勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

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第6章 ここから始まる第一歩

五十二日目③ 腹芸嫌い

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ガランゴロンガラン

 ギルド内はいつも通り朝から依頼争奪戦を繰り広げていた。
 それぞれの実力にあった依頼を選んでいるかと思いきや、先に大量に取ってあとで吟味して戻すみたいなやり方をしている人もいた。
 それ自体ルール違反では無い様だけど、戻された依頼書は既にぐしゃぐしゃでなんだか可哀想に思えてしまった。
一応は依頼なんだから、書類は大事に扱おうよって思ってしまうのは、俺がこの世界の人間じゃないからなのかな?

 そんなやり取りを横目に、俺たちはいつも通りキャサリンさんの受付カウンターへ足を運んだ。
 キャサリンさんの窓口の隣に若い受付嬢が居るんだけど、そこは大渋滞をお起こしていた。
 別にキャサリンさんが不人気な訳では無くて、どうやら新人さんらしく手間取っているようだった。
 先輩受付嬢も手伝って何とか捌いていくけど、新人さんが一組捌く間にキャサリンさんは三組捌けているので、処理速度は一目瞭然だと思う。
 受付カウンターに設置されたパソコンのような魔導具でテキパキと処理していくキャサリンさん。
 この辺りの処理能力の違いが、新人さんとの差なんだろうな。
 これもまた現代日本と同じ構図かもしれない。

「おはようございますキャサリンさん。シャバズのおっちゃんはいますか?」
「おはようカイト君。ごめんなさい私今忙しいからそのまま執務室へ向かって。絶対いるはずだから。っていうより、帰ってないはずだから……」

 憐れみの視線を向けたキャサリンさんから許可をもらい、俺たちは二階にあるギルマスの執務室へ向かった。
 勝手知ったるなんとやらというくらいここに来ているので特に迷うことは無かった。
 ただ、俺たちには覚悟が足りなかったんだ……

コンコンコン

「おう、入れ。」
「お邪魔します。」

 シャバズのおっちゃんは誰何をすることなく俺たちに入室許可を出した。
 俺たち以外来る予定が無かったのか?

「ようやく来たな……まぁ座れや。」

 目の下に隈が出来ているシャバズのおっちゃん。
 おそらく寝ずの作業だったんだろうな……

「その……何と言って良いのか……。ごめんなさい。」

 俺は堪らずシャバズのおっちゃんに頭を下げてしまったのだった。
 皆もなんとなく察したようで、同じように頭を下げた。
 入り口付近で全員が頭を下げる絵面……なんとなくブラック企業臭がしてきそうだった。

「頭を下げるくらいなら、問題をこっちに寄越すんじゃねぇよ。」
「それは殿下に文句を言ってくれよ。あの人が引っ掻き回してきたんだから。ぎりぎりの妥協点がソコだったってだけからさ。」

 俺はおっちゃんからの物言いに、すかさず反論した。
 全て俺が悪いみたいな言い方はやめてもらいたい。
 むしろ俺としては巻き込まれている感じが強いのだから。

「で、今日はその件で来てもらった訳だが……。いったいお前ら何をやらかしたんだ。嬢……今は殿下か。殿下からの火急の知らせで手紙が届いたぞ。しかもリサを〝ダンジョン内不明者リスト〟に加えろとか無茶ぶりも良い所だ。」
「その件に付いても問題発生って訳じゃないけど、殿下が先に芽を摘もうって考えたらしいからな。で、妥協案でリサを死亡した事にしちゃえって。ギルドで死亡扱いにして、新しい冒険者証を発給してもらえば問題解決だろ?この世界で冒険者証ほど公正な一般人用身分証は無いからさ。」

 おっちゃんはなんだか渋っている様だけど、これでやっていかないと何とも出来なくなるんだよな。
 俺としては問題無いと思っているんだけど、殿下的には面倒を避けたいって事と、いくらでも言い訳の利く状況を作りたいって事なんだと俺は考えている。
 実際問題リサが死亡した事になった場合、遺体返還要求が必ず来るだろう。
 でも〝ダンジョン内不明者リスト〟に入っていると、遺体が捜索不可って事になる。
 しかも冒険者証が別のモノになってれば、それは別人だとギルドが認めた事になる。
 つまるところ、正式に別人だって断言されるって事だ。
 この辺は現代日本でも役所が偽造した身分証だった場合、正式な身分証になるのと同じだ。
 こっちの世界だとそれが余計にまかり通ってしまいそうだ。

「わぁ~てるよ。【トリスタン王国】との兼ね合いだろう?しかも正教会が絡んでくる可能性も視野に入れての対応だ。さすがの俺でもそれくらいは分かるさ。だがな、やって良い事と悪い事がある事も理解しろ。今回のは悪い方だ。」

 おっちゃんの目が本気で怒っているのが見て取れた。
 確かにそうなんだよな。
 おっちゃんに不正するように上から圧力がかかっている状況になっているんだ……
 ……ごめんおっちゃん……

「ごめん……。浅はかな考えだった……。」

 俺は謝るしか出来なかった。
 あの場を収めてかつアリサを守るって考えると、この方法が一番だと思ってしまった。
 殿下も反対しなかったし、問題無いのかと考えてしま……

 ってちょっと待てよ……

 あ!!くそ!!やられた!!

 考えが顔に出ていたみたいで、おっちゃんがニヤリと笑っていた。

「やっと気が付いたみたいだな。殿下にまんまと乗せられおって。少しは腹芸を覚える様にって言ってただろうが。」
「ハンス隊長にも言われていたけど……。」

 まんまと殿下に一杯食わされたようだ。
 殿下はあくまでも〝俺たちからの要請を飲んでおっちゃんに圧力をかけた〟という形が取れる。
 事の最後まで知らぬ存ぜぬを通せる立場に居るわけだ。
 国の対応としては一番いい形になったともいえる。
 まさかここまで読んでの訪問だったんだろうか……
 それともあの場の即興でこれを構築したのか……
 殿下はなんだかんだ言って王族なんだな。
 絶対にソリは合いそうにないや。

「まあ、済んだ事はしゃぁ~ねぇ~。一応王族からの要請だって体で、俺の一存で処理しておく。ただし忠告だ。即決即断も大事だが、一旦持ち帰って誰かに相談する事も大事だ。特に今回の件は流れに任せて即断即決しなければこうはならなかったからな。もしくは俺かキャサリンを呼べば何とかなったろうに。良い勉強になったな。」
「はい……」

 俺の頭は申し訳なさでいっぱいだった。
 皆もなんだか元気が無かった。
 特にアリサとポールは深刻だ。
 せっかくハッピーエンドかと思ったら、実は掌の上だったとか、まじで凹むよな。
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本日 5/2(木)より新作掲載開始しました!!もしよろしければそちらも立ち寄っていただければ幸いです!!手加減必須のチートハンター ~神様の計算を超えて、魔王の手から世界を護ります!! https://www.alphapolis.co.jp/novel/911619238/145877156
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