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第6章 落日
第78話 道連れ
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「ここは……」
「やっと起きた……この馬鹿リヒテル!!」
リヒテルが目を覚ますと、そこは輸送車両の中であった。
ガタガタと揺れる車両に、どこかほっとしてしまったリヒテル。
そんなリヒテルを見守っていたのはエイミーだった。
リヒテルは気を失う前のことを思い返していた。
「確か俺は戦闘中に倒れて……って、戦闘はどうなったんだ?!機械魔は?!ってあだ!!」
はっと思い出したようにエイミーに問いただすリヒテルだったが、あきれたエイミーの拳骨がリヒテルの頭にクリーンヒットした。
あまりの痛さに目を回しそうになったが、おかげで意識がはっきりしてきたようだった。
「エイミー、すまない。ありがとう。」
「ん?うん?どういたしまして?」
いまいち要領を得ないエイミーだったが、お礼に対して返答をしていた。
リヒテルは自分が気を失った後のことを、エイミーから教えてもらった。
アドリアーノの指揮の元、ガラル小隊とリヒテル小隊のメンバー合同で、リヒテルの捜索に当たったようだった。
捜索といっても発信機が有効だったために、探すことはそれほど難しくはなかった。
リチャードのケガも回復しており、ガラル小隊の守備陣営との相性も良かったことが功を奏し、あのタイミングでの合流となったようだった。
あと少し遅れていれば、リヒテルの命は危なかったかもしれない。
そのタイミングを見計らっての登場じゃなかったのか?との邪推は、さすがにリヒテルは行わなかった。
それからリヒテルをアレックスが担ぎ上げ、技能【手当】を施しながら徐々に後退。
その間もアドリアーノ小隊と連携して迫りくる機械魔の群れを可能な限り撃退することができたようだった。
しかし、奥にいた大型機械魔に関しては手を出さなかったようだった。
おそらく勝ち目が薄いだろうとのアドリアーノからの指示だったからだ。
そうして後退が上手くいき、後詰の部隊と交代とともに車両に運び入れて撤退となった。
一通り説明を聞いたリヒテルは、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
それを見たエイミーはリヒテルの額を小突くと、少し悲し気な笑みを漏らした。
「リヒテル、アドリアーノが話があるそうよ。今呼んでくるからこのままおとなしくしてること?いいわね?」
「分かった……」
グイっと近づくエイミーの顔に、リヒテルは一瞬ドキッとしてしまった。
なんだかんだ言ってエイミーの顔は整っており、十人が十人美人だというほどだった。
リヒテルは動揺を顔に出さないように必死でこらえ、返事をするのがやっとであった。
それから程なくして、リヒテルの乗る車両にアドリアーノがやってきた。
少し疲れた表情をしていたが、リヒテルを見るなり顔を赤らめていった。
こめかみの血管を浮き立たせながら。
それから始まったのはアドリアーノの説教であった。
作戦開始前に無茶をするなと念を押していたのにもかかわらず、一人で特攻。
挙句通信の無視からの命令違反。
最後は死にかけると、無理無茶無謀のオンパレード。
普段は温厚でオチャラケているアドリアーノですら、怒りが込み上げてくるというものだった。
「ったく……無事生きて帰ってきてくれてよかった。後でガルラやメンバーにちゃんと礼をしておけよ?あいつらがお前を助けに行くって聞かなかったんだからな。」
「分かった。」
リヒテルがアドリアーノに頭を下げると、アドリアーノは何か意を決したようにリヒテルを見つめ返した。
その視線に気が付いたリヒテルは、何か問題でも発生したのかと困惑の色を示した。
「リヒテル、お前に伝えないといけないことがある。実はな、アレックスが治療に当たった時のことだ……」
「機械魔化……だろ?」
言い辛そうにしているアドリアーノを見かねて、リヒテルは先に話を持ち出した。
リヒテルはライニッシュとゴールドラッドの言葉を最初信じてはいなかった。
しかし、機械魔に吹き飛ばされて自分の左足が折れて骨が飛び出しているところを目にしてしまった時に気が付いてしまった。
〝自分の骨が金属になっている〟ことを。
それはまさに機械魔化に他ならなかった。
だからこそ、リヒテルはその場での死を受け入れたのだ。
機械魔になって仲間たちを襲うよりマシだと考えて。
しかし結果として一命をとりとめて、今ここに生きている。
リヒテルとしては複雑な心境であった。
「そうか、気が付いていたか。」
「俺も気が付いたのは助けられるちょっと前のことだ。だけどこれについて知っている人間はどれくらいいる?」
アドリアーノの気遣いに感謝の気持ちがあったが、それよりも事実確認の方を優先するリヒテル。
今後の活動にかかわる、重大な事柄だけに無視はできなかった。
「今お前の症状を知っているのはリヒテル小隊とガルラ小隊。あとは俺と総隊長だ。」
「佐々木総隊長も?」
リヒテルは何か考えているのか、少し黙り込んでしまった。
アドリアーノも答えを急かすわけではなく、ただ静かに見守った。
どれくらい時間がたったのだろうか、リヒテルは顔を上げるとアドリアーノに何かを頼み、アドリアーノもそれを承諾し車両を後にしたのだった。
「というわけです。どうしますか?」
『ありがとうアドリアーノ中隊長。そうか、リヒテルは気が付いてしまったか……。わかったそれについてはこちらで何とかしよう。ほとんどの避難部隊は目的の要塞貿易港に到着した。これから脱出準備を行いほかの受け入れ先に散り散りに避難することになるだろう。俺たちは中立国【ジャポニシア】に向かうことになる。これは陛下も同行するので、お前たちの到着を待ってからの避難になるだろう。それまで何かあれば報告するように。』
アドリアーノはリヒテルから頼まれた内容を辰之進へと伝えた。
辰之進もリヒテルには注意を払っていたようで、リヒテルの頼みを受け入れてくれた。
通信を終えたアドリアーノは、これからについて考えをまとめる。
おそらくリヒテルは、中立国【ジャポニシア】に行った場合拘束されてしまうだろうと。
それがリヒテルの望みであるとしても、リヒテルにとってそれが正しいのかどうなのか。
アドリアーノには判断が付かなかった。
中立国【ジャポニシア】。
それは全世界の狩猟者連合協同組合の中枢である本部が置かれている国。
他にも研究機関や技術など、世界各国から集められ保管されている。
この世界に何かあった場合、この国だけは守り抜き後世に伝えていくために。
そしてこの国が中立をうたう最大の理由は、世界で唯一の【ダンジョン】と呼ばれる場所が存在していたからだ。
【ダンジョン】からは多種多様な鉱物や素材などが産出される。
だが無償で採取できるわけではない。
中には魔物が蔓延っており、それを攻略して初めて手に入れられる。
そしてそこを専門に攻略している者たちを、【探索者】と呼んでいた。
そして【ジャポニシア】にも機械魔は存在しており、世界で一番過酷な場所ともいわれている。
中心地の【イーストメトロ】から離れるごとに機械魔の脅威度が増していく。
最北端と最南端の地には広大なランク5の立入禁止区域が広がっており、日夜殲滅のために上位狩猟者が戦闘を繰り広げていた。
そして得られる素材や報酬の数々から狩猟者からは〝楽園〟として知られていた。
リヒテルが辰之進に頼んだ事。
それは自分自身の拘束であった。
これから先暴走をする可能性も否定できないと考えたリヒテルは、小隊のみんなには内緒にしてアドリアーノに頼んだのだ。
言えば反対されることは目に見えていたからだ。
アドリアーノはそんなリヒテルの思いも理解でき、どうしたものかと悩むのであった。
のちにアドリアーノはこう漏らしていたという……
「俺を禿げさせる気かよ!!禿げたらあいつも道連れにしてやる!!」
と……
「やっと起きた……この馬鹿リヒテル!!」
リヒテルが目を覚ますと、そこは輸送車両の中であった。
ガタガタと揺れる車両に、どこかほっとしてしまったリヒテル。
そんなリヒテルを見守っていたのはエイミーだった。
リヒテルは気を失う前のことを思い返していた。
「確か俺は戦闘中に倒れて……って、戦闘はどうなったんだ?!機械魔は?!ってあだ!!」
はっと思い出したようにエイミーに問いただすリヒテルだったが、あきれたエイミーの拳骨がリヒテルの頭にクリーンヒットした。
あまりの痛さに目を回しそうになったが、おかげで意識がはっきりしてきたようだった。
「エイミー、すまない。ありがとう。」
「ん?うん?どういたしまして?」
いまいち要領を得ないエイミーだったが、お礼に対して返答をしていた。
リヒテルは自分が気を失った後のことを、エイミーから教えてもらった。
アドリアーノの指揮の元、ガラル小隊とリヒテル小隊のメンバー合同で、リヒテルの捜索に当たったようだった。
捜索といっても発信機が有効だったために、探すことはそれほど難しくはなかった。
リチャードのケガも回復しており、ガラル小隊の守備陣営との相性も良かったことが功を奏し、あのタイミングでの合流となったようだった。
あと少し遅れていれば、リヒテルの命は危なかったかもしれない。
そのタイミングを見計らっての登場じゃなかったのか?との邪推は、さすがにリヒテルは行わなかった。
それからリヒテルをアレックスが担ぎ上げ、技能【手当】を施しながら徐々に後退。
その間もアドリアーノ小隊と連携して迫りくる機械魔の群れを可能な限り撃退することができたようだった。
しかし、奥にいた大型機械魔に関しては手を出さなかったようだった。
おそらく勝ち目が薄いだろうとのアドリアーノからの指示だったからだ。
そうして後退が上手くいき、後詰の部隊と交代とともに車両に運び入れて撤退となった。
一通り説明を聞いたリヒテルは、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
それを見たエイミーはリヒテルの額を小突くと、少し悲し気な笑みを漏らした。
「リヒテル、アドリアーノが話があるそうよ。今呼んでくるからこのままおとなしくしてること?いいわね?」
「分かった……」
グイっと近づくエイミーの顔に、リヒテルは一瞬ドキッとしてしまった。
なんだかんだ言ってエイミーの顔は整っており、十人が十人美人だというほどだった。
リヒテルは動揺を顔に出さないように必死でこらえ、返事をするのがやっとであった。
それから程なくして、リヒテルの乗る車両にアドリアーノがやってきた。
少し疲れた表情をしていたが、リヒテルを見るなり顔を赤らめていった。
こめかみの血管を浮き立たせながら。
それから始まったのはアドリアーノの説教であった。
作戦開始前に無茶をするなと念を押していたのにもかかわらず、一人で特攻。
挙句通信の無視からの命令違反。
最後は死にかけると、無理無茶無謀のオンパレード。
普段は温厚でオチャラケているアドリアーノですら、怒りが込み上げてくるというものだった。
「ったく……無事生きて帰ってきてくれてよかった。後でガルラやメンバーにちゃんと礼をしておけよ?あいつらがお前を助けに行くって聞かなかったんだからな。」
「分かった。」
リヒテルがアドリアーノに頭を下げると、アドリアーノは何か意を決したようにリヒテルを見つめ返した。
その視線に気が付いたリヒテルは、何か問題でも発生したのかと困惑の色を示した。
「リヒテル、お前に伝えないといけないことがある。実はな、アレックスが治療に当たった時のことだ……」
「機械魔化……だろ?」
言い辛そうにしているアドリアーノを見かねて、リヒテルは先に話を持ち出した。
リヒテルはライニッシュとゴールドラッドの言葉を最初信じてはいなかった。
しかし、機械魔に吹き飛ばされて自分の左足が折れて骨が飛び出しているところを目にしてしまった時に気が付いてしまった。
〝自分の骨が金属になっている〟ことを。
それはまさに機械魔化に他ならなかった。
だからこそ、リヒテルはその場での死を受け入れたのだ。
機械魔になって仲間たちを襲うよりマシだと考えて。
しかし結果として一命をとりとめて、今ここに生きている。
リヒテルとしては複雑な心境であった。
「そうか、気が付いていたか。」
「俺も気が付いたのは助けられるちょっと前のことだ。だけどこれについて知っている人間はどれくらいいる?」
アドリアーノの気遣いに感謝の気持ちがあったが、それよりも事実確認の方を優先するリヒテル。
今後の活動にかかわる、重大な事柄だけに無視はできなかった。
「今お前の症状を知っているのはリヒテル小隊とガルラ小隊。あとは俺と総隊長だ。」
「佐々木総隊長も?」
リヒテルは何か考えているのか、少し黙り込んでしまった。
アドリアーノも答えを急かすわけではなく、ただ静かに見守った。
どれくらい時間がたったのだろうか、リヒテルは顔を上げるとアドリアーノに何かを頼み、アドリアーノもそれを承諾し車両を後にしたのだった。
「というわけです。どうしますか?」
『ありがとうアドリアーノ中隊長。そうか、リヒテルは気が付いてしまったか……。わかったそれについてはこちらで何とかしよう。ほとんどの避難部隊は目的の要塞貿易港に到着した。これから脱出準備を行いほかの受け入れ先に散り散りに避難することになるだろう。俺たちは中立国【ジャポニシア】に向かうことになる。これは陛下も同行するので、お前たちの到着を待ってからの避難になるだろう。それまで何かあれば報告するように。』
アドリアーノはリヒテルから頼まれた内容を辰之進へと伝えた。
辰之進もリヒテルには注意を払っていたようで、リヒテルの頼みを受け入れてくれた。
通信を終えたアドリアーノは、これからについて考えをまとめる。
おそらくリヒテルは、中立国【ジャポニシア】に行った場合拘束されてしまうだろうと。
それがリヒテルの望みであるとしても、リヒテルにとってそれが正しいのかどうなのか。
アドリアーノには判断が付かなかった。
中立国【ジャポニシア】。
それは全世界の狩猟者連合協同組合の中枢である本部が置かれている国。
他にも研究機関や技術など、世界各国から集められ保管されている。
この世界に何かあった場合、この国だけは守り抜き後世に伝えていくために。
そしてこの国が中立をうたう最大の理由は、世界で唯一の【ダンジョン】と呼ばれる場所が存在していたからだ。
【ダンジョン】からは多種多様な鉱物や素材などが産出される。
だが無償で採取できるわけではない。
中には魔物が蔓延っており、それを攻略して初めて手に入れられる。
そしてそこを専門に攻略している者たちを、【探索者】と呼んでいた。
そして【ジャポニシア】にも機械魔は存在しており、世界で一番過酷な場所ともいわれている。
中心地の【イーストメトロ】から離れるごとに機械魔の脅威度が増していく。
最北端と最南端の地には広大なランク5の立入禁止区域が広がっており、日夜殲滅のために上位狩猟者が戦闘を繰り広げていた。
そして得られる素材や報酬の数々から狩猟者からは〝楽園〟として知られていた。
リヒテルが辰之進に頼んだ事。
それは自分自身の拘束であった。
これから先暴走をする可能性も否定できないと考えたリヒテルは、小隊のみんなには内緒にしてアドリアーノに頼んだのだ。
言えば反対されることは目に見えていたからだ。
アドリアーノはそんなリヒテルの思いも理解でき、どうしたものかと悩むのであった。
のちにアドリアーノはこう漏らしていたという……
「俺を禿げさせる気かよ!!禿げたらあいつも道連れにしてやる!!」
と……
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