勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

文字の大きさ
上 下
283 / 322
第6章 ここから始まる第一歩

五十五日目⑧ 油断大敵針剣山

しおりを挟む
 今回の【魔双剣】は火属性の【ファイアバレット】を選択してある。
 基本スライム種は打撃・斬撃が効きにくい。
 水属性や、電撃なども効きにくいそうなので、今回はこのセレクトとなった。
 そして刺突攻撃は問題無く通るので、【魔双剣】を利用した火属性の串刺しを狙っている。

 俺はそっとパーティーを離れ、【ヒーリングスライム】の後ろへと回り込む。
 今回は開けた場所で周囲に沼などもなく、背の高い草も存在しなかった。
 俺は慎重に……息を殺して近づいていく。
 あと少し……
 もう少しで俺の領域テリトリー……

 この時の俺は、どうやら焦っていたようだ。
 【ヒーリングスライム】に夢中になり過ぎて、【マッピング】のマップに映る新しい影を見落としていた。

ギュルギュルギュル!!

「ぐわぁ!!」

 俺が攻撃に移ろうとした瞬間、後方からの衝撃で盛大に吹き飛ばされた。
 その衝撃たるや、俺が今まで経験した中で断トツに激しいものだった。
 何度か地面をバウンドしながら、ゴロゴロと転がされた。
 気が付いた時には入り口付近まで押し戻されていた。
 どうしても攻撃の瞬間に姿を現してしまうハイド系特有の弱点を、今回は狙われた形になった。
 だけどどうしてそれがばれたんだ?
 
「カイト!!」
「【クイックヒール】!!」

 エルダの悲鳴に似た声とともに、ナンディーの【回復魔法】が俺の傷を癒していく。
 まだ体に痛みが有るものの、ギリギリ動けたのでアイテムボックスから回復ポーションを何本か取り出して、体にぶっかけた。
 手にしていた最後の一本を飲み干す頃には、怪我は全く無くなっていた。
 さすがファンタジーだな。
 普通だったら死んでもおかしくないはずなんだけどな。
 おそらく装備のお陰だろうか、吹っ飛ばされた割には衝撃によるダメージが少なかった。
 これが衝撃緩和(強)の効果なのかもしれない。
 ただ、衝撃は緩和出来てこれなんだから、実際はかなりやばい衝撃が来たはずだな。

 俺は先程まで自分がいた場所を睨み見る。
 そこに現れたのは、2匹の【スライムヘッジホッグ】だった。
 最初に食らいそうになってエルダにフォローされたあの突進を、完璧な形で2匹同時に食らったのだ。
 おそらく俺が負った傷の大半は、【スライムヘッジホッグ】の無数に飛び出たトゲによる引っ掻き傷や刺突傷だったんだろうな。

 俺の怪我が問題無いと分かると、皆も戦闘に注力していく。
 俺も作戦が失敗に終わったので、パーティー戦線に復帰する。

「ごめん、完全に見落としてた。」

 俺はスライム軍団に視線を合わせたまま、皆に謝罪した。

「カイトだけのせいじゃないよ。私も見落としてたし。」

 デイジーも苦虫を嚙み潰したように悔しがっていた。
 デイジーの探査範囲外から一気に突進してきたことになる。
 だからこそデイジーも見落とした。

 状況的に若干の違和感を感じたが、今はそれを追及している場合じゃなかった。
 スライム軍団も全員揃ったようで、こちらのと距離をじりじりと詰めるよに蠢いていた。
 【スライムヘッジホッグ】が3匹。
 【マッドスライム】2匹。
 【ヒーリングスライム】1匹。
 あとは……うん、反応しない。
 これで全部なはずだ。
 デイジーも感じなかったようで、その視線はスライム軍団に向けられていた。

「スライム6匹ですか……現状では厳しいですね。」
「確かに【スライムヘッジホッグ】3匹は厳しいな。今回はあきらめよう。」

 ナンディーは状況を観察しつつ、ポールに判断をゆだねた。
 ポールもまた状況分析をした結果、無理だと判断し、撤退の決断を下した。
 
 俺もそれに賛成で、倒し切れるビジョンがわかない。
 むしろ追い詰められる確率の方が高いようにさえ思えた。
 それほどまでに俺とアリサが足を引っ張っている状況なんだろうな。

 俺たちはじりじりと迫るスライム軍団と対峙しながら、距離を一定に保ってじりじりと後退する。
 そして最後のポールが階段を上り始めると、スライム軍団は興味を失ったかのようにばらばらに散っていった。
 おそらくまた足を踏み入れると、さっきのように一気に仕掛けてくるのは想像に易い。

「これで大丈夫だろう。皆上に戻って少し休もう。」
「そうね、これほどまでとは思わなかったわ。私の見立てが甘かったようね。」

 ポールは追撃がないことを確認すると、戦闘態勢を解除した。
 それに合わせて俺たちも解除したわけだけど、エルダが申し訳なさそうにしていた。
 何せ第4層を提案したのがエルダだからだ。
 それについては俺を含めポールたちも納得してのことだ。
 だけどまじめなエルダは気に病んでしまったらしい。
 ここで慰めの言葉一つかけられたらいいんだけど、その原因の一端となっている俺では何もかける言葉を持ち合わせていなかった。 
 
 それにしても本当にポールが階段を下りるときにした宣言通りになってしまった。
 本当に不甲斐ないな……
 もっと強くならなくちゃ……
 アリサに視線を送ると、俺と同じように考えていたようだ。
 その眼にはリベンジを誓うとばかりに強く輝いていた。

 俺たちは第3層に上がると、階段付近で一度休憩をとることにした。
 さすがにこのまま戻るには気力を削られ過ぎていたからだ。



 「ん?お、珍しいとこで会ったな。どうしたこんなところで。」

 しばらく休息しつつ反省会をしていると、前方の通路から見知った顔が見えた。
 シルさんたち「乾坤一擲」のメンバーだ。
しおりを挟む
本日 5/2(木)より新作掲載開始しました!!もしよろしければそちらも立ち寄っていただければ幸いです!!手加減必須のチートハンター ~神様の計算を超えて、魔王の手から世界を護ります!! https://www.alphapolis.co.jp/novel/911619238/145877156
感想 77

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。