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第5章 壁の先にあるもの
第49話 リンリッドの思惑
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しばらくすると、工房の奥から青年が顔を出した。
数台の台車を、仲間たちと一緒に押してきたのだ。
「親方、メンテナンス完了です。問題はなさそうでしたんで、軽い調整と表面加工のみに抑えました。」
手渡されたアーマーを確認すると、じっくりと観察するラミア。
一つ二つ頷くと、そっと青年に手渡す。
「これなら問題ないわね。メンテ完了を了承した。二人とも確認作業を行ってちょうだい。」
ラミアがそういうと、青年たちはリヒテルたちを囲んで装備を付け始めた。
なんとも言えない状況に困惑していると、装着は無事完了し違和感がないかを確認する。
裏庭を借りて軽い組手をするリヒテルとガルラ。
お互いに、ゆっくりとした攻防を繰り広げる。
そして徐々にその速度を上げていくと、リンリッドもラミアも頷きながらその光景を観察していた。
ある程度確認できたところで、二人はその手を止めた。
呼吸を整えると、二人は互いに礼をして組手を終えたのだった。
「どうかしら?」
「前より動きやすいですね。」
「だな。自分で手入れはしていたがよ、やっぱプロは違うな。」
ラミアの問いかけに素直に答えた二人。
その出来栄えに自然と笑みがこぼれていた。
弟子の成長を感じラミアはもまたほほ笑んでいた。
しばらくリヒテルとガルラは互いの動きについて話をしていると、真剣な表情を浮かべたマリリンがやってきた。
「リンリッドちゃん……どうやら最悪の事態になってるみたいよ。」
「やはりか……」
リンリッドは、自分の予感が的中していたことに肩を落とした。
何事かと思い、リヒテルとガルラは慌ててリンリッドへと駆け寄った。
リンリッドはどう説明したものかと考えていたが、詰所へ戻れば手に入れられる情報だと思いリヒテルたちに話を聞かせた。
「世界各地で立入禁止区域の崩壊……スタンピードが始まったようだ。幸いと言っていいのかわからないが、今崩壊が始まったのはランク1の立入禁止区域だ。ランクが上がれば対機械魔領域も強固なものになっているから今はまだ大丈夫だが……いずれ崩壊は避けられないだろうな。」
真剣そのもののリンリッドに、冗談ではないことを悟ったリヒテルとガルラ。
しかし、マリリンがなぜその情報をつかんできたのか気になったリヒテル。
だが、それを確認したところで教えてもらえないだろうなという確信があったので、この場では口を閉ざすこととした。
「リンリッドの坊や、狩猟者連合協同組合はどうするつもり?このまま静観ってことはないでしょ?」
少し考えたそぶりを見せたラミアは、狩猟者連合協同組合の動向について確認を求めた。
「はい、おそらくは大量に依頼をばらまくはずです。ただ、その資金も限界がありますから、帝国がどうするかで全てが変わるかと……」
「あの皇帝が……出すわけないわね。諸侯たちはどう動くかしらね。それ次第ではこの国は速攻で潰れるわよ。」
ラミアの言葉に息をのむリヒテル。
国が終わるということは、生活圏を追われるということに他ならなかった。
リヒテルの脳裏に、家族や友人たちの顔が浮かんでは消えていった。
失くしたくないという思いで溢れそうになっていた。
「その辺は抜かりなく。ちゃんと手紙は出しておいたわよ。おそらく動いてくれるはず。まあ、動かなかったらどうなるか……あぁん。滾ってくるわぁ~」
クネクネとしながらも、獰猛な目つきのままのマリリン。
その恍惚とした表情に悪寒を覚え、知らず知らずのうちにリヒテルは身震いしていたのだった。
「二人とも、儂も……私も隊へ同行する。狩猟者連合協同組合は……まあ何とでもなるだろうが……隊は難しいだろうな。」
深いため息とともに同行を申し出るリンリッド。
リヒテルとしてはこれ以上ない心強い助っ人だ。
ガルラも否はなく、リンリッドを伴って二人は隊舎へと戻ることとした。
——————
ガランゴロンガラン
隊舎の重い扉を開くと、センターホールにたくさんの隊員が集まっていた。
どこか緊張感の漂う状況に、一瞬気後れしそうになるリヒテル。
皆の視線が入ってリンリッドへと集まった。
その視線を気にすることなく、リンリッドは奥へと進んでいく。
それにつられてリヒテルとガルラも同じく奥へと進む。
しばらく奥へ進むと、大きな扉が姿を現した。
看板には「大会議室」と書かれており、中からは何か騒がしい声が聞こえてくる。
漏れ聞こえる言葉でも、あまりいいことはないだろうと思えるような罵声も飛び交っているようだった。
リンリッドは躊躇することなくその扉を押し開ける。
先ほどまで騒がしかった室内は一瞬にして静けさを取り戻した。
何事かと全員の視線がリンリッドへと集中していく。
「誰だ!!現在会議中だ!!出ていきなさい!!」
声を荒げたのは一番奥に腰を下ろした男性であった。
体格はそれほど大きいとは言えないが、きりりとした表情とたたずまいに何かしらのオーラを感じざるを得ない。
「ロレンツィオ……。お前も偉くなったもんだな。今やお前が総隊長だとはな。」
「先生?リンリッド先生ですか!?いやしかし……お姿が……」
先ほども迄も態度と一変し、どこか慌てた様子のロレンツィオ。
その様子を冷めた目で見つめるリンリッド。
二人の間に何があったかは分からないが、ロレンツィオの慌てぶりに皆が動揺を隠せなかった。
辰之進は司会進行役なのであろうか、ロレンツィオの席の隣に座っており、リンリッドを確認すると勢いよく立ち上がり、すぐさま駆け寄ってきたのだ。
「老師……なのですか?いや、確かに昔のお姿ですが、いったい何が……」
「その話はおいおいな。それよりもだ……ロレンツィオ……お前が何をしたか理解しているのか?」
さらに鋭い目つきになるリンリッドに、ロレンツィオは動揺をさらに強くさせていく。
「さ、さぁ、何のことでしょうか。私には先生のおっしゃってる意味が分かりません。今この場では突破された対機械魔領域の対応についてどうするかを話し合っております。先生と言えど邪魔をするのであればただでは済まされませんよ?」
虚勢なのか、ロレンツィオは額の汗をぬぐいながらも強い態度を崩すことはなかった。
リンリッドはヅカヅカと我が物顔で会議室を奥へと進んでいく。
リンリッドが近づくほどロレンツィオの顔色が悪くなっていった。
「で?何の話をしていたんだ?もちろん対策についてだよな?まさかと思うがクーデターの話し合いではあるまいな?」
ロレンツィオの表情が一層こわばっていく。
リンリッドから出たクーデターの言葉に反応した隊員もわずかにいた。
それを見逃さなかった辰之進は、リンリッドの目的もおおよそ理解できて来た。
「先生、いったい何の話でしょうか?」
「そうかそうか。ならばこの資料を説明してくれるか?私にもわかりやすくな。」
ロレンツィオの目の前に、紙束がどさりと投げ捨てられる。
リンリッドがインベントリから取り出した量は、十数束に及ぶものであった。
辰之進はリンリッドに断り、その一つを手に取る。
ロレンツィオは慌てて取り返そうとするも、リンリッドからのもたらされた威圧によってそれを遮られた。
「老師……これは本当ですか?」
「間違いないだろうな。ギルドの暗部とマリリンに調べさせたんだから確度は高い。」
資料から目を離した辰之進は、一人の男性に視線を向ける。
その先にいたのは脂汗をだらだらと流し、今にも倒れそうなほど青ざめたリシャース・威張の姿があった。
「どういうことか説明願えますか?威張大隊長殿。」
辰之進の鋭い視線に、しどろもどろになりながら何か言い訳を始めたリシャース。
しかし、ろれつが回っていないのか聞き取ることは出来なかった。
次第に呼吸も荒くなり、そのまま突っ伏してしまった。
突っ伏したまま不気味に笑い続けるリシャースを見て、話ができないと考えた辰之進は視線をロレンツィオに戻したのだった。
数台の台車を、仲間たちと一緒に押してきたのだ。
「親方、メンテナンス完了です。問題はなさそうでしたんで、軽い調整と表面加工のみに抑えました。」
手渡されたアーマーを確認すると、じっくりと観察するラミア。
一つ二つ頷くと、そっと青年に手渡す。
「これなら問題ないわね。メンテ完了を了承した。二人とも確認作業を行ってちょうだい。」
ラミアがそういうと、青年たちはリヒテルたちを囲んで装備を付け始めた。
なんとも言えない状況に困惑していると、装着は無事完了し違和感がないかを確認する。
裏庭を借りて軽い組手をするリヒテルとガルラ。
お互いに、ゆっくりとした攻防を繰り広げる。
そして徐々にその速度を上げていくと、リンリッドもラミアも頷きながらその光景を観察していた。
ある程度確認できたところで、二人はその手を止めた。
呼吸を整えると、二人は互いに礼をして組手を終えたのだった。
「どうかしら?」
「前より動きやすいですね。」
「だな。自分で手入れはしていたがよ、やっぱプロは違うな。」
ラミアの問いかけに素直に答えた二人。
その出来栄えに自然と笑みがこぼれていた。
弟子の成長を感じラミアはもまたほほ笑んでいた。
しばらくリヒテルとガルラは互いの動きについて話をしていると、真剣な表情を浮かべたマリリンがやってきた。
「リンリッドちゃん……どうやら最悪の事態になってるみたいよ。」
「やはりか……」
リンリッドは、自分の予感が的中していたことに肩を落とした。
何事かと思い、リヒテルとガルラは慌ててリンリッドへと駆け寄った。
リンリッドはどう説明したものかと考えていたが、詰所へ戻れば手に入れられる情報だと思いリヒテルたちに話を聞かせた。
「世界各地で立入禁止区域の崩壊……スタンピードが始まったようだ。幸いと言っていいのかわからないが、今崩壊が始まったのはランク1の立入禁止区域だ。ランクが上がれば対機械魔領域も強固なものになっているから今はまだ大丈夫だが……いずれ崩壊は避けられないだろうな。」
真剣そのもののリンリッドに、冗談ではないことを悟ったリヒテルとガルラ。
しかし、マリリンがなぜその情報をつかんできたのか気になったリヒテル。
だが、それを確認したところで教えてもらえないだろうなという確信があったので、この場では口を閉ざすこととした。
「リンリッドの坊や、狩猟者連合協同組合はどうするつもり?このまま静観ってことはないでしょ?」
少し考えたそぶりを見せたラミアは、狩猟者連合協同組合の動向について確認を求めた。
「はい、おそらくは大量に依頼をばらまくはずです。ただ、その資金も限界がありますから、帝国がどうするかで全てが変わるかと……」
「あの皇帝が……出すわけないわね。諸侯たちはどう動くかしらね。それ次第ではこの国は速攻で潰れるわよ。」
ラミアの言葉に息をのむリヒテル。
国が終わるということは、生活圏を追われるということに他ならなかった。
リヒテルの脳裏に、家族や友人たちの顔が浮かんでは消えていった。
失くしたくないという思いで溢れそうになっていた。
「その辺は抜かりなく。ちゃんと手紙は出しておいたわよ。おそらく動いてくれるはず。まあ、動かなかったらどうなるか……あぁん。滾ってくるわぁ~」
クネクネとしながらも、獰猛な目つきのままのマリリン。
その恍惚とした表情に悪寒を覚え、知らず知らずのうちにリヒテルは身震いしていたのだった。
「二人とも、儂も……私も隊へ同行する。狩猟者連合協同組合は……まあ何とでもなるだろうが……隊は難しいだろうな。」
深いため息とともに同行を申し出るリンリッド。
リヒテルとしてはこれ以上ない心強い助っ人だ。
ガルラも否はなく、リンリッドを伴って二人は隊舎へと戻ることとした。
——————
ガランゴロンガラン
隊舎の重い扉を開くと、センターホールにたくさんの隊員が集まっていた。
どこか緊張感の漂う状況に、一瞬気後れしそうになるリヒテル。
皆の視線が入ってリンリッドへと集まった。
その視線を気にすることなく、リンリッドは奥へと進んでいく。
それにつられてリヒテルとガルラも同じく奥へと進む。
しばらく奥へ進むと、大きな扉が姿を現した。
看板には「大会議室」と書かれており、中からは何か騒がしい声が聞こえてくる。
漏れ聞こえる言葉でも、あまりいいことはないだろうと思えるような罵声も飛び交っているようだった。
リンリッドは躊躇することなくその扉を押し開ける。
先ほどまで騒がしかった室内は一瞬にして静けさを取り戻した。
何事かと全員の視線がリンリッドへと集中していく。
「誰だ!!現在会議中だ!!出ていきなさい!!」
声を荒げたのは一番奥に腰を下ろした男性であった。
体格はそれほど大きいとは言えないが、きりりとした表情とたたずまいに何かしらのオーラを感じざるを得ない。
「ロレンツィオ……。お前も偉くなったもんだな。今やお前が総隊長だとはな。」
「先生?リンリッド先生ですか!?いやしかし……お姿が……」
先ほども迄も態度と一変し、どこか慌てた様子のロレンツィオ。
その様子を冷めた目で見つめるリンリッド。
二人の間に何があったかは分からないが、ロレンツィオの慌てぶりに皆が動揺を隠せなかった。
辰之進は司会進行役なのであろうか、ロレンツィオの席の隣に座っており、リンリッドを確認すると勢いよく立ち上がり、すぐさま駆け寄ってきたのだ。
「老師……なのですか?いや、確かに昔のお姿ですが、いったい何が……」
「その話はおいおいな。それよりもだ……ロレンツィオ……お前が何をしたか理解しているのか?」
さらに鋭い目つきになるリンリッドに、ロレンツィオは動揺をさらに強くさせていく。
「さ、さぁ、何のことでしょうか。私には先生のおっしゃってる意味が分かりません。今この場では突破された対機械魔領域の対応についてどうするかを話し合っております。先生と言えど邪魔をするのであればただでは済まされませんよ?」
虚勢なのか、ロレンツィオは額の汗をぬぐいながらも強い態度を崩すことはなかった。
リンリッドはヅカヅカと我が物顔で会議室を奥へと進んでいく。
リンリッドが近づくほどロレンツィオの顔色が悪くなっていった。
「で?何の話をしていたんだ?もちろん対策についてだよな?まさかと思うがクーデターの話し合いではあるまいな?」
ロレンツィオの表情が一層こわばっていく。
リンリッドから出たクーデターの言葉に反応した隊員もわずかにいた。
それを見逃さなかった辰之進は、リンリッドの目的もおおよそ理解できて来た。
「先生、いったい何の話でしょうか?」
「そうかそうか。ならばこの資料を説明してくれるか?私にもわかりやすくな。」
ロレンツィオの目の前に、紙束がどさりと投げ捨てられる。
リンリッドがインベントリから取り出した量は、十数束に及ぶものであった。
辰之進はリンリッドに断り、その一つを手に取る。
ロレンツィオは慌てて取り返そうとするも、リンリッドからのもたらされた威圧によってそれを遮られた。
「老師……これは本当ですか?」
「間違いないだろうな。ギルドの暗部とマリリンに調べさせたんだから確度は高い。」
資料から目を離した辰之進は、一人の男性に視線を向ける。
その先にいたのは脂汗をだらだらと流し、今にも倒れそうなほど青ざめたリシャース・威張の姿があった。
「どういうことか説明願えますか?威張大隊長殿。」
辰之進の鋭い視線に、しどろもどろになりながら何か言い訳を始めたリシャース。
しかし、ろれつが回っていないのか聞き取ることは出来なかった。
次第に呼吸も荒くなり、そのまま突っ伏してしまった。
突っ伏したまま不気味に笑い続けるリシャースを見て、話ができないと考えた辰之進は視線をロレンツィオに戻したのだった。
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