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第5章 首都圏解放戦線

095 青き巨人【サイクロプス】

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「はははっ、冗談きついよ……」

 俺は目にした情報を疑いたくなった。
 
——————
 
 種族名:【サイクロプス】
 
—————— 

 そこに居たのはゲームであれば後半に出てくるであろう、一つ目の巨人だった。
 さっきまでの姿はどこからどう見てもインプの姿で、俺は高速戦になるだろうと踏んでいた。
 だからというわけじゃないが、戦闘開始と同時に周囲に【結界】をばらまく準備を進めていたんだけど……
 蓋を開ければパワーファイトに早変わりだ。
 さすがに分が悪いかな。

『ふむ、この姿になるのは何十年ぶりか……実に快適だ。』
「そりゃよかったことで……」

 俺は呆れるしか出来なかった。
 目の前のふざけた存在を前に、どうして良いか分からなかった。
 恐らく搦手は、その存在そのものでかき消されるのがおちだな。
 正々堂々真っ向勝負……しかないか。

 タケシ君に目を向けると、困惑の色を露わにしていた。
 それはそうだ、先程までの対話の空気から一変して、いきなりの戦闘状態。
 その状況の変化に全く付いて行けなかったみたいだった。

パン!!
 
 タケシ君は何かを決意したように、自分で自分両頬を思いっきり叩いて見せた。
 乾いた音がボス部屋に響き渡った。

 するとタケシ君の表情から迷いや困惑といった色が消え、自衛官としてのきりっとしたタケシ君に変わっていた。
 どうやら覚悟が決まったようだった。
 
 それと同時に自分の周囲にいつもの魔道具を展開する。
 さらに切り札というべき魔道具【浮遊型自動照準式砲台:煉獄】を上空へと打ち上げる。

 サイクロプスはただその様子をじっと見ていた。
 邪魔する訳でも無く、ただその動きを注視していた。
 そして何を考えたのか、ニヤリと不敵に笑って見せたのだ。

 俺は一瞬寒気に襲われた。
 恐らく、自分たちがターゲットになったのを自覚した瞬間だったのだろう。
 タケシ君は一瞬ブルリと身体を震わせるも、よどみなく身体を動かしていった。
 手にした魔道具【P257自動式12mm2丁剣銃:オルトロス】を強く握り直し、姿勢を低く保ちながら、いつでも戦えるとその存在を示していた。

 俺もまた、そんなタケシ君のに動きに背中を押されていた。
 俺自身もそのプレッシャーに押され、飲み込まれるところだったからだ。
 あまりにも考えすぎて動けなくなっていたのだ。

「全く嫌になるな。なぁ、お前の名前まだ聞いてなかったよな?」
『ん?俺の名か?そうだなこれがお主に会う最後になるだろうからな……。吾の名はタクマ……タクマ・モリサキだ。では参るぞ〝吾と異なる生物〟よ!!』

 その名前名前を聞いた時、俺は一瞬思考が止まってしまった。
 事前に展開していた【結界】のおかげで致命傷を受ける事は無かったが、前方に複数張っていた【結界】は、サイクロプス……タクマ・モリサキの突進によって次々と破壊されていく。
 タクマにとっては、ただその太い腕を振り回しているだだった。
 しかし、俺たちにとってはその巨大な重量物が思考をもって通り過ぎていく。
 正直、恐怖以外何物でもなかった。

「くそ!!いやになるな!!タケシ君、気を引き締めていくぞ!!今までの敵の中で最強クラスだ!!」
「はい!!」 
 
 ほんの一瞬が命取りになるやり取りの中で、思考を止めてしまったことを深く後悔した。
 俺は動き出した思考に合わせて、行動を開始した。
 【結界】であの巨体を止めることは絶望的だった。
 だからこそ、周囲に新たに張り巡らせた【結界】を起点に縦横無尽に走り回る。
 少しでもこちらに注意が向くように、少しでも隙があれば切りかかっていった。
 
 タケシ君も自分が管理できるフライトサブウェポンを限界数空中に展開し、一気に距離を詰める。
 タケシ君の今の戦闘スタイルは、隠密行動と二丁拳銃によるガン=カタに決まりつつあった。
 そのため、隠密行動が不可能な状況を考えると、必然的にタクマのその剛腕を常に躱し続けるという荒行を強いられることになっていた。
 
「畜生!!奥の手だったのに!!」
 
 タケシ君は動き回りながら上下逆さまについた胸ポケットのボタンをはずした。
 すると、中から魔石が落下していった。

「起動!!【守護の盾イージス】!!」

 魔石が一瞬光り、さら追加で投げ出した台座とドッキングした。
 その台座からは8枚の板が分離していく。
 一枚一枚に随時【結界】が展開されており、タケシ君の周りをふわふわと浮いている。

「やるねタケシ君!!あのバロンの魔石だろ?」
「そうです。本当はもっと先で使うつもりだったのに。」
 
 うん、どっからどう見ても機動兵器にしか見えないけど、ロマンだよな。
 正直欲しいと思ったけど、今はそれどころじゃないな。
 タクマもまたその光景に、二マリと口元を緩める。
 明らかに防御系の装備だと理解したようで、躊躇なくその分離した板を殴りつける。

ガギン!!ガギン!!

 生身で殴りつけたはずなのに、金属同士が激しくぶつかる音が聞こえる。
 守護の盾イージスの【結界】が次々に破られるが、次々と新しい【結界】が展開されている。
 恐らく魔道具【魔力ジェネレーター】を搭載しているんだろうな。
 しかも、魔道具【魔力ジェネレーター】のマナが切れかけると、本体である【守護の盾イージス】に戻り補充を始める。
 どっからどう見てもオーバーテクノロジーだね……
 タケシ君ってワンマンアーミーになりつつあるね。
 このままいけばAランク【探索者】間違いなしじゃないかな。

 でも注意は必要かな、さすがにタケシ君が持たない。
 ってことで、俺も頑張りますかね!!

 タケシ君に意識が向いたために俺への警戒がかなり下がってくれが。
 おかげで俺も次の行動に移れる……
 
「やっぱり、燃費悪すぎた!!」

 一人愚痴るタケシ君は、守護の盾イージスの子機に守られながら、フライトサブウェポンを操っていた。
 ほんと器用だよね?

 一応話には聞いていたけど、フル装備で10分持てばいい方らしいけど、おそらくあの【守護の盾イージス】のせいでもっと短いかもしれないな。
 見極めが大事になりそうだ……

——————
 
 ケントが姿を消したことを知らない多田野とタクマは、その戦闘を戦闘を徐々に激化させていった。
 多田野としては残り時間を考えて、早々に決着をつけたいと考えていた。
 隙を作る為、定期的に上空の煉獄から爆撃を仕掛けたり、サブフライトウェポンで中・長距離戦に持ち込んだりと、タクマに揺さぶりをかけていた。

 タクマとしては、1分1秒長くこの興奮を味わいたかった。
 自身が全力で戦っても壊れない〝おもちゃ〟が目の前に現れた。
 これを喜ばずしてどうするのか。
 タクマはその一撃一撃に魂を込め、感情をぶつける。
 荒々しささえ感じさせる一撃に、多田野は顔を顰める。
 多田野が考えている以上に魔道具【魔力ジェネレーター】の消耗が激しいのだ。
 それだけタクマの攻撃が凄まじい事を示唆していた。

 多田野がばらまく銃弾が、あたり一面に小さな窪みを形成している。
 ファンタジーな空間に似つかわしくないその弾痕は、ここが現実世界だと深く感じさせていた。
 タクマとて無事とは言い切れない。
 体中に無数の傷跡を作り、赤い血を垂れ流す。
 今までのゴブリンのように青や緑の体液とは違い、人間の血に酷似した真っ赤な血が流れ落ちる。

「くハハハハハ!!久方ぶりに見たぞ!!吾の肉体をここまで傷つけた者を!!誇ってよいぞ!!小さき人の子よ!!」

 全身傷らだらけになりながらも、いまだ尊大な態度を取り続けるタクマに、多田野は苛立ちを隠せないでいた。
 多田野が、現在猛攻を仕掛けているのにはもう一つ訳があった。
 ケントから完全にターゲットを外したかったのだ。
 そのかいもあってか、タクマの意識からケントをそらすことに成功していた。

——————
 
「そろそろ頃合いだね。」

 俺はタケシ君の損耗具合を確認し、限界と判断した。
 【結界】をタクマのいる上空までばらまくと、一気に駆け上がった。
 タケシ君だ【守護の盾イージス】で【結界】を使ってくれていることも功を奏したようで、俺が張った【結界】の良いカムフラージュになってくれているみたいだった。
 そして俺は一本の剣を取り出した。
 愛剣ではなく、バロンが使用していた魔法剣【烈火】もどきだ。

 俺は剣を振り上げ、一気に上空から飛び降りる。
 タクマもさすがに気配に気が付いてようで、回避不可と判断したのか慌てて左腕を掲げて俺の斬撃を防ごうと試みた。

「爆ぜろ!!」

 俺の声に反応して大爆発を起こす魔法剣【烈火】もどき。
 指向性を持ったその爆発は、前に前にとその熱量を押し出していった。
 その熱量と衝撃にたまらず左手を振り払い、タクマは後退した。
 そしてズシリという音と共に、ついに片膝をついたのだ。
 
「やっと膝をついたな……どれだけタフなんだよ……」

 俺はその振り払われた衝撃で壁まで吹き飛ばされており、ノーダメージとはいかなかった。
 お互い痛み分けに終わった一撃のやり取りだった。

『これほど楽しいひと時は無かったぞ。』

 俺とタクマは互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべていた。
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