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第6章 落日
第68話 1000年のお伽噺 追話②
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「元始天王……。まさか……そんなはずは……いやだがしかし……」
思考の海に溶け込んだ清十郎は、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。
しかし、自分の考えを否定するかのように、何度も頭を振ってはまた思考の海飛び込む。
「清十郎、何をそんなに考え込んでいるんだ?」
「すまない。だが、この仮説が間違いなのなら、いったい俺たちの世界とは何なんだ?」
いまだ思考を辞めない清十郎は、辰之進の質問に対して答えているようで答えていなかった。
その状況に、辰之進はやれやれと言わんばかりに肩をすくめさせた。
それだけ清十郎は深く潜りこんでしまっていたのだ。
「すまないが、話を続けてもいいか?」
「お願いします。」
話がこれ以上停滞してはたまらないと、ロレンツィオは断りを入れてから話を続ける。
「歴代の陛下に口伝として伝わる話だそうだが、それを使った者は須らく【魔王】と呼ばれる存在に置き換わるとのことだ。人ではない別な生命体といった方が良いのか……、陛下はその決断をなされたのだ。」
「つまり、陛下は人柱になるということか?」
思考の海から浮上してきた清十郎は、自分の考えを口にした。
ロレンツィオは黙って首肯する。
ふぅ~と一息つくと、辰之進はお茶を一すすりする。
すでに冷めていたが、心を落ち着けるにはちょうど良かった。
あまりにも多くの情報が齎されており、思考が追い付かなくなってきていた。
「それで、今後の予定を教えてもらえますか……。隊員や狩猟者連合協同組合とも連携を取らなくてはならないので。」
「これを……」
ロレンツィオが数枚の工程表を取り出して、辰之進たちに説明を始めた。
すでに皇帝は、【元始天王】が安置されている地下施設へと向かっていた。
議会の承認は得られており、その日の夜には全臣民にこの事が伝えられる。
そしてその後防衛隊と狩猟者連合協同組合の共同作戦により臣民の脱出及び護衛が始まる。
主に狩猟者連合協同組合は前衛と護衛を担当する。
これは狩猟者は防衛よりも少数での戦闘を得意とし、護衛任務等を常にこなしているからという理由での割り振りであった。
そして防衛隊に与えられた任務は、首都の防衛及び脱出時の殿。
つまりはそういうことであった。
その工程表を見た辰之進は、あまりのばかばかしさに憤りをあらわにする。
これを行うということは、それすなわち死地に足を踏み入れるということだからだ。
だがロレンツィオがなぜ提案したのかも辰之進は理解していた。
規格外の存在……
リヒテルの存在がその理由となっていた。
「彼がいれば殿は可能であろう?」
「どこでその情報を?」
ロレンツィオに睨みを利かせる辰之進であったが、当の本人はどこ吹く風か。
答える気などさらさらありはしない様子であった。
どこからか漏れるということはあり得なかった。
それをもたらせる人物はただ一人、リンリッドだけであった。
リンリッドもリヒテルの状況について、ある程度推測ではあるが理解しているだろうと辰之進は考えていた。
今更だったが、口止めすべきだったと悔やみきれない思い出いっぱいであった。
「彼一人で……は不可能ですよ?今リンリッド老師たちが討伐に当たっているランク5相当の機械魔も、あれ一体とは限らないでしょうし。」
「そこは問題ない。陛下が魔道具【元始天王】をもって脱出される。その範囲内であれば全く問題はない。」
つまりはその範囲以外はすべて機械魔の攻撃範囲であるということの裏返しであった。
「その脱出中の時間稼ぎを我々に行えと?我々の仲間たちに死地に赴けと?そうおっしゃるのですか!!」
命令とは言え、あまりの言い分についに激怒した辰之進。
感情を抑えきれなくなったようで、その表情に激しい怒気をにじませる。
「君たちならできると判断しての命令だ。逆を言えば君たち以外にこれを無事に遂行できる人材がいないのだ。」
「っ!!」
臣民の命を盾に取られる形となった辰之進は、反論することができなかった。
正直なところ、もっとうまい方法はないのかと思考を巡らせていた。
しかし、辰之進もまた同じ答えにたどり着いてしまったのだ。
〝リヒテル小隊に殿を務めさせる〟と……
今度は自分への憤りで我を忘れそうになる辰之進の百面相に、清十郎が軽く頭を小突く。
あまりいたくはないものの、自分が変な思考迷路に陥っていたことに気が付いた辰之進は、咳払いとともに思考を一度リセットしたのだった。
「あまり時間がない。決断をしてほしいのだが?」
冷たい視線を送り決断を促すロレンツィオ。
辰之進は非常の決断を迫られたのだった。
「清十郎……リヒテル小隊に伝令を……明日明朝、完全武装にて総隊長執務室への出頭を命じる。」
「……了解……。あれだな……こればかりは不甲斐ない自分が嫌になる……」
執務室にはやけに重苦しい空気が充満していたのだった。
——————
シュトリーゲ・ド・エウロピニアが、城からほど近い歴代皇帝が眠る霊園へと足を運んでいた。
霊園の中心に建てられたモニュメントには、歴代皇帝の名が刻まれていた。
シュトリーゲはリリアーナを共だっており、二人とも膝をつきそのモニュメントに祈りをささげる。
ひとしきり祈り終えた二人は、さらに奥へ足を踏み入れる。
そこは帝都とは思えない鬱蒼とした木々が生い茂っており、今までとは違う空気を纏っていた。
足元はさほど広くはないものの、石畳で舗装されており、歩きづらいということはなかった。
カツリカツリと、二人はその石畳を歩く。
しばらくすると少しだけ開けた場所に出ることができた。
そこもまた石畳できれいに整えられており、その中心部には一つの祠が建立されていた。
シュトリーゲはおもむろにその祠に手をかざすと、何かが反応したのかシュトリーゲの手のひらと目に光が照射された。
一瞬まぶしそうにしたシュトリーゲだったが、ほんの一瞬だったこともあり、特に問題は発生しなかったようだ。
光が収まると、周囲からゴゴゴゴゴと何かが動く音が聞こえてくる。
次第にその音が大きくなると、シュトリーゲの周囲の地面が動き始める。
きれいに整えられた石畳が何かに操られているかのように動き始めた。
そしてその動きが収まると、石畳はまるで何かの絵を描くように配置されていたのだった。
そして最後の仕上げとばかりに祠が徐々にせりあがっていく。
祠の円柱の土台が3mと程せりあがると、その円柱に入り口が出来上がっていたのだ。
「ほう、それが古の洞窟というやつですか……」
シュトリーゲが声のする方を振り向くと、一人の人物がリリアーナを羽交い絞めにして立っていた。
「ん?貴様は誰だ?」
「陛下……お忘れでしょうか……私ですよ……リシャース・威張です。」
リリアーナの首元にはナイフが添えられており、いつでも殺せるぞというリシャースの意思表示であった。
眉を顰めるシュトリーゲ。
リシャースの望みが全く読めなかったのである。
「貴様の望みはなんだ?」
「いけません陛下。このものの話を聞いては!!」
リリアーナは恐怖のあまり手足が震えているにもかかわらず、懸命に叫ぶ。
その態度が気に入らなかったのか、リシャースは手にしたナイフに力が入る。
リリアーナの白い柔肌から鮮血が滴り落ち、美しいドレスが朱に染まる。
「いえね、私をその中に連れて行っていただきたいのです。嫌とは申しませんよな?」
ニヤリと嘲るリシャースに、シュトリーゲはどうすることもできなかった。
ここで非情になり切れなかったのは、シュトリーゲの若さ故かはたまたリリアーナへと愛情か……
シュトリーゲは苦虫をかみ殺したような表情を浮かべ、リシャースを伴ってその洞窟へと足を踏み入れたのだった。
思考の海に溶け込んだ清十郎は、ぶつぶつと何かをつぶやいていた。
しかし、自分の考えを否定するかのように、何度も頭を振ってはまた思考の海飛び込む。
「清十郎、何をそんなに考え込んでいるんだ?」
「すまない。だが、この仮説が間違いなのなら、いったい俺たちの世界とは何なんだ?」
いまだ思考を辞めない清十郎は、辰之進の質問に対して答えているようで答えていなかった。
その状況に、辰之進はやれやれと言わんばかりに肩をすくめさせた。
それだけ清十郎は深く潜りこんでしまっていたのだ。
「すまないが、話を続けてもいいか?」
「お願いします。」
話がこれ以上停滞してはたまらないと、ロレンツィオは断りを入れてから話を続ける。
「歴代の陛下に口伝として伝わる話だそうだが、それを使った者は須らく【魔王】と呼ばれる存在に置き換わるとのことだ。人ではない別な生命体といった方が良いのか……、陛下はその決断をなされたのだ。」
「つまり、陛下は人柱になるということか?」
思考の海から浮上してきた清十郎は、自分の考えを口にした。
ロレンツィオは黙って首肯する。
ふぅ~と一息つくと、辰之進はお茶を一すすりする。
すでに冷めていたが、心を落ち着けるにはちょうど良かった。
あまりにも多くの情報が齎されており、思考が追い付かなくなってきていた。
「それで、今後の予定を教えてもらえますか……。隊員や狩猟者連合協同組合とも連携を取らなくてはならないので。」
「これを……」
ロレンツィオが数枚の工程表を取り出して、辰之進たちに説明を始めた。
すでに皇帝は、【元始天王】が安置されている地下施設へと向かっていた。
議会の承認は得られており、その日の夜には全臣民にこの事が伝えられる。
そしてその後防衛隊と狩猟者連合協同組合の共同作戦により臣民の脱出及び護衛が始まる。
主に狩猟者連合協同組合は前衛と護衛を担当する。
これは狩猟者は防衛よりも少数での戦闘を得意とし、護衛任務等を常にこなしているからという理由での割り振りであった。
そして防衛隊に与えられた任務は、首都の防衛及び脱出時の殿。
つまりはそういうことであった。
その工程表を見た辰之進は、あまりのばかばかしさに憤りをあらわにする。
これを行うということは、それすなわち死地に足を踏み入れるということだからだ。
だがロレンツィオがなぜ提案したのかも辰之進は理解していた。
規格外の存在……
リヒテルの存在がその理由となっていた。
「彼がいれば殿は可能であろう?」
「どこでその情報を?」
ロレンツィオに睨みを利かせる辰之進であったが、当の本人はどこ吹く風か。
答える気などさらさらありはしない様子であった。
どこからか漏れるということはあり得なかった。
それをもたらせる人物はただ一人、リンリッドだけであった。
リンリッドもリヒテルの状況について、ある程度推測ではあるが理解しているだろうと辰之進は考えていた。
今更だったが、口止めすべきだったと悔やみきれない思い出いっぱいであった。
「彼一人で……は不可能ですよ?今リンリッド老師たちが討伐に当たっているランク5相当の機械魔も、あれ一体とは限らないでしょうし。」
「そこは問題ない。陛下が魔道具【元始天王】をもって脱出される。その範囲内であれば全く問題はない。」
つまりはその範囲以外はすべて機械魔の攻撃範囲であるということの裏返しであった。
「その脱出中の時間稼ぎを我々に行えと?我々の仲間たちに死地に赴けと?そうおっしゃるのですか!!」
命令とは言え、あまりの言い分についに激怒した辰之進。
感情を抑えきれなくなったようで、その表情に激しい怒気をにじませる。
「君たちならできると判断しての命令だ。逆を言えば君たち以外にこれを無事に遂行できる人材がいないのだ。」
「っ!!」
臣民の命を盾に取られる形となった辰之進は、反論することができなかった。
正直なところ、もっとうまい方法はないのかと思考を巡らせていた。
しかし、辰之進もまた同じ答えにたどり着いてしまったのだ。
〝リヒテル小隊に殿を務めさせる〟と……
今度は自分への憤りで我を忘れそうになる辰之進の百面相に、清十郎が軽く頭を小突く。
あまりいたくはないものの、自分が変な思考迷路に陥っていたことに気が付いた辰之進は、咳払いとともに思考を一度リセットしたのだった。
「あまり時間がない。決断をしてほしいのだが?」
冷たい視線を送り決断を促すロレンツィオ。
辰之進は非常の決断を迫られたのだった。
「清十郎……リヒテル小隊に伝令を……明日明朝、完全武装にて総隊長執務室への出頭を命じる。」
「……了解……。あれだな……こればかりは不甲斐ない自分が嫌になる……」
執務室にはやけに重苦しい空気が充満していたのだった。
——————
シュトリーゲ・ド・エウロピニアが、城からほど近い歴代皇帝が眠る霊園へと足を運んでいた。
霊園の中心に建てられたモニュメントには、歴代皇帝の名が刻まれていた。
シュトリーゲはリリアーナを共だっており、二人とも膝をつきそのモニュメントに祈りをささげる。
ひとしきり祈り終えた二人は、さらに奥へ足を踏み入れる。
そこは帝都とは思えない鬱蒼とした木々が生い茂っており、今までとは違う空気を纏っていた。
足元はさほど広くはないものの、石畳で舗装されており、歩きづらいということはなかった。
カツリカツリと、二人はその石畳を歩く。
しばらくすると少しだけ開けた場所に出ることができた。
そこもまた石畳できれいに整えられており、その中心部には一つの祠が建立されていた。
シュトリーゲはおもむろにその祠に手をかざすと、何かが反応したのかシュトリーゲの手のひらと目に光が照射された。
一瞬まぶしそうにしたシュトリーゲだったが、ほんの一瞬だったこともあり、特に問題は発生しなかったようだ。
光が収まると、周囲からゴゴゴゴゴと何かが動く音が聞こえてくる。
次第にその音が大きくなると、シュトリーゲの周囲の地面が動き始める。
きれいに整えられた石畳が何かに操られているかのように動き始めた。
そしてその動きが収まると、石畳はまるで何かの絵を描くように配置されていたのだった。
そして最後の仕上げとばかりに祠が徐々にせりあがっていく。
祠の円柱の土台が3mと程せりあがると、その円柱に入り口が出来上がっていたのだ。
「ほう、それが古の洞窟というやつですか……」
シュトリーゲが声のする方を振り向くと、一人の人物がリリアーナを羽交い絞めにして立っていた。
「ん?貴様は誰だ?」
「陛下……お忘れでしょうか……私ですよ……リシャース・威張です。」
リリアーナの首元にはナイフが添えられており、いつでも殺せるぞというリシャースの意思表示であった。
眉を顰めるシュトリーゲ。
リシャースの望みが全く読めなかったのである。
「貴様の望みはなんだ?」
「いけません陛下。このものの話を聞いては!!」
リリアーナは恐怖のあまり手足が震えているにもかかわらず、懸命に叫ぶ。
その態度が気に入らなかったのか、リシャースは手にしたナイフに力が入る。
リリアーナの白い柔肌から鮮血が滴り落ち、美しいドレスが朱に染まる。
「いえね、私をその中に連れて行っていただきたいのです。嫌とは申しませんよな?」
ニヤリと嘲るリシャースに、シュトリーゲはどうすることもできなかった。
ここで非情になり切れなかったのは、シュトリーゲの若さ故かはたまたリリアーナへと愛情か……
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