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第5章 壁の先にあるもの
第44話 撤退
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「佐々木中隊長、アドリアーノ小隊無事帰還しました。」
何とか撤退を完了させたリヒテルたちは、5番ゲートで待っていた辰之進たちと合流を果たした。
激しい雷撃はここからでも見えていたようで、逃げ切れると確信していた辰之進たちが待っていてくれたのだ。
「無事でよかった。まずはこのまま第一大隊と合流し本部へ帰還する。」
「了解!!」
そう伝えると足早にその場を去っていく辰之進。
さすがに疲れたのか、リヒテルたちアドリアーノ小隊はその場にへたり込んでしまった。
「あら?無事だったみたいね。リヒテル君も無事で安心したわ。」
医療部隊の多脚型輸送機から姿を現したのは、景虎であった。
リヒテルはその姿を見て、やはりどっからどう見ても女性にしか見えないと思ってしまった。
エイミーが景虎の姿を見るや否や、ガバリと抱き着いた。
「影ちゃん疲れたよ~。いつもの栄養剤頂戴!!」
「エイミー!!ダメだって。あれは栄養剤じゃなくて、痛み止め。疲れとってるわけじゃないからね?あくまでも誤魔化してるだけだから。もぉ~ほら、くっつかないの!!」
ぐいぐいと近づくエイミーを、無理やり引き離そうとする景虎。
その光景は、どこか近づきがたい空気を醸し出していた。
しかし、その空気を一瞬にして引き離す強者がアレックスである。
「二人ともまだ作戦行動中だ。じゃれるのは帝都に戻ってからにすること。」
「もう、アレックスは固すぎ。」
アレックスによって引き離されたエイミーは、どこか不満げな表情を浮かべていた。
しかし、その中にかすかな悲しみをリヒテルは感じずにはいられなかった。
いまだにエイミーは、ライガとヒョウガのことを引きずっているのは明白である。
「全く。エイミー、後で話聞いてあげるから今は我慢して。」
「……うん。」
ライガたちのことを聞いていた景虎は、エイミーの心の傷を心配していた。
今回の甘えは、おそらくそれが原因だろうとの思いからだ。
アドリアーノ小隊が到着してしばらくすると、現在確認されている狩猟者すべてゲートから立入禁止区域からの避難が完了した旨の報告が辰之進の元へ届いた。
それからすぐに立入禁止区域すべてのゲートが閉ざされたのだった。
「これで一息付けそうだな隊長。」
「アドリアーノ。あぁ、そうだな。よし、みんな!!これより佐々木中隊は帝都手前で駐留中の第一大隊と合流後、帝都へ帰還する!!各自準備ののち10分後に出発する!!」
辰之進の号令を機に、皆一斉に行動を開始した。
その行動は訓練された通り、迅速なものだった。
追加派遣されていた補給部隊から物資を受け取ったアドリアーノ小隊も、各自の準備を開始する。
リヒテルは、弾薬と魔石の補給を行えて、少しほっとしていた。
補給前にまた黒フードの集団に襲撃された場合、今度こそ対抗する手段がなくなってしまっていたからだ。
そのあからさまな安堵の顔に、気の緩みを感じたアドリアーノ。
「リヒテル、まだ作戦行動中だ。気を抜くのは早いぞ?」
「あ、えっと、すいません。ここまで物資が心もとなかったからつい……」
自分では気が付かなかった気の緩みを指摘され、慌てるリヒテル。
それほどまでに、ずっと緊張を続けていたようだった。
「まあ、斯く言う俺も、戻ったらどこの店いこうかなって考えてんだがな。どうだリヒテルお前も一緒に?」
ニマニマとしながら肩を組むアドリアーノに、一抹の不安を覚えたリヒテル。
さすがにこれに乗ってはいけないと、本能が警鐘を鳴らしていた。
「アドリアーノ隊長……どうせろくなお店じゃないんでしょ?お断りします。」
「つれないこと言うなよ、リヒテル。」
いまだウザがらみを続けるアドリアーノに、少しだけあきれてしまったリヒテル。
どうしたものかと考えていると、突然アドリアーノがもんどりうって前方にごろげていった。
何事かとリヒテルは後ろを振り向くと、片足をあげて怒り心頭のエイミーの姿があったのだ。
「こら隊長!!リヒテル君を汚すな!!」
「いてーなエイミー。俺はだな、リヒテルの緊張をほぐそうとだな……」
「うっさいヘンタイ!!行こう、リヒテル君。」
リヒテルはあまりの恐怖に、壊れた人形のように縦に頭を振り続けるしかなかったのだった。
そんなやり取りを遠目で見ていた辰之進は、心配していたようにならなかったことを安堵していた。
「たっちゃんたら過保護なんだから。」
「隊長と呼べ景虎。」
景虎はムスッとしながらも、辰之進の脇腹をずっとツンツンと突っついていた。
それが何を意味するのか辰之進はわかっているだけに、返答も雑なものになっていた。
「で、アドリアーノ隊が回収してきた遺体はどうだった?」
「そうね、ライガたち補給部隊で間違いないわ。ただ、アドリアーノ隊長からも報告あったと思うけど、遺体数が明らかに少ないわ。ライガの件を考えても……」
景虎の表情が一気に曇る。
辰之進も考えたくはないと思っていた。
しかし現実問題として、ライガは寄生種・擬態種によってその頭部を乗っ取られていた。
しかも生前の記憶をそのまま使われて。
最悪、こちらの情報も漏れていると考えて間違いないだろうというのが上層部の結論だった。
「おそらく、通信機その他も黒フードの集団に回収されているだろうな。」
「三首の守護者……ね。今になって亡霊が何しようってのかしら。」
「わからん。だが、報告の内容が間違いないのであれば……」
「あの噂……世界遡及……。本当なのかしらね。」
辰之進はその噂を耳にしたとき、あまりの滑稽さに笑いすら起きなかった。
しかし、報告の内容を考えれば、あながち噂ではないのかもしれないとも思えてきた。
「その件は、上層部が判断するだろう。俺たちは俺たちの仕事を全うするだけだ。」
「そうね。」
——————
5番ゲートを出発した佐々木中隊は、一路第一大隊との合流地点へと向かっていた。
他の狩猟者たちも同行しているため、その車列はかなりのものになっていた。
多脚型の輸送車両が、ガチャガチャと音を立てながら列をなして行進していく姿は、なんとも形容しがたいものであった。
「それにしてもこの輸送車両、振動なんとかなんないのかな?立入禁止区域内とか悪路だと気にならないんだけど、舗装路だとさすがにね……」
若干顔を青ざめさせたエイミーが、悪態をついていた。
これについては皆も同様に思っており、長年開発部で開発を続けているものの、実用には至っていなかった。
大型車両の外側に、無理やり多脚をつける試みはされたものの、重量過多により悪路での移動が困難を極めた。
さらに装輪での走行は、こちらも重量過多で燃費がすこぶる悪いというおまけ付きであったため、とん挫したようだった。
結果として悪路を優先した為に、多脚型が採用され配備されたようだ。
「そう愚痴るな。これでも一昔前よりはましになったんだぞ?」
「だってさぁ~。」
アドリアーノがエイミーを諫めるも、どこか憮然とした態度を崩さなかったエイミーであった。
リヒテルは車両酔いとは無縁であった為、車窓から景色をゆっくりと眺めていた。
既に移動は半分以上消化し、これより1時間以内には、大隊との合流を果たせそうな状況であった。
『こちら第一大隊通信司令部、佐々木中隊応答願います。』
「こちら佐々木中隊隊長の佐々木だ。いかようか?」
距離的にも時間的にもあとわずかという場面で、突如車載通信機から女性の声が聞こえる。
その声は若干おびえており、何か問題が発生したのかと辰之進は気構えていた。
『私を待たせるとはどういうことだ佐々木!!』
聞こえてきた声に、メンバー全員がげんなりとした表情を浮かべていたのだった。
何とか撤退を完了させたリヒテルたちは、5番ゲートで待っていた辰之進たちと合流を果たした。
激しい雷撃はここからでも見えていたようで、逃げ切れると確信していた辰之進たちが待っていてくれたのだ。
「無事でよかった。まずはこのまま第一大隊と合流し本部へ帰還する。」
「了解!!」
そう伝えると足早にその場を去っていく辰之進。
さすがに疲れたのか、リヒテルたちアドリアーノ小隊はその場にへたり込んでしまった。
「あら?無事だったみたいね。リヒテル君も無事で安心したわ。」
医療部隊の多脚型輸送機から姿を現したのは、景虎であった。
リヒテルはその姿を見て、やはりどっからどう見ても女性にしか見えないと思ってしまった。
エイミーが景虎の姿を見るや否や、ガバリと抱き着いた。
「影ちゃん疲れたよ~。いつもの栄養剤頂戴!!」
「エイミー!!ダメだって。あれは栄養剤じゃなくて、痛み止め。疲れとってるわけじゃないからね?あくまでも誤魔化してるだけだから。もぉ~ほら、くっつかないの!!」
ぐいぐいと近づくエイミーを、無理やり引き離そうとする景虎。
その光景は、どこか近づきがたい空気を醸し出していた。
しかし、その空気を一瞬にして引き離す強者がアレックスである。
「二人ともまだ作戦行動中だ。じゃれるのは帝都に戻ってからにすること。」
「もう、アレックスは固すぎ。」
アレックスによって引き離されたエイミーは、どこか不満げな表情を浮かべていた。
しかし、その中にかすかな悲しみをリヒテルは感じずにはいられなかった。
いまだにエイミーは、ライガとヒョウガのことを引きずっているのは明白である。
「全く。エイミー、後で話聞いてあげるから今は我慢して。」
「……うん。」
ライガたちのことを聞いていた景虎は、エイミーの心の傷を心配していた。
今回の甘えは、おそらくそれが原因だろうとの思いからだ。
アドリアーノ小隊が到着してしばらくすると、現在確認されている狩猟者すべてゲートから立入禁止区域からの避難が完了した旨の報告が辰之進の元へ届いた。
それからすぐに立入禁止区域すべてのゲートが閉ざされたのだった。
「これで一息付けそうだな隊長。」
「アドリアーノ。あぁ、そうだな。よし、みんな!!これより佐々木中隊は帝都手前で駐留中の第一大隊と合流後、帝都へ帰還する!!各自準備ののち10分後に出発する!!」
辰之進の号令を機に、皆一斉に行動を開始した。
その行動は訓練された通り、迅速なものだった。
追加派遣されていた補給部隊から物資を受け取ったアドリアーノ小隊も、各自の準備を開始する。
リヒテルは、弾薬と魔石の補給を行えて、少しほっとしていた。
補給前にまた黒フードの集団に襲撃された場合、今度こそ対抗する手段がなくなってしまっていたからだ。
そのあからさまな安堵の顔に、気の緩みを感じたアドリアーノ。
「リヒテル、まだ作戦行動中だ。気を抜くのは早いぞ?」
「あ、えっと、すいません。ここまで物資が心もとなかったからつい……」
自分では気が付かなかった気の緩みを指摘され、慌てるリヒテル。
それほどまでに、ずっと緊張を続けていたようだった。
「まあ、斯く言う俺も、戻ったらどこの店いこうかなって考えてんだがな。どうだリヒテルお前も一緒に?」
ニマニマとしながら肩を組むアドリアーノに、一抹の不安を覚えたリヒテル。
さすがにこれに乗ってはいけないと、本能が警鐘を鳴らしていた。
「アドリアーノ隊長……どうせろくなお店じゃないんでしょ?お断りします。」
「つれないこと言うなよ、リヒテル。」
いまだウザがらみを続けるアドリアーノに、少しだけあきれてしまったリヒテル。
どうしたものかと考えていると、突然アドリアーノがもんどりうって前方にごろげていった。
何事かとリヒテルは後ろを振り向くと、片足をあげて怒り心頭のエイミーの姿があったのだ。
「こら隊長!!リヒテル君を汚すな!!」
「いてーなエイミー。俺はだな、リヒテルの緊張をほぐそうとだな……」
「うっさいヘンタイ!!行こう、リヒテル君。」
リヒテルはあまりの恐怖に、壊れた人形のように縦に頭を振り続けるしかなかったのだった。
そんなやり取りを遠目で見ていた辰之進は、心配していたようにならなかったことを安堵していた。
「たっちゃんたら過保護なんだから。」
「隊長と呼べ景虎。」
景虎はムスッとしながらも、辰之進の脇腹をずっとツンツンと突っついていた。
それが何を意味するのか辰之進はわかっているだけに、返答も雑なものになっていた。
「で、アドリアーノ隊が回収してきた遺体はどうだった?」
「そうね、ライガたち補給部隊で間違いないわ。ただ、アドリアーノ隊長からも報告あったと思うけど、遺体数が明らかに少ないわ。ライガの件を考えても……」
景虎の表情が一気に曇る。
辰之進も考えたくはないと思っていた。
しかし現実問題として、ライガは寄生種・擬態種によってその頭部を乗っ取られていた。
しかも生前の記憶をそのまま使われて。
最悪、こちらの情報も漏れていると考えて間違いないだろうというのが上層部の結論だった。
「おそらく、通信機その他も黒フードの集団に回収されているだろうな。」
「三首の守護者……ね。今になって亡霊が何しようってのかしら。」
「わからん。だが、報告の内容が間違いないのであれば……」
「あの噂……世界遡及……。本当なのかしらね。」
辰之進はその噂を耳にしたとき、あまりの滑稽さに笑いすら起きなかった。
しかし、報告の内容を考えれば、あながち噂ではないのかもしれないとも思えてきた。
「その件は、上層部が判断するだろう。俺たちは俺たちの仕事を全うするだけだ。」
「そうね。」
——————
5番ゲートを出発した佐々木中隊は、一路第一大隊との合流地点へと向かっていた。
他の狩猟者たちも同行しているため、その車列はかなりのものになっていた。
多脚型の輸送車両が、ガチャガチャと音を立てながら列をなして行進していく姿は、なんとも形容しがたいものであった。
「それにしてもこの輸送車両、振動なんとかなんないのかな?立入禁止区域内とか悪路だと気にならないんだけど、舗装路だとさすがにね……」
若干顔を青ざめさせたエイミーが、悪態をついていた。
これについては皆も同様に思っており、長年開発部で開発を続けているものの、実用には至っていなかった。
大型車両の外側に、無理やり多脚をつける試みはされたものの、重量過多により悪路での移動が困難を極めた。
さらに装輪での走行は、こちらも重量過多で燃費がすこぶる悪いというおまけ付きであったため、とん挫したようだった。
結果として悪路を優先した為に、多脚型が採用され配備されたようだ。
「そう愚痴るな。これでも一昔前よりはましになったんだぞ?」
「だってさぁ~。」
アドリアーノがエイミーを諫めるも、どこか憮然とした態度を崩さなかったエイミーであった。
リヒテルは車両酔いとは無縁であった為、車窓から景色をゆっくりと眺めていた。
既に移動は半分以上消化し、これより1時間以内には、大隊との合流を果たせそうな状況であった。
『こちら第一大隊通信司令部、佐々木中隊応答願います。』
「こちら佐々木中隊隊長の佐々木だ。いかようか?」
距離的にも時間的にもあとわずかという場面で、突如車載通信機から女性の声が聞こえる。
その声は若干おびえており、何か問題が発生したのかと辰之進は気構えていた。
『私を待たせるとはどういうことだ佐々木!!』
聞こえてきた声に、メンバー全員がげんなりとした表情を浮かべていたのだった。
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