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第5章 壁の先にあるもの
第47話 クーデター計画とゴールドラッド
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大隊を率いて急ぎ帝都に戻ったリヒテルたちが見たものは、混乱を極めた帝都であった。
各地から逃げ伸びた人々が帝都入り口にごった返し、今にも暴徒へと変わろうとしているかのようであった。
聞こえてくる怒号。
泣き縋る女性の声。
子供の泣き声。
幾多の声が折り重なり、一種異様な雰囲気を作り出してた。
辰之進率いる第1大隊は、隊用の出入り口から中へと入っていった。
そのあとをついて入ろうとする市民を押し返す隊員の表情は、どこかすぐれなかった。
本当は、今すぐにでも中に避難させたい思いでいっぱいであった。
しかし、上層部からの指示は入都拒否であった。
正当な理由なき者は、一切帝都には入れない。
それがどれだけの反感を買うのか、下っ端の隊員でさえ容易に想像はついた。
狩猟者連合協同組合を経由して隊舎へと戻った第1大隊は、即座に解散し、各々のエリアへと移動していった。
もちろんリシャースは、自分への扱いにずっと文句と垂れ流していたが、誰一人として聞くものはいなかった。
——————
「おう、戻ったぁ~ね。」
「老師!?」
驚きを隠せないリヒテルをよそに、リンリッドは座っていた椅子からひょいと立ち上がると、辰之進たちの元へとやってきた。
その表情は飄々としたふざけたいつもの表情とは違い、真剣そのものであった。
「久しぶりだな、辰之進。腕は錆びとらんな……ならば問題ないだろう。それはそうと、各所から情報が上がっておるぞ?まとめておいたからすぐに目を通すといい。」
そういうと、リンリッドは一束の書類を辰之進へと渡す。
今度は好々爺然とした表情を浮かべていた。
「リヒテルは……うむ、成長したのぉ~。その様子ではセイフティーロックがうまく機能しているようだの。ここに任せて正解だったという事かの。」
「老師……」
リヒテルとしては、リンリッドに言いたいことがたくさんあった。
手紙を託され送り出された先で学ぶことは多かった。
リンリッドの修業があったからこそ、ここでの訓練も問題なくこなすことができた。
再開したら必ず文句を言ってやろうと心に誓っていたリヒテルだったが、出てきた言葉は違った。
「リンリッド老師、あなたのおかげで強くなれました。ありがとうございます。」
「いいていいて。なんぞこそばゆいのぉ。」
照れ隠しなのか、リヒテルのまっすぐな感謝におちゃらけて見せるリンリッド。
その様子をみていたアドリアーノたちは、何か不思議な光景でも目にしているかのように、一様に驚きの表情を浮かべていたのだった。
「老師、これは間違いないことなんですか?」
「ん?あぁ、間違いなかろうて。こちらで調べた限りでは……という前提条件付きじゃがの。あながち外れてはおらんよ。そして儂は道化を演じさせられていた……という事だろうねぇ。」
辰之進はリンリッドの言葉を聞き、憤りを抑えきれずにいた。
今すぐにでも暴れたい気持ちを気力で抑え込み、何とか耐えきったようであった。
アドリアーノは辰之進の持つ資料を奪い取ると、フムフムと読み始める。
とたん、その表情に影が落ちる。
さらに読み進めるうちに、その顔に赤みを帯びていく。
髪の毛が逆立ち始め、アドリアーノから漏れ出した魔素が渦を巻き始める。
それを危険と察知したのか、リチャードがアドリアーノの肩をたたく。
すると、はっと気が付いたかのように魔素を落ち着かせたアドリアーノ。
書かれた内容に我を忘れそうになっていたようであった。
「これが現実だとしたら……あまりにも馬鹿げてる。何を考えているんだ総隊長は……」
辰之進がリンリッドに目配せすると、リンリッドも無言で頷いた。
覚悟を決めたのか、辰之進がリンリッドの報告書の解説を始めた。
曰く、ロイドを貶めたゴールドラッドは、リンリッドをはじめとした狩猟者連合協同組合上層部によって抹殺されたこと。
曰く、その作戦は防衛隊との合同で進められ、当時大隊長だった威張の指揮かで行われたということ。
曰く、ゴールドラッドの死亡は威張によって偽装されていたということ。
曰く、ゴールドラッドと手を組み帝国へのクーデターを企てていたこと。
極めつけは、今回の一件はすべて威張によって仕組まれていたということ。
中隊メンバーは誰一人として声が出せずにいた。
武門の名家として名高い威張家次期党首であり、だれからも慕われていたはずの総隊長が、市民の大量犠牲を伴ってでも国家転覆を謀ろうとしていることに、誰しもが頭が付いていけない様子であった。
「以上が事のあらましだ。この件はかん口令を敷き、今後一切外部への流失を禁止する。」
辰之進の一言で、その場の空気が一層重くなる。
リンリッドの表情も真剣そのもので、リヒテルもまた重苦しい空気にのまれていったのであった。
「今の段階では俺達にはどうにもできない。まだ行動を起こしたわけでもないので訴えたところで黙殺されるのがおちだ。だから俺たちができることをやろう。一人でも多くの人を機械魔から守ること。俺はこれから各隊と調整をしてくる。アドリアーノ、後の準備を頼んだ。」
「任された。隊長……、無茶はすんなよ?」
クスリと辰之進は笑い、中隊隊舎を後にした。
残されたメンバーは、アドリアーノが中心となって準備を進めていく。
不足した物資の調達や、武具の調整。
やることは多岐にわたった。
リヒテルもまた、物資調達の為に無道武具店に足を運んでいた。
「お、リヒテルも調整に来たのか?」
そこにいたのは懐かし人物だった。
おおよそ1年前、リンリッドの下で共に修業した仲間のガルラだった。
リヒテルは久々の再開に一瞬うれしく思ったが、ガルラの雰囲気が1年前に比べ凄みを増していることに少しだけ嫉妬心が芽生えてしまった。
ガルラは1年前、リヒテルと別れ第1大隊第3中隊へ配属された。
ザック・川西率いる第3中隊は、第1中隊とは全く違う性格の隊であった。
第1中隊が自由戦闘に重きを置いているのに対して、第3中隊は集団戦闘に重きを置いていた。
そのため規律を重んじる隊則も存在し、どこか不真面目感があったガルラから、そういった空気が消えていたのだ。
「ガルラも元気そうだね。同じ大隊所属だけど全然合わないもんだね。」
「確かにな。俺たち第3中隊はまとまって立入禁止区域に入っちまうからな。それにしてもリヒテル……成長しないな?」
「うっせぇ!!」
久しぶりに聞くガルラの軽口に、リヒテルは思わず悪態をつく。
そのやり取りが懐かしかったのか、二人は顔を見合わせて笑い合っていた。
「二人とも青春だね。」
二人のやり取りが終わるタイミングを見計らい、ラミアが声をかける。
その表情はどこか懐かしそうなものを見るようで、少しだけ羨ましそうでありながらどこかさみしげであった。
「あ、ラミアさんこんにちは。装備品のメンテと新調をしようと思って。それと魔道具類も手に入れば買いたいですね。」
「やっぱりリヒテル君もなんだね。さっきから隊の人間がやってきてるから何事かと思ってたら……あの噂は本当のようだね。」
リヒテルは噂の内容を知らないでいたために、ラミアが何を話しているのかよくわかっていなかった。
ガルラはそんなリヒテルを見て、仕方がないとばかりに説明を買って出てくれた。
「ラミアさん、噂ってのは三首の守護者の件ですよね?復活したとかなんとか。俺もさっき酒場でその噂話を聞いたんだが……眉唾であってほしいって思いと、今度こそって思いで変な感じがする。」
ガルラは獰猛な笑みを浮かべていた。
本人は気が付いていないようだったが、今にも戦いを挑みたいと言わんばかりであった。
「噂は噂。確証はないよ。っと、リヒテル君は何か知っていそうだね。と言っても守秘義務で話せないか……」
「すいません……」
リヒテルは思わず頭を下げてしまった。
本来は知らぬ存ぜぬで通さないといけない場面であったが、まだまだ甘さが抜けていないようであった。
リヒテルの反応で確信を持ったラミアは、深いため息をついたのであった。
各地から逃げ伸びた人々が帝都入り口にごった返し、今にも暴徒へと変わろうとしているかのようであった。
聞こえてくる怒号。
泣き縋る女性の声。
子供の泣き声。
幾多の声が折り重なり、一種異様な雰囲気を作り出してた。
辰之進率いる第1大隊は、隊用の出入り口から中へと入っていった。
そのあとをついて入ろうとする市民を押し返す隊員の表情は、どこかすぐれなかった。
本当は、今すぐにでも中に避難させたい思いでいっぱいであった。
しかし、上層部からの指示は入都拒否であった。
正当な理由なき者は、一切帝都には入れない。
それがどれだけの反感を買うのか、下っ端の隊員でさえ容易に想像はついた。
狩猟者連合協同組合を経由して隊舎へと戻った第1大隊は、即座に解散し、各々のエリアへと移動していった。
もちろんリシャースは、自分への扱いにずっと文句と垂れ流していたが、誰一人として聞くものはいなかった。
——————
「おう、戻ったぁ~ね。」
「老師!?」
驚きを隠せないリヒテルをよそに、リンリッドは座っていた椅子からひょいと立ち上がると、辰之進たちの元へとやってきた。
その表情は飄々としたふざけたいつもの表情とは違い、真剣そのものであった。
「久しぶりだな、辰之進。腕は錆びとらんな……ならば問題ないだろう。それはそうと、各所から情報が上がっておるぞ?まとめておいたからすぐに目を通すといい。」
そういうと、リンリッドは一束の書類を辰之進へと渡す。
今度は好々爺然とした表情を浮かべていた。
「リヒテルは……うむ、成長したのぉ~。その様子ではセイフティーロックがうまく機能しているようだの。ここに任せて正解だったという事かの。」
「老師……」
リヒテルとしては、リンリッドに言いたいことがたくさんあった。
手紙を託され送り出された先で学ぶことは多かった。
リンリッドの修業があったからこそ、ここでの訓練も問題なくこなすことができた。
再開したら必ず文句を言ってやろうと心に誓っていたリヒテルだったが、出てきた言葉は違った。
「リンリッド老師、あなたのおかげで強くなれました。ありがとうございます。」
「いいていいて。なんぞこそばゆいのぉ。」
照れ隠しなのか、リヒテルのまっすぐな感謝におちゃらけて見せるリンリッド。
その様子をみていたアドリアーノたちは、何か不思議な光景でも目にしているかのように、一様に驚きの表情を浮かべていたのだった。
「老師、これは間違いないことなんですか?」
「ん?あぁ、間違いなかろうて。こちらで調べた限りでは……という前提条件付きじゃがの。あながち外れてはおらんよ。そして儂は道化を演じさせられていた……という事だろうねぇ。」
辰之進はリンリッドの言葉を聞き、憤りを抑えきれずにいた。
今すぐにでも暴れたい気持ちを気力で抑え込み、何とか耐えきったようであった。
アドリアーノは辰之進の持つ資料を奪い取ると、フムフムと読み始める。
とたん、その表情に影が落ちる。
さらに読み進めるうちに、その顔に赤みを帯びていく。
髪の毛が逆立ち始め、アドリアーノから漏れ出した魔素が渦を巻き始める。
それを危険と察知したのか、リチャードがアドリアーノの肩をたたく。
すると、はっと気が付いたかのように魔素を落ち着かせたアドリアーノ。
書かれた内容に我を忘れそうになっていたようであった。
「これが現実だとしたら……あまりにも馬鹿げてる。何を考えているんだ総隊長は……」
辰之進がリンリッドに目配せすると、リンリッドも無言で頷いた。
覚悟を決めたのか、辰之進がリンリッドの報告書の解説を始めた。
曰く、ロイドを貶めたゴールドラッドは、リンリッドをはじめとした狩猟者連合協同組合上層部によって抹殺されたこと。
曰く、その作戦は防衛隊との合同で進められ、当時大隊長だった威張の指揮かで行われたということ。
曰く、ゴールドラッドの死亡は威張によって偽装されていたということ。
曰く、ゴールドラッドと手を組み帝国へのクーデターを企てていたこと。
極めつけは、今回の一件はすべて威張によって仕組まれていたということ。
中隊メンバーは誰一人として声が出せずにいた。
武門の名家として名高い威張家次期党首であり、だれからも慕われていたはずの総隊長が、市民の大量犠牲を伴ってでも国家転覆を謀ろうとしていることに、誰しもが頭が付いていけない様子であった。
「以上が事のあらましだ。この件はかん口令を敷き、今後一切外部への流失を禁止する。」
辰之進の一言で、その場の空気が一層重くなる。
リンリッドの表情も真剣そのもので、リヒテルもまた重苦しい空気にのまれていったのであった。
「今の段階では俺達にはどうにもできない。まだ行動を起こしたわけでもないので訴えたところで黙殺されるのがおちだ。だから俺たちができることをやろう。一人でも多くの人を機械魔から守ること。俺はこれから各隊と調整をしてくる。アドリアーノ、後の準備を頼んだ。」
「任された。隊長……、無茶はすんなよ?」
クスリと辰之進は笑い、中隊隊舎を後にした。
残されたメンバーは、アドリアーノが中心となって準備を進めていく。
不足した物資の調達や、武具の調整。
やることは多岐にわたった。
リヒテルもまた、物資調達の為に無道武具店に足を運んでいた。
「お、リヒテルも調整に来たのか?」
そこにいたのは懐かし人物だった。
おおよそ1年前、リンリッドの下で共に修業した仲間のガルラだった。
リヒテルは久々の再開に一瞬うれしく思ったが、ガルラの雰囲気が1年前に比べ凄みを増していることに少しだけ嫉妬心が芽生えてしまった。
ガルラは1年前、リヒテルと別れ第1大隊第3中隊へ配属された。
ザック・川西率いる第3中隊は、第1中隊とは全く違う性格の隊であった。
第1中隊が自由戦闘に重きを置いているのに対して、第3中隊は集団戦闘に重きを置いていた。
そのため規律を重んじる隊則も存在し、どこか不真面目感があったガルラから、そういった空気が消えていたのだ。
「ガルラも元気そうだね。同じ大隊所属だけど全然合わないもんだね。」
「確かにな。俺たち第3中隊はまとまって立入禁止区域に入っちまうからな。それにしてもリヒテル……成長しないな?」
「うっせぇ!!」
久しぶりに聞くガルラの軽口に、リヒテルは思わず悪態をつく。
そのやり取りが懐かしかったのか、二人は顔を見合わせて笑い合っていた。
「二人とも青春だね。」
二人のやり取りが終わるタイミングを見計らい、ラミアが声をかける。
その表情はどこか懐かしそうなものを見るようで、少しだけ羨ましそうでありながらどこかさみしげであった。
「あ、ラミアさんこんにちは。装備品のメンテと新調をしようと思って。それと魔道具類も手に入れば買いたいですね。」
「やっぱりリヒテル君もなんだね。さっきから隊の人間がやってきてるから何事かと思ってたら……あの噂は本当のようだね。」
リヒテルは噂の内容を知らないでいたために、ラミアが何を話しているのかよくわかっていなかった。
ガルラはそんなリヒテルを見て、仕方がないとばかりに説明を買って出てくれた。
「ラミアさん、噂ってのは三首の守護者の件ですよね?復活したとかなんとか。俺もさっき酒場でその噂話を聞いたんだが……眉唾であってほしいって思いと、今度こそって思いで変な感じがする。」
ガルラは獰猛な笑みを浮かべていた。
本人は気が付いていないようだったが、今にも戦いを挑みたいと言わんばかりであった。
「噂は噂。確証はないよ。っと、リヒテル君は何か知っていそうだね。と言っても守秘義務で話せないか……」
「すいません……」
リヒテルは思わず頭を下げてしまった。
本来は知らぬ存ぜぬで通さないといけない場面であったが、まだまだ甘さが抜けていないようであった。
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