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第6章 富士攻略編

112 パーティー編成

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「ここは……」

 カイリが目を覚ますと、目の前に広がるのは小部屋の様な場所だった。
 辺りを見回すと、恐らくダンジョンであろうことは想像できた。
 掘りだしたような岩壁と、その先には一つの扉。
 さらに良く見回すと、薄明かりに照らされて数人の姿を確認できた。

 暗さに目が慣れてきたのか、その人数も確認できた。
 この部屋にいるのは、カイリ自身を含めて6人。
 それが誰なのか、カイリには分からなかった。
 
「いったぁ~い。いったい何なのよ!!」

 カイリの視界には、身体を起こすなり何かに当たり散らしている人物も目についた。
 暗くてよく見えなかったが、声からして女性であることには間違いなかった。

「姉さん無事か?」
「大丈夫よ。それよりここは?」

 その近くにはおそらく兄弟と思しき人物も確認できた。
 声から判断して若い男女であることが伺いしれた。
 それと同時にカイリのパーティーメンバーが、バラバラになってしまった事が確定した瞬間だった。

「カイリちゃん?」

 ゆっくりと歩く音が後方から聞こえてきた。
 足音から察するに2人分。
 カイリの後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 カイリは一瞬どきりと心臓が飛び跳ねる思いだった。
 恐る恐る振り返ると、そこにはカレンとアスカの姿があったのだ。
 安心したことで、一瞬気を抜きそうになるカイリ。
 しかしここがダンジョンであることを思い出し、気を引き締めなおした。

「アスカちゃん、カレンちゃん無事でよかった。谷浦さんたちは?」
「見てない……」

 カイリからの質問に、申し訳なさそうに答えたカレン。
 アスカも首を横に振っていたので、見つからなかったようだ。
 カイリは意識がはっきりしてきたおかげで、カレンたちと会えた事への安心感と、ここが何処か分からない不安感で押しつぶされそうになってきていた。
 そして不意に声が漏れた。

「ケントさん……助けて……」

 本人は意識していたわけでは無かった。
 しかしそれが偽らざる願いであった。
 あの日のように。
 あのホブゴブリンの集落の時のように……

 しかし、そんなカイリに思わぬところから声がかけられた。

「すみません。今ケントさんと言いましたか?」
「あ、え、えっと。」

 突然の声掛けに驚きを隠せないカイリ。
 カイリたちの前には、二人の男女が立っていた。
 年の頃は谷浦姉弟より若干若い感じがしていた。
 カイリはあまりピンときていなかったが、明かりに照らされた二人の顔を見てカレンが声を上げる。

「もしかして『難攻不落』の團姉弟ですか?!」
「はい、あなたの言っている『難攻不落』かどうかはわかりませんが、パーティ『難攻不落』は私たちの事で間違いないかと。ところであなた方は?」

 由紀乃はカレンからの質問に答えると、カレンたちの素性を確認していく。

赤羽根あかばね 花怜かれんです。魔法職で風属性の+-を使います。」
鈴木すずき 海莉かいりといいます。火属性と土属性の+持ちです。最近地殻魔法を習得したところです。」
街田まちだ 明日架あすかですぅ~。よろしくお願いします~。回復職ですよぉ~。」

 相手が先輩冒険者であることを考えて、自分たちから名乗るカイリ。

「改めて、私はAランクパーティー『難攻不落』のだん 由貴乃ゆきのよ。魔法職ですが、スキル【マリオネット】を使って前衛もこなします。こっちが弟の龍之介りゅうのすけ。前衛盾役よ。」

 由紀乃が自己紹介の後、龍之介を紹介した。
 龍之介は由貴乃からの紹介に応え、軽く会釈を行った。
 しかし警戒をやめているわけでは無く、周囲にその探索の気配を張り巡らせていた。

 すると、先ほど起き上がると同時に、何かに怒りをぶつけていた人物がカイリたちの前に姿を現した。
 身長がそれなりに高く、おそらく170cmは超えているとカイリは感じていた。
 カイリからすれば見上げる身長差だ。

「ごめんね話し中。確か團さんでしたよね?テレビとかでよく見かける。こうして話すのは初めてですね……って話し方堅っ苦しいね。ごめん崩させてもらうよ。あたしは歩。多田野ただの あゆむ。こんな時だから情報交換したいんだけどいいかな?」

 短い髪の後頭部をガシガシとかきながら話しかけてきた。
 がさつさを思わせる行動だったが、その姿はまるでそうは思えない。
 きちんと整えられた髪の毛。
 装備品の手入れも行き届いている。
 カイリも歩を警戒する理由が存在しなかった。

「えぇ、こちらとしてもありがたいわ。仲間とはぐれてしまって、どうしたらいいのか困っていたのよ。」
「じゃあ、決まりだね。あなたたちもいいかな?」

 代表して答えた由貴乃。
 歩は念のためなのか、カイリたちにも了承を得るために問いかけてきた。

「はい、私としても助かります。私たちも仲間とはぐれてしまったので。」
「そう、みんな一緒なんだね。了解。じゃあ、あたしからの情報提供ね。」

 歩はそう言うと、自分の知り得る情報を開示し始めた。

 ここは【富士の樹海ダンジョン】で間違いない事。
 恐らくランダム転移のトラップを、誰かが発動させてしまった事。
 はぐれた仲間がこのダンジョンにいるか分からない事。
 探索系のスキルを発動させたが、この部屋の外にはモンスターがうじゃうじゃいる事。
 ここが安全地帯に設定されている可能性が高い事。
 端末系の電波は完全に届かない事。

 最後の言葉に慌てた面々は各自の端末を起動させる。
 普通であればつながるはずの救援信号も全く機能していなかった。
 孤立無援状態になってしまったのだ。

 自分たちが持ち寄った情報を整理したカイリたち面々は、臨時のパーティーを組むことにした。

 前衛を龍之介が。
 中衛を由紀乃が。
 後衛をカイリとカレン。
 最後衛にアスカ。
 遊撃には歩が付くことになる。
 歩には斥候として警戒を頼むこととなった。
 歩としては普段と変わりがないので問題無いと胸を張って答えていた。

 そう言えばと、由紀乃はカイリたちに話を聞くことにした。
 聞く話聞く話、どこかで聞いたことのあるような内容。
 そして、〝ケント〟という名前。
 由紀乃がその答えにたどり着くのは、そう難しくはなかった。

「カイリさん。もしかしてですが、〝中村なかむら 剣斗けんと〟という30代男性に聞き覚えがありませんか?」
「え?どうしてその名前を?」

 突如として湧いてきた、今最もカイリが会いたい人の名前。
 その問いに、カイリは疑問を抱くこととなった。
 カイリ自身が呟いたのは〝ケントさん〟という名前のみ。
 なのになぜ苗字まで分かったのかと……

——————

「まったくもって頭の痛い話だ……」

 深く椅子に腰掛けた佐々木さんは額に手をやり、体育館の高い天井を見上げていた。
 一ノ瀬さんや南川さんも、同じような表情を浮かべている。
 タクマが話した内容に、3人共頭を抱えてしまっていた。
 事前に知っていた俺でさえ、改めて話を聞くと頭の痛いこと痛いこと。

 〝モンスター〟と呼ばれている【生物】は、全て別世界から連れてこられた別次元の住人であるという事実。
 そしてそれを行っている自称神の目的は……

 〝自称神の主神の依り代〟の選定。

 つまり、今この世界はその苗床に過ぎないという事だった。
 そして一番その最前線を行っているのが、実は俺だという事実。
 まあ、俺でさえ受け入れがたい事実だったし、そうなるよな。
 タクマが3人にステータスを見せたほうが早いだろうと促してきた。
 本当に、タクマってなんだかんだ言って脳筋じゃないのが違和感あるよ。
 俺は、佐々木さんたち3人にステータスを開示した。
 そこには確かに人を辞めた痕跡が記されていた。

——————

基本情報

 氏名  :中村なかむら 剣斗けんと
 年齢  :36歳
 職業  :探索者B
 称号  :神へと至るもの
 種族  :亜神

——————

「中村さん……。」

 一ノ瀬さんはそのステータスを見てショックを受けていた。
 ついこの前まで指導していた人間が、いきなり亜神になりましたって現れたらそうなるよね。
 あまりのショックで、一ノ瀬さんはフリーズしてしまったみたいだ。

「一ノ瀬君。これはどう判断したらよいのだろうな。おそらく彼がこの【富士の樹海ダンジョン】を踏破した場合、〝神〟へ至る可能性が高いだろうね。」
「おそらく……」

 一ノ瀬さんも、佐々木さんの考えと概ね一致していたみたいだった。
 そのせいか、次の一手について考えが纏まらないようだった。
 おかげで重苦しい沈黙の時間が続いていく。

『何を悩むのだ?我が主は既に神への階段を上り始めておる。主等が悩んだとてもう後戻りは出来んであろう?ならば悩むだけ無駄ではないのか?』

 一番の爆弾をぶん投げたタクマは、何事も無かったかのように発言をしていた。
 お前が言うなよ……
 はたから見ていたタケシ君も、タクマに白い視線を浴びせていた。
 当のタクマはどこ吹く風とばかりに、全く気にした様子はなかった。

「まあ、俺が【富士の樹海ダンジョン】に入るのは今さらですよ?中でカイリたちが待ってますから。」

 とは言え、俺の考えは変わることは無い。
 今もダンジョンに取り残されたカイリを、今すぐにでも救援に向かいたい気持ちでいっぱいだからだ。
 それにようやく追いついたんだ、人を辞めたってだけでなんたというんだ?
 カイリを救うために、今この力がいるんだったら大盤振る舞いと行こうじゃないか。

「よし分かった。条件付きながら特例でダンジョン探索許可を出そう。その代わりと言っては何だが、くれぐれも無茶だけはしないでほしい。」

 佐々木さんの切なる願いを俺は聞き流し、気持ちは既にカイリたちの救援に向かっていた。
 今一度一ノ瀬さんは頭を抱えたのだった。
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