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第2章 始まりの物語
第10話 受け継がれる思い
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飯塚との話から1週間が経とうとしていた。
それからもリヒテルの態度は煮え切らず、今まで引っ張て来た状態だ。
リヒテルはいつも通りの日常を過ごしていた。
日中は学業を、夜は【Survive】の店長を。
最近では、【Survive】の店長として過ごすのも悪くは無いと思い始めてもいた。
気の許せる仲間や、飲みに来る狩猟者たち。
その狩猟者から教えてもらう武勇伝や裏話など。
話を聞くだけでワクワクしてくるのだ。
そのほかにも、燻っていた狩猟者が名を挙げて帰ってくると、自分の事のように嬉しくなった。
やれ小型の群れを殲滅した。
やれ大型機械魔に一太刀入れてやった。
そんな話を聞くうちに、どこか満足してしまっている自分がいたのだ。
カランコロンカラン
酒場の入り口の鐘が来店を告げる。
飯塚だ。
「マスター、いつもの。」
「どうぞ。」
飯塚の前に出されたのは、ただのウーロン茶だ。
リヒテルは飯塚の雰囲気に違和感を感じ、敢えてウーロン茶を出したのだ。
「何だ酒じゃねぇ~のかよ。」
「どうしたんです?なんか変ですよ?」
飯塚の目に力が無かった。
いつものようにからかおうにも、そういう雰囲気ではなかったのだ。
リヒテルは、飯塚が自ら話し出すまで待つことにした。
店内に流れる緩やかなジャズを聴きながら、飯塚は出されたウーロン茶をゆっくりと味わっていた。
「なぁ、マスター。これを受け取ってくれないか?」
渡されたのは、布に包まれた一つの大きな塊。
リヒテルは訝しがりながらその布を取り去ると、中から姿を現したのは魔石だった。
その塊は赤黒く、店内の光を吸い込み怪しい光を放ち、ただの低ランクの魔石ではないことは容易に想像できた。
「どうしたんですこれ?明らかにランク3だと難しいサイズですよ?」
魔石は、機械魔の大きさに比例してそのサイズを大きくしていく。
サイズが大きくなればなるほど、そこに蓄えられた魔素の量が跳ね上がっていくのだ。
今まさに出された魔石のサイズは、明らかに飯塚の狩猟免許証に見合っていなかった。
どう見てもランク4相当は有りそうなサイズだったのだ。
「こいつは俺たちの〝最後の魔石〟だ……」
「え?」
リヒテルは自分の耳を疑った。
飯塚から聞いた言葉は〝最後の魔石〟……
それは狩猟者が引退を決意した時の物だ。
リヒテルは、なんと声をかけて良いのか分からなかった。
それにそんな大事な物を、自分に受け取ってほしいと言う飯塚の真意が理解出来ずにいた。
「こいつは俺たちがランク3の立入禁止区域で狩猟している時に出会った……。おそらく【イレギュラー】個体の機械魔だ。」
ここにその魔石があるという事は、無事にその【イレギュラー】個体を狩猟出来たという事である。
しかし、飯塚の言葉はなおも続いた。
「その狩猟中に俺の仲間は次々とその命を散らしていった。最後の最後、俺とアーチャーのゲーニッツだけが生き残ったんだ。」
そう言うと飯塚は、顔を伏せてしまった。
手にしたグラスが、カタカタと震えている。
悔しさや無念さが、痛いほど伝わってきた。
しかし、狩猟者としては何ら珍しい事では無かった。
狩猟者とは自分の命をチップに、機械魔を狩り続ける職業。
死とは隣合わせなのだから。
「だったらなおさら受け取れないですよ。これは飯塚さんの小隊メンバーの生きた証です。」
「だからだ……。だからこのまま腐らせちゃいけないんだ。俺やゲーニッツが持っていても、こいつを見る事は……直視する事は出来ないんだ。だから、頼む……。リヒテル……お前の最後の希望にしてくれないか。無理強いをしているのは重々承知だ。リスクも高い。だが、俺がお前にしてやれる最初で最後の送り物だ。」
そう言うと飯塚は席を立ち、【Survive】を後にした。
「ちょっと飯塚さん!!待って!!」
リヒテルが追いかけるも、そこに飯塚の姿は無かった。
さすがにこれは貰えなかったので、後日飯塚が来店した時に返そうとリヒテルは誓ったのだった。
それから二日後……
リヒテルのもとに信じられない知らせが届いた。
飯塚が自殺したのだ。
同じ小隊メンバーのゲーニッツと共に。
二人とも心に大きな傷を負い、ここから先、生きる希望を見い出せなかったのだろう。
リヒテルはなんで自分に相談してくれなかったんだと、本気で悔やんだ。
悔やんでも悔やんでも悔やみきれないほど後悔した。
なんであの時必死で探さなかったのか。
なんであの時もっと話を聞いてあげなかったのか。
齢14のリヒテルに、それほど大きい力や影響力は有りはしない。
それでもなお、何とか出来なかったのかと自分を責め続けていた。
「テンチョー……」
訃報を聞き、気落ちしているリヒテルにそっと寄り添うマリア。
今にも泣き出しそうになるのを、リヒテルは必死に堪えていた。
今ここで泣いてしまったら止められないと思ったからだ。
「テンチョー、意思を引き継ぎませんか?」
マリアの言葉にリヒテルは涙した。
今リヒテルの手元にある魔石は、飯塚の〝最後の魔石〟だ。
飯塚の小隊メンバー全員の命の塊だ。
それを前にしてリヒテルは大いに泣いた。
止めど無く溢れ出る涙に抗うことが出来なかった。
マリアはそんなリヒテルにずっと寄り添い、抱きしめていた。
「マリアさん……。これから役所に行ってくるよ。」
「はい。」
「この店を任せてもいいかな?」
「そのために私がいます。」
マリアはそっとリステルの背中を押した。
そしてリステルは涙を拭い、今一度自分の両頬をバチンと叩き気合を入れなおした。
「行ってきます!!」
「行ってらっしゃい。」
リヒテルはついに動き始めた……自分の夢に向かって。
市役所の奥には一つの施設がある。
それは厳重に管理された施設だ。
その施設は、リヒテルが7歳の時に受けた適性診断の装置に酷似した装置が設置されている。
至る所にむき出しの配管があり、たくさんのモニターが設置されている。
配線も複数張り巡らされており、いかにもという感じを醸し出していた。
「君が今回の挑戦者かな?確か魔石の持ち込みだって聞いたけど?」
男性職員がリヒテルに話しかけてきた。
白衣に身を包んだ男性職員は、いかにも研究者然としていた。
「俺がそうです。そしてこれを。」
リヒテルは飯塚から託された魔石を男性職員に手渡した。
その魔石を見た男性職員の目は輝きに満ちていた。
まさに宝石を見つけたと言わんばかりだ。
「これは君が手に入れたのかな?」
興奮を何とか抑え込んだ職員はリヒテルに問いかける。
リヒテルは一瞬迷ったが、正直に話す事にした。
「そう、知人の形見ね……。うん、これなら大丈夫。だって【イレギュラー】の魔石で失敗したことないからね。」
細身で無精ひげを蓄えた男性職員は、胸を張って答えていた。
しかしその風貌も相まって、なんとなく信用が置けない気がしてならなかった。
「そうそう、名乗り遅れたね。僕はここの主任研究員をしているコードリック・コーネリアスだ。よろしく頼むよ。」
差し出されたその手を、リヒテルは握り返す。
リヒテルの手は若干だが、カタカタと震えていた。
おそらく緊張からだろうが、本人は気が付いていなかった。
それに気が付いたコーネリアスは、リヒテルの頭を軽くなでつける。
いきなりの行為に驚いたリヒテルは、その場から瞬時に飛び退く。
その素早い反応に二マリとコーネリアスは微笑んでいた。
「うん、いい反応だ。その分だと大丈夫そうだな。それじゃあ始めようか。」
コーネリアスは、受け取った魔石を、祭壇の様な装置に設置する。
ガコンと音がすると、魔石は怪しげな光を放ち始めた。
漏れ出る光に気を取られていると、コーネリアスから次の指示が飛んでくる。
「それじゃあ、中央の円の真ん中に立ってくれるかい?そうしたら開始するよ。」
ゆっくりと歩みを進めるリヒテル。
約8年前の出来事が思い出される。
今回も失敗するのではないのかと……
だが、受け取った思いを紡ぎたいと本当に願った。
飯塚から繋いだ思いを自分が次に届ける。
リヒテルの心はただそれだけになっていたのだった。
「技能習得開始。」
コーネリアスの合図と共に、唸りを上げて稼働する大型の装置。
至る所から赤黒い煙が噴き出し、激しく動作していく。
リヒテルの足元には光の円が出来上がり、リヒテルを包み込んでいく。
「さぁ!!さぁ!!さぁ!!!!此度、新たな後天性技能習得者の誕生だ!!」
それからもリヒテルの態度は煮え切らず、今まで引っ張て来た状態だ。
リヒテルはいつも通りの日常を過ごしていた。
日中は学業を、夜は【Survive】の店長を。
最近では、【Survive】の店長として過ごすのも悪くは無いと思い始めてもいた。
気の許せる仲間や、飲みに来る狩猟者たち。
その狩猟者から教えてもらう武勇伝や裏話など。
話を聞くだけでワクワクしてくるのだ。
そのほかにも、燻っていた狩猟者が名を挙げて帰ってくると、自分の事のように嬉しくなった。
やれ小型の群れを殲滅した。
やれ大型機械魔に一太刀入れてやった。
そんな話を聞くうちに、どこか満足してしまっている自分がいたのだ。
カランコロンカラン
酒場の入り口の鐘が来店を告げる。
飯塚だ。
「マスター、いつもの。」
「どうぞ。」
飯塚の前に出されたのは、ただのウーロン茶だ。
リヒテルは飯塚の雰囲気に違和感を感じ、敢えてウーロン茶を出したのだ。
「何だ酒じゃねぇ~のかよ。」
「どうしたんです?なんか変ですよ?」
飯塚の目に力が無かった。
いつものようにからかおうにも、そういう雰囲気ではなかったのだ。
リヒテルは、飯塚が自ら話し出すまで待つことにした。
店内に流れる緩やかなジャズを聴きながら、飯塚は出されたウーロン茶をゆっくりと味わっていた。
「なぁ、マスター。これを受け取ってくれないか?」
渡されたのは、布に包まれた一つの大きな塊。
リヒテルは訝しがりながらその布を取り去ると、中から姿を現したのは魔石だった。
その塊は赤黒く、店内の光を吸い込み怪しい光を放ち、ただの低ランクの魔石ではないことは容易に想像できた。
「どうしたんですこれ?明らかにランク3だと難しいサイズですよ?」
魔石は、機械魔の大きさに比例してそのサイズを大きくしていく。
サイズが大きくなればなるほど、そこに蓄えられた魔素の量が跳ね上がっていくのだ。
今まさに出された魔石のサイズは、明らかに飯塚の狩猟免許証に見合っていなかった。
どう見てもランク4相当は有りそうなサイズだったのだ。
「こいつは俺たちの〝最後の魔石〟だ……」
「え?」
リヒテルは自分の耳を疑った。
飯塚から聞いた言葉は〝最後の魔石〟……
それは狩猟者が引退を決意した時の物だ。
リヒテルは、なんと声をかけて良いのか分からなかった。
それにそんな大事な物を、自分に受け取ってほしいと言う飯塚の真意が理解出来ずにいた。
「こいつは俺たちがランク3の立入禁止区域で狩猟している時に出会った……。おそらく【イレギュラー】個体の機械魔だ。」
ここにその魔石があるという事は、無事にその【イレギュラー】個体を狩猟出来たという事である。
しかし、飯塚の言葉はなおも続いた。
「その狩猟中に俺の仲間は次々とその命を散らしていった。最後の最後、俺とアーチャーのゲーニッツだけが生き残ったんだ。」
そう言うと飯塚は、顔を伏せてしまった。
手にしたグラスが、カタカタと震えている。
悔しさや無念さが、痛いほど伝わってきた。
しかし、狩猟者としては何ら珍しい事では無かった。
狩猟者とは自分の命をチップに、機械魔を狩り続ける職業。
死とは隣合わせなのだから。
「だったらなおさら受け取れないですよ。これは飯塚さんの小隊メンバーの生きた証です。」
「だからだ……。だからこのまま腐らせちゃいけないんだ。俺やゲーニッツが持っていても、こいつを見る事は……直視する事は出来ないんだ。だから、頼む……。リヒテル……お前の最後の希望にしてくれないか。無理強いをしているのは重々承知だ。リスクも高い。だが、俺がお前にしてやれる最初で最後の送り物だ。」
そう言うと飯塚は席を立ち、【Survive】を後にした。
「ちょっと飯塚さん!!待って!!」
リヒテルが追いかけるも、そこに飯塚の姿は無かった。
さすがにこれは貰えなかったので、後日飯塚が来店した時に返そうとリヒテルは誓ったのだった。
それから二日後……
リヒテルのもとに信じられない知らせが届いた。
飯塚が自殺したのだ。
同じ小隊メンバーのゲーニッツと共に。
二人とも心に大きな傷を負い、ここから先、生きる希望を見い出せなかったのだろう。
リヒテルはなんで自分に相談してくれなかったんだと、本気で悔やんだ。
悔やんでも悔やんでも悔やみきれないほど後悔した。
なんであの時必死で探さなかったのか。
なんであの時もっと話を聞いてあげなかったのか。
齢14のリヒテルに、それほど大きい力や影響力は有りはしない。
それでもなお、何とか出来なかったのかと自分を責め続けていた。
「テンチョー……」
訃報を聞き、気落ちしているリヒテルにそっと寄り添うマリア。
今にも泣き出しそうになるのを、リヒテルは必死に堪えていた。
今ここで泣いてしまったら止められないと思ったからだ。
「テンチョー、意思を引き継ぎませんか?」
マリアの言葉にリヒテルは涙した。
今リヒテルの手元にある魔石は、飯塚の〝最後の魔石〟だ。
飯塚の小隊メンバー全員の命の塊だ。
それを前にしてリヒテルは大いに泣いた。
止めど無く溢れ出る涙に抗うことが出来なかった。
マリアはそんなリヒテルにずっと寄り添い、抱きしめていた。
「マリアさん……。これから役所に行ってくるよ。」
「はい。」
「この店を任せてもいいかな?」
「そのために私がいます。」
マリアはそっとリステルの背中を押した。
そしてリステルは涙を拭い、今一度自分の両頬をバチンと叩き気合を入れなおした。
「行ってきます!!」
「行ってらっしゃい。」
リヒテルはついに動き始めた……自分の夢に向かって。
市役所の奥には一つの施設がある。
それは厳重に管理された施設だ。
その施設は、リヒテルが7歳の時に受けた適性診断の装置に酷似した装置が設置されている。
至る所にむき出しの配管があり、たくさんのモニターが設置されている。
配線も複数張り巡らされており、いかにもという感じを醸し出していた。
「君が今回の挑戦者かな?確か魔石の持ち込みだって聞いたけど?」
男性職員がリヒテルに話しかけてきた。
白衣に身を包んだ男性職員は、いかにも研究者然としていた。
「俺がそうです。そしてこれを。」
リヒテルは飯塚から託された魔石を男性職員に手渡した。
その魔石を見た男性職員の目は輝きに満ちていた。
まさに宝石を見つけたと言わんばかりだ。
「これは君が手に入れたのかな?」
興奮を何とか抑え込んだ職員はリヒテルに問いかける。
リヒテルは一瞬迷ったが、正直に話す事にした。
「そう、知人の形見ね……。うん、これなら大丈夫。だって【イレギュラー】の魔石で失敗したことないからね。」
細身で無精ひげを蓄えた男性職員は、胸を張って答えていた。
しかしその風貌も相まって、なんとなく信用が置けない気がしてならなかった。
「そうそう、名乗り遅れたね。僕はここの主任研究員をしているコードリック・コーネリアスだ。よろしく頼むよ。」
差し出されたその手を、リヒテルは握り返す。
リヒテルの手は若干だが、カタカタと震えていた。
おそらく緊張からだろうが、本人は気が付いていなかった。
それに気が付いたコーネリアスは、リヒテルの頭を軽くなでつける。
いきなりの行為に驚いたリヒテルは、その場から瞬時に飛び退く。
その素早い反応に二マリとコーネリアスは微笑んでいた。
「うん、いい反応だ。その分だと大丈夫そうだな。それじゃあ始めようか。」
コーネリアスは、受け取った魔石を、祭壇の様な装置に設置する。
ガコンと音がすると、魔石は怪しげな光を放ち始めた。
漏れ出る光に気を取られていると、コーネリアスから次の指示が飛んでくる。
「それじゃあ、中央の円の真ん中に立ってくれるかい?そうしたら開始するよ。」
ゆっくりと歩みを進めるリヒテル。
約8年前の出来事が思い出される。
今回も失敗するのではないのかと……
だが、受け取った思いを紡ぎたいと本当に願った。
飯塚から繋いだ思いを自分が次に届ける。
リヒテルの心はただそれだけになっていたのだった。
「技能習得開始。」
コーネリアスの合図と共に、唸りを上げて稼働する大型の装置。
至る所から赤黒い煙が噴き出し、激しく動作していく。
リヒテルの足元には光の円が出来上がり、リヒテルを包み込んでいく。
「さぁ!!さぁ!!さぁ!!!!此度、新たな後天性技能習得者の誕生だ!!」
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