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第6章 富士攻略編

126-1 終わりの時

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「【神斬りの戦剣】……。その効果は神気の封印。ただそれだけだ。この武器に殺傷能力なんてない。あるのはただ神を切り伏せるだけの機能だけだ。」

 そう、これが【神斬りの戦剣】の能力。
 唯一この剣に与えられて能力。
 まさに自称神【プロメテウス】に対して……いや、神に対しての天敵以外何物でもない能力。
 魔物にはダメージをほぼ与える事は不可能で、鉄の棍棒的役割しか発揮しない。
 それが【神斬りの戦剣】。

「さて、自称神【プロメテウス】。お前の神気はこれで最後だ。神は神気が無くなればその存在を維持できなくなる。」

 俺を忌々し気に睨み付ける自称神【プロメテウス】
 しかしすでに立ち上がる事すらできず、顔を上げるので精いっぱいの様だった。

「私は……私は神だ!!」
「そう、お前は神だ……。だが、この世界の神を名乗るな!!お前はいったい誰だ?」

 これまでの事、こいつの狙い。
 それらを考えれば答えが見えてきた。
 そしてそれを補完してくれたのがスキル【神】。

 自称神【プロメテウス】は俺の問いに無言を貫いた。
 だがその表情は屈辱の色が見て取れた。

「そうか……やっぱりか……お前は神の人形だったという事か。そしてその神は……創造神?もしくは愉快犯か?」

 それでも何も語らない自称神【プロメテウス】
 ただただ俺を睨み付けるだけだった。

「答えないか……いや、答えられないのか……。俺には分かない……だけど……終わろう。この世界も、ダンジョンも……。そして自称神【プロメテウス】……お前の役割も……」

 俺は【神斬りの戦剣】を振りかぶり、自称神【プロメテウス】を切り裂いた。
 自称神【プロメテウス】は叫び声すら上げず、消え去っていった。
 そこには何も残らず、ただただその存在が消え去っただけであった。

『主~。終わったのぉ~?』
「あぁ、終わりだ。この物語はこれで完結だ。」
『そっかぁ~。じゃあ、これでお別れかな?』

 この世界は自称神【プロメテウス】によって歪められてしまっていた。
 ダンジョンを通して複数の次元の世界とつなぎ合わされ、元の地球とは別の星へと改編されていた。
 だからこそ、俺の心は決まっていた。

「そうだね、この世界を……この物語を終わらせよう……。」

 俺はラーはそう言うと、皆の元へと歩み寄った。
 カイリは既に眠っており、穏やかな表情をしていた。
 何かの夢を見ているのだろうか。
 とても幸せそうだった。

「ありがとうカレン……アスカ。カイリを守ってくれて。」
「ケントさん……」

 カイリを抱きかかえたままのカレンとアスカは、心配そうな目で俺を見つめてきた。

「先輩……終わったんですか?」
「あぁ、終わった……。終わらせたって方が正しいかな。」

 その言葉に皆は一様に動揺を隠せなかった。
 一ノ瀬をはじめ、自衛官たちも同様だ。

「それと皆に謝らなくちゃいけない事が有るんだ……。たぶんだけどステータスが見られなくなってる。」

 皆が慌ててそれぞれの端末を確認すると、そこかしこからステータスが見られないと声が上がる。
 それはダンジョンが現れる前の世界に戻ったかのようだった。

「中村さん。これはいったい……。」

 一ノ瀬さんは答えを求めていたようだ。
 他も皆も同様だった。

「おそらくだけど、本来はダンジョンを攻略しても、ステータスは消えないはずだったんです。自称神【プロメテウス】が存在していれば問題無かったはずです。ですが、今回討伐してしまいましたからね……。自称神【プロメテウス】がもたらしたものが、リセットされた可能性があります。」
「確かにそうですね。ですがこれでモンスターからは解放された。という事ですね。」

 安堵の表情を浮かべる一ノ瀬さん。
 皆もまた同じように安堵の表情を浮かべていた。
 数人残念そうな顔もしていたが、それはそれだろう。
 
「ケントさん……これからどうなるんでしょうか……。」

 不安そうなアスカ。
 皆もまた同じ気持ちだったみたいだ。
 今の世界はダンジョンありきの世界。
 資源もすべてダンジョンで賄っている状況だ。
 それがいきなり使えなくなったかもしれないのだから、不安にならない方がどうかしているって話だよな。

 やっぱりこうなるよな……

「皆に決めてほしい事が有るんだ。選択肢は二つ……一つは……」

 そして俺は最後のスキルを発動させた。

「スキル【世界遡及ワールドリトラクティブ】」

——————
 
「お兄ちゃん?お兄ちゃん?もう、こんなとこで寝てたら風邪ひくよ?」
「ん?あぁ、なんだ美鈴みすずか。」

 春の陽気に誘われて、僕たち家族は桜祭りに参加していた。
 あまりの気持ちよさに、ベンチで居眠りしてしまったみたいだ。

「もう、荷物番の意味ないじゃない。全くもう!!」
「ごめんごめん。皆は?」

 けだるい身体をベンチから起こすと、目いっぱい背伸びをして凝り固まった身体をほぐしていく。
 少し怒り気味の美鈴に謝罪の言葉をかけると、当然のごとく屋台での買い食いの資金提供をさせられることになってしまった。
 美鈴の方が稼いでいるはずなんだけどな……
 ってあれ?違うか。
 そんな感じがしてけど、気のせいだな。

 それからゆっくりと公園内の桜並木を見ていたら、なんだか上着のポケットが重い気がした。
 
「何だこれ?本物か?あれか、美鈴のいたずらか?」

 ポケットの中には、一枚の金貨が入っていた。
 よく見ると、どこの国で使われているかもわからない古い金貨だ。
 そして裏返してみるとそこにはメッセージが刻まれていた。

〝ダンジョン踏破証明書〟と……

「うん、いたずらだな。」

 僕は金貨をポケットにしまい、空を見上げて思いを馳せていた。
 平和な世界でよかったと……
 だって、妹のいたずらでそう思えるんだからさ。

「そう言えば、あの子はどうしているかな……って、あれ?あの子って誰だ?うん、まだ寝ぼけてるのか……あ、ちょっとまって。」

 美鈴は俺の静止も聞かずに桜並木にを駆けていった。

「ったく、これじゃあ、また僕が荷物番じゃないか……まぁ、良いよな。こんないい天気なんだし。」

 静かになったベンチで、僕はまたゆっくりとした時間をすごす。
 春の陽気が眠気を誘い、またウトウトと意識が夢の中に誘われていく。

「あ!!ごめんなさい!!」
「うわっぷ⁈」

 突然顔を覆う何かに、僕は驚いて飛び起きた。
 つばの大き目な麦わら帽子が、なぜがピンポイントで僕の顔を覆たようだった。
 それを慌てて取りに来た一人の少女が、どこか申し訳なさそうに謝り倒していた。

「ごめんなさい!!」
「もう!!カイリったら、何やってるのよ!!お兄さん、ほんとごめんなさい。」
「さすがカイリちゃんだよね。」

 あとから姿を現した少女二人も同じように頭を下げてくれた。
 特に何か怒っているわけでもないんだけど……って、アレ?この子どこかで……

「怒ってないから別に構わないよ。それよりもこれ……なくさないようにね。」
「あ、ありがとうございます。」

 僕から帽子を受け取ったカイリと呼ばれた少女は、どこか照れ臭そうにしていた。
 やっぱり、僕は彼女を知っている気がする……だけど、どこであったか全く思い出せない。
 絶対忘れちゃいけないはずなのに……

「あれ?カイリちゃん、顔赤いけどどうしたの?」
「な、なんでもないよ。もう……アスカもからかわないでよ。」

 そんな和気あいあいとした空気の3人を見ていると、どこかほっとした感じがしてきた。
 なぜだといわれても、僕にも分からないけど。

「それじゃあ失礼します。」

 そう言って3人は連れ立った男の子たちを見つけると、足早に去っていった。
 その表情は年相応の可愛らしい少年少女たちの青春の一ページに思えた。
 うん、やっぱり僕も年を取ったんだな……って、なんとなくそう思ったんだ。

——————
 
「先輩これは……」
「わかんねぇ~よ。この前の富士山の火山性地震で新たに出来た洞窟の調査で来ただけなのに、なんだよこの物体は……」

 彼らの目の前には光る結晶体が、洞窟内の地面から……
 
「きれえっすね。」

 人々を魅了するがごとく、その結晶体は怪しく輝いていた……
 
「確かに……これって宝石か?もしかして俺たち億万長者とか?」
「んなわけないっすよね。これは戻って報告しないとだめっすね。」
「わぁ~てるよ。良し戻るぞ。」

 洞窟調査会社が発見した物体は、新発見の鉱物であることが後の調査で判明した。
 学者たちは、それが何なのか研究を重ねていった。
 深く……暗く……赤く光る物質は、怪しくも禍々しく輝いていた。
 学者たちは後にその物質を、神からの贈り物……〝ギフト〟と名付け、研究を進めていったのであった。

~~~FIN~~~



 
「大分歪まされてしまったな。」

 書庫と思しき場所で一冊の本を挟み、二人の男性が話し込んでいた。

「仕方がないよ兄さん。これはこれで完結している話だからね。」
「だが、このままって訳にはいかないだろ?」

 どうしたものかと考え込む二人に近づく影が有った。
 その陰に気が付いた二人は驚く様子もなく、議論を再開させる。

「その物語は別な人に行ってもらうよ。君たちにはこの世界を見に行ってほしいんだ。現地人と共に歪みを正してほしい。」

 新たに現れた人物はフードを目深にかぶり、二人に一冊の本を手渡した。
 パラリパラリとめくりながらその本に目を通していく。

「兄さんと、僕で行けばいいの?」
「いや、ほかにも何人か行ってもらうけど……その本はかなり厄介になってる。おそらくだけど、4冊くらいはごちゃ混ぜにされているかな?」
「あのクソ邪神、余計なことしかしないな!!」

 怒りのあまり本を投げ捨てそうになるも、男性はすんでのところで思いとどまり、何とも言えない表情を見せた。

「じゃあ、早速で悪いんだけど行ってもらえるかな?レイ、ジョウジ。」
「行こうか兄さん。」
「わかったわかった。行ってくるよ、セフィロト。こっちの本を頼む。」

 先程までレイとジョウジが手にしていた本をセフィロトへと手渡し、二人は書庫から出ていった。

「こっちも解決しないとね。」

 セフィロトはそう言うと手にした本を掲げた。
 次第に光を帯びる本のタイトルは……
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