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第1章 最強の近距離魔導騎士

第5話 劣化龍種=質の悪いトカゲ

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「貴方がここの指揮官でしたか。自分は第5騎士団第1大隊第8中隊第1小隊隊長ルーズハルト。同じく農民上がりのため家名はありません。貴方の高い指揮能力により救援が間に合いました。自分は先行しておりましたので、本隊は後半日もあれば到着するはずです。」

 ルーズハルトはよそ行きの話し方でラインハルトと挨拶を交わし、必要な情報を交換する。
 しかしラインバッハとしてはきがきではなかった。
 なぜならばいまだ劣化龍種は健在で、大きなダメージを負ったにも関わらず、その殺気が衰えることはなかったからだ。

「ご助力感謝する。だがいまだ劣化龍種とは戦闘状態。挨拶はこのくらいにして、作戦を再開いたす。貴殿のお力をお貸しいただきたいのだが……」

 オブラートには包んでいるがいわばラインバッハからのSOSであった。
 ルーズハルトとしてもそのつもりで来ているので依存はなかった。

「ん?あぁ~でもその必要も無くなりそうです。」

 ルーズハルトは何かに気がつくと、劣化龍種の方に向き直った。
 ラインバッハもつられて目をやると、信じられない光景を目にしたのだ。
 先程まで殺気を垂れ流していた劣化龍種は口をだらしなく開け、舌を垂れさせていた。
 そこには生気は見られず、どう見ても絶命していた。
 更に驚くことにその生首が近づいて来ているのだ。
 殿として残っていた騎士たちの中には、驚きのあまり気を失うものまで出ていた。
 先程まで死の瀬戸際まで来ており、突如としてそれを覆され、あまつさえ生首が向かってくる。
 この状況をきちんと理解できるものがどれほど居るものか。
 ラインバッハですら理解の範疇外で、口を大きく開いていた。
 まさに開いた口が塞がらないとはこのことのように思えた。

「ルーズハルト様、このトカゲはいかがなさいますか?」

 劣化龍種の頭をトカゲと称して掲げていたのはイザベルだった。
 イザベルは大した返り血も浴びずに、首を切り落として見せたのだ。
 いくらルーズハルトが魔法の大爆発で龍種の鱗をはがしたとはいえ、それでも普通であれば難しい所業であった。
 だがそれをこともなげにやって見せたイザベルの実力は計り知れるというものだ。

「お疲れイザベル。物資の方はどうだ?」
「はい、現在こちらに向かって輸送中です。あと2時間というところでしょうか。」

 イザベルは手にしていた?劣化龍種の頭をドスンと地面に下ろすと腰に下げていた板状の通信機のようなものを取り出し、状況確認を行っていた。
 そこには地図のが映し出されており、輸送隊の現在地が青い光点として表示されていた。
 ルーズハルトはそれを覗き込むように見ていると、あることに気が付いた。

「あれ?その方角から来ると、フェンガーの部隊と鉢合わせにならないか?」

 ルーズハルトが指摘した通り、フェンガー率いる退却中の部隊と
 あと数十分後に接触する位置に輸送部隊がいることになっている。
 だがイザベルはそれをあまり気にしていないようだった。

「それについては問題ありません。物資の輸送はライガーたちが行っております。幻影魔導師のライガーならばあの程度のクズには見破れはしません。」

 フェンガーをクズと切って捨てるイザベル。
 ラインバッハはその態度に不覚にも親近感を覚えてしまった。
 隊を預かる騎士としては有るまじきことであるにも関わらずに……

「さてと、イザベル。手持ちのポーションのストックどのくらいある?」

 ルーズハルトは周囲を見回しながらイザベルに確認を取る。
 劣化龍種の討伐完了したとしても、ここには問題が山積みだったからだ。
 
「そうですね、簡易の治療を施すには若干心許ないといったところでしょうか。」
「そうなると俺のと合わせてちょうどか。うんん、これなら死者を出さないで済みそうだな。ラインバッハ殿、こちらからポーションを提供いたしますので、治療を手伝っていただきたい。マナポーションもそれなりに有るので、回復魔導師のご助力もお借りしたい。」

 そう言ってルーズハルトは物資が入っていたであろう木箱にポーション類を袋から取り出して並べていった。
 次から次へと出てくるポーションに、ラインバッハは目を見開いた。
 それもそのはず、袋の容積に対して出てくる量が釣り合ってなかったからだ。

「これは夢を見ているのか……」

 ラインバッハはあまりの出来事に思考が停止しかけた。
 しかしそうなるには理由があった。
 ルーズハルトが使用した背負い袋は戦略物資なのだ。
 魔導具【マジックバック】。
 戦時中に国から貸与されるものです、それを常備しているものなど数限られていた。
 騎士団でも団長クラスや上位の輸送部隊。
 ただし例外も存在していた。
 騎士団にまことしやかに噂される番外騎士団、通称【第0騎士団】。
 彼らは騎士団にして騎士団にあらず。
 国王直属にしてその自由裁量権が
 ラインバッハも眉唾の噂話と思っていた。
 しかし、いま現実として眼の前で起こっていることを説明するのには、それが一番納得の行くものであった。
 
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