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第5章 首都圏解放戦線

099 【魔王】と【神の権能】=【元始天王】

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「さすがにこれは予想外だったよ。」
『吾に言っても仕方があるまいて。』

 俺が呆れたように声をかけると、タクマもまた困り顔を浮かべていた。
 さすがにこれは予想をしていなかった。
 気合を入れて扉を開いた分だけ、肩透かしを食らった気分になってしまった……
 一瞬、〝タクマがアンデット化していたらどんなドロップアイテム落とすんだろうか?〟とか考えたけど、それは言わぬが花という奴だろうな。

『はぁ~。タクマのせいだぞ。どうすんだよこれ……』
『そのまま進めばよかろう。何が問題があるのだ?』

 タクマの言い分が、一番的を射ていた。
 無駄に考えるより、進んだ方が早いのは当たり前だな。
 俺は何ともやるせない気分を残し、足を奥の扉へと向けたのだった。

 ボス部屋の静寂さを背に扉をくぐった先には、ダンジョンコアが鎮座した部屋があった。
 ダンジョンコアは台座に浮かび、呼吸をするかのように魔素を吸い上げていた。

「ほんと、いつ見ても不思議な光景だよな……」

 俺はそのコアが浮かぶ台座を見て、いつも不思議に思ってしまう。
 この構造はいったいどうなっているんだろうかと。
 普通に考えて、オーバーテクノロジー以外ありえない構造だったからだ。
 だって、風とか反重力とかいまだ解明されていないであろうことを、なんかよくわからない方法で浮かべているんだから、おかしいと思って当然のことだと思う。
 
 どうやらタクマはこの存在を知っているので、特に何も感じないようだったが、タケシ君は違っていた。

『ケントさん……ここって?』
「そうか、タケシ君は知らないのか。ここがダンジョンの最下層……ダンジョンコアが安置されている部屋だよ。おそらくだけど、このダンジョンコアがダンジョンの要で、魔素や魔力をダンジョンに供給しているんだと思う。」

 それを聞いたタケシ君は、感心したように頷いていた。
 ただこれは俺の予想が多分に含まれているから、誰かから答え合わせをしてほしいと、タクマに視線を向けてみた。
 一瞬タクマは反応したけど、まだだんまりを続けるようだった。

『それにしても俺、初めて見ました……噂程度には聞いていたんですよ。ダンジョン最奥の場所に、こういった装置があるって。』

 俺たちの会話を聞いていたタクマがついに動き始めた。
 これでやっと答え合わせが出来そうだ。
 
『ふむ。お主等はこの装置を知らなんだな。これは神が【魔王】に与えた【神の権能】の一つ、【世界創造】を使ったものだ。この装置名は【元始天王】。とある神話の創造神と吾は聞き及んでおる。何とも皮肉が効いた名づけではないか。』

 どうやらタクマは俺たち人間よりも、自称神の【プロメテウス】の事を理解しているようだった。
 俺は出来る限りタクマから情報を引き出そうと試みたものの、そこについては一切語ろうとしなかった。
 おそらく無理に聞き出そうとすれば出来なくはなかった。
 情報を書き換えて命令に背けなくすれば事が済むことだから。
 だけど俺はそうはしなかった。
 タクマは今、俺のパーティーメンバーだからだ。

「それにしてもまた凄い名前を付けたものだね。確か中国の神話の創造神の名前を付けるって……。なかなかの神だよ全く。」
『くははははっ!!吾らが主神は気まぐれであるからな。おそらくはたまたま思いついた程度で名付けたのであろうな。』

 それを聞いた俺は、頭を抱えて深いため息をついてしまった。
 タケシ君は考える事を諦めたらしく、元始天王ダンジョンコアの興味はすでになかったようだった。
 むしろ、その周辺装置に組み込まれた魔石群に興味津々といった感じだった。

『そうすると、このコアを壊せばダンジョンの攻略が完了って事ですよね?』
「そうだな。あとは俺がこれを……、とりゃ!!」

 俺は何の躊躇もなく、ダンジョンコアに向かって剣を振り下ろした。
 ガシャンという音と共に黒い靄があたり一面に広がった。
 俺はその靄に向けて手を伸ばす。
 そして俺はその靄に向けてスキルを発動させる。

「【レベルドレイン】」

 広がっていった靄は、どんどん俺に向かって収束してくる。
 これだけ見たら、ある意味不気味かもしれないな。
 そしてその靄が消えるころ、ダンジョンが急に揺れ始めた。

『け、ケントさん!?』
「大丈夫。ダンジョンがその役目を終えてただの洞窟になっただけだから。」

 タケシ君は初体験だったから、さすがに不安になるのは当たり前だよね。
 俺だって最初はビビったから。

『さて主よ。こんなヘタレは置いて地上に戻るとしようぞ。』
「いや、その前にやる事があるんだけど……。タケシ君は……って、まずったよね。これ絶対ばれるよね。」

 タケシ君とタクマは、今は俺の【召喚獣】としてこの世に存在している。
 つまり、そのまま外に出たら騒ぎになってしまうという事間違いなしだ。
 
 俺がどうしたもんかと迷っていると、タクマが答えを示してくれた。
 
『心配はいらんのではないか?吾は別として、こ奴に至ってはその存在が消滅している。つまりは〝いない〟事になってるのではないのか?』
「あ……。そうだった。という事は、【召喚】を解けば問題無いって事か。」
『左様。』

 タクマは俺に「なぜ気付かなんだ?」と言いたげな視線を送っていた。
 そういわれてもこれ常識なの?
 そしてタケシ君に視線を向けると、タケシ君は超絶不機嫌になっていた。

『せっかくこうやって外に出れたんで、もっと外にいたいですよ~。何とかなりませんか?』
「何とかって……。スキル【召喚】を公表すれば行けるだろうけど。それのおかげで面倒事が舞い込んでくるのが目に見えてるんだよな……。」

 タケシ君の願いに俺は、どうしたものかと悩んでしまっていた。
 確かにタケシ君を外に出していても問題はないかもしれない。
 だけどもしこれがばれたら、確実にスキル【召喚】について詮索されてしまう。
 理由は簡単で、タケシ君もタクマも血が出ないのだ。
 見た目は人間だけど、正確には〝意識を持った情報体〟という表現がタケシ君たちをうまく言い表していると思っている。
 つまり自衛隊やらが目を付けないわけがない。
 どうやったら【召喚獣】を得られるのかと、詰め寄られるのは必然だろう。
 俺の場合はあまりにも特殊な方法で【召喚獣】を得たので、説明が不可能というよりは、説明しても理解が得られる可能性が大きすぎたのだ。

「まあ取り敢えず、そろそろ戻ろうか。ダンジョン……今は洞窟か。洞窟内は残ったモンスターだけだろうから、二人は一応元に戻ってもらうね。」
『ちょっと、ケントさん!!ケン……』

 俺は騒ぐタケシ君を強制的に黙らせる為に、スキル【召喚】の付随スキル【送還】を発動させる。
 タケシ君は何か言いたげに騒いでいたが、黒い靄と変わり俺の体へと吸い込まれていったのだった。

『なかなかやりよる。どれ吾もそろそろ戻るとするか……。必要ならばためらわず呼ぶことだ。』
「ありがとうタクマ。またな。」
『おう。』

 そう言うとタクマはスキル【送還】をされていないにもかかわらず、靄となり俺の体へと戻っていったのだった。
 どうやら【召喚獣】の【送還】については、【召喚獣】が任意に行えるらしいという推測が出来上がった瞬間だった。

「さて、帰りますか……」

 誰もいなくなったダンジョン最奥の部屋で俺がそう呟くと、誰も聞かれることなくダンジョンへ消えていったのだった。

「まぶし!!」
「大丈夫ですか?!」

 ダンジョンを出るなり、慌てた自衛官に詰め寄られた。
 俺は一瞬何事かと警戒したが、どうやら俺の帰りが遅いものだから捜索隊を出そうか検討していた状況だったそうだ。
 恐らくダンジョンが洞窟に変わったことで、異変ととらえた可能性が高いからだ。

「すみません。加賀谷さんはいますか?ダンジョン攻略の報告がしたいんですが。」
「え?攻略?」

 自衛官は一瞬「何を言ってるんだ?」と言わんばかりに訝しんでが、俺の探索者証を確認するとびくりとした後、すぐに敬礼を取っていた。

「申し訳ありません!!加賀谷から話は伺っております。現在天幕にいると思われます!!少々お待ちください!!」

 自衛官はそう言うと、とても慌てた様子で後方の無線機を動かしていた。
 所々の会話が聞こえてきたが、聞き耳を立てるほどではないと判断した俺は、その場に座り込み一休みすることにした。

 しばらくすると自衛官が戻ってきたようだ。

「お待たせしました!!ではご案内します!!」

 自衛官に案内されて訪れた場所は、この前来た天幕だった。

「おぉ~。ありがとうケントさん。これでこの一帯は人間の手に戻ったよ。感謝する。」

 そう言うと加賀谷は、深々と俺に向かって頭を下げた。
 周りの自衛官も仕事の手を止め、俺に向かって頭を下げていた。

 小市民の俺にそれはやめてほしい。
 その光景に焦りをおぼえ、慌てて頭を上げるように促した。

 加賀谷も俺に嫌がらせをしたいわけではなかったので、直ぐに頭を上げると、俺に椅子に座るよう促したのだった。

「すまないみんな。少し大事な話があるから、歩哨を頼む。」
「「はっ!!」」

 加賀谷は天幕にいた自衛官たちに、一度外に出るように促した。
 この前と同じように、天幕には俺と加賀谷の二人だけになったのだった。

「多田野三等陸曹は……。と、聞くだけ野暮だな。何があったか聞かせてもらえないか?」

 俺は、加賀谷の言葉に驚きを覚えた。
 加賀谷がタケシ君の事を覚えていた。
 それすなわち、加賀谷もまた【神の権能】の所有者であることの証明であるからだ。
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