上 下
196 / 322
第4章 ここから始まる勇者様?

四十三日目④ 守護精霊

しおりを挟む
「どうしたのカイト?カイト?ねぇ、聞いてる?」
「え、え、えるだ……。う、う、うしろろろろ……」

 俺はエルダの後ろを指差しながら、なんとか声を出そうと頑張った。
 でも、ろれつが回らなく、しかも腰が抜けてしまって、立つに立てなくなってしまった。
 俺の異変に気が付いたポールが、俺の落としたネックレスを拾い上げて、俺の指差す方……エルダの後ろを睨み付けた。

『やっと見つけてくれたのね……』

「また?!」
「カイル、今のを聞いたのか?」

 え?ポールにも聞こえたのか……
 俺はうまく話せないので、頭を上下にこれでもかってくらい振りまくった。
 するとポールは俺の背中をポンポンと叩くと、苦笑いを浮かべていた。

「カイト、安心していい。あれは精霊だ。しかも家を守る精霊。【コチハルチア】だ。」

 え?何それ?聞いたことないんだけど。
 エルダとデイジーもポールの話を聞いて、ネックレスを順番に握りしめた。
 エルダ達もその幽霊の姿を見て、問題ないと言わんばかりの顔で俺を見つめている。
 それはもう、残念なものを見るかのように。
 納得いかん!!

『私がわかるの?』

 すると、またあの声が聞こえて来た。
 これは鼓膜を通してではなくて、直接頭に語り掛けるような、正直かなり気持ちが悪い感じがする。

「わかるも何も、家付き精霊って言えばとてもありがたい存在ですもの。おそらく子爵クラスだと持ち合わせていないわよ?」
「そうだね~。まさかこの家に精霊がいるとは思わなかったわよ。」

 エルダとデイジーが知ってるってことは、実はかなりメジャーなの?
 って、じゃあなんであんなバッドステータスなんて付けたんだよ!?

「みんななんでそんな冷静なんだよ。俺たちにバッドステータス付けたやつかもしれないんだぞ⁉」
『ごめんなさい。それは私ではないのです。あの子たちが暴走してしまって……』

 あの子たちって誰だよ!?
 もう勘弁してください。
 俺は既に情報過多で、思考を放棄しかけていた。
 三人ともあまりにも冷静過ぎて、俺が焦ったのが阿保みたいじゃないか。

「ポール。もしかしてあの子って……」
「おそらくそうだろうな……」

 で、だれですか~
 もう何でもいいですよ~
 もう驚きませんよ~

 俺はもうあきらめて、あるがままを受け入れることにした。

「「トラスグ!!」」

 ポールとデイジーが声を合わせていきなり大声を出した。
 するとどうだろうか、いきなり部屋の中央付近に小さな竜巻が発生した。
 次第に竜巻が治まると七つの小さな影が浮かび上がった。

『大正解~~~!!』
「のわぁ?!」

 突然俺の背後から、一人の赤色の衣装を身に纏った小人が姿を現した。
 そしてさっきの影に目をやると、そこには六つの影になっていた。

『褒めて使わすぞ褒めて使わすぞ!!』

 その中央で、ふんぞり返りまくってる青色の小人。

『ワシ等を見つけるなんて天才じゃのぉ~』
『お爺さん。見つけやすい様にしたのはお爺さんでしょうに……』

 腰が曲がった状態で杖をつく手をプルプル言わせている爺さん風の茶色い小人。
 それを支えながらもしゃきっとした感じのお婆さん風の桜色の小人。

『にいちゃんにいちゃん!!もっと悪戯したい!!』
『こら!!見つかったからもう終わりだって!!』
『あらあら、なんだかにぎやかねぇ~。』

 なんだか駄々をこねている一番小さい黄色い衣装の小人と、それを諫める緑色の衣装の小人。
 そしてそれを「あらあらうふふ。こまったわねぇ~」って空気で見つめる紫衣装の小人。

 もうさ、キャラ渋滞ですありがとうございます。
 うん、もう帰っていいですか?
 目の前に居るのは七色の小人たちだった。
 これってあれか、某おとぎ話のキャラクターかな何かなのか?
 あれか、ネックレスの精霊が某白い雪のお姫様なのか?

 七色の小人たちは銘々に騒いでいると、ネックレスの精霊が小人たちをしかりつけ始めた。

『あなた達!!ご主人様が困っていらっしゃるでしょ?いい加減になさいな!!今回の件だって私は反対したはずですよ!!』

 もう私は怒ってるんですよと、腰に手を当てている女性の足は……透けていましたよ……
 俺には幽霊と精霊の見分けはつきそうにありません。
 そもそもさ、ご主人様って俺の事なのかな……

『あ、ごめんなさい。自己紹介が遅れました。私がこの家の守護精霊【コチハルチア】族の【レティシア】と言います。新しいご主人様にきちんとお会いできてうれしいです。』

 そう言ってきた女性の精霊は見た目は美人というより、人を安心させるそんな雰囲気を醸し出していた。
 淡い金色のロングヘアを後ろで一つにまとめ緩い三つ編みをしている。
 服装も動きやすさを重視したメイド服調のドレスのような格好だ。
 っていうより、透けてるんだもの動きやすいって関係あるのか?

『それと、この子達は私の仲間の【トラスグ】族です。一応家族ってことになっていますが……実際はわかりません。』

 なんだか疲れた表情を見せるレティシアを見ると、その設定に長らく付き合わされ続け、きっと諦めたんだろうなって伝わってきた。
 エルダ達もそのやり取りを見ていて、幻想を打ち砕かれたかのように落胆しているのが目に見えてわかった。

「ところで、なんでこんなこと仕掛けてきたんだ?敵じゃないんだよな?」

 俺は言外に敵なら倒すって意思を乗せて、レティシアに問いかけた。
 レティシアもその意味を理解しているようで、にこやかな表情で返事を返してきた。

『もちろんです。私たちは家を守る精霊。“住まう人”には危害を加えたりなんかしませんもの。』
「じゃあなんでこんなことを?」

 レティシアは少し困ってように苦笑いを浮かべていた。

『簡単に申しますと、抗議ですね。この子達はこの家を気に入っていましたから。取り壊されると聞いて焦ったので、追い出したかったようです。』

 なるほどね。
 何となくわかってきた。
 今回の解体建築工事に反対の意を表したかったってことか。
 それにしてもどうしたものかな……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。