上 下
28 / 87
第4章 少年は昇り行く

第28話 真相とその後と……

しおりを挟む
 一通り話を聞いたリヒテルは、自分の父を誇りに感じていた。
 誰かを守るためにぼろぼろになりながらも一歩も引かなかった事に。

 しかしマリリンの話はそれで終わりはしなかった。
 それこそがマリリンが手を強く握りしめた原因であったのだ。

 それから更に話は続く。

 この事故は仕組まれたものだったからだ。
 当時ロイドたちが頭角を現すことを良しとしなかったグループがいた。
 狩猟免許証ハンターランク5のパーティー、【三首の守護者ケルベロス】というパーティーだ。
 彼らはロイドたちが現れる前は世界最高の狩猟者ハンターパーティーともてはやされていた。
 ソロで考えるとリンリットたちがいたが、彼らがパーティーを組むのは稀で、かなり気分屋の気質があった。
 【三首の守護者ケルベロス】はパーティーで考えると最強となるのだ。
 しかしそんな彼らに影が落ち始める。
 ランク5に上がってから少し立った時、敗戦が目立つことが増えてきたのだ。
 確かに勝てる戦いもあり、収める素材料で言ってもトップクラスと言っても過言ではない。
 それでもなお、負けが増えることが自分たちで許せなかったのだ。
 そのため徐々にパーティー内でも歪みが産まれ、それにより更に敗戦の率が増えていく。
 苛立ちを隠せなかった当時のリーダーだった男は、何かに付けて目立ち始めたロイドたちを目の敵にしていた。
 しかし相手は当時ランク3のパーティー。
 表立った妨害などをするわけにはいかないと思い、なんとか思いとどまっていた。
 しかしロイドたちはあれよあれよとランク4となり、ついにはランク5の昇級試験を受けるまでに成長してしまったのだ。
 【三首の守護者ケルベロス】のリーダーだったゴールドラットは焦りを覚えた。
 ただでさえ現状の勝率は3割を割り込んでしまっていた。
 そのせいもあり狩猟者連合協同組合ハンターギルドからの依頼の斡旋が徐々に先細りになってきていた。
 そのしわ寄せがリンリッドたちへと向かってしまい、リンリットたちが普通にこなしてしまうものだから質が悪かった。
 影で囁かれる落ち目という言葉。
 それだけでもゴールドラットのプライドを刺激するには十分であった。
 そしてゴールドラットはついに悪魔へと魂を売ったのだった。
 闇ギルドなる組織に接触し、ロイドたちを陥れたのだ。
 全ては入念に計画された作戦。
 ロイドたちが長期間の依頼を終え装備を預けると知るやいなや、作戦は決行に移された。
 闇ギルドが送り込んでいた狩猟者連合協同組合ハンターギルド職員が嘘の依頼をでっち上げる。
 もちろん目撃情報も闇ギルドに仕込みだった。
 そして現れた異常体。
 これはリンリッドが発見した機械魔製造デモニクスプロダクションの技術が漏洩し悪用された形だった。
 そして現れるはずのないランク3の機械魔デモニクスが突如姿を現したのだ。
 装備品の貸出についても闇ギルドの仕込みで、粗悪品に裏稼業の鍛冶師が表面をコーティングしそれらしく見せていたものだった。
 時間をかけて確認すれば気がつくはずであるが、逃げ込んできた狩猟者ハンターを見て慌てるなというのは難しい話だった。
 その狩猟者ハンターももちろん闇ギルドの仕込みで、怪我は事前に用意したものだった。
 全てがロイドたちを誘い出すための罠だった。
 そして現場に到着したときにいた3パーティーのうちの1パーティーが機械魔デモニクスの仕込み役であった。
 完全に自作自演である。
 それにガルラは巻き込まれた格好であった。

 【三首の守護者ケルベロス】の計画は成功し、ロイドはギリギリで命をとりとめていた。
 パーティーメンバーもまた同じで、再起は無理だろうと悲しみの声が聞こえてきていた。
 それを酒場で聞いていたゴールドラットは笑いを堪えるのに必死であった。
 そしてバレないように静かに酒場を後にした。



「これがあの事件の真相よ。といっても何も解明されていないわ。伝わってくる情報をつなぎ合わせて構成したに過ぎないわ……。当時の狩猟者連合協同組合ハンターギルド組合長ギルドマスター及び関わった職員は既に処分されているの。その真相は全て闇に葬られたってことね。」
「でもマリリンさんは調べてくれていたんですよね?」

 残念そうに語るマリリンにリヒテルは思ったことを質問した。
 それに面食らったように驚きを見せるマリリン。
 そして一瞬表情を崩すとマリリンは出会ったときの調子へと戻っていった。

「そうねん。いろいろ調べてみたわん。リンリッドちゃんにも協力してもらったし、当時のランク5の狩猟者ハンターたちも動いてくれたわん。」
「で、どうなったんです?」

 勿体つけるように話すマリリンに、リンリッドは話の先を急かしていく。

「そうね、言えるのは一言だけ。全ては片付いたってことだけよん。」

 マリリンが小首をかしげながら笑みを浮かべた途端、纏う空気が一気に冷えていく。
 絶対零度を思わせるその空気に、一瞬にして飲まれるリヒテルとガルラ。
 この話にこれ以上首を突っ込むなとの警告だと理解した。

「はい、これでわかったでしょ?ロイドちゃんは物凄くカッコ良かったのよん。私が惚れ惚れしちゃうくらいに。」
「マリリンさんありがとうございました。」

 礼を述べたのはガルラだった。
 マリリンの言葉を聞いたガルラは、既に敵は討たれたのだと悟っていたのだ。
 ガルラの例に対してマリリンは何も答えなかった。
 どうしてそうしたかはガルラもリヒテルもわからなかった。
 ガルラが顔をあげると、その表情から後ろめたさと言ったものが抜け落ちていた。
 そしてマリリンの瞳は、優しさを帯びていたのだけはよくわかった。

「じゃあ、本題に入りましょうか。リヒテルちゃんの銃だったわね。どういったのにしましょうか……」

 それからのリヒテルはきせかえ人形であった。
 これは違うあれは違う。
 こっちが良い。
 こっちはだめ。
 完全にマリリンに捕まったリヒテルをよそに、ガルラはラミアと一緒にお茶を楽しんでいた。

「ラミアさん。今ランク5の狩猟者ハンターのパーティーに【三首の守護者ケルベロス】の名前を聞かないのが答えってことでいいんですよね?」
「そうね……。だからガルラが気にすることでは無いってことよ。彼からも責められなかったでしょ?」

 ラミアは諭すようにガルラに話しかける。
 ガルラもまた何かつきものが落ちた気がしていた。
 だが気になる点も有った。
 未だに事故として処理されている点だ。
 マリリンから聞かされた話であれば間違いなく事件だ。
 なのに狩猟者連合協同組合ハンターギルド内では事故として処理されたままなのだ。
 それについて質問しようとしたガルラだったが、ラミアによってその出鼻がくじかれてしまった。

狩猟者連合協同組合ハンターギルド内で事故として処理されているのは敢えてよ。わざわざ裏で処理されたものを表立って公表する必要がないじゃない?だからあれは事故なの。わかった?」

 マリリンから聞かされた事実は、ロイドへと伝わってはいなかった。
 だからこそ事故として処理がされている。
 それがもう一つの真実だったのだ。

 ラミアとガルラの会話が終わる頃、マリリンの着せ替え地獄を終えたリヒテルがガルラたちの元へとやってきた。

「おい、リヒテル……大丈夫……なわけねぇ~わな。」

 心配しようと声をかけるもガルラはその言葉を引っ込めざるを得なかった。
 リヒテルはある意味満身創痍で、息も絶え絶えであった。
 しかし、ガルラの声をきいて無意識に手を上げて親指を立てる。
 つやつやとしたマリリンを横目に何が有ったか聞くことが出来なかったガルラであった。


「ラミアさん、マリリンさん、今日はありがとうございました。」

 リヒテルはなんとか精神を立ち直らせ、二人に挨拶をした後、店を立ち去った。
 その肩にはマリリンが選んだであろう銃が背負われていた。
 アサルトライフル【20式小銃改】がキラリと黒く光っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します

名無し
ファンタジー
 レオンは自分が精霊術師であるにもかかわらず、どんな精霊とも仮契約すらできないことに負い目を感じていた。その代わりとして、所属しているS級パーティーに対して奴隷のように尽くしてきたが、ある日リーダーから無能は雑用係でも必要ないと追放を言い渡されてしまう。  彼は仕事を探すべく訪れたギルドで、冒険者同士の喧嘩を仲裁しようとして暴行されるも、全然痛みがなかったことに違和感を覚える。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三
SF
WEB小説「巨乳戦記」を愛する男は、目覚めると太陽系を治めるモブ領主になっていた。 蛮族の艦隊が迫る中、夢だと思い込んだ男は、原作知識を活かし呑気に無双する。 巨乳秘書、巨乳メイド、巨乳艦長、そしてロリまでいる夢の世界であった。 ――と言いつつ、割とガチ目の戦争する話なのです。 ・あんまり科学しませんので、難しくないです。 ・巨乳美女、合法ロリ、ツン美少女が出ますが、えっちくありません。 ・白兵戦は、色々理由を付けて剣、槍、斧で戦います。 ・艦隊戦は、色々理由を付けて陣形を作って戦います。 ・わりとシリアスに残酷なので、電車で音読すると捕まります。 ・何だかんだと主人公は英雄になりますが、根本的には悪党です。 書いている本人としては、ゲーム・オブ・スローンズ的な展開かなと思っています。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

処理中です...