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第4章 変革

053 拘束

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 シンとの一戦から、俺はいろいろと考えさせられていた。
 【スキル】とは何なのか。
 【称号】とは何なのか。

 これもまた、自称神によってもたらされた【生物の進化】の一つなのかもしれないとも思える。

 そして俺の【生命の管理者】。
 俺もまた、ただの人間といっていいのだろか。
 殺生与奪の権限とはいったい何なのか。
 考えてもその答えは出てはこなかった。

 モンスターに進化したとはいえ、シン達は人間
 そして、今はその存在が消滅してしまった。
 そう、存在していないのだ。

 後日、一ノ瀬さんに確認してもらったところ、シンに関する探索者登録は無いそうだ。
 改ざんされたとかそういったレベルではない。
 始めから存在していなかったそうだ。

 つまり俺は人の命だけでなく、その人そのものを奪い去ることができるようになってしまった。
 これがモンスター相手だったら気兼ねなく使って行けただろう。
 しかし、人間にも有用であった場合、俺はその重圧に耐えきれるのだろうか。
 しかも、実験をするわけにもいかない。
 だが、シンを消滅させたのだから、その予測はほぼ間違い無いと言えた。

 どうしたものかと思案していると、一ノ瀬さんから電話が入った。

『お疲れ様です。中村さん、これから時間をいただけますか?』
「どうしたんです?」
『はい、中村さんのスキルについての扱いが決まりました。これから部下がお宅に向かいますので、ご同行をお願いします。』
「わかりました。ちなみに行先を教えてもらえますか?」
『はい。向かう先は昨日新設された、陸上自衛隊・東北方面隊・ダンジョン探索専科です。私も先に現地入りしておりますので、現地で合流の手はずです。』
「ありがとうございます。ではお待ちしてます。」

 しばらくすると、家の前に一台の車が停まった。
 俺の迎えの車だというのは、すぐにわかった。
 何故なら、自衛隊の高機動車だったから。
 近所の人もわらわらと集まってきて、ものすごく恥ずかしかったのは言うまでもない。

「中村殿、お迎えにあがりました!!」

 ビシッと敬礼されるのはいいんだけど、その大きな声はやめてほしい。
 ほら、近所のおばちゃんたちがこそこそ始めたじゃないか。

「じゃあ、行ってきます。」
「気を付けてね。」
「大丈夫だって、ちょっと行って来るだけだから。」

 俺は母さんに挨拶して、車に乗り込んだ。
 車内は意外と広くて、乗り心地は……察してい貰えるとありがたい。

「それでは出発します!!」

 自衛官の方がそう言うと、車を発進させた。
 母さんが心配そうに見送るのが見えて、なんだか悪いことをしたなと思ってしまう。

「中村殿、隊長から手紙を預かっております。どうぞ。」

 俺は手紙を受け取り、内容を確認した。
 内容的にはあまりうれしくはない話だった。
 詳しい話は会ってからと記載があったが、どうやら俺のランクとレベルが今回のイレギュラー討伐と見合ってないのでは?ということが一部で話にあがっているらしい。
 つまり、何か強力なスキルなどを所持しており、それを故意に隠しているのでは?ってことみたいだけど……

 うん、強力なスキルがあるのに故意に隠すことは、今の時点ではあまり得策ではないと思うんだけどな……

 手紙をそっとしまって、俺は外を見ていた。
 ふと考えてしまうのは、カイリ達の事だった。

 俺はここ数日、ダンジョンへは行けていない。
 理由は、一ノ瀬さんから自宅待機をお願いされたからだ。
 特に、スキルと称号の問題もあるので、むやみに出歩かないでほしいとのことだった。
 そのため、カイリ達にも説明して、俺抜きでダンジョン探索を行ってもらっている。
 カイリは、『ケントさんが戻る頃にはレベルが離れているから、その時は私が守ります!!』って意気込んでいたっけ。
 本当にありがたいよな、戻れる場所が在るって。
 色々なことを考えていると、無事目的地に到着したようだ。

 正門から入り、玄関脇で車が停車した。
 俺は車から降りると、周りを見回した。
 新設したとはいえ、元ある施設をそのまま転用したようだったので、あまり新しいとは言えない建物だった。
 ただ、古いかと言われればそうでもない。
 見た目はどこかの学校か?と思えるような外観だった。

「ここは元は小学校だったんですよ。」

 玄関から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「一ノ瀬さん、お疲れ様です。」
「お待ちしていました。ではこちらです。」

 俺は一ノ瀬さんに案内されるがまま、施設へ入っていった。
 学校の校舎とは聞いたけど、セキュリティーは万全だった。
 入り口では、IDカードと生体認証での個人識別。
 ゲートをくぐっての危険物確認。
 最後は警備隊の目視確認だ。
 入り口にも立ち番が居たので、これでもかって感じだ。

 その後、俺が通されたのは、応接間のような場所だった。
 なんていったらいいのか、校長室みたいな感じがした。
 てっきり俺は、会議室みたいな場所に通されるかと思ったんだけど……

「中村さん。ソファーに座ってくつろいでください。あと数分で、私の上司が到着しますので。」
「は、はぁ。」

 うん、上司ってことは陸上自衛隊の幹部の人だよね?
 いったい何が始まるってんだ?
 
 5分くらい経過したころだろうか。
 誰かの足音が、廊下から聞こえてきた。
 その瞬間、同じ室内にいた自衛隊員がいきなり起立し、びしっと姿勢を正して直立していた。
 あっけにとられていると、ガラガラと入り口の扉が開いた。
 すると、数名の男性が入ってきたのだ。
 その姿を見た一ノ瀬さんたちは一斉に敬礼をしていた。
 きっとこの人が上司に当たる人なのかな?
 見た目は50?60くらいだけど、纏っている覇気がやばい。
 一瞬でも気を抜いたら、何か制圧されるんだじゃないかと思うほどだ。

 俺も慌てて席を立つと、その男性は手でそれを制してきた。
 俺も、それに合わせてソファーに座りなおすと、その男性も俺の前のソファーに腰かけた。

「あぁ、お呼び立てして申し訳ない。私は陸上自衛隊陸上幕僚長の吉村 良秀(よしだ よしひで)だ。よろしく頼む。君が件の中村 剣斗君だね?」
「えっと、どの件かは存じませんが、中村 剣斗は自分で間違いないです。」

 そう言うと、値踏みをするように吉村さんは俺を見回した。
 ふむ、と一言言うと、俺の後ろに控えていた一ノ瀬さんを睨み付けた。

「聞いていた話とは大分違うみたいだが、彼で間違いなんだな?」
「はい。彼が【クリエイト系】スキルホルダーに間違いありません!!」

 ド緊張しているのが伝わるほどのやり取りだったけど、気になる話も出て来た。
 何故、俺を呼んだのかだ。

「そうか。その割には、レベルが低いのが気にかかるな。特別な何かがあるのかな?」
「は!!それについては私は何も存じておりません!!」

 一ノ瀬さんは庇ってくれてるのかな?
 それとも腹芸中なのかな?
 うん、狸の化かし合いはついていけない。

「わかった。本人から直接聞くとしよう。」

 吉村さんはそう言うと、視線を俺に向けてきた。
 その視線は俺の中をのぞかんとしているようだった。

「まずは、突然の呼び出しに応じてくれたことを感謝する。今回呼んだ件だが、君のスキルに関することだ。一ノ瀬からの報告によれば、【スキル】を自在に〝創り出せる〟のだそうだね?これについては間違いないかな?」
「そうですね、あらかた間違ってません。ただ、自在にというのは正確ではありません。自分のレベル帯で覚えられる【スキル】に限定されま……!?!?」

 何だ?!なんで自分からバラしているんだ?!

「ふむ、勘は悪くはないが、警戒が足りないと。なるほどな。これでは情報を抜いてくださいと言っているようなものだな。」

 何を言っているんだこいつ!?
 俺は慌てて席を立とうとしたが、体が言うことを聞かない。
 何か強い力に押さえつけられているかのようだった。

 そして後ろから一ノ瀬さんの声が聞こえてきた。
 「すまない」と……
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