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第7章 ここから始まる雁字搦め
五十七日目⑤ ココットという人物①
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いつの事だろうか……
思い出せるのは故郷が焼け野原になった時の事だった。
周囲には焼け焦げた地面が広がり、村の家々は燃え尽きて朽ち果てていった。
ドラゴン……
龍種と呼ばれるそれは、であったが最後、生き残れる確率は万に一つとしてないというわれる魔物の頂点の一角だ。
まさに生きる〝天災〟。
その例えがこれほど似合う生物は存在していないだろう。
かくいう私はこうして運よく生き残れているのだが、幸運と言っても問題ないだろう……
彼らが到着していなければ。
「親父!!さっさと起きろ!!仕事の時間だろ!?」
「うっさいぞココット!!ワシャ飲み会で疲れてんだ!!まだ寝かせろ!!」
そう言うと親父はせっかく引っぺがした布団にもぐりこんでいった。
このくそ親父……
いつからだろうか、親父は仕事をほっぽりだしては会合だ飲み会だといって酒場に行くようになったのは。
数年前だったら酒1つ呑まずに仕事に打ち込む、鍛冶職人だったのに……
母さんが死んでからは人が変わったようになってしまった。
「ったく……分かったよ。準備しておくから、さっさと降りてこいよ?」
「あぁ……」
これがいつもの日常。
今の当たり前。
私は毎朝炉に火をくべ、鍛冶の準備をする。
いつ使われるかも分からない鍛冶場……
それでも母さんが愛したこの場所を、私は守っていきたいと思っていたんだ。
「性が出るね……」
「またあんたか……何度来ても同じだよ。親父はいないよ。」
私が鍛冶場の準備をしていると、一人の少年が店にやってきた。
名を【ゲイニッツ】。
この村の村長息子だ。
ひと月前からだろうか、親父に剣を一振り打ってほしいと頼みに来ていた。
だが今の親父にそんないい剣なんて打てるはずもない。
何せここ1年まともに槌を振るってなんかいないんだから。
それでもゲイニッツは数日おきだろうか、足しげく通ってはこの店を手伝ってくれていた。
「手伝ってくれるのはうれしいけど、どうにもならないからね?」
「そうだね……それでもこの村で一番の鍛冶師はやっぱり君に親父さんだ。俺が騎士を目指すためにも親父さんの剣が欲しいんだ。」
ゲイニッツは来年15歳を迎える。
騎士や衛兵になるためには、王都にある騎士学校に通う必要がある。
その時自前の剣を持っていくことが出来るらしい。
別にもっていかなくても、騎士学校には腕のいい職人もいるらしく、それなりに金額はかかるけど、入学後に手に入れることは可能みたいだ。
村長も今の親父から作ってもらうのは反対らしい。
それでもゲイニッツはうちに来ることをやめることは無かった。
「親父……ゲイニッツのやつまた来たぞ?」
「ん?あぁ。あいつか……あの壁のなまくらでも渡しておけばいいだろう?俺が最後に打った剣だ。その辺の剣よりかは幾分かましな剣だが。まぁ、王都の連中にはかなわんがな。」
親父はそう言うとゲラゲラと笑い始めた。
だけど私にはわかる……それは悔しいからだ。
母が死んだ日、親父は王都で開かれていた鍛冶師のコンテストに参加していた。
その日のために幾日も時間をかけて選りすぐった鋼材を使い、自身の技のすべてを込めて作り上げた剣。
その出来栄えは、この村を拠点としていた冒険者たちも見ほれるほどだった。
親父もその会心の出来に満足し、その剣を携えて王都に向かった。
その親父を支え続けていた母だったけど、事件は親父が出発した翌日に起こった。
母が誘拐された。
村長も慌てて冒険者たちに掛け合い、三日三晩探し回った。
それでも母は見つからなかった。
そして1週間がたち、母は私のもとに返ってきた……
無残にも切り裂かれた躯となって……
母の死の知らせを聞いた親父は慌てて帰ってきた。
それからだ……親父が変わってしまったのは。
村長から聞いた話だと、親父の剣の評価は最低ランクだったそうだ。
冒険者たちはその評価を聞いておかしいといっていたが、親父からしたらそんなことはどうでもよかった。
自分の腕を全否定されたということだけが、親父にとってすべてだったから。
これも母が亡くなってから半年近く過ぎたあたりで親父の親友という人物から聞いた話だ。
親父は王都での品評会の際、ライバル……同じ師匠のもとで修業した兄弟子にこの品評会を降りるよう迫られていたらしい。
でも親父はそれに取り合わなかったようだ。
その去り際、その兄弟子は〝お前の女房……無事だといいな?〟と言っていったそうだ。
そして品評会は滞りなく終わり、結果は最低ランク。
失意の親父に追い打ちをかけたのが、母の誘拐。
品評会の閉会を待たずにとんぼ返りした親父だったけど、母の死には間に合わなかった。
それから親父は槌を置いた。
すべては俺のせいだといって……
だからだろうか、私は父に代わり近代の名工と呼ばれることを目指すようになったのは。
見様見真似とはよく言ったものだ。
私は親父から何一つ教わったことはなかった。
私が見てきたのは、職人としての意地とプライドを持った父の背中だった。
その中で語った鍛冶師としての技を、記憶の中から思い出す。
そして一振り一振り、試行錯誤を繰り返していく。
だけど親父の物には遠く及ばなかった。
あの最後に見た親父の剣……今でもこの工房の壁に飾ってある剣。
それを超えることは出来なかった。
1年そこらの素人が超える事なんて無謀もいいところだ。
それでも私は槌を置かなかった。
母が支えた親父の工房。
この火を絶やさぬために。
母の生きた証を此処に残すために。
思い出せるのは故郷が焼け野原になった時の事だった。
周囲には焼け焦げた地面が広がり、村の家々は燃え尽きて朽ち果てていった。
ドラゴン……
龍種と呼ばれるそれは、であったが最後、生き残れる確率は万に一つとしてないというわれる魔物の頂点の一角だ。
まさに生きる〝天災〟。
その例えがこれほど似合う生物は存在していないだろう。
かくいう私はこうして運よく生き残れているのだが、幸運と言っても問題ないだろう……
彼らが到着していなければ。
「親父!!さっさと起きろ!!仕事の時間だろ!?」
「うっさいぞココット!!ワシャ飲み会で疲れてんだ!!まだ寝かせろ!!」
そう言うと親父はせっかく引っぺがした布団にもぐりこんでいった。
このくそ親父……
いつからだろうか、親父は仕事をほっぽりだしては会合だ飲み会だといって酒場に行くようになったのは。
数年前だったら酒1つ呑まずに仕事に打ち込む、鍛冶職人だったのに……
母さんが死んでからは人が変わったようになってしまった。
「ったく……分かったよ。準備しておくから、さっさと降りてこいよ?」
「あぁ……」
これがいつもの日常。
今の当たり前。
私は毎朝炉に火をくべ、鍛冶の準備をする。
いつ使われるかも分からない鍛冶場……
それでも母さんが愛したこの場所を、私は守っていきたいと思っていたんだ。
「性が出るね……」
「またあんたか……何度来ても同じだよ。親父はいないよ。」
私が鍛冶場の準備をしていると、一人の少年が店にやってきた。
名を【ゲイニッツ】。
この村の村長息子だ。
ひと月前からだろうか、親父に剣を一振り打ってほしいと頼みに来ていた。
だが今の親父にそんないい剣なんて打てるはずもない。
何せここ1年まともに槌を振るってなんかいないんだから。
それでもゲイニッツは数日おきだろうか、足しげく通ってはこの店を手伝ってくれていた。
「手伝ってくれるのはうれしいけど、どうにもならないからね?」
「そうだね……それでもこの村で一番の鍛冶師はやっぱり君に親父さんだ。俺が騎士を目指すためにも親父さんの剣が欲しいんだ。」
ゲイニッツは来年15歳を迎える。
騎士や衛兵になるためには、王都にある騎士学校に通う必要がある。
その時自前の剣を持っていくことが出来るらしい。
別にもっていかなくても、騎士学校には腕のいい職人もいるらしく、それなりに金額はかかるけど、入学後に手に入れることは可能みたいだ。
村長も今の親父から作ってもらうのは反対らしい。
それでもゲイニッツはうちに来ることをやめることは無かった。
「親父……ゲイニッツのやつまた来たぞ?」
「ん?あぁ。あいつか……あの壁のなまくらでも渡しておけばいいだろう?俺が最後に打った剣だ。その辺の剣よりかは幾分かましな剣だが。まぁ、王都の連中にはかなわんがな。」
親父はそう言うとゲラゲラと笑い始めた。
だけど私にはわかる……それは悔しいからだ。
母が死んだ日、親父は王都で開かれていた鍛冶師のコンテストに参加していた。
その日のために幾日も時間をかけて選りすぐった鋼材を使い、自身の技のすべてを込めて作り上げた剣。
その出来栄えは、この村を拠点としていた冒険者たちも見ほれるほどだった。
親父もその会心の出来に満足し、その剣を携えて王都に向かった。
その親父を支え続けていた母だったけど、事件は親父が出発した翌日に起こった。
母が誘拐された。
村長も慌てて冒険者たちに掛け合い、三日三晩探し回った。
それでも母は見つからなかった。
そして1週間がたち、母は私のもとに返ってきた……
無残にも切り裂かれた躯となって……
母の死の知らせを聞いた親父は慌てて帰ってきた。
それからだ……親父が変わってしまったのは。
村長から聞いた話だと、親父の剣の評価は最低ランクだったそうだ。
冒険者たちはその評価を聞いておかしいといっていたが、親父からしたらそんなことはどうでもよかった。
自分の腕を全否定されたということだけが、親父にとってすべてだったから。
これも母が亡くなってから半年近く過ぎたあたりで親父の親友という人物から聞いた話だ。
親父は王都での品評会の際、ライバル……同じ師匠のもとで修業した兄弟子にこの品評会を降りるよう迫られていたらしい。
でも親父はそれに取り合わなかったようだ。
その去り際、その兄弟子は〝お前の女房……無事だといいな?〟と言っていったそうだ。
そして品評会は滞りなく終わり、結果は最低ランク。
失意の親父に追い打ちをかけたのが、母の誘拐。
品評会の閉会を待たずにとんぼ返りした親父だったけど、母の死には間に合わなかった。
それから親父は槌を置いた。
すべては俺のせいだといって……
だからだろうか、私は父に代わり近代の名工と呼ばれることを目指すようになったのは。
見様見真似とはよく言ったものだ。
私は親父から何一つ教わったことはなかった。
私が見てきたのは、職人としての意地とプライドを持った父の背中だった。
その中で語った鍛冶師としての技を、記憶の中から思い出す。
そして一振り一振り、試行錯誤を繰り返していく。
だけど親父の物には遠く及ばなかった。
あの最後に見た親父の剣……今でもこの工房の壁に飾ってある剣。
それを超えることは出来なかった。
1年そこらの素人が超える事なんて無謀もいいところだ。
それでも私は槌を置かなかった。
母が支えた親父の工房。
この火を絶やさぬために。
母の生きた証を此処に残すために。
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本日 5/2(木)より新作掲載開始しました!!もしよろしければそちらも立ち寄っていただければ幸いです!!手加減必須のチートハンター ~神様の計算を超えて、魔王の手から世界を護ります!! https://www.alphapolis.co.jp/novel/911619238/145877156
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