勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓

文字の大きさ
上 下
257 / 322
第5章 ここから始まる女神様?

五十一日目⑭ あ、だめだ……どうしてこうなった……

しおりを挟む
「つまりだ、もしもだよ……。冒険者ギルドが〝リサの死亡〟を認めたらどうなる?」

 全員の表情が一気に驚きの色を見せていた。
 少し考えれば分かるはずだけどなって思ったのは内緒だ。

「待ってよカイト。それじゃあ、冒険者ギルドにも一枚かませるって事?」
「そうだね。シャバズのおっちゃんなら話を理解してくれると思うよ。それに【トリスタン王国】・【ゴーヨクォート正教国】にはどの国も迷惑してるんだったら、乗ってくれると思うけどね?どうだろう?」

 俺は皆の返事を待った。
 俺の話を聞いて黙って考え込んでいたヘンリエッテ殿下は少し悪い人の顔になっていた。
 リリア殿下は……、うん、寝てた。
 どうやら話に飽きたらしく、後ろでキキョウと遊んでいたらしい。
 そしたらキキョウに抱っこされた状態で眠ってしまったようだ。

「カイト様……それはうまく行くとお思いで?」
「行くも行かないも、そうするでしょ殿下が。」

 俺は断言した。
 必ず殿下は乗ってくると。
 おそらく殿下の思考は常に国と臣民に向いている。
 そのために多少の犠牲や汚名などまったく気にしていないのだ。

「そこで私に丸投げですか?」
「それはお互い様でしょ?それに、これならだれも苦しまないでしょ?」

 俺は肩を竦めながらおどけて見せた。
 ヘンリエッテ殿下は深いため息をついて、少し冷めたお茶に手を伸ばした。
 一息付けたようで、さらに会話は続いた。

「カイト様、その話では苦しむ人間が出てしまいますわ。私と冒険者ギルド・ギルドマスターです。」
「大丈夫、シャバズのおっちゃんは少しぐらい頑張ったって罰は当たらんですよ。それに殿下が最初に仕掛けた話なんですから、最後まで責任を持って対処してください。」

 まさかここまで話をされるとは思わなかったようで、殿下はくすくすと笑いだした……。
 と思ったら、淑女がどこかへ旅立ったかのように大笑いを始めた。
 その仕草にさすがのリヒター隊長も顔に手を当てて天を仰いでしまった。

「さすがはカイト様。見事な返しですわ。ここまで言われてはね。リヒター、すぐにお父様へ報告を。戻って書類をでっちあげますわよ。」

 もうさ、でっちあげると言い切っちゃったよこの殿下は……

「リサさん、ごめんなさいね。あなたに辛い決断をさせるところでしたわ。ポールさんもごめんなさい。」

 殿下は頭を下げると、少し吹っ切れた表情をしていた。
 そしてその下に隠した黒い部分が見え隠れしていた。
 どうもこの人は読み切れないなぁ。
 おそらく【トリスタン王国】と【ゴーヨクォート正教国】にどうやって嫌がらせをしてやるか一生懸命考えてるんだろうな……

「そうでしたわ。リサさん。あなた達は新しい名前を考えてくださいな。苗字はポールさんの物で問題はないですが、名前は完全に新しくする必要がありますわ。」
「それでしたら……。レティシア様、私に新たな名前をお授けください。」

 リサはレティシアに跪くと祈りを捧げていた。
 って、いつからレティシア教の信者になってたの?

「(カイトさん、実は数日前にいきなり祈りを捧げ始めたのです。おそらく自身の身の内を明かすかどうか迷っていたようです。レティシア様も答えはせずに黙って話を聞いていたようですが)。」

 そっとその経緯をナンディーが教えてくれた。
 うん、地味にレティシア教が広がり出している気がする……

「レティシア様とういうのは……?」

 ほら食いついた!?
 端に控えていたレティシアもびくりといているじゃないか……

「はい、レティシア様は……」
「あ~っとリサ!!君の名前は後で考えよう!!うん、それが良い!!な?ポールもそう思うよな?」
「あ、あぁ。」

 さすがにレティシアの件はばれたらかなり面倒になりそうだったので、多少強引でも押し切ろうと思う。
 リサもしまったという顔を浮かべており、俺を見つめる殿下の視線がものすごく痛い。

「カイト様……、ここにいたって秘密はいかがなものかと思いますが?」

 殿下の声色は優しさを含んでいたけど、その表情に優しさが感じられなかった。
 むしろ、標的を見つけた猛禽類の様に逃がしてはくれなさそうだ。
 俺はレティシアに視線を送ると、どこか諦めた表情を浮かべていた。
 その流れを読み取ったナンディーが話を引き取ってくれたのだ。

「申し訳ありません。これにはいろいろと事情がございます。」
「その事情とは?」

 殿下の視線が細めた目と相まって、凶器とも思える鋭さを持っていた。
 ナンディーはそんな視線も何のその、ユラリユラリとかわしながら説明を続ていく。

「カイトさん達と共にするようになったある日、突然私はある職業に目覚めました。それが【職業:教祖】です。そして【称号:伝道師】も同時に得ることができたのです。」
「そこまでは分かりました。つまり新しい宗教家になったと言う事ですね?」
「左様でございます。」

 殿下の視線がまた俺とぶつかった。
 その視線には憐れみであふれており、「大変なのを拾ったわね?」って言っているようだった。

「そしてその主神たる女神がレティシア様なのです。」

 そう言うとナンディーはレティシアの前に跪き、祈りをささげた。
 レティシアもあきらめたようで、ナンディーの頭にそっと右手を添えた。
 すると、どこからか光が降り注ぎ、聖なる気で部屋が満たされていくのが分かった。

 その様子を見ていた殿下は、目が飛び出さんかとばかりに見開いていた。
 まあそうだよね、さっきまで女神さまが給仕してたんだから。

「カイト様……。さすがにこれは予想外です。むしろ、今すぐにでも跪きたい衝動に駆られてしまいました。」
「耐えていただいて何よりです。もし跪いたら本気でまずいことになりますからね?」

 って、アレ?だんだん殿下の姿勢が下がって……
 あ、だめだ……

 もう殿下の身体は自然にレティシアに跪いていた。
 そしてまたここに一人レティシア教の信者が誕生してしまった。
 殿下が跪いたことで神格がまた上がったらしく、降り注ぐ光が一層強くなった。
 一人……また一人と近衛騎士の人たちが跪いていく。
 そしてこの場に立っていたのは俺たちのパーティーとリヒター隊長だけだった。
 リヒター隊長は意地でも跪かないとでもしているかのように耐えていた。
 しかしそこに悪魔が現れたのだ……

 おい、ギンスズ何やってる!?
 ギンスズがニヤリと俺の方を見ると、見事な膝カックンをリヒター隊長に決めたのだった。
 リヒター隊長は不意を突かれ膝を地面に付いてしまった。

 そこには立派な信者が誕生したのだった。

 どうしてこうなった……
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。