが募っていった。
　すると変化はすぐに訪れた。
　不意に身体が浮き上がる感覚が襲ってきたのだ。

「（え？なんで？誰かが抱きかかえた？にしてはおかしい、俺だってそんなに軽くないはずだぞ？）」

　その状況に真一はパニックを起こしかけていた。
　普通に考えれば当たり前の事だ。
　誰かの腕と思われるものが自分を軽々と持ち上げる感覚など、そうそう経験できるものではないからだ。
　
「（どうなってるんだ?!）」

　だが、次に襲ってきたのは柔らかな感触と、暖かな体温……そして甘い香り……
　
「（ちょっと待って、なんで押し付けてくるんだ……ってあれ？いやな感じがしない？なぜ？）」

　それから本能でも呼び覚まされてきたのか、そのものに抗うことが出来気なかった。

「（あぁ、そうか……そういうことか……）」

　真一はここにきて強制的に理解させられたのだった。
　自分が転生したという事実を。


　それから幾日が過ぎたころだろうか。
　真一の身体に変化が起こり始めた。
　徐々にその身体の機能が向上し、周囲を見ることもその感触を確かめることもできるようになってきていた。
　残念ながらまだ立ち上がることは出来なかったが、真一にとってはとてもうれしいことであった。
　そしてもう一つ、真一にとって驚くべき事実が判明した。
　薄々は気が付いていた。
　自分以外の寝息が近くから聞こえてきていたからだ。
　そして少し動くようになってきた頭を傾けてみた時だった。
　そこには可愛らしい女児の姿があったのだ。

「あう……あいあ……」

　あまりの興奮からか自然と声が漏れていた。
　図らずも真一が初めて出した声らしき声であった。

「あなた!!あなた!!ルーちゃんが……ルーちゃんがしゃべった!!」

　ここ最近聞き取れるようになってきた女性の声。
　話しぶりからして自分の母親であろうと認識していた真一。
　その女性はうす淡い長い金髪を後ろで束ねた、美しい女性だった。
　その女性の子供であるのだから、隣で寝ている女児もまた可愛らしいことは納得のいく事実であった。

「本当か!?」

　どたばたと部屋の外からやってきた大柄の男性。
　母親から〝あなた〟と呼ばれていることから自分の父親であることは明白であった。
　男性は黒髪を短く刈り揃え、引き締まった身体と焼けた肌が特徴的だった。

「産まれてまだそれほど経っていないのに……この子は天才か?!」

　男性にいきなり抱えあげられて半ばパニック状態に陥った真一は、バタバタと足をばたつかせて抗議を始める。
　いくら声らしきものが出たとしても、自分の感情をきちんと伝えるにはまだ役には立たなかった。
　ただその抗議を受け入れたのか、女性が男性をたしなめるように落ち着かせ、男性も申し訳なさそうにしていた。

「それにしてもルーはすごいな。エミーと一緒に健やかに育ってくれるといいんだけどな。」
「そのためにも頑張って働かなくちゃね？」

　真一の目の前でイチャイチャと始めた二人。
　真一はどことなく居心地の悪さを感じ、寝かされたベッドで視線を背けようと頭を少しだげ傾けた。
　するとどうだろうか。
　先ほどまで夢の中だった女児……エミーと目が合ったのだ。
　そのくりくりとした青い瞳は、まるで宝石の様だと感じた真一だった。

「（この子がエミー……。そして俺はルー。あぁ、本当に異世界に転生したんだな……）」

　ようやく理解が実感に変わり、真一……ルーは覚悟を決めたのだった。
　この世界で生きていくことを。

「あら、エミーも目が覚めたのね。あなた二人のおしめを変えましょう。そのあと二人ともミルクの時間よ。おなかすいたでしょ？一杯飲んで元気に育ってね？」

　女性……母親の慈悲に満ち溢れたその笑みに、ルーは強い安らぎを感じたのだった。
　真一が現代日本で過去に追いやってきた、懐かしい感覚であった。

　それからルーとエミーは仲良くミルクを飲み干すと、すやすやと寝息を立てて夢の世界へといざなわれたのだった。