上 下
261 / 322
第6章 ここから始まる第一歩

五十二日目② 襲撃者

しおりを挟む
 俺たちが【森のアナグマ亭】を出た時にその事件が起こった。
 その異変に最初に気が付いたのはポールだった。
 俺を突き飛ばすと同時に、大盾を通りに向けて構えた。
 突き飛ばされた俺は突然すぎて受け身を取りそこなって、ゴロゴロと転がってしまった。
 その後一拍ずれて、ガキン!!という激しい金属の衝突音が聞こえて来た。
 よく見ると、ポールの前には目深にフードを被った人物がいた。
 そのフードも端がボロボロで、繕う事すらしていないようだ。
 手にはその風貌に反して豪華な装飾が施されたナイフが握られていた。
 と言っても見た目だけいいだけで、中身が伴っていなかったのか、ポールの盾に接触した際にナイフの半ばから刃がぱっきりと折れてしまっていた。
 さすがいい仕事をするね。
 むしろナイフが折れていなかったら、手首の骨が言ってたんじゃなかろうか?
 ある意味不幸中の幸い?って言って良いのかな?

「ちぃっ!!」

 フードの奥から聞こえて来た声は年配の男性のようにも聞こえた。
 しかもどこかで聞いたような声だ……どこだったかな?
 うまくいかなかったことに腹を立てたのか、地団駄……って本当にする人いるんだ?を踏んだその人物は、あたりをきょろきょろと見回していた。
 一瞬フードの中が見えかけたけど、日の逆光のせいでよく見えなかった。
 フードから覗き見えた目には、殺意がほとばしっているように見えた。
 ただそこまで恨まれるようなことはしたことない気がするんだけど……
 いったい誰なんだろうか。

 俺がその人物を注意深く見ていると、これ以上の行動は無理だと悟ったその人物は、すぐに手にしていたナイフをポールの後ろに居たアリサに向かって投げつけると同時に後方へ走り出した。
 ポールはアリサの方を優先したが為に、男を捕らえる事に失敗した。
 アリサはあまりの出来事に放心状態となっており、【付与魔法】でマーキングする余裕すらなかったみたいだ。

「大丈夫?」

 エルダは俺に側に駆け寄ると、手を差し伸べてくれた。
 つか、さすがにいきなりでびっくりしたよ。
 ポールにもっと手加減してくれとうれしかったんだけど、ポールとしても咄嗟の行動だったんだろうな。
 こればっかりは致し方ないよな。

「大丈夫か?」
「そう思うなら最初から助けてくださいよ、団長さん。」

 物陰から俺に声をかけてきたのは、暗部の団長さんだった。
 前回あれだけ俺に忠告していったんだから、未然に防いでくれても良いだろうに。

「お前たちなら対応可能だろと思って手を出さなかったんだ。それとも対処出来ないほどおこちゃまだったら話は別なんだがな?」

 ほんとこの人とは仲良くなれる気がしないな。
 しかも言いたい事だけ言って居なくなるし。
 周辺を探っても全く見つかる気配すらなかった。
 凄い人なんだけど、絶対に素直に認める気にはならない!!

「すまなかった。咄嗟の事だったんでカイトまで気が回らなかった。」

 うん、ですよね?
 あれって絶対俺を助けたってよりアリサの前に立つために動いたよね?

「いや、ケガ無いから良いけど……。そこはせめて俺を助ける為とか言っても良いんじゃないの?」
「……。すまん。」

 ダメだ……
 これだから所帯持ちは!!って言ったら怒られるんだろうな……

「もういいよ。それより犯人はどうなったの?」
「ごめん、逃げられた。」

 デイジーが苦虫を噛み潰した様な表情を見せていた。
 誰彼はばからず悔しさを顕わにしていた。
 デイジーから逃げおおせるって相当だよね?
 でもまあ、これだけの人込みでとっさに人物を特定し追跡するって実は結構至難の業なんじゃないかな。
 そう考えるとデイジーが失敗したことについてとやかく言える立場に俺はいないな。
 だって、俺のスキルにもヒットしなかったんだから。
 俺を超える隠蔽をしてきたってことかな?
 それがスキルなのか魔導具なのか分からないけど、これからも注意は必要だな。
 それよりもだ、団長さんは気が付いていたみたいだから、俺たちもきちんと強くなればもっと簡単に防げた案件だったてことだろうな。

 そんな感じで考え事をしていた俺だったけど、デイジーは会話中も警戒を解く事はしなかった。
 いつ何時襲ってきても良い様に警戒をしているそうだ。
 一応俺ももう一度スキルは発動させておこう。
 まさか街中で【気配探知】使うことになるとは思わなかったよ。
 なんだかんだ言っても街中は安全だって思いこんでいた。
 コレもまた経験ってやつかな。
 って、ちょっと待て……
 改めて【気配探知】使ってマップ開いたら、点の数が無茶苦茶出るんだけど…… 
 取り敢えず、敵対意識の赤い点はっと……
 うん、一応100m範囲には居ないってところか。
 つか、魔法だと100mなんて近距離だからあまり意味なかったりするけど、近接攻撃の警戒くらいにはなるはずだよね。

「考えても仕方ないし、暗部も動いているだろうから、俺たちは冒険者ギルドへ移動しよう。この件も一応シャバズのおっちゃんに報告はしておくとしよう。」

 結局下手人は分からず仕舞いで、なんだかもやもやした感じが残ってしまった。
 ほかの皆も警戒を続けてくれているけど、特に変わった事は無く、無事にギルドに到着する事が出来た。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。