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第1章 未来の物語

第1話 魔砲使い(ガンナー)

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ガシャン……コン……ドシン!!
ガシャン……コン……ドシン!!

 鬱蒼と生い茂る森の中に、軋みを上げる機械音が響き渡る。
 その音が響くたびに大地を激しく揺らす。

ギギギギ……
ギィ―

 その機械音の出処には、全長15mを超えるであろう躯体が存在した。
 6つ足の多脚戦車の如く、その錆び付いた足を動かしている。
 しかし、その足には筋肉の様な筋も見え隠れする。
 一見しただけで、ただの機械では無い事は直ぐに理解出来てしまう。

 戦車の砲身部分には、馬の様な頭部が据え付けられており、前後左右に首を振りながら何かを探している様だった。
 身体の四方にはサーチライトの様な照明も取り付けられており、縦横無尽に光の帯が辺りを照らしていた。

 時折頭部のパーツの目らしきものがピピピという音と共に赤く光り、狙いを定めている様見える。

 その躯体の上部には目測で砲身長5m、約40ミリ口径ほどありそうな機関砲が4門備え付けられていた。
 その砲身も何かを探す様に忙しなく動き回っている。
 すると、何かを発見したのか、頭部がじっと動かなくなった。

GUGYAOOOOOOOOOOOO!!

 一拍の静寂の後、突如として叫び声が響き渡る。

ドドドドドッ!!

 砲身から射出された弾丸は、地面を抉り小さな窪みをいくつも形成していく。
 その弾丸の向く先には鬱蒼とした森も存在しており、その木々たちも粉砕されていった。
 いまだ鳴りやまない銃声に反応するかの様に、複数の影が木から木へと飛び回っていた。

「くそ!!見つかった!!そっちは大丈夫か!?」

 少しかすれ気味の声で、男は通信機に向かって叫んでいた。
 一人岩陰に隠れていた男は、激しい銃声に身を屈ませる。
 男は見た目的には30半ばに差し掛かったくらいで、かなり鍛えこまれた肉体を誇っていた。

「こっちはね!!ただ、佐久間が足をやられた!!さすがにこれ以上は無理だ!!」

 男の声に反応する様に、別の人物が叫んでいた。
 他にも数名の声が聞こえてきたが、けが人は1名だけの様だ。

「全員聞こえるか!!」

 その一団のリーダーらしきかすれ声の男は、岩陰に身を隠しながら指示を出していく。

蒔苗まきな小隊各員に告ぐ!!大型機械魔デモニクスの討伐は、一時中断だ!!全員、無事に帰還しろ!!殿は俺が務める!!行動開始!!」
「オーライ!!」
「了解!!」
「ラジャー!!」
「先行ってる!!」

 通信機から聞こえた男の言葉に、それぞれが反応する。

「リヒテル隊長!!絶対死ぬんじゃないよ!!」
「くそ縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ!!小隊を任せたぞレイラ!!」
「任された!!」

 最後に答えたレイラと呼ばれた女性もまた、後方に向けて走り出した。

 小隊全員が撤退を開始したのを確認したリヒテルは、機械魔デモニクス呼ばれた躯体に向けて、手にした銃火器からスモーク弾を撃ち込んだ。

カン!!

 甲高い金属音を上げて躯体にぶつかったスモーク弾は、機械魔デモニクスの躯体に張り付き、周囲にモクモクと煙を吐き出していく。
 リヒテルは、続け様にスモーク弾を撃ち込む。
 機械魔デモニクスの周囲が煙で満たされたことを確認したリヒテルは、仲間たちを追うように目的地に向かって走り出した。

 森の中は、整備されているはずもなく、足場がとてつもなく悪い。
 泥濘に木の根、場合によっては以前の戦闘の痕跡なども存在している。
 そんな悪路では、リヒテルも全力で走る事は出来ずにいた。
 いくらリヒテルが普段からトレーニングを積んでいるからといって、限界というものが存在する。
 それでもなお、リヒテルは自身が持てる全力を出し尽くす。
 必ず生き延びると心に誓って。


 それからどのくらい走っただろうか。
 リヒテルは、肩が跳ねるほどに息を切らしていた。
 既に先程の戦闘領域からは、かなりの距離を取る事に成功していた。

 通信機から続々と聞こえる味方の無事帰還の声に安堵しながらも、リヒテルは嫌な予感に苛まれていた。

キュピン!!

 リヒテルの左頬を何かが掠る。
 すると、目の前にドロリと溶けた大地の凹みが出来上がっていた。
 遅れてくる、熱に焼かれる左頬の痛みに、リヒテルは思わず立ち止まってしまう。

「くそ!!超長距離狙撃かよ!!しかもレーザー搭載とか聞いてねぇよ!!」

 更に襲い来る、狙いすましたかの様な熱線を辛うじて躱したリヒテルは、近場の岩陰に転がり込むのが精いっぱいだった。
 岩陰に隠れるも、遠くより聞こえる機械の軋む音と、重量物が大地にぶつかる振動に恐怖を拭えずにいた。
 徐々に近づいてくるそれに、リヒテルは息も絶え絶えになりながらも悪態をついていた。

「観測班は何やってたんだよ!!どう見積もっても、一個小隊でどうこするもんじゃねぇだろうが!!完全に中隊規模だろうがよ!!」

 リヒテルはボヤキながらも、手元の銃器に目を落としていた。
 リヒテルが手にしている銃火器は、NGTの進化によって誕生した〝魔銃〟である。
 〝魔銃〟とは、魔石マナコアから取り出された魔素マナのエネルギーを使用して、弾丸を撃ち出す銃火器である。
 とは言うものの、いくら魔素マナを利用していても、撃ち出されるのが普通の金属弾であるが故に、大型機械魔デモニクスには幾分か力不足が否めなかった。
 弾丸の全てを魔石を粉上にした魔石粉マナパウダーで覆った魔石粉塗装マナコート弾も存在するものの、扱いが難しく超長距離射撃等でなければ使用が出来ない程だった。

「あぁ、くそ!!今回は赤字覚悟かよ!!絶対に狩猟者連合協同組合ハンターギルドに請求してやる!!覚えてやがれ!!」

 リヒテルは、手にしていた銃火器を左腕の腕輪に近付ける。
 「収納」の言葉と共に、手にした銃器が腕輪に吸い込まれる。
 リヒテルがしていた腕輪は通称〝インベントリ〟と呼ばれる収納道具だ。
 これもNGTの発展により実現した物になる。
 更にリヒテルが「展開」と声を発すると、リヒテルの手の中にいくつもの赤く輝く宝石のようなものが握られていた。
 魔石マナコアである。

「レイラ聞こえるか!!」
「どうしたの隊長!!問題発生か!?」

 通信機越しにレイラの焦りが窺えた。
 レイラもまた、リヒテルが帰還しない事にやきもきしていたのだ。

「わりいレイラ。今回は赤字だ。劉の奴に謝っておいてくれ。」
「ちょ、ちょっとどう言う事よ!!」
「いったん通信を切るぞ。またな!!」
「ちょっと~~~!!ねぇリヒテル!!リヒテ……」

ピっ

 通信を切断したリヒテルは、深く息を吐き深呼吸を始めた。
 リヒテルは自分の体の中に埋め込まれた魔石マナコアに意識を集中していく。
 すると手にした魔石マナコアもまた反応を示し始めた。
 ドクリドクリと脈打つ体内の魔石マナコアに連動する様に、手にした魔石マナコアも脈打ち始める。
 手にした魔石マナコアは、徐々に光を放ち始め、その形を変えていった。
 複数ある魔石マナコアが一つの塊となり、見る間に全長3mもあろうかという大型ライフル銃の形状の銃火器へと変貌を遂げた。

 そう、これが……、この世界が機械魔デモニクスに対抗する為に生み出された技能スキル【ブラックスミス】である。
 そしてその技能スキルより生み出された銃火器を、人類は〝魔砲〟と呼称した。
 魔砲は周囲に漂う魔素マナを利用し弾丸を形成。
 発射の爆薬代わりにもまた魔素マナが利用される。
 つまり1から10まで全て魔素マナで構成された銃火器なのである。
 そしてこの〝魔砲〟の使い手を人々はこう呼んでいる。

魔砲使いガンナーと……

 魔砲使いガンナー狩猟者ハンターの花形である。
 全てをその理不尽なまでの火力で薙ぎ倒し、理不尽の塊である機械魔デモニクスをも圧倒する火力を有するのだ。
 理不尽には理不尽で対抗する。
 それが魔砲使いガンナーである。

 リヒテルは片膝立ちとなり魔砲を構える。
 ライフル銃のストックを体に押し当てバランスを保つ。
 その照準はもちろん大型機械魔デモニクスに向いている。

「まぁ、弱点は電撃だろうが……。どうせデカブツだ!!どうやったって当たるだろうさ!!」

 手にしたライフル型魔砲と自分の魔石マナコアとをリンクしていく。
 リヒテルは額に装着した射撃管制補助装置バイザーを降ろした。
 右目だけ隠れる様に装着されたバイザーから見える視界には、たくさんの数字が並んでいる。

「デカブツをロック……」

 リヒテルの声に反応する様に、右目の視界には何か三角形の照準器の様な物が忙しなく動いている。
 次第に動きがゆっくりとなり、砲身の照準器と射撃管制補助装置バイザーの照準器が重なり合う。

「ロック完了……。魔弾装填……。」

 今度は右目の射撃管制補助装置バイザーから機械音声ナビゲーションが流れてくる。

———第一層 属性指定……電撃を選択……承認しました———

 その機械音声ナビゲーションと共に、リヒテルの持つライフル型魔砲が光の輪に包まれる。
 更にリヒテルは意識をライフル型魔砲に向ける。

———第二層 特性指定……吸着を選択……承認しました———

 更に光の輪が重なり、二重の輪がライフルを包む。

———第三層 特性指定……爆発を選択……承認しました———

 更なる光の輪が魔砲を包み込んでいく。

「さぁ、食事の時間だぞデカブツ!!」

 リヒテルが叫ぶと、三重の光の円環がカシャンカシャンと音を立てて一気に前に迫り出していく。
 それは既にライフル型魔砲の先端を超え、仮想の砲身を作り出していった。

キュイーーーーーーーン!!!!

 形容し難い不快音が辺りに鳴り響く。
 それは魔砲使いガンナーの特性を所持しないものには聞こえない音であったが、慣れないものからすると吐き気を模様する程、不快なものだ。

 そして、迫り出した仮想の砲身は、徐々に回転を始めていく。
 その回転が速まる程に不快音が激しくなる。
 この音は魔素マナを周囲から吸収している音なのだ。

———魔砲陣マナバレル展開完了……発射条件クリア……スタンバイ———

 その機械音声ナビゲーションを待っていましたと言わんばかりに、リヒテルの表情がニヤリと歪む。

「腹壊すほど喰らいやがれ!!」
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