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第6章 富士攻略編
111 会談の再開
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「大方お話は伺っています。加賀谷さんの誘いを断ったそうで……」
部屋に入るなり遮音傍聴の魔道具を稼働させた一ノ瀬さんは、本題に入った。
よく見るとその表情には焦りの様なものも見え隠れしていた。
俺はそれを見て嫌な予感が湧き起こる。
「そうですね。【鑑定】で【魔王】軍であることが分かりましたから。そちらに着くつもりは有りませんよ。」
「それを聞いて安心しました。」
動揺をばれないように必要な情報を一ノ瀬さんに話していく。
一ノ瀬さんは心底安心した表情を浮かべた。
しかしその表情から焦りの色は消えることはなかった。
ソファーに深く腰を下ろしていた一ノ瀬さんは、深いため息のあとに現状の説明をしてくれた。
そしてその説明の中には〝Aランクパーティーランダム転移事件〟ももちろん含まれていた。
「それは本当ですか?」
〝Aランクパーティーランダム転移事件〟……
もちろんタケシ君に情報収集を依頼していた段階で、俺の耳にも入っていた。
「はい、カイリさんたちに付けていた私の部下から聞いたので間違いないかと……」
ガン!!
突如部屋に響き渡る机を叩く音。
俺は無意識に激しく机を叩きつけていた。
どうやら自分でも自制が効かなくなっていたようで、一ノ瀬さんも若干引き気味だった。
やばいな……俺、こんなに短気だったけ?
「落ち着いてください。まずは傷の手当てをしましょう。」
「すみません。」
一ノ瀬さんは、部屋に常備してある応急箱を持ってきてくれた。
けがをしたと言っても【探索者】だけあって、これくらいどうということはないんだけど、せっかくの一ノ瀬さんの行為を無下にすることは出来ず、そのまま治療をお願いした。
さすが自衛隊と言えばいいのか、一ノ瀬さんの作業は手慣れたもので、すぐに止血も終わり軽く傷薬を塗ってガーゼとテープで治療が完了。
まあ、低級ポーションを飲むか塗れば治るんだけど……そこはね。
「取り敢えず、慎重派は押さえましたのでダンジョンには問題無く入れます。許可証を発行しますので自由に入ってください。止めたとて行ってしまうのでしょう?」
「重ね重ねすみません。」
一ノ瀬さんのはからいに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
俺としてはカイリたちの事で頭がいっぱいになっていた。
助けに行くにもダンジョンに入れない以上、俺には手出しが出来ない所だった。
強行突破することは容易だけど、それだと戻った時面倒ごとが増えてしまう。
それを未然に防いでくれた一ノ瀬さんには感謝しかないな。
「頭を上げてください。これも打算あっての事ですから。皆さん【探索者】が居るからこそ前線が維持できます。それに信頼している中村さんが居るんです、問題ありません。」
そう言うと、一ノ瀬さんはやっと伝えることを伝えられたためか、その表情が和らいでいた。
打算ね……、ほんと上手い事言葉を使う人だな一ノ瀬さんは。
明らかに俺に向けた方便だろうね。
やっぱりこの人には頭が上がらない。
それにおそらく俺にスキル【精神干渉】を使ったと思う。
さっきまで無駄に沸き上がる破壊衝動が、今はウソみたいに落ち着いているから。
俺が一ノ瀬さんに視線を向けると、一ノ瀬さんはニコリと笑い返した。
ほんと、食えない人だ。
「そうだ一ノ瀬さん。おそらく聞いているとは思いますが、俺の仲間を紹介します。【召喚・多田野】【召喚・タクマ】【召喚・ラー】。」
「もしや、君は……たしか神宮寺准尉の部下の多田野三曹だったかな?これはどういう事なんだ?その前にモンスターが2匹……」
まあ、驚くのも無理もないよねって思ったけど、意外とそうでもなかった。
突如目の前に部屋に入りきらない為か、体を縮こまらせた一つ目のモンスターと、スライムと思しきモンスター。
挙句に自分の部下の部下が現れたのに、落ち着いた様子の一ノ瀬さんだった。
俺はこの経緯と、それに伴う情報を一ノ瀬さんに報告した。
そしてタクマからもたらされた情報に、一ノ瀬さんは天を仰ぐこととなった。
「私の嫌な予感もばかには出来ませんね……。」
そう言うと、一ノ瀬さんはスマホを取り出すと、どこかに連絡を取り始めた。
しばらく電話を続けると、何か指示があったのかすぐに行動に移したのだった。
「すまない中村さん。私と一緒に来ていただけませんか?会わせたい人がいます。」
「わかりました。タクマたちはどうします?」
「その場所で再召喚をお願いします。」
基地内をしばらく歩くと、体育館と思しき建物に到着した。
恐らくタクマに気を使ってくれたんだろうな。
コンコンコン
「一ノ瀬一等陸尉入ります!!」
「入れ!!」
中から威厳を伴う、渋めの声が聞こえてきた。
その声に若干の緊張をしている一ノ瀬さんだった。
『ケントさん……この先にいる人はおそらく大物です。』
タケシ君は声の主が誰だかわかったようで、緊張感が伝わってきていた。
部屋の中に入ると、数名の自衛官が中央の椅子に腰を下ろしていた。
一人は恰幅が良く何か胡散臭さを身にまとった、「本当に自衛官なのか?」と不思議に思ってしまう男性。
もう一人は細身で、片手にはバインダーを持ち何かを見定めようとする鋭い視線で射抜いてきた。
そして、最後の一人。
その男性は、対峙しただけでただ者では無いと感じさせるオーラを身に纏っていたい。
その体躯は大地にどしりと鎮座する岩のようで、何事にも動じないという雰囲気を醸し出していた。
「よく来てくれました。私はこの基地の事務方を担当している、南川と申します。」
そう言って手を差し伸べてきたのは、細身の男性だった。
俺は既に【鑑定】を終え、彼が敵では無い事を確認していた。
そのため躊躇いなくその手を握り返していた。
「ふん、何を媚び諂うものか。こやつとて一介の探索者なんだろ?だったら普通に扱うべきじゃないのかね?」
椅子にふんぞり返った恰幅の良い男性が、嫌味を含めながら俺にではなく、南川さんへ話を振っていた。
あくまでも俺の存在を邪魔にしか思っていない、そんな態度だった。
「向田一佐、我々は彼から多大な援助を受けています。敬意を払うのは当然の事です。」
「ふん。」
南川さんからの苦言に耳を傾けることなく、そっぽを向く向田。
ただ俺も、こいつとは仲良くするつもりはなかった。
【鑑定】結果で【魔王】軍のスパイであることが一目瞭然だったからだ。
それよりもだ、なぜこうもスパイが紛れ込めたんだ?
【鑑定】すればすぐにばれるのに、堂々とこの場にいる不思議。
俺はそっと一ノ瀬さんにそのことを伝えると、一ノ瀬さんも驚きを隠せなかった。
「どうかしたかね?」
最後に発言したのは、見るからに立場のある人間だと分かる男性だった。
「申し訳ありません、佐々木陸将補!!」
一ノ瀬さんは緊張の為か、若干上ずった声で返答をしていた。
そして俺からの情報を伝えるか否か迷っているみたいだ。
「あ、すいません。この人外してもらえますか?」
「貴様!!何を言い出すか!!だからこいつらは信用できないと言っているんだ!!」
俺は時間の無駄だったんで、向田を指さしてこの場から追い出すように伝えた。
俺の態度に激高した向田は、椅子から立ち上がると携帯していた魔道具を取り出した。
それはタケシ君が愛用しているオルトロスのように完成されたものではなく、三流品とでも思えるような拳銃型の魔道具だった。
「何をしているんです、向田一佐!!」
南川さんが慌てて声をかけるも、向田はその引き金を引こうとトリガーに指をかけ狙いを定める。
おそらく向田は俺がビビると思ったんだろうな。
そんなおもちゃで死ぬほど俺たち【探索者】はやわじゃないんだけどね。
そんな俺の態度が気に食わなかったのか、向田はさらに激高し、ついに引き金を引いてしまった。
キン
甲高い金属音が部屋中に響き渡る。
驚いていたのは向田だった。
床には向田が撃ったであろう金属弾が転がっていたからだ。
理由は簡単で、俺の前に守護の盾が浮遊していたからだ。
「一ノ瀬さん、これはどういうことですか?問答無用で殺しに来るのが自衛隊のやり方ですか?」
俺は敢えて一言一言に殺気を載せて、一ノ瀬さんに問いかける。
その殺気を当てられた向田は、今にも腰が砕けそうになるも、何とか耐えていたことは自衛官としての教示だったのかもしれな。
「やめんか!!」
突如響き渡る、覇気を乗せた声。
俺以外の全員が一瞬にして反応してしまっていた。
「申し訳ない。私の部下が失礼した。向田一佐、君は席を外しなさい。」
「しかし!!」
向田は食い下がるも、自分の意見が通らないとみるや否や苦虫を噛み殺したかのような顔で、その場を去っていった。
「改めて部下の行為を謝罪したい。」
「謝罪を受け入れます。」
俺はわざと挑発していたので、佐々木さんの謝罪は別に必要としていなかった。
しかし佐々木さんは分かっていても律儀に謝意を表明した。
これによってお互いの目的は達せられたと言っても過言では無かった。
俺は向田の排除。
佐々木さんは俺からの信頼。
それが互いにわかっていての、ある意味三文芝居でもあったのだ。
「南川君。魔道具の起動を。」
「はっ!!」
南川さんは、用意していた遮音傍聴の魔道具を起動させる。
それは部屋用ではなく、広い空間を覆うように形成される大型の物であった。
「これで邪魔は入らないだろう。一ノ瀬君も楽にしてくれ。南川もだ。」
佐々木さんの言葉を聞いた一ノ瀬さんや南川さんは、先程までの自衛隊然とした態度を直ぐに崩してしまう。
「陸将補、さすがにあの三文芝居は無いですよ。」
「そうです、もう少し演技を覚えてください。」
二人からの非難に、佐々木さんは憮然とした態度を示していた。
やっぱりこの三人仲良しじゃないか。
南川さんが用意した椅子に全員で腰かけると、すぐさま本題に入ることになった。
一ノ瀬さんから依頼を受けたて【召喚】を発動させる。
今度は天井が高かったので、タクマは身をかがめる必要は特になかった。
そしてやはり自衛官のタケシ君の登場に、二人は驚きを隠せずにいた。
タクマとラーの事情を含め、これまでの経緯を説明していく。
その中には一ノ瀬さんも佐々木さんも南川さんも聞かされていない情報がいくつも存在していた。
そして三人は、またも頭を抱える事となったのだった。
俺のせいじゃないからね?
部屋に入るなり遮音傍聴の魔道具を稼働させた一ノ瀬さんは、本題に入った。
よく見るとその表情には焦りの様なものも見え隠れしていた。
俺はそれを見て嫌な予感が湧き起こる。
「そうですね。【鑑定】で【魔王】軍であることが分かりましたから。そちらに着くつもりは有りませんよ。」
「それを聞いて安心しました。」
動揺をばれないように必要な情報を一ノ瀬さんに話していく。
一ノ瀬さんは心底安心した表情を浮かべた。
しかしその表情から焦りの色は消えることはなかった。
ソファーに深く腰を下ろしていた一ノ瀬さんは、深いため息のあとに現状の説明をしてくれた。
そしてその説明の中には〝Aランクパーティーランダム転移事件〟ももちろん含まれていた。
「それは本当ですか?」
〝Aランクパーティーランダム転移事件〟……
もちろんタケシ君に情報収集を依頼していた段階で、俺の耳にも入っていた。
「はい、カイリさんたちに付けていた私の部下から聞いたので間違いないかと……」
ガン!!
突如部屋に響き渡る机を叩く音。
俺は無意識に激しく机を叩きつけていた。
どうやら自分でも自制が効かなくなっていたようで、一ノ瀬さんも若干引き気味だった。
やばいな……俺、こんなに短気だったけ?
「落ち着いてください。まずは傷の手当てをしましょう。」
「すみません。」
一ノ瀬さんは、部屋に常備してある応急箱を持ってきてくれた。
けがをしたと言っても【探索者】だけあって、これくらいどうということはないんだけど、せっかくの一ノ瀬さんの行為を無下にすることは出来ず、そのまま治療をお願いした。
さすが自衛隊と言えばいいのか、一ノ瀬さんの作業は手慣れたもので、すぐに止血も終わり軽く傷薬を塗ってガーゼとテープで治療が完了。
まあ、低級ポーションを飲むか塗れば治るんだけど……そこはね。
「取り敢えず、慎重派は押さえましたのでダンジョンには問題無く入れます。許可証を発行しますので自由に入ってください。止めたとて行ってしまうのでしょう?」
「重ね重ねすみません。」
一ノ瀬さんのはからいに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
俺としてはカイリたちの事で頭がいっぱいになっていた。
助けに行くにもダンジョンに入れない以上、俺には手出しが出来ない所だった。
強行突破することは容易だけど、それだと戻った時面倒ごとが増えてしまう。
それを未然に防いでくれた一ノ瀬さんには感謝しかないな。
「頭を上げてください。これも打算あっての事ですから。皆さん【探索者】が居るからこそ前線が維持できます。それに信頼している中村さんが居るんです、問題ありません。」
そう言うと、一ノ瀬さんはやっと伝えることを伝えられたためか、その表情が和らいでいた。
打算ね……、ほんと上手い事言葉を使う人だな一ノ瀬さんは。
明らかに俺に向けた方便だろうね。
やっぱりこの人には頭が上がらない。
それにおそらく俺にスキル【精神干渉】を使ったと思う。
さっきまで無駄に沸き上がる破壊衝動が、今はウソみたいに落ち着いているから。
俺が一ノ瀬さんに視線を向けると、一ノ瀬さんはニコリと笑い返した。
ほんと、食えない人だ。
「そうだ一ノ瀬さん。おそらく聞いているとは思いますが、俺の仲間を紹介します。【召喚・多田野】【召喚・タクマ】【召喚・ラー】。」
「もしや、君は……たしか神宮寺准尉の部下の多田野三曹だったかな?これはどういう事なんだ?その前にモンスターが2匹……」
まあ、驚くのも無理もないよねって思ったけど、意外とそうでもなかった。
突如目の前に部屋に入りきらない為か、体を縮こまらせた一つ目のモンスターと、スライムと思しきモンスター。
挙句に自分の部下の部下が現れたのに、落ち着いた様子の一ノ瀬さんだった。
俺はこの経緯と、それに伴う情報を一ノ瀬さんに報告した。
そしてタクマからもたらされた情報に、一ノ瀬さんは天を仰ぐこととなった。
「私の嫌な予感もばかには出来ませんね……。」
そう言うと、一ノ瀬さんはスマホを取り出すと、どこかに連絡を取り始めた。
しばらく電話を続けると、何か指示があったのかすぐに行動に移したのだった。
「すまない中村さん。私と一緒に来ていただけませんか?会わせたい人がいます。」
「わかりました。タクマたちはどうします?」
「その場所で再召喚をお願いします。」
基地内をしばらく歩くと、体育館と思しき建物に到着した。
恐らくタクマに気を使ってくれたんだろうな。
コンコンコン
「一ノ瀬一等陸尉入ります!!」
「入れ!!」
中から威厳を伴う、渋めの声が聞こえてきた。
その声に若干の緊張をしている一ノ瀬さんだった。
『ケントさん……この先にいる人はおそらく大物です。』
タケシ君は声の主が誰だかわかったようで、緊張感が伝わってきていた。
部屋の中に入ると、数名の自衛官が中央の椅子に腰を下ろしていた。
一人は恰幅が良く何か胡散臭さを身にまとった、「本当に自衛官なのか?」と不思議に思ってしまう男性。
もう一人は細身で、片手にはバインダーを持ち何かを見定めようとする鋭い視線で射抜いてきた。
そして、最後の一人。
その男性は、対峙しただけでただ者では無いと感じさせるオーラを身に纏っていたい。
その体躯は大地にどしりと鎮座する岩のようで、何事にも動じないという雰囲気を醸し出していた。
「よく来てくれました。私はこの基地の事務方を担当している、南川と申します。」
そう言って手を差し伸べてきたのは、細身の男性だった。
俺は既に【鑑定】を終え、彼が敵では無い事を確認していた。
そのため躊躇いなくその手を握り返していた。
「ふん、何を媚び諂うものか。こやつとて一介の探索者なんだろ?だったら普通に扱うべきじゃないのかね?」
椅子にふんぞり返った恰幅の良い男性が、嫌味を含めながら俺にではなく、南川さんへ話を振っていた。
あくまでも俺の存在を邪魔にしか思っていない、そんな態度だった。
「向田一佐、我々は彼から多大な援助を受けています。敬意を払うのは当然の事です。」
「ふん。」
南川さんからの苦言に耳を傾けることなく、そっぽを向く向田。
ただ俺も、こいつとは仲良くするつもりはなかった。
【鑑定】結果で【魔王】軍のスパイであることが一目瞭然だったからだ。
それよりもだ、なぜこうもスパイが紛れ込めたんだ?
【鑑定】すればすぐにばれるのに、堂々とこの場にいる不思議。
俺はそっと一ノ瀬さんにそのことを伝えると、一ノ瀬さんも驚きを隠せなかった。
「どうかしたかね?」
最後に発言したのは、見るからに立場のある人間だと分かる男性だった。
「申し訳ありません、佐々木陸将補!!」
一ノ瀬さんは緊張の為か、若干上ずった声で返答をしていた。
そして俺からの情報を伝えるか否か迷っているみたいだ。
「あ、すいません。この人外してもらえますか?」
「貴様!!何を言い出すか!!だからこいつらは信用できないと言っているんだ!!」
俺は時間の無駄だったんで、向田を指さしてこの場から追い出すように伝えた。
俺の態度に激高した向田は、椅子から立ち上がると携帯していた魔道具を取り出した。
それはタケシ君が愛用しているオルトロスのように完成されたものではなく、三流品とでも思えるような拳銃型の魔道具だった。
「何をしているんです、向田一佐!!」
南川さんが慌てて声をかけるも、向田はその引き金を引こうとトリガーに指をかけ狙いを定める。
おそらく向田は俺がビビると思ったんだろうな。
そんなおもちゃで死ぬほど俺たち【探索者】はやわじゃないんだけどね。
そんな俺の態度が気に食わなかったのか、向田はさらに激高し、ついに引き金を引いてしまった。
キン
甲高い金属音が部屋中に響き渡る。
驚いていたのは向田だった。
床には向田が撃ったであろう金属弾が転がっていたからだ。
理由は簡単で、俺の前に守護の盾が浮遊していたからだ。
「一ノ瀬さん、これはどういうことですか?問答無用で殺しに来るのが自衛隊のやり方ですか?」
俺は敢えて一言一言に殺気を載せて、一ノ瀬さんに問いかける。
その殺気を当てられた向田は、今にも腰が砕けそうになるも、何とか耐えていたことは自衛官としての教示だったのかもしれな。
「やめんか!!」
突如響き渡る、覇気を乗せた声。
俺以外の全員が一瞬にして反応してしまっていた。
「申し訳ない。私の部下が失礼した。向田一佐、君は席を外しなさい。」
「しかし!!」
向田は食い下がるも、自分の意見が通らないとみるや否や苦虫を噛み殺したかのような顔で、その場を去っていった。
「改めて部下の行為を謝罪したい。」
「謝罪を受け入れます。」
俺はわざと挑発していたので、佐々木さんの謝罪は別に必要としていなかった。
しかし佐々木さんは分かっていても律儀に謝意を表明した。
これによってお互いの目的は達せられたと言っても過言では無かった。
俺は向田の排除。
佐々木さんは俺からの信頼。
それが互いにわかっていての、ある意味三文芝居でもあったのだ。
「南川君。魔道具の起動を。」
「はっ!!」
南川さんは、用意していた遮音傍聴の魔道具を起動させる。
それは部屋用ではなく、広い空間を覆うように形成される大型の物であった。
「これで邪魔は入らないだろう。一ノ瀬君も楽にしてくれ。南川もだ。」
佐々木さんの言葉を聞いた一ノ瀬さんや南川さんは、先程までの自衛隊然とした態度を直ぐに崩してしまう。
「陸将補、さすがにあの三文芝居は無いですよ。」
「そうです、もう少し演技を覚えてください。」
二人からの非難に、佐々木さんは憮然とした態度を示していた。
やっぱりこの三人仲良しじゃないか。
南川さんが用意した椅子に全員で腰かけると、すぐさま本題に入ることになった。
一ノ瀬さんから依頼を受けたて【召喚】を発動させる。
今度は天井が高かったので、タクマは身をかがめる必要は特になかった。
そしてやはり自衛官のタケシ君の登場に、二人は驚きを隠せずにいた。
タクマとラーの事情を含め、これまでの経緯を説明していく。
その中には一ノ瀬さんも佐々木さんも南川さんも聞かされていない情報がいくつも存在していた。
そして三人は、またも頭を抱える事となったのだった。
俺のせいじゃないからね?
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