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第5章 壁の先にあるもの

第43話 1000年のお伽噺

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「さぁ、再誕せよ。我が眷属たちよ!!過去の亡霊たちよ!!汝らが世界の覇者とならん!!」

 プロメテウスが、手にした杖を天に掲げると稲光が一閃。
 眩い光があたりを包み込んだ。
 その稲光は白ではなく、黒く淀んでいた。
 その稲光に当てられた魔石マナコアは、そろって脈動を開始する。
 ドクリドクリと蠢き始め、1つの生命体を作り出す。

 機械魔デモニクスが世界を席巻する前の最強の存在。
 魔物モンスターの大群だった。
 しかし、変化はそれだけで終わりではなかった。
 どこからともなく現れた小型の機械魔デモニクスが、今現れた多数の魔物モンスターを取り込んでいく。

 そして辰之進は、己の失態を恥じていた。
 真っ先に動き、この事態を抑止しなくてはいけなかった。
 しかしあまりの光景に、即座に動く事が出来なかったのだ。

 その変化は、まだまだ続いていく。
 一番数が多く、目についた魔物モンスター機械魔デモニクスは、緑色の小人であった。
 ただでさえ醜悪なその姿は、機械魔デモニクスに取り込まれと、身体の大半は機械魔デモニクスと化していた。
 機械魔デモニクスの躯体を手に入れた魔物モンスターは、雄たけびをあげた。
 己の鬱憤を晴らさんと、次々にその雄たけびは連鎖していく。
 その聞き取れない声にならない声は、リヒテルたちを不快にさせるには充分であった。
 目が血走り、口元からはよだれが垂れていた。
 ところどころ皮膚から突き出た機械が目につく。

「素晴らしい!!素晴らしいぞ!!かの者に敗れ、1000年の時が過ぎ……こうして我が眷属は蘇った!!人間の欲とは恐ろしいものだ。かの者が折角作り上げた世界を、おのが手で壊し、こうしてまた世界を滅ぼさんとする。実に興味深い!!」

 ケラケラと笑いをやめないプロメテウス。
 現状構ってはいられないと思いつつも、さらなる不快感に包まれた。

「狂ってやがる……。しかし、いったいこいつは何の話をしているんだ?」

 訝しがりながらも、状況の把握に努めていたアドリアーノ。
 エイミーもまた、黒フードの集団に注意を向けている。
 黒フードの集団は、一種異様な興奮を示していた。
 うっすら見える口元は、歪んだ笑みを湛えている様に見えた。

「なんなのあいつら……。とりあえず、この機械魔デモニクスの群れをどうにかしないといけないってことね……」
「あの阿呆が……。ここまで来てもまだ厄災をまき散らす気でいるのか!!」

 エイミーとは対照的に、感情を露わにしているクリストフ。
 先ほどのやり取りもあってか、感情をうまくコントロールできない様子だった。
 リヒテルはそんなやり取りの中、じっとプロメテウスと名乗ったゴールドラットに視線を集中させていた。
 昔読んだお伽噺を、彷彿とさせるものだったからだ。

 今から1000年以上前の話。
 神と名乗るものによって、この世界は地獄へと変わった。
 ダンジョンと呼ばれる洞窟が世界に出現し、怪異と呼ばれる異形のモノが現れる。
 神はそれを【生物の進化】と呼んでいた。
 人はそれに抗い、そしてついに一人の青年が神を倒すに至る。
 そこに至るまでの世界や人は、神の思惑通り進化を果たした。
 のちに青年は語る。
 神の勝利だと。
 神は自身の目的を果たしたのだと。
 その神の名は……【プロメテウス】。
 人々に【スキル】という名の【文明の火】を与えたもの。

 しかし、史実は違っている。
 1000年以上前にそのような事実は無く、在ったのは未知の鉱石のギフトが発掘されただけだった。
 そのギフトの研究の副産物として発生した厄災……それが、魔素汚染マナコンタミネーションだ。
 この世界すべてが魔素マナに汚染され、生物が生物としての進化から逸脱してしまったのだ。
 そして機械もまた、生物と呼べるモノへと
 それが機械魔デモニクス
 生物・機械それぞれがそれぞれの進化を遂げ、この現代にいたっているのだ。

「もしかして、歴史は2つある?」

 リヒテルの中に、突拍子もないことが頭をよぎった。
 さすがにそんなはずはないと口にしてみたものの、おかしな話だと頭を振る。
 その呟きは誰にも聞かれることはなく、ただ戦場の風にかき消されていった。

「さて準備は整った。我が眷属たちよ!!蹂躙の時間だ!!」

 プロメテウスの宣言を皮切りに、雄叫びをあげる魔物モンスター機械魔デモニクスの軍勢。
 対する帝都防衛隊第1大隊第1中隊の面々は、その数に苦戦を強いられる。
 倒しても倒しても、どこからともなく湧き出てきた魔物モンスター機械魔デモニクスが取りつき、新たな魔物モンスター機械魔デモニクスとして蘇る。
 
 さすがの辰之進も、これには対処しきれないでいた。
 一人また一人と仲間が倒れ、そして機械魔デモニクスに飲み込まれていく。
 生理的に吐き気を覚えるが、意志の力で堪え戦い続ける。
 ここで引いては帝都が陥落する可能性すらあったからだ。
 しかし、無情にもその覚悟は一つの通信によって遮られた。

『こちら帝都防衛隊本部。佐々木中隊応答願います。』
「こちら佐々木中隊辰之進だ。今取り込み中だ……あとにしてくれない……か!!」

 攻防中にもかかわらず、問答無用で通信手が矢継ぎ早に指示を出す。

『本部より指令。佐々木中隊は戦線を放棄し、後退。後、第1大隊と合流し本部へ帰還せよ。以上、緊急指令の為異議は却下とします。』
「くそが!!」

 本部からの一方的な指示に、辰之進は苛立ちを隠せなかった。
 しかし、現状これ以上の損害は、隊の壊滅を意味することも辰之進は理解していた。

「隊長。もう一度ランク5の魔砲を使います。それを機に離脱しましょう。」

 リヒテルは、手にした大量の魔石を辰之進に見せ、自分の考えをぶつけた。
 辰之進もまた、その提案を受け入れざるを得なかった。
 今考えられる最善手として、一番有効だと判断できたからだ。

「アドリアーノ隊!!リヒテルを護衛!!その他小隊は各自判断で退避!!一番近い5番ゲートを集合場所とする!!行動開始!!」

 自分の意見が取り入れられたと判断したリヒテルは、すぐに魔砲を作り出す。
 先ほどとは違い、今度は使い慣れたガトリング型魔砲だ。
 リヒテルの考えは、弾幕を張って抑え込もうというものだった。

 即座に射撃管制補助装置バイザーを下し、意識を集中させていく。

———第一層 属性指定……拡散を選択……了承しました———
———第二層 属性指定……粘着を選択……了承しました———
———第三層 属性指定……増殖を選択……了承しました———
———第四層 属性指定……雷撃を選択……了承しました———
———最終層 属性指定……複製を選択……了承しました———

 ガチャガチャと動き始める魔砲陣マナバレル
 ガトリングの砲身が延長され、人が武装するというよりも乗り物にでも取り付けるのではないかというほどのサイズになっていた。

———魔砲陣マナバレル展開完了……発射条件クリア……スタンバイ———

「さぁ、腹が下るほど喰らいやがれ!!」

 叫びと同時にリヒテルは引き金を引いた。
 魔砲から解き放たれた魔弾はどんどん拡散されていく。
 さらに次々と打ち出される魔弾。
 息つく暇もなく、暴風雨を思わせるほどの弾幕となる。
 機械魔デモニクスや地面・木々にぶつかると、べちゃべちゃと音を立てて魔弾がへばりつく。
 それがアメーバのように徐々に広がり、その占領地を広げていく。
 それでもリヒテルは撃ち止めようとしない。
 魔素マナ尽きるまで撃ち続けるとでも言わんばかりに、周囲に弾幕を張っていく。
 複製によって作られた魔弾は次々と撃ち出され、同じように粘着物をばらまいていく。

 黒フードの集団は何が起こったかわからなかったようだったが、一部べちゃりと付着したがダメージを受けなかったことから、別段気にする様子は見られなかった。

 そしてリヒテルの魔砲は周囲の魔素マナを使いつくしたのか、カラカラと音を鳴らして回転し魔弾は解き放たれることはなくなった。
 だが当のリヒテルは、一人にやりと口角をあげて笑っていた。

「さあ、地獄の始まりだ!!」

 突如として巻き起こる雷撃の嵐。
 いたるところから、魔物モンスター機械魔デモニクスの悲鳴が聞こえてくる。

「戻りましょう。」

 その光景にあっけにとられたアドリアーノ隊のメンバーは、一瞬動けないでいたのだった。
 そして、リヒテルの言葉を受けて再度撤退を開始したのだった。



「ふむ、なかなかやりますね。被害は……だいぶというより魔物モンスターは壊滅ですか……。これもまた面白い!!」

 辺りは焼けこげ、いまだ燻り続ける火種に目を向けながら、プロメテウスは愉快そうに笑っていたのだった……
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