上 下
22 / 125
第4章 少年は昇り行く

第21話 おのぼりさん?

しおりを挟む
「すげ~~~~~!!」
「何子供みたいなことしてんだよ。」

 リヒテルは昇級試験を受けたものの飛び級とはいかず、狩猟免許証ハンターランクのランク2へ上がることが出来た。
 これは討伐記録からもたらされたもので、正直な話リンリッドの修行の段階でランク2は確定していたも同然だったのだ。
 そんなリヒテルは今、リンリッドとガルラとともに帝都へと向かう車両の中にいた。
 旧世代機械技術ロストテクノロジー※LT時代のバスという乗り物を発掘し、新世代機械技術ニュージェネレーションテクノロジー※NGTを使って改良・改修した乗り物である。
 動力には魔素発電装置マナジェネレーターが使用されており、発生した電力によってモーターを稼働させている。

ーーー閑話休題ーーー

 そしてバスに揺られること2日。
 リヒテルは産まれた街を出て、ついに帝都へとたどり着いた。
 その間には色々な出来事が発生していた。
 移動の車列には狩猟者ハンターも護衛についており、移動用のバスが6台と護衛用の車両が4台の計10台なっていた。
 別段これは不思議ではなく、当たり前の光景でもあった。
 この時代野党へと見をやつした者たちもおり、移動の護衛は必須である。
 己の命が軽い世界。
 それがこの世界だった。

 目の前には広がるのは広大な黄金色の小麦の農地と、それを貫く真っ直ぐな舗装路。
 その先にそびえ立つは街一つ囲む高い壁であった。
 この壁は今は立入禁止区域デッドエリアが囲まれているが、戦況が落ち着く前は生活可能区域リビングエリアのほうが安全確保のために囲まれていたのだ。
 そしてその名残がこの高い壁だ。
 壁には東西南北に大きな門が設置されており、その門も今ではNGTの発展によって証明書さえ通せば自動で開門してくれるようになる。
 バスの乗車時点で乗客は身元確認も行われているため、、身元確認はパスされていた。
 運転手が次々に証明書を提示し、車列は滞ることなく帝都内へと入っていったのだった。
 
「すげ~‼すげ~‼すげ~‼」
「リヒテル落ち着け。田舎モン丸出しだぞ?」

 バスから降りたリヒテルは、興奮冷めやらぬ様子で町並みを見回していた。
 今まで見たことのない高い建物。
 きらびやかな街並み。
 行き交う大勢の人々。
 どれを取ってみてもリヒテルにとっては初めての経験だった。
 あまりの興奮のために語彙力がかなり低下していた。

「ガルラだって初めてだろ?何大人ぶってんだよ?」
「俺は大人なんだ。いいか、ここでは大人しくしてないと恥かくぞ?」

 リヒテルは少し不満げにガルラに話しかけた。
 ガルラはガルラで視線が泳いでいた。
 至るところに目を奪われそうになり必死で耐えていた。

「あ、きれいなお姉さんがこっちに手を降ってるよ?」
「まじかよ!!」

 リヒテルは悪戯心を刺激されたのか、仕返しとばかりにガルラに話しかけた。
 リヒテルの言葉に即反応したガルラは、リヒテルが指差す方に視線を向ける。
 しかしそこにはなんとも言えない感じに頭をカクカクと揺らす人形が佇んでいた。

「くっそ‼おいリヒテル、てめぇ~‼」
「カッコつけるガルラが悪いんだよ。」

 そんなこんなでじゃれ合う二人に呆れ返るリンリッド。
 流石にこれ以上は悪目立ちすると感じたのか、二人に向けて殺気を放つ。
 殺気を当てられた二人は一瞬ブルリと震えると、大量の汗を流し始めた。
 ゆっくりと、油の切れた機械のように頭だけ振り返ると、超不機嫌なリンリッドの姿があった。
 二人はやっちまったと感じたのか、一瞬にして縮こまってしまったのだった。

「全く何をやってるのかねぇ~。ふたりともさっさと狩猟者連合協同組合ハンターギルド帝都支部へ顔を出しに行くぞ。」
「「はい。」」

 二人の弱々しい返事が、冷えた空気を纏う帝都の街並みへと消えていったのだった。



ピッ
プシュ~

 リンリッドが狩猟免許証ハンターランクカードをかざすと、自動で会館のドアが開閉した。
 恐る恐るという感じでリヒテルとガルラも真似をして狩猟免許証ハンターランクカードを読み取り機にかざす。
 読み取り機の画面には氏名とランクが表示され、本人確認がされるようになっていた。

 今いる場所は狩猟者連合協同組合ハンターギルド帝都支部の狩猟者連合協同組合ハンターギルド会館である。
 リヒテルが今まで見てきた狩猟者連合協同組合ハンターギルド会館と比べても、張り合うのもバカバカしく思えるほどの大きさであった。
 入り口は鉄の扉で出来ており、建物自体もおそらくコンクリートで覆われている。
 どうやらこれも昔の名残で避難所としての機能も有しているようだった。
 そして壁には至るところに弾痕が残っていた。
 修繕で直せるだろうが、おそらくこのまま残して後世へ伝える目的もあるようだった。

 そんな狩猟者連合協同組合ハンターギルド会館の中に入ると、これまた今まで見たことのない設備が所狭しと並んでいた。
 受付窓口がいくつも並び、狩猟者ハンターたちが何か相談したり談笑したりしていた。
 中には泣き出す者もおり、この窓口一つとっても物語があるのだろうとリヒテルとガルラは感じていた。

「ほれこっちだ。この機械で移動届けを出すぞい。」

 リンリッドが狩猟免許証ハンターランクカードをかざすと、機械が反応しすぐさま処理が開始される。
 数秒カードに光が当たると、次第に光は弱くなり、最後は消えてしまった。
 リンリッドはカードを持ち上げるとリヒテルたちに向き直った。

「これで登録完了だぁ~ね。二人もさっさとやったやった。」

 リンリッドに促されるように二人も機械に狩猟免許証ハンターランクカードをかざし、移動登録を済ませたのだった。
 次に向かったのは受付窓口であった。
 そこには何人もの職員が忙しそうに動き回っていた。
 リンリッドはその中のひとりを捕まえると何やら話し込み始めた。
 その職員は恭しくリンリッドに頭を下げると、すぐに奥の部屋へと入っていった。
 それから待つこと少し。
 奥の部屋から何やら恰幅の良い男性が姿を現したのだ。
 その男性の姿を見たガルラは一瞬であったがなぜが驚いた顔を浮かべていた。

「老師‼来るなら来ると連絡を入れてください‼全くいつもいつも……」
「あぁ~、すまんすまん。今回は急だったからのぉ~。後日改めて顔をだすわい。あやつにもそう伝えてくれ。」

 何やら親しげに話を始めたリンリッド。
 その態度に呆れ顔の男性が、ふとリヒテルとガルラに視線を向けた。
 その視線はやはり品定めでもしているかのようなもので、リヒテルは少しだけ不快を顕にした。

「おっとすまんな。警戒させたようだ。老師、彼らは弟子でいいんですね?」
「ん?あぁ~そうだなぁ~。うん、そっちのちっこいやつは弟子で間違いないかのぉ~。そっちのでかいのはついでだ。」

 その言葉に反応したのはガルラだった。
 憤りを顕にしながらリンリッドへと食って掛かったのだ。

「ちょっとリンリッドさん。そりゃねぇ~だろうがよ。こいつと一緒にあんたの地獄につきあっただろうがよぉ~。」

 そう話すガルラの言葉は次第に弱々しくなり、ついには震えだした。
 リヒテルもまた同じでガルラの言葉で地獄の修行を思い出して震えていた。
 その様子を見た男性は、なるほどと言わんばかりに納得の表情を浮かべていた。

「で、老師。そろそろ紹介してもらえますか?」
「すまんすまん。そのちっこいのがリヒテル・牧苗。ロイド・牧苗の倅だぁ~ね。で、こっちのでかいのがガルラ。まあ、言わなくてもわかるわな。」

 リヒテルはリンリッドからの紹介を受けて頭を下げた。
 男性はどこか懐かしそうにリヒテルを見つめ、手を差し伸べてきた。

「私はこの狩猟者連合協同組合ハンターギルド帝都支部を預かる組合長ギルドマスターのロバート・ウィリアム・テイラーだ。」
「リヒテル・牧苗です。宜しくおねがいします。」

 目の前の人物が組合長ギルドマスターだとは思っていなかったリヒテルは、驚きながらも握手に応じた。
 その手は今だ引き締まっており、見た目の体格とは全く似ても似つかなかった。

「ガルラ・グリゴールです。当時はその……。」
「あの事故以来か……。風のうわさでは聞いていたよ。よく頑張ってここまで登ってきた。当時がランク2に上がったところだったかな?」

 ガルラは申し訳無さそうに顔を歪めていた。
 その表情には後悔が伺い知れる。
 ロバートもまた当時を思い出したのか、同じように後悔の念に掴まれてしまっていた。

パンパンパン‼

 そんな空気を察してかリンリッドが手を打ち鳴らし、自身に注意を強制的に向けさせたのだ。

「その話はあとにしようかねぇ~。それよりもロバート、頼みがあるんだがいいかいのぉ~?」
「良いも悪いも拒否権なんて無いでしょうに……」

 ニヤリとしながらロバートを見つめるリンリッド。
 ロバートもまた、諦めたように要件を伺った。

「リヒテルの坊主も狩猟免許証ハンターランク2に上がったんでのぉ~、丁度いいのをみつくろってほしいんじゃよ。」
「わかりました。明日までには見繕います。むしろそのまま森に入ってもらってもいいですよ。どうせ狩っても狩っても溢れ出てくるんですから。今じゃ依頼受けるほうが少ないですから。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

処理中です...