上 下
39 / 87
第5章 壁の先にあるもの

第39話 大型種?

しおりを挟む
 アドリアーノの指示で、一斉に行動を開始する。

 後方から聞こえる叫び声。
 それと同時に、地面を揺らす振動。
 その振動の大きさから、かなりの大きさの何かであることは容易に想像できた。
 そしてこの立入禁止区域デッドエリアで存在するもの。
 すなわち機械魔デモニクスであると。

「急げ!!おそらく機械魔デモニクスの大型種だ!!」

 アドリアーノの焦りが混じった指示に、全員が全速力で立入禁止区域デッドエリアを駆け抜ける。
 散りじりになった場合、生存率は上がるであろうが今ここにそれを望むものはいなかった。
 全員での帰還。
 それを目標に駆け抜ける。



GOGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!

 キュイーンという魔素マナが収束する音が、リヒテルの耳に届く。
 魔砲使いガンナー特有のその聴覚で、危険が迫っていることを理解した。

「全員緊急散開!!」

 リヒテルは思わず叫んでしまった。
 皆もそれにつられ、一斉に左右に飛びのいた。

 次の瞬間だった。

 今まで自分たちが走っていた場所に、光の帯が到達したのだ。
 幅5mにわたって直線状に抉られた台地。
 表面はところどころガラス化しており、その温度の高さが窺い知れた。
 そしてリヒテルの危機察知のおかげで命拾いしたことを幸運に思うと同時に、その直線状に見えた巨体に愕然としてしまった。

「畜生……ここはランク3だぞ?どう見てもありゃランク4以上じゃないか……」

 その姿に、アドリアーノは愕然としてしまった。
 補給物資があれば問題なく対処できるだろうが、今は緊急帰還真っ最中であった。
 補給物資もまともに受け取っていない状況で戦うのは、自殺行為に等しいと判断せざるを得なかった。

 ドシリドシリと地面を揺らしながら歩を進める大型機械魔デモニクス
 その姿かたちは像そっくりだったが、その大きさが異常だった。
 遠目からでもはっきりと見える姿が、その巨大さを物語っていた。

「うそ……そんな……」
「どうしたエイミー……ってまさか?!」

 エイミーが技能スキル鷹の目ホークアイ】で見たものに愕然としてしまった。
 クリストフはエイミーの異変に気が付き、その原因がなんであるか理解した。

「まさか……ヒョウガか?!」
「絶対許さない!!」

 驚きを隠せないアドリアーノと、怒りを隠せないエイミー。
 二人の感情が憤怒へと変わっていく。
 エイミーがすぐさま弓を構える。
 おそらく反射的だったのだろう。
 ここで反撃せずに逃げるのが本当であれば正解であった。
 しかし、今のエイミーやメンバーにそれができるかといえば無理だった。
 ただでさえ、先ほどまで兄のライガを弄ばれていたのだ。
 その怒りの度合いといえば、推し量ることなど出来はしなかった。

 放たれた矢は一直線に機械魔デモニクスへ向かって飛んでいく。
 さすがに距離がありすぎたためか、届くことはなかった。
 しかしその殺気は間違いなく機械魔デモニクスへと届いていた。

GOGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!

 さらに一啼きした機械魔デモニクスはその歩みを加速させていく。

「リヒテル、緊急承認!!ランク5解放許可する!!」
「え?!」

 アドリアーノは、討伐を決意した。
 しかし今の戦力では間違いなく壊滅してしまうと判断し、隊長権限でリヒテルの封印解除を許可する。

「わかりました。手持ちの魔石マナコアすべて使いますけどいいですよね?」
「構わん!!責任は俺が持つ!!やばいと判断したら、リヒテルの判断で使用するように!!」

 リヒテルはみんなから集めた魔石マナコアをいったん預かり、インベントリへと押し込む。

「まずは一当てしますよ?」
「任せた。」

 リヒテルは再度魔弾装填を始めた。

「照準開始……ロック。装填開始。」

———第一層 属性指定……追尾を選択……了承しました———

光の円環がまたも魔砲へ絡みつく。

———第二層 属性指定……拡散を選択……了承しました———

二つ目の円環が形成される。

———第三層 属性指定……爆発を選択……了承しました———

三つ目の円環が形成されると、即座に魔砲陣マナバレルを展開する。

———魔砲陣マナバレル展開完了……発射条件クリア……スタンバイ———

「ファイア!!」

 間髪入れずに、リヒテルは引き金を引いた。
 展開された魔砲陣マナバレルから飛び出した魔弾は、周囲へ目もくれず、機械魔デモニクスへ向かって飛んでいく。
 その閃光は激しく、眩い。
 途中で第二層の拡散が発動する。
 一筋の閃光が二筋、三筋と分散していく。
 その数が20を超えたとき、ついに機械魔デモニクスへと到達した。
 その距離おおよそ5km。
 明らかに異常な距離だった。
 この異常さも、魔砲使いガンナー狩猟者ハンターの花形と言われる由縁でもあった。

 到達した魔弾は機械魔デモニクスの躯体にカンカンとぶつかる。
 次の瞬間。
 そのぶつかった場所から、大きな爆発が発生したのだ。
 ドカンドカンと20回以上の爆発が起こる。
 そのたびに黒煙が上がる。

 その激しい爆発に、すぐに戦いは終わると思っていた。
 しかし、そうはいかなかった。
 煙が晴れた場所には無傷の機械魔デモニクスが佇んでいたのだ。

「嘘……だろ?」

 動揺を隠せないリチャード。
 皆も同じ思いだった。
 むしろ、リヒテルの動揺が一番大きかった。
 確かな手ごたえを感じて放った一撃。
 今使える最大出力の威力を誇る一撃だった。
 それが無傷ということは、今現在のリヒテルでは傷一つ付けることすら叶わないことの証明であった。

「くそ!!退避だ!!」

 苦虫を嚙み潰したように、悔しがるアドリアーノ。
 助けたかったヒョウガをそのままにして逃げかえる屈辱が、アドリアーノを苛む。

 リヒテルたちは、手に負えないと判断したアドリアーノの指示で、再度撤退を開始する。
 己の考えの甘さを悔やみつつ全力で駆け抜ける。

 しかし、後ろから聞こえる音は刻一刻と近づいてくる。
 どう考えても出口までには追い付かれると思われた。

「アドリアーノさん退避をお願いします。巻き添えになるかもしれませんから。」
「なにいって……いや、そうか。わかった。みんな先に行け。俺とリヒテルで時間を稼ぐ。」
「隊長!!」

 リヒテルの言葉で理解したアドリアーノは、エイミーたちに帰還命令をかける。
 しかしそれに異を唱えたエイミー。

「大丈夫だ。それに、ライガたちを連れ帰ってやってくれ。いいな。」
「隊長……」

 いまだ異を唱えそうなエイミーをクリストフが無理やり引っ張っていく。

「エイミー!!儂らがいては邪魔になる!!わからんか!?」
「……!!」

 一層エイミーをつかむ力が強くなる。
 そのクリストフの様子に、エイミーも何も言えなくなった。
 クリストフとしても、断腸の思いだと感じたからだ。
 4人は一礼すると、全力で離脱を開始した。
 それを見届けたアドリアーノは、胸元から1本の煙草を取り出し火をつける。
 プカリプカリと紫煙を燻らせ、ゆるりとして見せた。

「アドリアーノさん。いいんですか?」
「何がだ?まさか隊員一人置いて隊長に逃げろっていうんじゃないだろうな?」

 おどけて見せるアドリアーノに、リヒテルは肩を竦めて見せる。
 すでに機械魔デモニクスとの距離は3kmを切っているように見えた。

「巻き添え喰らっても知りませんからね?」
「巻き添え上等。何度あの中隊長たちの巻き添え喰らってると思うんだ?」

 ふぅ~っと一つ息を吐くと、リヒテルは深く……より深く集中していく。

———魔石マナコアの反応を確認……ロック第1から第5までの開放を申請……アドリアーノ小隊アドリアーノのより緊急承認しました———

 射撃管制補助装置バイザーから聞こえてくる機械音声ナビゲーション
 リヒテルは、今現在威力としては最高を誇る一発にかけることにした。

  手にしていた複数の魔石マナコアが、リヒテルの魔石マナコアとリンクしていく。
 ドクリドクリと脈付き、一つの生命の誕生を思わせる一種異様な空気が充満する。
 手にした魔石マナコアが姿を変えていく。
 そして出来上がったのが一つの太い筒状のものであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します

名無し
ファンタジー
 レオンは自分が精霊術師であるにもかかわらず、どんな精霊とも仮契約すらできないことに負い目を感じていた。その代わりとして、所属しているS級パーティーに対して奴隷のように尽くしてきたが、ある日リーダーから無能は雑用係でも必要ないと追放を言い渡されてしまう。  彼は仕事を探すべく訪れたギルドで、冒険者同士の喧嘩を仲裁しようとして暴行されるも、全然痛みがなかったことに違和感を覚える。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三
SF
WEB小説「巨乳戦記」を愛する男は、目覚めると太陽系を治めるモブ領主になっていた。 蛮族の艦隊が迫る中、夢だと思い込んだ男は、原作知識を活かし呑気に無双する。 巨乳秘書、巨乳メイド、巨乳艦長、そしてロリまでいる夢の世界であった。 ――と言いつつ、割とガチ目の戦争する話なのです。 ・あんまり科学しませんので、難しくないです。 ・巨乳美女、合法ロリ、ツン美少女が出ますが、えっちくありません。 ・白兵戦は、色々理由を付けて剣、槍、斧で戦います。 ・艦隊戦は、色々理由を付けて陣形を作って戦います。 ・わりとシリアスに残酷なので、電車で音読すると捕まります。 ・何だかんだと主人公は英雄になりますが、根本的には悪党です。 書いている本人としては、ゲーム・オブ・スローンズ的な展開かなと思っています。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...