勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

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第7章 ここから始まる雁字搦め

五十六日目② 鞭?無知?ムチ?

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 俺はさすがに今はやめてほしいとヘティ殿下に懇願して、何とか渋々……本当にしぶしぶといった様子で受け入れてもらうことが出来た。
 いまだ王城に向かってすらないのに、既に帰りたい気分になってしまった。
 いやもう帰っていいよね?
 というよりもさ、まだ【森のアナグマ亭】の目の前なんだけどね?

「この者たちは何も問題はありません。ひとえに私の管理不足からなる情報漏洩。処分は私一人にお与えください。覚悟はできております。」

 そう言うとヘティ殿下は騎士の一人に何かを命じ、その騎士は少し疑問を感じながらも慌てるように馬車へ戻っていった。
 ほんの少しの時間の空白。
 それがまた変な空気を醸し出していく。

 そもそもの話、情報漏洩と言っているけどそれほど大したことではない気がしてならなかった。
 むしろ、ナンディー的には大々的にやってもらってもいいんだよ?みたいな気持ちになっていそうだし、それで神気が増えれば万歳だろう。
 俺の胃への負担を無視すれば……だけど。
 
 それからすぐに騎士は一つの箱を抱えて戻ってきた。
 それをすぐにヘティ殿下へと手渡した。

「レティシア様……すべての罰は私一人で背負わせていただきます。」

 そう言うとヘティ殿下は手にした箱をレティシアに手渡した。
 レティシアも何か嫌な予感が働いたのか、受け取った箱を開けられずにいた。
 だがこうしている間に野次馬も集まりだしてきており、レティシアは恐る恐るその箱を開けたのだった。
 そしてそこに見たものは……

 一振りの鞭……

 え?なぜに?

 レティシア自身も困惑の色を隠せずにいた。
 それはそうだろう、いきなり鞭を手渡されていろいろ納得できる人間なんてそれほど多くはないはずだ。

 それを見かねたヘティ殿下は嬉々としてその鞭の使い方をレクチャーし始めた。
 だがそれは一般の極めて普通の人間には縁遠い物である。
 とうのレティシアの精神はここにはなく、どこか遠い所へと旅立ってしまったかのように、レティシアの表情は能面と化していた。

 いや、そもそも罰を受けるのってヘティ殿下だよね?
 そのヘティ殿下にムチ打ちって……完全に不敬罪じゃないの?
 俺もう帰りたい……
 というよりも、そのヘティ殿下が嬉々として使い方を教えるってどうなんだ?
 むしろ目が輝いているんだけど?
 え?何このカオス……
 誰か助けてプリーズ!!

「殿下。そろそろ時間が迫っておりますので、出発いたしませんと。」
「分かっているわ、リヒター。レティシア様……では後日改めて。」

 そんなこんなで本気でカオスになりかけた場を元に戻したのがリヒター隊長だった。
 周囲の反応が騒がしくなってきた事に気が付き、野次馬が増える前に出発準備の合図を出した。
 俺たちも足早に迎えの大型馬車に乗り込んだ。
 中はやはり王家仕様だと分かるほど内装が凝っていた。
 この時代にしては珍しく、クッション性が物凄く高い座面で座り心地は快適だ。
 馬車の足回りもしっかりしていて、馬車全体で揺れを吸収しているようだった。
 それと整備された石畳のおかげもあり優雅に王城に迎えると言いうものだ。

 馬車には俺とナンディー、アリサとレティシア。
 向かい側にヘティ殿下と、護衛の為に乗り込んだリヒター隊長が座っていた。

「それにしてもどうしてヘティ殿下が迎えに?てっきり軍用馬車でも来るのかと思いましたよ。」
「何を言いますか!!我らレティシア教の女神であらせられるレティシア様と、教祖のナンディー様をお迎えに上がるのは当然でございます!!」

 ものすごい勢いで胸を張って答えられてしまった。
 助けを求めるように俺はリヒター隊長に視線を向けたが、リヒター隊長もその通りと言いたげに首を縦に振って肯定していた。
 さすがの俺もこれには言葉を失ってしまい、本気でどうにかしないとかなりまずい事になるのでは?と焦りを覚えたのだった。

 ガタゴトと馬車が揺られるわきで、厳重に警護している近衛騎士団のメンバーが、こちらをちらちらとみているのが車窓からもうかがえた。
 時折何かを見つけたようにこぶしを握って天に掲げていたので、何がしたかったのか本気で気になってしまった。
 今馬車を警護しているのは〝王国軍第13騎士団独立大隊特殊中隊第6小隊〟と非常に長い名前の付いた部隊で、通称は〝近衛騎士団第6小隊リヒター隊〟というらしい。
 うん、今初めて知ったよ。

 警護にはリヒター隊長を合わせて、20名体制で行われている。
 これはヘティ殿下付きの近衛騎士団員全員らしい。
 そして驚きというべきか、やはりというべきか……、ヘティ殿下からとある相談が持ち掛けられた。

「レティシア様、ナンディー様……。私とリヒター以下4名が先だってレティシア教の庇護下にはいり、教団の末席に加えていただけたこと誠に感謝申し上げます。」

 もうさ教団って言っちゃってるし。
 そんな大それた宗教じゃないし、細々とね……それでいいんだけど……。
 既にレティシアの目が虚ろになってきていた。

「そこで私に仕えるこの近衛騎士団のメンバーも、その末席に加えさせてはもらえないでしょうか。」

 ヘティ殿下は、その小さな体の小さな手を胸元に組んで祈りをささげる。
 その手は少し震えており、恐れ多い事を言っていると思っているんだろうな……
 既にレティシアの目は死んだ魚のようになっていた。
 せっかくの美人さんが台無しになるくらいにきわどかったとだけ言っておこう。
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