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第5章 首都圏解放戦線

072 多田野無双?

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「あれ?ケント君。どうしたんだい?休憩は良いのかい?」

 俺と多田野君が訓練場の中央付近に移動しているとき、ちょうど新藤さんも買い出しから戻ってきたようだった。

「新藤さん。SPも回復したんで、テストの再開です。彼が手伝ってくれるので実戦形式でやってみようと思います。」
「先に、基礎的なテストしてからにしてください。その後でならいいですよ。」
「わかりました。じゃあ、お願いするよ。」

 新藤さんからも許可が出たことで、俺と多田野君は対戦の準備を始めた。
 ルールは特になく、俺はひたすらに回避をする。
 それに対して多田野君はひたすら攻撃を仕掛ける。
 実にシンプルな訓練だ。

 多田野君と一緒にいた男性自衛官が合図を行ってくれることになり、俺たちは50mほど離れた位置で向かい合っていた。

「はじめ!!」

 自衛官が始まりの合図をすると、すぐに多田野君が動きを見せた。
 彼の周りには4門の砲身が浮かんでいた。
 ただ、その砲身の長さはとても短く、おそらく速射性を重視したのではないかと思うけど……
 
「さすがにそれだけってわけじゃないよね?」
  
 まさにその通りで、多田野君はすぐに攻撃を開始した。
 銃口の狙いは正確性は無く、ひたすらに弾をばらまく。
 その表現が近いように思えた。

「さすがに多いって!!」

 俺は予想通りの展開だったのにもかかわらず、回避しながら若干の焦りを覚えた。
 理由は簡単。
 その弾幕があまりにも密すぎた。

「でも問題ないですよね!!」
「当然!!【隔絶】!!からの【結界】!!」

 多田野君も楽しくなってきたようで、その弾幕量がさらに増していく。
 よく見るとさらにその砲身の数が増えていて、今は6門になっていた。
 俺は躱しきれなくなってきて隔絶を前方に発動させる。
 いくら隔絶でも防ぎきれるとはいえしんどかったので、空中に結界の足場を大量に配置する。

「さすがケントさん!!」
「まだまだこれからだって!!【身体強化】!!」

 そのまま結界に飛び乗ると、身体強化を使い加速しながら空中を駆けまわる。
 多田野君も負けてはおらず、6門の砲身を巧みに操り追いかけまわしてくる。

「当たれ当たれ当たれ!!」

 多田野君の攻撃が徐々に俺を捉えられなくなってきたようだ。
 いくら狙わずにばらまいているとはいえ、視界にとらえていなければ攻撃しようがない。

「【気配遮断】【魔力遮断】【消音】!!」

 俺は多田野君の視線が外れたことを確認すると、すぐに必勝パターンに持ち込んだ。
 どうやら多田野君も俺の姿をロストしたようで、攻撃を中断せざるを得なかったみたいだ。
 

 
 ただし、多田野もタダでは転ばない漢の様だった。
 一気に集中を上げたと思うと、そばで観戦戦していた新藤も目を疑う光景が目の前に現れたのだ。
 多田野を包み込むように短い砲身が周囲に現れたのだ。
 その数32門。
 まさにトーチカとでもいえばいいのだろうか。
 対空砲火の砲台が出現したのだ。
 多田野が目を見開くと、覚悟の一声を放った。

「ケントさん……これでもどうですか!!全砲門解放……制圧射撃……てぇ!!」

 その合図とともに、全砲門から弾丸が空中へと躍り出る。
 まさに乱射。
 どこに居るかわからないなら、全部埋め尽くしてしまえとでもいうような攻撃だ。

 さすがの俺もたまらず隔絶を発動させ、防御態勢に移行した。
 そのせいで弾がはじかれた空間が出来上がり、俺の位置が多田野君にもろバレになってしまった。
 
「そこ!!当たれ!!」

 多田野君は新たに作り上げた砲身を俺に向けていた。
 いまだ、弾幕は張られたままで隔絶を解くことすらままならなかった。
 新たな砲身は小銃というにはあまりにも大きい口径をしていた。
 そしてそこから放たれた弾はむしろ砲弾と言ってもいいサイズに見えた。

「さすがにそれは無理だって!!【隔絶】!!」

 俺は隔絶を追加で張りなおした。
 ただ、このまま受けたのでは完全に持っていかれると思い、少し斜めに配置し、その砲弾を受け流した。
 砲弾は隔絶の壁をギャリギャリと音を立てながら、後方へ滑って流れていった。
 砲弾が飛んでいった先の壁にぶつかると、ものすごい衝撃とともに爆発が発生した。

「あああああああ!!やっちゃった~~~!!これ絶対怒られる奴!!」
 
 その衝撃で我に返った多田野君は、ものすごく焦りまくっていた。
 その姿を見た俺は、戦闘を強制的に中断させられた腹を抱えて笑い転げてしまった。
 うん、実に大人げなかったかな……



「今のはなんだ!!だれがやった!!」

 訓練所の奥から、何やら怒気をはらんだ声が聞こえてきた。
 声の主は、前線基地に来た際に同行してくれた隊長の神宮寺さんだった。
 その声にビビりまくった多田野君は、それはもう盛大にうろたえていた。
 涙目になりながら俺を見つめた来ていたけど、俺はまだ捧腹絶倒の状況を抜け出せずにいた。
 その涙目が徐々にしらけたものに変わって、最後は恨みがましい視線になっていた。
 いや、俺悪くないし?

 そんな他人事のようにしていた俺だったけど、そうは問屋が卸してはくれなかった。
 見事神宮寺さんに連行されましたよ……多田野君と一緒に。
 そこからは取り調べという名の尋問が開始。

 その間多田野くんはただただ震えていたので、俺は笑いをこらえるのに必死だった。
 俺は特に何かされたわけでもないので、ありのままを説明した。
 まあ、これで怒られたら怒られただなと、どこか諦めとも取れる心境だったのは事実だったけど。
 俺としては、実戦形式で確認調整ができたことで、結果として大満足だった。
 おかげで性能の限界値も確認できたしね。

 一通り事情聴取を終えて、俺は厳重注意となり解放となった。
 多田野君はと言うと、厳罰となったようだ。

「それにしても良いデータが取れたんじゃないですか?」
「お、ケント君おかえり。」
 
 解放された俺は、先に店に戻っていた新藤さんに会いに来ていた。
 新藤さんも、〝なかなかいいデータが得られた〟とほくほく顔だった。
 ただ一人、多田野君だけが損をした形になってしまったな。
 あとで何かお詫びでも持っていった方が良いのだろうか。

「大分しぼられたのかい?」
「俺はそうでもないよ。多田野三曹はそうじゃなかったようだけどね。俺、自衛隊に入らなくてよかったって思ってしまいましたよ。」

 俺は新藤さんに事の顛末を伝えると、新藤さんは多田野君に同情的なようだった。

「それはそうとケント君、最終調整は完了しているよ。これで引き渡しだ。」
「ありがとうございます。これで先に進めます。」

 俺は受け取った装備一式と魔剣【レガルド】を、大事に扱いながらインベントリにしまっていく。

「ケント君。僕としては君をこのまま先に行かせたくはない気持ちでいっぱいだよ。君はどうやら無理をするきらいがあるみたいだだからね。それはあまり褒められたものじゃない。時には周りを頼りなさい。良いね?」
「肝に銘じます。」

 俺は新藤さんに一礼すると、そのまま店を後にした。
 このままここにいれば、決心が鈍りそうに思えたから。
 他人に心配させるのはあまり気分が良い物ではないかなと思いつつも、心配してくれる人がいることに少しだけうれしいと思ってしまった自分がいた。

 新藤さんの店を後にした俺は、すぐに探索者ギルドの建物を訪れていた。
 周辺ダンジョンはほぼ制圧済みだった為、さらに都心部近くのダンジョンについて確認しに来ていた。

「すみません。ここの支部に来たのは初めてなんですが、所属変更登録とダンジョン情報の提供をお願いします。」

 俺は受付カウンターに声をかけて、探索許可証ライセンスカードを提示した。
 探索許可証ライセンスカードを確認した受付担当者は、すぐに変更登録を行ってくれた。
 こんな時は大概ひと悶着あるんだけどね。
 今回はそれが無かったようだ。
 しばらくすると作業を終えたのか、受付担当から声がかかった。

「お待たせしました。所属変更登録はこれで完了です。ダンジョン情報ですが、今現在Bランクですので、ほぼ全域のダンジョンへの進行は可能です。現在作戦進行中の領域について説明します。この地図をご覧ください。」

 受付担当者がそう言うと、壁に備え付けてある大型ディスプレイを見るように促してきた。
 どうやら全面に首都圏の地図を映し出しているみたいだ。

 よく見ると地図は色分けされていた。

・青:解放された中立地帯。
・黄:現在作戦進行地帯。
・赤:未開放地帯。
・黒:進行不可地帯。

 黄と赤には色の濃さがあり、難易度によって色分けされていた。
 薄い色から濃い色まで5段階で表示されており、濃くなれば難易度が高くなっていた。

 この場合手始めに一番色が薄い黄のダンジョンの開放を目指した方が良いかもしれないな。

「ではこのあたりのダンジョンの情報をください。」
「ここは……。ではここから東にある、第29駐留部隊と合流してください。そこで物資の補給等を受けられます。詳しい情報もそちらで得られますので。」

 俺は装備チェックを兼ねて低ランクダンジョンの踏破を目指すことにした。
 
「ありがとうございます。では行ってきます。」
「お気をつけて。」

 俺ははギルド施設を後にして、商店街を見て回った。
 必要な物資を買いそろえた。
 明日から活動再開と行こうか。
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