勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

文字の大きさ
上 下
303 / 322
第7章 ここから始まる雁字搦め

五十七日目⑤ ココットという人物①

しおりを挟む
 いつの事だろうか……
 思い出せるのは故郷が焼け野原になった時の事だった。
 周囲には焼け焦げた地面が広がり、村の家々は燃え尽きて朽ち果てていった。

 ドラゴン……
 龍種と呼ばれるそれは、であったが最後、生き残れる確率は万に一つとしてないというわれる魔物の頂点の一角だ。
 まさに生きる〝天災〟。
 その例えがこれほど似合う生物は存在していないだろう。

 かくいう私はこうして運よく生き残れているのだが、幸運と言っても問題ないだろう……
 彼らが到着していなければ。



「親父!!さっさと起きろ!!仕事の時間だろ!?」
「うっさいぞココット!!ワシャ飲み会で疲れてんだ!!まだ寝かせろ!!」

 そう言うと親父はせっかく引っぺがした布団にもぐりこんでいった。
 このくそ親父……
 いつからだろうか、親父は仕事をほっぽりだしては会合だ飲み会だといって酒場に行くようになったのは。
 数年前だったら酒1つ呑まずに仕事に打ち込む、鍛冶職人だったのに……
 母さんが死んでからは人が変わったようになってしまった。

「ったく……分かったよ。準備しておくから、さっさと降りてこいよ?」
「あぁ……」

 これがいつもの日常。
 今の当たり前。

 私は毎朝炉に火をくべ、鍛冶の準備をする。
 いつ使われるかも分からない鍛冶場……
 それでも母さんが愛したこの場所を、私は守っていきたいと思っていたんだ。

「性が出るね……」
「またあんたか……何度来ても同じだよ。親父はいないよ。」

 私が鍛冶場の準備をしていると、一人の少年が店にやってきた。
 名を【ゲイニッツ】。
 この村の村長息子だ。
 ひと月前からだろうか、親父に剣を一振り打ってほしいと頼みに来ていた。
 だが今の親父にそんないい剣なんて打てるはずもない。
 何せここ1年まともに槌を振るってなんかいないんだから。
 それでもゲイニッツは数日おきだろうか、足しげく通ってはこの店を手伝ってくれていた。

「手伝ってくれるのはうれしいけど、どうにもならないからね?」
「そうだね……それでもこの村で一番の鍛冶師はやっぱり君に親父さんだ。俺が騎士を目指すためにも親父さんの剣が欲しいんだ。」

 ゲイニッツは来年15歳を迎える。
 騎士や衛兵になるためには、王都にある騎士学校に通う必要がある。
 その時自前の剣を持っていくことが出来るらしい。
 別にもっていかなくても、騎士学校には腕のいい職人もいるらしく、それなりに金額はかかるけど、入学後に手に入れることは可能みたいだ。
 村長も今の親父から作ってもらうのは反対らしい。
 それでもゲイニッツはうちに来ることをやめることは無かった。



「親父……ゲイニッツのやつまた来たぞ?」
「ん?あぁ。あいつか……あの壁のなまくらでも渡しておけばいいだろう?俺が最後に打った剣だ。その辺の剣よりかは幾分かましな剣だが。まぁ、王都の連中にはかなわんがな。」

 親父はそう言うとゲラゲラと笑い始めた。
 だけど私にはわかる……それは悔しいからだ。

 母が死んだ日、親父は王都で開かれていた鍛冶師のコンテストに参加していた。
 その日のために幾日も時間をかけて選りすぐった鋼材を使い、自身の技のすべてを込めて作り上げた剣。
 その出来栄えは、この村を拠点としていた冒険者たちも見ほれるほどだった。
 親父もその会心の出来に満足し、その剣を携えて王都に向かった。

 その親父を支え続けていた母だったけど、事件は親父が出発した翌日に起こった。
 母が誘拐された。
 村長も慌てて冒険者たちに掛け合い、三日三晩探し回った。
 それでも母は見つからなかった。

 そして1週間がたち、母は私のもとに返ってきた……
 無残にも切り裂かれた躯となって……

 母の死の知らせを聞いた親父は慌てて帰ってきた。
 それからだ……親父が変わってしまったのは。

 村長から聞いた話だと、親父の剣の評価は最低ランクだったそうだ。
 冒険者たちはその評価を聞いておかしいといっていたが、親父からしたらそんなことはどうでもよかった。
 自分の腕を全否定されたということだけが、親父にとってすべてだったから。

 これも母が亡くなってから半年近く過ぎたあたりで親父の親友という人物から聞いた話だ。
 親父は王都での品評会の際、ライバル……同じ師匠のもとで修業した兄弟子にこの品評会を降りるよう迫られていたらしい。
 でも親父はそれに取り合わなかったようだ。
 
 その去り際、その兄弟子は〝お前の女房……無事だといいな?〟と言っていったそうだ。
 そして品評会は滞りなく終わり、結果は最低ランク。
 失意の親父に追い打ちをかけたのが、母の誘拐。
 品評会の閉会を待たずにとんぼ返りした親父だったけど、母の死には間に合わなかった。

 それから親父は槌を置いた。

 すべては俺のせいだといって……
 
 だからだろうか、私は父に代わり近代の名工と呼ばれることを目指すようになったのは。
 見様見真似とはよく言ったものだ。
 私は親父から何一つ教わったことはなかった。
 私が見てきたのは、職人としての意地とプライドを持った父の背中だった。
 その中で語った鍛冶師としての技を、記憶の中から思い出す。
 そして一振り一振り、試行錯誤を繰り返していく。

 だけど親父の物には遠く及ばなかった。

 あの最後に見た親父の剣……今でもこの工房の壁に飾ってある剣。
 それを超えることは出来なかった。
 1年そこらの素人が超える事なんて無謀もいいところだ。
 それでも私は槌を置かなかった。

 母が支えた親父の工房。
 この火を絶やさぬために。
 母の生きた証を此処に残すために。
しおりを挟む
本日 5/2(木)より新作掲載開始しました!!もしよろしければそちらも立ち寄っていただければ幸いです!!手加減必須のチートハンター ~神様の計算を超えて、魔王の手から世界を護ります!! https://www.alphapolis.co.jp/novel/911619238/145877156
感想 77

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。