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第3章 リスタート

045 反省とは次の為のはず

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「虹花さん、今確認できる範囲での残りは小部屋だけですか?」
「ちょっと待ってください……。はい、気配はいまだに残ってますから、おそらく先ほど見つけた小部屋で間違いないはずです。」

 虹花さんにモンスターの気配を確認してもらうと、小部屋のモンスターはまだ討伐されていなかったようだ。

「じゃあ、時間も時間だし小部屋の戦闘をラストにして今日は戻ろう。」
「ケントさん。明日からはどうしますか?」

 皆にラスト戦闘にする旨を伝えると、カイリが明日の予定を確認してきた。
 おそらく、あまりにも余裕過ぎて気が緩んでいるんだろうな……

「カイリ。まだ私たちはダンジョンの中よ?少しでも気を抜くとどうなるか、私たちが一番良く知っているんじゃないの?」

 少しキツイ言い方だけど、カレンはカイリを心配して忠告してくれた。
 本当は俺が言うべきことなんだろうけど、カイリにはカレンからの方が伝わったらしい。

「ごめんなさい。そんなつもりじゃかなったの……。うん、今日はあまりにもうまくいきすぎて、気を抜いてしまったみたい。ケントさん、ごめんなさい。」

 自分の失態を反省したカイリはしょぼくれることはなく、きちんと前を向いて反省していた。
 これについては二人の信頼関係がなせる業なのかもしれないな。
  
「俺は問題ないよ。それにカレンが言いたいことを言ってくれたからね。カレン、ありがとう。」
「いえ、カイリはいつもこうですから。」
「カレン!!」

 本当に仲がいいな。
 言いたいことをきちんと言い合える仲は、とても貴重だ。
 大人になればなるほど、言いたいことを言えない仲なんて、いくらでも出てくる。
 彼女たちの関係も、このままでいてくれたらいいな。

「じゃあ、先輩。出発しましょうか。」
「だな。」

 俺たちは元来た道を戻り、例の小部屋まで移動したのだった。



 小部屋の前まで移動した俺たちは、小部屋の前でいったん行動を停止した。
 一応念の為虹花さんに小部屋中を探ってもらっていた。

「反応は変わりありませんね。」
 
 俺は小部屋の扉をそっと開けて中を確認したが、中には数体のスライムが蠢いていた。
 虹花さんに気配探知を頼んだらおそらく10匹くらいはいるそうだ。
 俺の目視でも同じくらいは居るように見えた。
 さらに小部屋の中心には宝箱が設置されており、さすがに何もないとはいいがたい状況だった。

「ここはある程度全力で戦った方がいいかもしれないな。」

 安全マージンを考えると全力で蹴散らした方が良いと判断した。
 俺の意見をみんなに伝えると、納得してくれた。
 ここからはアスカに指揮権を代わり、戦いの準備を始める。

 今回は谷浦の盾も試すことになった。

 属性耐性・状態異常耐性の盾【オブストラクションシールド】

 これで今不足している、耐性をある程度は補強できたと思う。
 次にカレンがコンセントレーションを発動し、魔法を待機状態にする。
 ここからは時間との勝負だ。
 遅れれば遅れるほど、カレンのSPが削れていく。
 カイリもすぐに魔法の発動待機状態に移行した。
 二人からあふれ出る魔力光は、とても美しく思えた。

 最後にアスカが全員にバフをかけて戦闘準備完了。

『では栄次郎さんの突撃から戦闘開始です。栄次郎さんお願いします。』

 谷浦が小部屋の扉を一気に開いた。
 スライムの注意が一気にオレ達を捕らえたのがわかった。
 殺意が一気に流れ込んでくる。

「ウォークライ!!」

 谷浦はあえて声に出してスキルを発動した。
 スライムたちのヘイトが、谷浦に一瞬にして移った。

 そのタイミングで虹花さんが気配遮断を発動して、スライム全体の背後へと回った。
 何かあった際にバックアップしてくれることになっている。

 谷浦が踏み込んだことで、スライムたちが一斉に動き出した。
 谷浦目掛けて属性攻撃を仕掛けてきたり、体当たりを仕掛けたりと多種多様だった。
 次の瞬間、カイリが待機させていた魔法を発動した。
 使い慣れた土属性魔法の石の針。
 広範囲に発動した魔法は、耐性持ち以外のスライムを見事に足止めする。
 その隙を見逃さず、カレンはコンセントレーションで待機中だった、風属性+魔法を発動。
 生み出された風が、一気に加速して竜巻を形成していく。
 瞬時にカイリはそれに合わせるかのように火属性+魔法を発動。
 一瞬にして高温の炎を纏う竜巻へと変貌を遂げた。

 小部屋内は高温の空気に包まれる。
 俺たちは谷浦が発動させた、オブストラクションシールドとウォールシールドのおかげで耐えきることができた。
 この組み合わせはかなり有用であることが確認できた。
 問題は両手が盾装備になるため、シールドバッシュ以外に攻撃手段がない事かな?
 そもそもウォールシールドのおかげで移動阻害があるから、それすらもままならない可能性もあるのか。

 魔法が落ち着くころには、小部屋には宝箱とドロップアイテムだけが残されていた。

 あれ?俺何もしていないんじゃないか?

 気配遮断を解いた虹花さんが、こちらへと歩み寄ってきた。

「私、何もしなくてもよかったみたいね。」
「大丈夫ですよ。俺も何もしていませんから。」

 二人して顔を見合わせると、つい笑いだしてしまった。
 それを見ていたカイリが、とても不機嫌になったのは良く分からないな……

『周囲敵影なし。戦闘終了です。』

 アスカの戦闘終了の宣言とともに、周囲に散らばったドロップアイテムを回収していく。
 ただしトラップは警戒せざるを得ないため、警戒は継続して行っていく。

・火属性の核(低品質)1個
・水属性の核(低品質)1個
・風属性の核(低品質)1個
・土属性の核(低品質)1個
・魔石(小)4個
・ポーション(低品質)2本

 これがいいのか悪いのかが判別つかないかな……
 それじゃあ、お待ちかねの宝箱開封タイムだ。

「虹花さん、トラップとかって確認できたりしますか?」
「宝箱を鑑定すれば、おそらくは……」
「ではお願いします。」

 虹花さんに物質鑑定をお願いしたところ、罠らしきものは確認できなかったそうだ。
 で、次はだれが開けるかってことになった。
 噂では幸運値によって中身が左右されるとのことだ。
 ならばと、メンバー内で一番幸運値が高い人間が開けようということになった。
 結果俺が一番高かったので開けるのは俺がやることとなった。

「じゃあ、開ける。しょぼくても恨まないでくれよ?」
「大丈夫ですって先輩。先輩でだめなら、誰やっても一緒ですから。」

 フォローになってるんだかどうなんだか微妙なフォローを受けて、意を決して宝箱を開けた。

バコッ

 という音と共に、蓋が上に持ち上がる。
 中に入っていたのは一冊の古びた本。
 開いた瞬間何かあるといけないので、今一度虹花さんに鑑定を依頼した。

スキルブック【生物鑑定】:使用するとスキル【生物鑑定】を取得できる。

 当たりも当たり。大当たりだ。

 スキルブックは滅多に手に入らない本。
 習得できるスキルによっては、最低でも1000万円以上の高値で取引されている。
 今回手に入れた鑑定系はオークションの記録では、スタートが5000万円で、最終落札額は1億3000万円となったそうだ。

 皆にこの事実を伝えると、全員固まってしまった。
 そりゃそうだ、たった一冊の本で最低でも一人頭800万円以上のお金を手に入れるチャンスなんだから。

 だが、話し合いは意外な方向へ進んでいった。
 売却の話が出なかったのだ。
 むしろ、この本を誰が読んでスキルを習得するかで揉めてしまった。

 第一候補として挙がったのが虹花さんだ。
 虹花さんが気配探知でモンスターを探った後にコンボ的に生物鑑定を使用できれば、より正確な情報を戦闘前に得られることになるからだ。
 ただ、これには問題もある。
 虹花さんのSPの負担が高くなってしまう。
 SPの枯渇は、戦闘ではあってはならない状況だからだ。

 次に司令塔役であるアスカだ。
 鑑定情報を念話で全員に共通することができるからだ。

 最後に一番活躍していない俺……って言う冗談はさておいて、遊撃役の俺が鑑定して回るのもありじゃないかという話になったのだ。
 ただ、俺の場合スキルレベルが上がらないっていう問題を抱えている。
 なので、今回はアスカに覚えてもらうことになった。
 アスカは最後まで虹花さんに読んでほしいといっていたが、みんなで決めたことなので、最後は意を決して使用してくれた。

 ちなみに生物鑑定の内容はこんな感じだそうだ。

生物鑑定:生物の本質を見抜く。レベル差が5までは鑑定可能。

 そしてこの内容を聞いて俺は確信に至った。
 おそらく虹花さんも確信したんだと思う。

「これで決まりだな……。モンスターもレベルが存在している。それによって、成長・進化している可能性が高い。おそらくこれが自称神の言う【生物の進化】だな。」
「ケントさん、つまりは生物のくくりの中のモノたちは、常に成長し続けているってことですか?」

 カイリの質問はもっともだ。
 ただ、これは推測であり確定ではない。
 しかし、確信は持てる内容だ。

「カイリ、これはあくまで仮説で、その仮説の裏が取れたって感じだね。おそらく虹花さんも同じ結論に至ったと思うよ?」
「そうですね。生物鑑定】説明に〝レベル差が5までは鑑定可能。〟とある以上、そう考えるのが妥当でしょう。」

 つまり、これからもっと『イレギュラー』の存在が増えることになる。
 間引きから漏れたモンスターが、成長することだって考えられる。
 下手をすると、冒険者やほかのモンスターを殺すことでレベルを上げて成長・進化する可能性も秘めている。
 まさに今の俺たちそのものだ。
 
 これでまた、この世界は混迷を極めることになりそうな予感しかしないな……
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