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第6章 富士攻略編

110 一ノ瀬との再会

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プルルル……
プルルル……

「中村さん!!今何処に居るんですか?!」
『今は【富士急ハイランド跡地】の上空1000mの付近で待機中です。』
「えぇ?!」

 一ノ瀬は、ケントからの突然の電話に驚きを隠せなかった。
 何度か連絡を取ろうと試みるも、電源が入っておらず連絡が取れなかったからだ。
 半ば諦めかけて【富士急ハイランド跡地】に赴いたところ、本人からの連絡だったために、動揺してしまっていた。

『手短に確認します。俺って今自衛隊内でどういう扱いですか?』
「そうですね……完全に二分されています。排除か協力か……。」

 一ノ瀬としては、ケントは今後のダンジョン攻略の切り札になると確信していた。
 しかし、上層部はそうでは無かった。
 危険分子として処分するべき……という論調が強くなってきていた。
 もちろん、それは加賀谷の報告があってからであることは間違いない。
 一ノ瀬もその情報をつかんでおり、どうすべきか悩んでいたのだ。

『なるほど……上層部は【魔王】派で構成されているという事ですね。では今の【富士急ハイランド跡地】の状況はどうですか?』
「ここは攻略派が完全に制圧しました。慎重派……【魔王】派は今は旧駐屯地に引き下がりました。おかげさまで物資をかなり持っていかれましたが。」

 先日起こった出来事を思い返し、一ノ瀬は大きくため息をついていた。

——————
 
「なぜ攻略を一時中断するんです?!」

 そう声を荒げたのは、一ノ瀬だった。
 自衛隊のダンジョン対策会議にてダンジョン攻略の一時中断の議題が上がり、瞬く間に可決了承されたのだ。

「なぜとは異なことを言う。現状そうせざるを得ないではないかな?」

 そう語ったのは【富士急ハイランド跡地】駐留部隊総指揮官の宮内一等陸佐だった。
 宮内は、元からダンジョン攻略には懐疑的論調であった。
 しかし、ダンジョン攻略がモンスターを蔓延らせない為の条件にもなっている為に、仕方なしというスタンスで攻略に当たっていた。
 しかし、とある事件の発生によりそのスタンスを明確に現すようになってきたのだ。

「しかし!!」

 なおも食い下がる一ノ瀬に、宮内の隣に座っていた近藤一等陸佐が言葉をかける。

「一ノ瀬君。君も理解しているでしょう?【富士の樹海ダンジョン】で発生した事故の事を。我々のダンジョンの重要性は理解している。しかしだ、何を焦る必要があるのです?今着々とほかのダンジョンが攻略されて行っていますよ?むしろ今富士の樹海に向けている戦力を地方に回した方が、さらなる領土確保につながるでしょう?という話なのですよ?」

 近藤が言っていることも筋が通っており、一ノ瀬は反論にすることが困難になりつつあった。
 仕方なくその場は終える事になってしまい、苦々しい思い出いっぱいだった。

 この会議の5日前にその事故は起こったのだ。
 〝Aランクパーティーランダム転移事件〟。
 【富士の樹海ダンジョン】を攻略中のAランクパーティー4チームが、突如転移陣に巻き込まれ消息不明になったのだ。
 現在【富士の樹海ダンジョン】にアタックしているのは合計で10チーム。
 そのうちの4チームが、戦力として機能しなくなってしまったのだ。
 しかしなぜ〝ランダム転移〟と判明したか。
 それは4チームのうちの6人が無事【富士の樹海ダンジョン】から帰還したからだ。
 しかもその6人は、ばらばらのチームに所属していたメンバーで、気が付いたら小部屋に転送されていたのだった。
 即席チームとして何とか戻ることに成功した6人の中に、カイリたちのメンバーは含まれていなかった。
 居たのはカイトの代わりに、一ノ瀬が護衛としてつけた冴島だった。

 一ノ瀬は冴島から事の次第を聞き及んでいた。
 そしてその6人は全て一ノ瀬の協力者だった。
 完全にダンジョンを使って邪魔をされた形になってしまったのだ。

——————
 
「一ノ瀬君。これはまずい事になったね?」
「はっ」

 一ノ瀬の前で椅子に座り頭を抱えているのは、一ノ瀬が所属するダンジョン攻略派のトップ、佐々木陸将補だった。
 一応佐々木は会議に参加してはいたが、あくまでも中立派を装っていた。
 お陰でダンジョン攻略中断の決断に反対できずにいたのだ。

「しかし、これからどうすべきか……攻略を進めねば、物資すらままならなくなるぞ。」
「民間では探索者が活動しているおかげで問題は出ませんが、我々の活動は確実に制限されるでしょう。」

 一ノ瀬は状況を冷静に分析し、佐々木に進言をした。
 佐々木はその言葉を聞いて、さらに頭を抱える事となったのだ。
 答えの出ぬまま、二人は膝を付き合わせる事となってしまった。

「失礼します!!」

 一人の自衛官が応接間に慌てて入って来た。
 本来であれば無礼な行動であるが、佐々木は耳打ちされた情報を聞き、それどころでは無い事を感じた。

「潮目が変わるよ一ノ瀬君。」
「どうされましたか?」

 佐々木はニヤリとした表情を浮かべている。
 それは期待していた結果が舞い込んだとでもいうようなものだった。

「彼が動き出した。観測班からの連絡がやっと入って来た。彼は第29駐留部隊駐屯地を去ったあと、こちらに向かっていたのは間違いな。それから何か所かところどころに放置された野良ダンジョンが攻略されているのが見つかったのだよ。」
「彼ですね……なるほど、ならば彼に連絡を入れましょう。これでこの世界に終止符が打てます。」
「急ぎたまえ!!」
「はっ!!」

 そして一ノ瀬は何度もケントに連絡を取ろうと試みるも、全く繋がらなかったと言う訳だ。

——————

『つまり今は物資を欲していると……』
「端的に言えばそうですね。」

 一ノ瀬さんから基地の現状を確認する。
 話しぶりからすると、一ノ瀬さんたちが優勢ってことで良いのかな?

『そして今は、一ノ瀬さんたちのグループがここの主流派になってるって事ですね?』
「そうですね。」

 うん、だったら問題ないな。
 
『分かりました。では広場に出て待ってもらえますか?』
「え?わかりました……。今出ましたよっ?!」

ドゴン!!

 一ノ瀬さんが広場に出るのを確認して、俺は手持ちの物資を広場中央に取り出した。
 まあ、死蔵していた物資だからそれほど問題のあるものじゃないんだけどね。
 その音に反応したほかの自衛官も、広場に集まりだしてしまった。
 ちょっとやり過ぎ感が否めないな。
 ゆっくりと上空から降りていくと、俺は空から取り出した物資に手をかけた。

「一ノ瀬さん、お土産です。」

 俺がそう一ノ瀬さんに伝えると、一目散に一ノ瀬さんが駆け寄ってきた。

 ちなみに俺が地上に落としたお土産……それはレッサードラゴンの死骸だ。
 レッサーと言えど、その体躯は15m近くあり、見た目だけで周りの人間を威圧するのには全く問題は無かった。

「お久しぶりです、中村さん。なかなかの登場ですね。」
「一ノ瀬さんもお元気そうで何よりです。ほら、ヒーローって遅れてやってくるのが基本ですからね。」

 若干一ノ瀬さんの声が上ずっていたけど、久々の再会を喜び、互いに握手を交わしていた。
 近況を報告しあう前に俺は、さらに追加で物資をインベントリから取り出していく。
 俺はここに来る前にいくつかのダンジョンを攻略していたが、素材が溜まりに溜まっていた。
 俺自身やタケシ君が使う分以外は処分できずに困っていたのだ。
 その素材を出し尽くすと、広場はかなり埋まってしまっていた。
 うん、やり過ぎ感は否めないね……でもまあ必要だろうし、いいよね?
 とりあえず100m四方ありそうなサイズの広場が埋まってしまったけど、気にしちゃいけない。

「これだけあれば、当分は持ちますか?」
「えぇ、装備品の改修も進みます。」

 俺は取り出したレッサードラゴンの身体をたたきながら、何かを含んだようにニヤリと笑みを浮かべていた。
 一ノ瀬さんも何か取引を持ち掛けようとしているのが分かると、同じくニヤリと笑みを浮かべていた。
 
 そこには何か黒い笑いがある様に思えてならないと感じた自衛官たちなのであった。

「それじゃあ中村さん。中で話しましょう。」
「わかりました。」

 俺は一ノ瀬さんに連れられて、基地施設へ向かったのだった。
 
 あとで聞かされた話だったけど、あの広場に残された自衛官たちはてんやわんやの王騒ぎだったそうな。
 処理についてどうしたものかと困ったらしいけど、きっちり仕分けして使い切ったって言ってたから、ある意味さすがだなと思わなくはない。
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